配信日時 2022/06/03 20:00

【加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編】 ロシア軍将官戦死の舞台裏(5)──「複数領域作 戦」   加藤喬(元米陸軍大尉)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽に
どうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp

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こんばんは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が
出ました。

今回は、
WW2でドイツ国防軍が使用。WW2で最も知られた兵器
の1つであり、生産停止後も独自の存在感を発揮し
続けた伝説の名銃・MP38&MP40サブマシンガンです。

『MP38&MP40サブマシンガン』
アルハンドロ・デ・ケサダ (著), 床井 雅美 (監
修), 加藤喬 (翻訳)
2022/5/12 発行
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※まもなく紹介MM配信!

武器オンチの日本人に
特におススメです。

「マルチドメイン」
への理解がありそうでないのではないですか?
きょうの記事を読むとすっきり頭に入りますよ。

さっそくどうぞ


エンリケ


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加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編 Takashi Kato  

ロシア軍将官戦死の舞台裏(5)──「複数領域作
戦」

加藤喬(元米陸軍大尉)

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□宇宙の中の「淡い青色の点」──ミクロからマク
ロの視点へ

 5月11日、パレスチナ人女性ジャーナリスト、
シリーン・アブ・アクラ氏が亡くなりました。ヨル
ダン川西岸地区のパレスチナ難民キャンプで取材中、
何者かに射殺されたのです。
 
 イスラエルのベネット首相は「事件当時、付近で
銃を乱射していたパレスチナ人が誤って銃撃した」
との声明を出しました。しかし、調査報道で知られ
る英国のウェブサイト『べリングキャット』が作成
した現場の見取り図を見ると、武装パレスチナ人は
アクラ記者から300メートル近く離れた場所で発砲
していることが分かります。この距離から撃ちまく
った弾丸がたまたま彼女に当たり、致命傷となった
とする主張には説得力がありません。
 
 アラブ系メディア『アルジャジーラ』の編集長は
「アクラ氏は青色のヘルメットと防弾チョッキを身
に着けていたが、弾丸は右耳の下に命中していた」
と述べています。彼女に逃げる隙も与えず初弾で殺
害していることから考えると、狙撃手が意図的に撃
ったと考えるのが妥当でしょう。スコープで照準す
る際、「PRESS(報道)」のサインが見えたはずで
すから、民間人ジャーナリストと知って銃撃を加え
た戦争犯罪。しかしながら、今回の論旨は真犯人の
特定ではありません。
 
 わたしが衝撃を受けたのはネット上で見た葬儀の
情景でした。最前線で命がけの取材を行なってきた
ベテラン記者の葬列には多くの一般人が加わってい
ました。ところが、イスラエル警察が「暴動鎮圧」
を理由に行く手を阻み、参列者と対峙。両者の激し
いもみ合いでアクラ氏の棺が地面に落ちそうになっ
たときは、第三者である私の胸にも「死者への尊厳
はないのか」と憤慨が沸き起こりました。
 
(9) アルジャジーラ記者の葬儀でイスラエル警
官隊が参列者と衝突 棺が落ちそうに - You
Tube
https://www.youtube.com/watch?v=MWmgAYMwiLg
 
 教会の入り口や霊柩車には弔意を表すパレスチナ
の小旗が掲げられていました。カメラはこれをもぎ
取るイスラエル側官憲と抗議するパレスチナ市民を
クローズアップ。両者の顔には燃え盛る憎悪と敵意、
そして相互不信しかありません。
 
 正義と正義、愛国心と愛国心、真理と真理が正面
衝突すると、人は誰も相手への憤怒と敵愾心に飲み
込まれる・・・領土紛争の現実を突き付けられ、言
葉にならない無力感、そして向けどころのないフラ
ストレーションを覚えました。
 
 連日報道されるウクライナ戦争の陰であまり気が
つきませんが、類似の出来事は、無政府状態が続く
ハイチやソマリア、内戦で引き裂かれたシリヤやリ
ビアなど世界の至る所で日常的に繰り返されている
のでしょう。
 
 翻って、悪化の一途を辿る日韓・日中関係はどう
か。ここにも、歴史観と歴史観、国是と国是、国柄
と国柄、国民性と国民性の激しいぶつかり合いが確
かに存在します。
 
 全地球に蔓延(はびこ)る戦争と領土紛争の報道
に連日さらされていると、平穏な市井に住む身とは
いえ気力を削がれるものです。そんなときは、著名
な天体物理学者であり慧眼の科学啓蒙家だった故カ
ール・セイガン博士の逸話を思い起こすことにして
います。『淡い青色の点』です。
 
 ボエジャー1号は1977年に打ちあげられたNASA
(米航空宇宙局)の探査機。主任務は木星と土星の
調査でした。ちなみに同探査機はいまも星間宇宙の
観測データを送り続けており、地球から最も遠い距
離に達した人工物体です。
 
 1990年、惑星科学ミッションを完了したボエジャ
ー1号は、カール・セイガンの提言により最後にもう
一度だけカメラを地球に向け、60億キロの彼方から
見た地球の姿を送ってきました。「宇宙の中で人間
の居場所を視覚的に捉える一枚」でした。セイガン
は太陽光線の中に浮かぶ塵(ちり)にしか見えない
地球を「淡い青色の点」と呼び、次の言葉を残して
います。
 
 「広大な宇宙の中で、地球は極めて小さな舞台で
しかない。その小さな点のほんの一角でつかの間の
支配者になるために、名誉と勝利に酔った将軍や皇
帝らが流した夥しい血を考えてみて欲しい。ピクセ
ルのように小さな点の一角に住む人間が、他の一角
に住む見分けがつかぬほどよく似た人間に対して行
なってきた終わりなき残虐行為を考えてみて欲しい。
誤解がいかに頻繁に起き、ヒトがどれほど熱狂的
に互いを殺し合い憎悪をたぎらせることか。我々が
宇宙で特権的な地位を占めているという妄想や、思
い込みの自信と気取りは、この淡い光点によって瓦
解する。母なる地球は漆黒の大宇宙にあって心細い
小さな点。広大無辺の宇宙にひっそり生存する人間
を自らの愚かさから救うことができるのは、我々人
間をおいてほかにない」
 
 国境や領土というミクロの約束事で近視眼的にな
った我々の目を、「淡い青色の点」というマクロの
視点が矯正してくれるのではないでしょうか。
 
東欧、中東、南シナ海で緊張が高まるなか「最近の
世の中は第3次世界大戦の『戦前』だ」との意見も
聞かれるようになりました。この危機を解決するた
めには、アクラ記者が問い続けた領土と民族の問題
を避けて通ることは出来ません。それはつまり、ヒ
トにとって唯一の故郷である地球を他民族と共有す
る知恵を産み出すことなのです。「国家」と「淡い
青色の点」双方のバランスを取り、国と世界の舵を
取ることが出来る「新世代の指導者」の登場が切に
望まれます。
 
 
▼ロシア軍将官戦死の舞台裏(5)「複数領域作戦


兵器は人が生存をかけて使う道具。生き延びるため
には相手より優れた武器を持たねばなりません。兵
器開発競争が文明の黎明から今日まで途切れなく続
いているのはこのためです。よく指摘される武器の
効用に「抑止力」(deterrence)があります。刀を抜
かずとも相手を委縮させ対峙を防ぐ「鞘の内の勝ち」
の如く、敵に攻撃を思いとどまらせる圧倒的な破壊
力のことです。「平和を望むがゆえに兵器を手放せ
ない」。人類が陥って久しいこのジレンマの裏面が
「抑止力」なのです。
「加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編」では、それぞ
れの武器が持つ抑止力に着目。兵器と平和の関係を
考えていくことにします。

 「ロシア軍将官戦死の舞台裏」の5回目は「複数
領域作戦」を取り上げます。

 1996年に北熊本で行なわれたヤマサクラ27を皮切
りに、その後、東千歳と仙台でも日米合同演習に参
加しました。語学情報将校としての主だった任務は
連日行なわれる戦術ブリーフィングの日本語への通
訳。作戦参謀による戦況説明に続き、情報参謀が敵
軍の行動予測を述べ、司令官らの指揮統制判断を助
けます。最後に空軍と海軍の代表がそれぞれの作戦
計画を共有します。

 陸上部隊の演習になぜ空・海軍が関わるのかとい
うと、現代戦は陸・海・空戦力を統合して行なうも
のだからです。たとえば前述のヤマサクラでは、空
軍の戦闘攻撃機が敵部隊を爆撃する場合、低空を飛
ぶ陸軍のヘリコプターに累(るい)を及ぼさないよ
う事前に退避させる必要がありました。また、大量
の武器弾薬を運ぶ海軍の輸送艦は陸上部隊の兵站
(後方支援)に不可欠で、その入港日が兵力維持に
多大な影響を与えたのです。

 つまり、三軍の動きを調整することが作戦の円滑
な遂行に欠かせないのです。ちなみに今日では、上
記のランド・エア・シー・バトル・ドクトリン(陸
空海戦闘教義)に宇宙と情報の2分野を加え、マル
チ・ドメイン・オペレーション(複数領域作戦)と
呼ぶようです。

 本ビデオは「ロシア軍は陸軍と空軍の作戦調整が
できていない」と指摘しています。大規模な戦車部
隊を前進させるにあたり空軍戦力で敵部隊を叩いて
おかなかったため、歩兵が放つ対戦車ミサイルの餌
食になったり、制空権が確保されていない地域に陸
軍が指揮所を設営し、自爆ドローンで指揮官もろと
も吹き飛ばされたりした事例が挙げられています。

 最前線で作戦を指揮統括するロシア軍将官らが、
陸・空軍間の調整不足から窮地に追い込まれ、戦死
に至るのも当然と言えば当然でしょう。

教材ビデオ:
 5 reasons #Russia has lost more generals in a
 month than #US in 2 decades! - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=PA1PsY3drTc&list=PLk2kWhtlkeERNmHhjjwD0qbox5r9ZGvvh&index=249&t=10s

(本エピソードは5:43から始まります)
 
基本語彙(カタカナ表記は大雑把なものです)
Coordinate(コーディネイト)連係する 統合する
Multi-domain(マルチ・ドメイン)複数の領域
Escape(エスケイプ)脱出する

シナリオ(カウンターを6:24に合わせてくださ
い)

It is clear that Russians are having difficult
y coordinating multi-domain operations and hen
ce at times the senior commanders are finding
themselves in scenarios from which there is no
 easy escape.

(ロシア軍が複数の領域にまたがる作戦の連携に手
を焼いているのは明らかだ。このため、上級指揮官
らが袋小路に陥ることがしばしば起こる)

(今回のエピソードは6:52まで続きます)

英語一言アドバイス:
multi-domainは直訳すると「複数の領域」ですが、
本ビデオの文脈では、「陸軍と空軍がお互いを補完
し合う作戦」を指します。

発音サイト:
multi-domain の発音 (1) How to Pronounce
Multidomain - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=iF76vFNw85Q

参考サイト:
『淡い青色の点』(9) Carl Sagan- Pale Blue Dot
- YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=wupToqz1e2g

淡い青色の点 写真 Pale Blue Dot
 - Wikipedia

https://en.wikipedia.org/wiki/Pale_Blue_Dot#/media/File:PIA23645-Earth-PaleBlueDot-6Bkm-Voyager1-orig19900214-upd20200212.jpg



(かとう・たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。
アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年
空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省
外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―あ
る“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、
『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』
『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢う
まで』『ガントリビア99─知られざる銃器と弾薬』
『M16ライフル』『AK―47ライフル』『MP5サブ
マシンガン』『ミニミ機関銃』『MP38/40
サブマシンガン』(いずれも並木書房)がある。
 
 
追記

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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
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ブックレビューの投稿はこちらから
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専
門用語があります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日
本人が自衛隊のブリーフィングに出たとしましょう。
「我が部隊は1300時に米軍と超越交代 (passage of
lines) を行う」とか「我がほう戦車部隊は射撃後、
超信地旋回 (pivot turn) を行って離脱する」と言
われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」
は "Repeat" ではなく "Say again" です。な
ぜなら前者は砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに
使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍
では建物の「階」は日常会話と同じく "floor"です
が、海軍では船にちなんで "deck"と呼びます。 
また軍隊で 「食堂」は "mess hall"、「トイレ」
は "latrine"、「野営・キャンプする」は "to bivouac" 
と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取
りあげ、軍事用語理解の一助になることを目指して
います。
 
加藤 喬
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