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荒木さんの最新刊
知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。
そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!
自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。
『自衛隊警務隊逮捕術』
荒木肇(著)
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おはようございます。エンリケです。
「陸軍工兵から施設科へ」第36回です。
冒頭のご提案に深く感じるところありました。
本文中の「風俗史」の一面も、史実の背景把握のと
っかかりとして実に参考になります。ありがたい限
りです。
さっそくどうぞ
エンリケ
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陸軍工兵から施設科へ(36)
丹那トンネル掘削の難航
荒木 肇
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□ご挨拶
さまざまな規制もゆるくなり、外国人観光客の入
国も増えるようです。円安も加わり、外国からのお
客さんを迎えるチャンスでもありましょう。観光地
や、関連する宿泊、飲食施設の皆さんには、またま
たひと頑張りいただきたいと思います。
ウクライナ情勢も先行きがますます不透明になっ
てきました。兵器・弾薬などもウクライナ軍に次々
と供与され、ロシア軍の苦戦も続きそうです。わが
国の防衛についても投入される予算が増えてゆくと
のこと。それはそれで結構なのですが、若者の数が
減って行く少子化への対応、退職した自衛官、隊員
の就職援護はどうなのでしょうか。
不景気になれば企業の中途採用も減ります。経済
活動が鈍れば、退職した人への支援も厳しくなって
ゆくでしょう。そこでわたしは素人考えであります
が、自衛官への奨学金を制度化することを提案しま
す。少なくとも2年間の専門学校、あるいは短大、
4年間の大学に進めて、勉強に専念できる金額の支
給です。
いまや生涯学習社会といわれるようになってから
30年、一世代が経ちました。「自衛隊という学校」
で4年間の任期(あるいは6年)を務めあげた人に
は、さらに可能性を広げるために、大学や専門学校
への就学の機会を増やしていただきたい。同じく少
子化に苦しむ高等教育機関とうまく提携できれば難
しい話ではないと思います。
さらに言えば、もともと教育学は基本となった学
問の上に積み上げるものという見方も古くからあり
ました。仲間との連携を大切にし、健全な国家観や
社会観をもった20代後半の若い先生が増えるのは、
問題山積の学校教育現場にも有益に違いありません。
他国の防衛費などには退官した軍人への恩給など
も含まれているようです。どうか、増える防衛予算
が、装備品の取得や更新ばかりに議論が進まないよ
うにしていただきたい。現職や退官した自衛官、隊
員の皆さんへの投資も忘れないで欲しいです。
▼大正9年までの物価上昇
1919(大正8)年は「スペイン風邪」の大流
行がありました。「流行感冒」と名付けられ15万
人の生命が失われます。翌20年1月に志賀直哉は
雑誌「白樺」に短編小説を発表しました。「小僧
(こぞう)の神様」です。
いまの若い方々とは異なって、70歳前後のわたし
たちの世代は、いわゆる読書傾向の積み重ねがあり
ました。小学校の図書室には世界文学全集、偉人伝
などがあり、志賀直哉、山本有三などの戦前から活
躍した作家たちの全集などもそろっていました。
「小僧の神様」は東京神田の秤屋(はかりや)にい
た小学校出の小僧である仙吉(せんきち)が主人公
です。ははあ、向田邦子さんは自伝的な作品群の中
に父親を「水田仙吉」という名前で登場させたのは
これかなと後になって思いました。
ある日、仙吉は奉公先の番頭さんのお使いをします。
往復の市電の料金は8銭、ざっと現在の300円く
らいでしょう。片道を歩いて4銭を浮かせて、屋台
のすし屋で海苔巻きを1本食べようとします。当時
は、店を構えた「華屋与兵衛(はなや・よへい)」
などが有名でしたが、鮨屋は江戸時代からの屋台店
も多かったようです。
屋台でマグロを食べると1貫4銭でした。「マグ
ロを1つというのも恥ずかしい」と12、3歳の子
供らしく海苔巻きと思っていたのです。ところが、
海苔巻は今日にかぎってできないといわれ、仙吉は
思わずマグロに手を伸ばします。主人は言います。
「1つ6銭だよ」。
仙吉は手をつけたマグロをそっと戻すと逃げるよ
うに屋台から離れました。ところで、現在の「回転
寿司」では米1合(150グラム、炊き上げるとお
よそ360グラム前後と思われます)で何貫なので
しょう。わたしが子どもの頃は1合で10貫くらい
だった記憶があります。大人になって食べた有名店
では16から17貫くらいでした。
それが戦前の社会では1合で5、6貫くらいとい
うのですから大きかったのでしょう。この仙吉が顔
を出した屋台では、米だけで60~70グラムの寿
司を出していたわけです。それが仙吉の記憶の中で
は4銭(約160円くらいか)だったのが6銭(2
40円同)になっていたのでしょう。
大正8年までは過熱景気でした。物価も上がり、
1917(大正6)年から急上昇、1920(大正
9)年には1914年の2.8倍にもなりました。
好景気とインフレです。米価は大正8年、高止まり
しています。仙吉が4銭だと思っていたのは、大正
6年の水準でした。
この景気は「小僧の神様」が発表されてから約3
カ月後、突然の終わりを告げました。3月15日、
株は大暴落します。16、17日には東京証券取引
所が閉鎖されました。世界大戦後の恐慌でした。
この頃の生活の一端を示す資料があります。東京
府では住宅を販売します。1500円から3800
円の建売住宅です。1円を4000円とすれば、6
00万円から1500万円ほど。家賃住宅は月6円
80銭、これも現在価格で換算すると、約2万70
00円ほどでした。東京市街自動車(青バスと呼ば
れた乗合バス)の女性車掌さんたちの月給が35円
(現在価14万円ほどか)、タイピスト組合が要求
した最低給与が月額50円(同20万円)です。
▼鉄道の人たち
1920(大正9)年、戦後不況の始まりから約
2カ月。それまでの鉄道院が省に昇格します。19
08(明治41)年に内閣鉄道院とされていました
が、このとき鉄道省となりました。鉄道省は国有鉄
道の経営のほかに、私有鉄道や自動車事業の監督行
政も行なっていました。
ついでにこれからの説明にも大切なので、当時の
人事制度も説明しておきます。特有の官名として鉄
道監察官、奏任官(キャリア)としての鉄道局参事・
副参事というものがありました。また、判任官待遇
の鉄道手という名称もありました。参事や副参事と
いうのは現業官庁の事務系統奏任官(高等文官)の
名称でした。
各地にあった鉄道局の課長が参事、掛(かかり)
長が副参事。鉄道局の下にあった運輸事務所長、主
要な駅長が副参事でした。判任官以上は正規の官吏
でしたが、現場には多くの雇員(こいん)や傭人
(ようにん)といった立場の従業員も多くを占めて
いました。
雇員は中学校3年以上修了の程度、実業学校(中
学と同じく中等学校で工業・農林業・商業など)2
年半以上修了の者が採用されました。また、傭人を
5年以上勤めた者から選ばれます。傭人は小学校卒
業程度以上から採用しました。線路の保線見習、機
関庫の庫内手などから始めました。
昭和初年当時の徴兵検査時の壮丁学歴別調査では、
高等教育卒業と同等が5%、中等学校卒業程度が1
5%ほど、高等小学校卒業程度は40%、尋常卒が
40%といったところです。鉄道手といわれた判任
官待遇の立場は現場の雇員の老朽者への優遇施策で
した。
『日本国有鉄道百年史』(1974年、交通協力
会)によれば、事務系雇員の月額給与が最高で85
円、傭人は日額で最高が駅手(駅内勤務員)で1円
80銭、電力工手が2円50銭です。この頃のイン
フレを加味して、1円をいまの5000円とすれば、
月給85円は約43万円、電力工手は25日の勤務
として月額32万円というところでしょうか。
1935(昭和10)年の鉄道省職員の総数が2
1万8352人でした。うち勅任官が25人、同待
遇者が9人、奏任官857人、同待遇者が190人
ということです。軍隊でいえば将校同相当官が合計
で1081人、全体の0.5%でしかありません。
下士官にあたる判任官が2万3688人、同待遇
者が6681人の合計3万369人で全体の約14
%、兵卒になる雇員は8万5035人、傭人10万
1512人とそれぞれ約39%、同46.5%とい
う数です。
管理機構として本省には建設事務所、改良事務所、
教習所、鉄道病院がありました。各地方に鉄道局
(大阪、名古屋、門司、仙台、札幌など)があり、
各鉄道局には運輸事務所、保線事務所、電力事務所、
出張所などをおき、停車場や機関庫、信号所などは
運輸事務所に属していました。
鉄道の技師は当然、大学出や専門学校卒業者が多
く、その地位の高さは鉄道人の中でも際立っていま
した。
次回はいよいよ丹那トンネル掘削中の落盤事故の
悲劇をお伝えします。
(つづく)
(あらき・はじめ)
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●著者略歴
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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