配信日時 2022/05/09 12:28

(新)【不定期連載:ウクライナ侵攻に関するインテリジェ ンス(1)】 元ネタに当たれ──情報の出典を確認することが重要    樋口敬祐(元防衛省情報本部分析部主任分析官)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
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WEB http://wos.cool.coo
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こんにちは、エンリケです。

4月まで連載「情報機関はインテリジェンスの失敗
をどう克服してきたか」を書いてくださった樋口佳
祐さん(元防衛省情報本部主任分析官)が、

ロシアによるウクライナ侵攻に関する
「インテリジェンスからの知見」を

「ウクライナ侵攻に関するインテリジェンス」

と題した不定期連載という形で届けてくださること
になりました。

今回のようなかたちでインテリジェンスのケースス
タディを、広く国民がつかめる機会はめったにありません。

つぎの配信がいつになるか私もわかりませんが、
届いたらすぐお届けしますので、刮目してお待ち
ください!

これを読めば、
国内メディアからの情報を通じてでは決して得られ
ない「情勢判断のキモ」を、得られることでしょう。


ではさっそく今日の記事をどうぞ!!


エンリケ



おたよりはコチラから
 ↓
https://okigunnji.com/url/7/


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不定期連載:ウクライナ侵攻に関するインテリジェ
ンス(1)


元ネタに当たれ──情報の出典を確認することが重


樋口敬祐(元防衛省情報本部分析部主任分析官)

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□はじめに

 今年の2月から4月にかけて「情報機関はインテ
リジェンスの失敗をどう克服してきたか」について、
11回にわたり投稿してきましたが、その節はご
愛読ありがとうございました。

 さて、ロシアのウクライナ侵攻に関しては、ロシ
ア専門家の方や評論家の方が連日テレビなどでコメ
ントされています。したがって、現状や今後の動向
など多く語られていることについて、あえて私が述
べるまでもないと思いますが、インテリジェンスと
いう視点から気づいた点について述べてみたいと思
います。


▼日本メディアの軍事的情報の欠落

 我が国のロシアのウクライナ侵攻に関する戦況の
報道については、アメリカのシンクタンクやイギリ
スの国防省の報告などを参考にしていることが多い
ように見受けられます。

 たとえば日経新聞電子版などは、ウクライナ侵攻
特設コーナーを設けて、戦況などの地図を載せてい
ます。NHKのニュースなどもほとんど同じ図を使
っているように見えます。そしてその出典は、アメ
リカのシンクタンクの戦争研究所(ISW)となっ
ています。また、英国の国防省のツイッターなども
参照されているようです。

 日経やNHKで使用されている簡易地図を見ると
ISWの戦況図などをきれいに整理して一般読者に
見やすいように加工し報道しています。オリジナル
よりも整理され素人にも分かりやすく色付けされて
います。

 しかし、いくつかの重要な情報が抜け落ちていま
す。ISWの図には、たとえば攻撃の部隊の規模、
英国防省の図には部隊の攻撃方向などが図示されて
いますが、日経やNHKの報道などではそれらが記
載されていません。実物は巻末のURLを参照くだ
さい。

 軍事的知識があれば、より理解しやすい情報が入
っているのに、あえてそれを削除しているのです。
たとえば、ISWの図に付記されている部隊符号か
らは、ロシア軍は当初は、北部には戦車部隊や自動
車化狙撃師団などを投入、南部には当初から精強と
される空挺師団を投入しています。3月になると北
部にも空挺連隊を投入し、キーウ攻撃にあたらせて
います。

 それでも、北部ではロシア軍が撤退することにな
ったのです。英国国防省の図には、4月ウクライナ
軍が反撃を開始し、ロシア軍を押し戻している攻撃
方向が示されています。

 もう一つ指摘するならば、日本で報道される地図
にはISWや英国防省の図では表示されている距離
の表示(スケールバー)がないことが多いです。

 このことにより、ウクライナ情勢の議論やニュー
スでの解説などの際、距離が意識されない状況を招
きます。たとえばウクライナの主要都市間の直線距
離は次のとおりです。

キーウ─ハリコフ:413km(東京─大阪400km)
キーウ─ドネツク:592 km(東京─青森577km)
キーウ─マリウポリ:690km(東京─広島675km)
ハリコフ─ドネツク:247km(東京─福島239km)

 日本の東京から主要都市までの距離を参考に入れ
てみましたが、キーウとマリウポリは、東京と広島
よりも離れています。キーウとドネツクは、東京と
青森よりも離れていて三方向からの攻撃部隊が簡単
に連携することなどできません。

 また、ロシア軍は4月になるとキーウの戦力を転
用し、東部正面において、北と南から挟み撃ちにす
る構想だなどと、テレビでは解説されています。確
かに報道で使われている図上では簡単に見えますが、
ハリコフとドネツクは東京と福島よりも離れてい
るのです。

 情報分析において、情報源や出典(元ネタ)に当
たれとよく言われますが、この図の事例は、その重
要性を改めて感じさせるものです。


また、日本の主要メディアが分かりやすい説明をし
ようとすることが、時として日本人の軍事に関する
リテラシーを低下させているのだとそろそろ気づく
べきです。


▼不足する情報の入手

 また、これは今回の出典を確認してよく分かりま
せんが、報道で使用するような簡単な地図だと植生
や地質が分かりません。東部地域は平原(開闊地)
が多いので、キーウなどの都市部のように、ウクラ
イナ軍がゲリラ的な待ち伏せ攻撃ができないため、
ロシア軍が戦車などを使って一気に攻めやすいとさ
れています。

 ロシア陸軍の得意とする攻撃の特徴は、火力の優
越と迅速な機動です。


 つまり、最初に圧倒的な火力で防御部隊(陣地)
を制圧したのち、移動状態から目標線ごとに横方向
に戦車や装甲車を展開させ、目標線に到達したり、
攻撃の際の衝撃力が低下したら後続の部隊(梯隊)
を次々に投入して、一挙に敵を倒していくという攻
撃要領です。

 そのためには、東部地域のような開けた土地が、
ロシア軍の攻撃には有利だということです。

 確かにGoogleマップで見るとウクライナ東
部は畑が多いようですが、もう一つ不明なのは、そ
れらの地域の地質です。

 2月のロシア軍の侵攻当初は、雪解けで平原がぬ
かるみになる前に攻撃し短期間で制圧しようとした
のだといわれていました。ところが作戦は長引き、
ロシア軍の戦車がぬかるみの道路や畑で亀の子状態
で乗り捨てられている写真も多く見られます。

 第2次世界大戦で5月9日にナチスドイツに勝利
したとしてその日を記念日にしているロシアですが、
その独ソ戦でドイツ軍は、ぬかるみと雪(泥将軍
と雪将軍)に侵攻を阻まれたとされています。

 仮に戦車などが機動できる地域が、地質によって
非常に限定されるのであれば、その部分に対戦車火
器を集中させ、待ち伏せ攻撃をすれば防御側に有利
な状況も生まれます。

 このように、地図やGoogleマップなどでは、現地
の気象や地質などの状況は、分からないため、ロシ
ア軍が得意の攻撃ができるかどうかなどの分析につ
いては、このような不足する情報を認識し、情報を
入手する努力が必要です。

 今後もインテリジェンスの視点で気づいたことが
あれば、投稿しようと思います。米ロの情報戦につ
いても読者の皆さんは興味があることと思いますが、
テーマが大きいので、小さなところから断片的に投
稿できたらと思っています。
引き続きよろしくお願いします。


日経URL:
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCA261YM0W2A220C2000000/
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCA240IC0U2A320C2000000/

ISW URL:
https://www.understandingwar.org/sites/default/files/UkraineCoTFeb24%2C2022.png
https://www.understandingwar.org/sites/default/files/DraftUkraineCoTMarch1%2C2022_1.png

英国防省 ツイッターURL
https://twitter.com/DefenceHQ/status/1511309446730895360



□出版のお知らせ

このたび拓殖大学の川上高司教授監修で『インテリ
ジェンス用語事典』を出版しました。執筆者は本メ
ルマガ「軍事情報」でもおなじみのインテリジェン
ス研究家の上田篤盛、名桜大学准教授の志田淳二郎、
そしてわたくし樋口敬祐です。

本書は、防衛省で情報分析官を長く務めた筆者らが
中心となり、足かけ4年の歳月をかけ作成したわが
国初の本格的なインテリジェンスに関する事典です。

2017年度から小学校にプログラミング教育が導入さ
れ、すでに高校では「情報科」が必修科目となって
います。また、2025年の大学入学共通テストからは
「情報」が出題教科に追加されることになりました。

しかし、日本における「情報」に関する認識はまだ
まだ低いのが実態です。その一因として日本語の
「情報」は、英語のインフォメーションとインテリ
ジェンスの訳語として使われているため、両者の意
味が混在していることにあります。

一方で、欧米の有識者の間では両者は明確に区別さ
れています。状況を正しく判断して適切な行動をす
るため、また国際情勢を理解する上では、インテリ
ジェンスの知識は欠かせません。

本書は、筆者らが初めて情報業務に関わったころは、
ニード・トゥ・ノウ(最小限の必要な人だけ知れ
ばいい)の原則だと言われ、ひとくくりになんでも
秘密扱いされて戸惑った経験から、ニード・トゥ・
シェア(情報共有が必要)の時代になった今、初学
者にも分かりやすくインテリジェンス用語を伝えた
いとの思いから作り始めた用語集が発展したもので
す。

意見交換を重ねているうちに執筆賛同者が増え、結
果として、事典の中には、インテリジェンスの業界
用語・隠語、情報分析の手法、各国の情報機関、主
なスパイおよび事件、サイバーセキュリティ関連用
語など、インテリジェンスを理解するための基礎知
識を多数の図版をまじえて1040項目を収録する
ことができました。

当然網羅していない項目や、秘密が開示されていな
いため、説明が不足する項目、現場の認識とニュア
ンスが異なる項目など不十分な点が多数あることは
重々承知していますが、インテリジェンスや国際政
治を研究する初学者、インテリジェンスに関わる実
務者には役立つものと思っています。



『インテリジェンス用語事典』
樋口 敬祐 (著),上田 篤盛(著),志田 淳
二郎(著),川上 高司(監修)
発行日:2022/2/10
発行:並木書房
https://amzn.to/3oLyWqi

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ひぐちけいすけ(インテリジェンスを日常生活に役
立てる研究家)



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【著者紹介】

樋口敬祐(ひぐち・けいすけ)
1956年長崎県生まれ。拓殖大学大学院非常勤講師。
NPO法人外交政策センター事務局長。元防衛省情報
本部分析部主任分析官。防衛大学校卒業後、1979年
に陸上自衛隊入隊。95年統合幕僚会議事務局(第2
幕僚室)勤務以降、情報関係職に従事。陸上自衛隊
調査学校情報教官、防衛省情報本部分析部分析官な
どとして勤務。その間に拓殖大学博士前期課程修了。
修士(安全保障)。拓殖大学大学院博士後期課程修
了。博士(安全保障)。2020年定年退官。著書に
『国際政治の変容と新しい国際政治学』(共著・志
學社)、『2021年パワーポリティクスの時代』(共
著・創成社)、『インテリジェンス用語事典』(共
著・並木書房)


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発行:
おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)

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