配信日時 2022/06/15 09:00

【陸軍工兵から施設科へ(37) 】トンネル崩落 荒木 肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!

自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。

『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。

「陸軍工兵から施設科へ」第37回です。


ゾッとしました、、、、

ちなみにわたしは閉所恐怖症です。

それだけ荒木先生の筆が真に迫っているということです。

さっそくどうぞ
 
エンリケ


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陸軍工兵から施設科へ(37)

トンネル崩落

荒木 肇


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□ご挨拶

 ますます混迷を深めるウクライナ情勢です。一方、
じわりと物価の上昇などで、やはりわが国が世界に
しっかりつながっていることが理解できます。対岸
の火事というのんびりしたイメージではなく、グロ
ーバルな問題がわたしたちの周囲を取り巻いている
ことが分かります。

 ロシア海軍は大規模な訓練を、わが国の北方領土
や日本海、東北地方の周辺で実行しました。ウクラ
イナに力を注いでいても、日本にも気を許していな
いぞという威嚇でありましょう。北朝鮮もミサイル
を連続で発射し、米国にシグナルを送っています。
もちろん、中国も黙っているわけではありません。

 こうした武力を背景にした現実の国際政治の駆け
引きの中で、国の交戦権を否定した憲法9条を守ろ
うという人がいることが不思議ですね。

 今日もある偏向したテレビ番組で専門家という方
が語っています。戦争が起これば、あるいは起きて
いる現在、ほくそ笑む人たちがいるというのです。
わが国の防衛に関する予算が増えれば軍需産業が潤
うから彼らは喜んでいると、したり顔で解説してい
ます。


こうした戦争のたびに昔から言われる陰謀論、戦争
を起こすのは資本主義、帝国主義の野望によるもの
だという解説の仕方をまだしています。戦争で利益
を受け取るはずという勢力を非難する解説、もうい
い加減飽きました。

 わが国の反体制を標榜する有識者たちも、そろそ
ろ新しい考え方を提示できないのでしょうか? 進
歩派のはずなのに、少しも進歩していない・・・不
思議な人たちです。

▼「山が抜けた」

 事故は突如起きました。1921(大正10)年
4月1日午後4時30分頃のことでした。崩落した
のは、熱海口から990フィート(約300メート
ル)の工事現場です。

毎月、1日と15日は休日でした。前の晩から続い
ていた工事も昼には終わり、坑口はすっかり静まり
かえっていました。

 この日が休日でも出勤する人もいます。導坑はこ
のとき坑口から1363メートルにまで進んでいま
した。導坑とは、とにかく先へ先へと掘り進む狭い
穴(幅3メートル、高さ2.5メートル)のことで
す。そうして周囲を固定してからさらに、その上下
左右を掘り、トンネルの形に仕上げてゆきます。導
坑の最先端を切端(きりは)といいますが、この日、
このときその切端の20メートル手前で支保工(し
ほこう)の組み立てにあたっている人たちがいまし
た。

 説明を繰り返します。支保工とは松の丸太と頑丈
な板材で組んだものです。予定するトンネルの最下
部にあたるところに底設導坑(小型トンネル)をま
ず掘ります。その周囲を固めなければなりません。
上下左右から土圧(どあつ)が穴をふさごうとして
きます。

そこで松の太い丸太を鳥居のように組んで、丸太と
丸太の間に丈夫で厚い松板を張ってゆきました。そ
れを支保工といいます。丸太と板で周囲の崩れてこ
ようとする土圧から導坑を守るのです。

 まだ電力問題が解決していなかったので、坑内の
灯は油を燃やすカンテラでした。午後2時過ぎには
その作業を終え、無事に坑外に出たそうです。吉村
昭氏の調査に従うと、この日、坑内で作業をしてい
たのは4つのグループ、34名の人たちだったとい
います。

 まず、鉄道省熱海線建設事務所の建築工夫長以下
の13名と2名の鳶職(とびしょく)でした。坑口
から317メートルの個所を中心に前後8メートル
の側壁に積む煉瓦(レンガ)を固めるモルタル作り
をしていました。セメント、砂、水を混ぜていたの
です。その作業現場に、熱海線建設事務所の田畑技
手(判任官)と請負業者である鉄道工業会社の社員
がやってきました。煉瓦を積んでも大丈夫かどうか
の点検にやってきたのです。

 堅い安山岩の壁は無事に見えました。技手たちは
「明日から煉瓦積みに進むように」と現場の工夫長
に指示して午後3時すぎに坑口から出ます。

 工夫長たちが働いていた場所から奥には、鉄道工
業会社の人夫(にんぷ)世話役が指揮して10名の
人たちがいました。掘り広げた場所から出る土石
(ズリという)をトロッコに積み上げていたのです。
近くには2人の雑役夫が排水溝の掃除をしています。
ほかにも3人の坑夫(掘削担当の工夫)がトンネル
を広げる作業をしていました。

 最後のグループは、鉄道工業会社の社員たち3名
です。坑内を見回る当番だったのでした。

▼午後4時20分

 坑口の外の詰所には2人の当番がいました。彼ら
は異様な音を聞き、詰所の床が下から突き上げられ
たように感じたそうです。慌てて外に出て、坑内に
駆け込んでみると黒い土ぼこりが空気の塊となって
噴き出してきました。2人はすぐに坑口から飛び出
し、1人は事務所へ走って向かいました。残った1
人は坑口からよろめき出て、前のめりに倒れる男を
見ます。男の口からは「山が抜けた」という言葉が
もれました。

富田建設事務所長以下、幹部は全員集まり、下請け
の鉄道工業会社の社員も駆けつけます。救出された
男は坑口から317メートルの地点で、煉瓦を積む
準備作業を行なっていました。そこで崩壊が起きた
ようです。しかし、その場所は1時間半前に田畑技
手たちが入念に点検をした場所でした。

原因の究明も大切ですが、何よりも優先するのが人
名救助です。富田所長以下、国鉄の技師たちも現場
に急ぎます。坑口から290メートル、飛散した支
保工の丸太や板といっしょに石や土砂がトンネルを
ふさいでいました。

ふつう、崩壊するのは一部であり、導坑全部が埋ま
ることはありえません。ということはふさがれてい
る距離は数十メートルであり、その前にいる人たち
は十分生存の可能性があるということです。調べて
みると、おそらく11名が崩壊場所で遭難し、37
名はその前のトンネル内に閉じ込められていると考
えられました。

生き残っていても危険がいくつもあります。まず、
有毒ガスの発生です。すでにそうした事例がありま
した。次に湧水です。地下水はいつも現場から湧き
出していました。それが排出されずにトンネル内に
たまっていくと水死をする恐れがあります。また、
坑内は地熱が高く、さらには飢えという問題があり
ました。

▼救助坑を掘る

 すぐにも崩壊箇所に別の穴を開けて救助をすると
いう決定がされました。トンネルの上を破って崩壊
した土砂は坑口と切端方向に広がっているはずです。
横から見れば山型になっている、だから最上部を掘
ればもっとも短い距離で閉じ込められた人たちに手
を差し伸べられるでしょう。鉄道工業会社の下請け
の桂組の坑夫長は主張します。

 ところが、これに反対意見が出ます。頂上部は崩
落しやすい、救助坑を掘っている者が二重遭難する
恐れが高いというものでした。富田所長は決断しま
す。トンネルの床にそって坑道を掘り進めるという
ものです。もちろん距離は大きくなりますが、床の
中心には排水溝があり、それに沿って進めば確実に
向こう側に着くからです。

 さらに意見が出ました。崩壊箇所は当然、上から
さらに土砂が崩壊しやすい、そこでそれを避けてト
ンネルの側面にそって救助坑を掘ろうというもので
した。しかも、側面はすでにコンクリートで固めら
れているから、少なくとも横方向からの土圧はない
というのです。

 結論として、2つの救助用の新たなトンネルが掘
られることになりました。床に沿い、排水溝をたど
るもの、もう1つは左側の側壁に沿って進むもので
す。

 次回はさらなる困難に見舞われます。


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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