配信日時 2022/05/09 20:00

【 我が国の未来を見通す(24)】 「農業・食料問題」(6) 農業政策の概要(続き)   宗像久男(元陸将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
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こんばんは、エンリケです。

本連載のアーカイブサイトができました。
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過去記事をすべて格納してますので、
ブックマークに入れ、折に触れ読んでみてください。


さてきょうの冒頭文。
「バイデンはチキンレースに負けた」
とのご指摘。実にその通りと感じます。

本編では、
我が国の今後につながる
重要なはなしがなされています。

さっそくご覧ください。


エンリケ


◆本連載のバックナンバーはこちらで
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我が国の未来を見通す(24)

「農業・食料問題」(6)
農業政策の概要(続き)

宗像久男(元陸将)

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□はじめに

 ウクライナ情勢に関して少し間が空きましたが、
あまり情勢の変化はありませんでした。現在、ロシ
アの戦勝記念日である5月9日に行なわれる行事や
プーチン大統領の発言に注目しています。今回は、
ウクライナ情勢の陰の主役・アメリカについて少し
触れてみることにしましょう。

第2次世界大戦後の国際社会は、「パックス・アメ
リカーナ」、つまりアメリカを中心となって成立し
た国際秩序によって平和が維持されてきました。

その背景には、アメリカの圧倒的な軍事力・経済力・
政治力があります。世界の軍事力の総合ランキン
グは、毎年少し変わりますが、1位アメリカ、2位
ロシア、3位中国、4位インド、5位日本(実感は
ありませんが)、6位フランス、7位イギリス、8
位韓国と続きます。

問題はその中身です。たとえば、軍事費で比較しま
すと、アメリカの軍事費7780億ドル(約85兆
円)に対して、ロシアは617兆円(約7兆円)、
中国2520億ドル(約28兆円)、インド729
億ドル(約8兆円)、日本491億ドル(約5.4
兆円)、フランス527億ドル(5.8兆円)、イ
ギリス592億ドル(約6.5兆円)、韓国457
億ドル(約5兆円)、と続きます。

近年、中国の軍事費増加傾向が目立ちますが、それ
でも第2位から第8位の韓国までの軍事費を足し上
げてもまだアメリカの軍事費の方がはるかに上回っ
ているのです。

核戦力については、さまざまな指標がありますが、
核兵器数では、ロシア6375発、アメリカが58
00発と両国でダントツの上位を占め、中国、フラ
ンス、イギリスと続きます。

経済力の指標であるGDPでは、1位アメリカ、2
位中国、3位日本と続きますが、アメリカが国際社
会体の約4分の1を占めてします。

 だいぶ前、オバマ大統領が「アメリカはもはや世
界の警察官ではない」と発言したり、また中国など
の追い上げもあって、「パックス・アメリカーナは
終焉しつつある」と主張する人もいますが、現時点
においては、アメリカはすべての面で“超大国”で
あり、「アメリカを敵にまわりして戦争したくない」
と思うのは、政治・外交的な恣意的発言とは別に、
どこの国であっても同様であると考えます。

 そのようなアメリカですが、戦後の歴史を振り返
りますと、外交上の発言が対象国に誤解を与え、戦
争を誘発したという事例は少なくとも2回あります。
まず、朝鮮戦争です。当時のアチソン国務長官が
「アメリカが責任を持つ防衛ラインは、フィリピン
―沖縄・日本―アリューシャン列島までであり、そ
れ以外は責任を持たない」と声明を出しました。つ
まり、そこに大韓民国が含まれなかったため、金日
成に「南を攻めてもアメリカは参戦しない」と判断
させ、北朝鮮の南下を誘発してしまいました。

2番目が、湾岸戦争のきっかけとなったイラクのク
ウェート侵攻です。その直前、フセイン大統領と会
談したイラク駐在アメリカ大使のエイプリル・グラ
スビーは、フセイン大統領がクウェートとの武力紛
争の可能性について明言した際、「アメリカは、ク
ウェートとの国境紛争のようなアラブ人同士の紛争
には首をつこみません」と答え、あたかも侵攻を容
認したような発言したため、実際の侵攻につながっ
たといわれています。

このような失敗を経験しているアメリカですが、こ
のたびのウクライナにおいても、その歴史に学ぼう
としませんでした。確かに、ウクライナはNATO
加盟国ではないので、アメリカを含むNATOの防
衛義務はありません。しかし、昨年末、バイデン大
統領自身が「アメリカはウクライナに軍事介入はし
ない」旨を明言したため、のちの「ロシアが軍事侵
攻すれば、厳しい経済政策を課す」とか「NATO
など同盟国と協議しながら外交的解決を図る」など
の発言は全く功を奏さなくなってしまい、ロシアの
ウクライナ侵攻を容認するような結果になってしま
いました。

侵攻前からロシアの情報をほぼ100%入手してい
たアメリカは、その情報を小出しにすることによっ
てたびたび牽制はしていましたが、さすがにプーチ
ン大統領の腹の中までは読み切れなかったというの
が真相でしょう。

元外交官の宮家邦彦氏は「バイデンの対ロ政策は、
どれも個別には正しいのだが、全体としてみれば、
『宥和政策』に陥る恐れがある。もちろん、『融和』
でなく、悪い意味での『宥和』である」(「Vo
ice」5月号より)と述べ、第2次世界大戦勃発
前、ヒトラーの領土拡大野心を見抜けなかったイギ
リス首相チェンバレンと同様だと批判しています。

ちなみに、「宥和政策」とは「戦争に対する恐れな
どから、敵対国の主張に対して、その意図をある程
度尊重することによって問題の解決を図ろうとする
ことであり、危機管理においては、抑止の反対概念
として理解される」と定義されています。

侵攻開始後、アメリカを含むNATO諸国は、表向
きは軍人を送る意味での参戦は控えていますが、経
済制裁(広い意味での戦争行為)に加え、武器・弾
薬や巨額な軍事費まで提供しています。今となって
は、これらはすべて「Too late」と言わざ
るを得ないでしょう。

米ロの対立がやがては核戦争に拡大するという“恐
怖”をバイデン大統領が抱いていたのでしょうが、
当初から「核戦争を辞さない」と明言していたプー
チン大統領の術中にはまり、みごとに“チキンレー
ス”で敗北しました。

「歴史は繰り返す」「2度あることは3度ある」・
・・さまざまな言葉ありますが、問題は、「アメリ
カの“失敗”が今後も繰り返される可能性がある」
ということでしょう。(政治家にしては)感のいい
安倍元総理は、同じような不安を持ったのか、台湾
有事について「最初から、アメリカの関与を明確に
する時期が来た」と述べ、「戦略的曖昧さ」の見直
しを呼びかけ、話題になりました。その延長に、「
日米安保条約」第5条に基づくアメリカによる日本
防衛の“担保”が念頭にあることは間違いないと想
像します。

 このような一抹の不安を、表には出さないまでも
ある程度は前提にしつつ、そのリスクを回避するこ
とまでを含む「国家安全保障戦略」を構築できるか
どうかに我が国の存亡がかかっていると私は考えま
す。今の日本のリーダーたちにそれを実現する知恵
と実行力があるかどうか、そして大方の国民がそれ
を理解して支持するかどうか、については、私自身
は大いなる疑問を抱いています。

 なお、「ウクライナ戦争の背景は真珠湾攻撃と同
様だ」とする主張もありますが、これについては、
後日、機会があれば触れてみたいと思っております。
今回は、これくらいにしておきましょう。

▼「荒廃農地」解消のために行政が行ってきたこと

さて本テーマに戻りましょう。前回の「農業政策の
概要」の続きですが、「荒廃農地」の解消のために
行政が行なってきたことを取り上げましょう。

シリーズ第19回目、「農業・食料問題」の冒頭で
紹介しましたように、我が国の「荒廃農地」は増加
し続け、全国各地の総面積は、神奈川県の面積を超
える約28万haと広大になりつつあります。それ
でなくとも農地面積が限られている我が国あって、
「荒廃農地」の解消が農業・食料問題の緩和のため
に必要不可欠であることは間違いなく、これまで行
政も真剣に取り組んできました。ただ、そのために
整理した「分類表」を一瞥しただけで首をかしげた
くなるのも間違いありません。

その「分類表」を細部にわたり紹介するのは困難で
すが、(1)まず解消のための事業費が200万円をこ
えるか否かで分類、その後、(2)受益者(農業者)数
が1者か2者以上かで分類、(3)2者以上の場合は、
大規模基盤整備事業の活用が可能か否かで分類、(4)
活用可能であれば、「農地整備等と併せて荒廃農地
を解消」か「農業用用排水施設整備と併せて荒廃農
地を解消」など3つに分類、(5)「農地整備等と併せ
て荒廃農地を解消」であれば、さらに「農地中間管
理機構関連農地整備事業」や「中山間地域農業農村
総合整備事業」など5つに事業に振り分けられ、よ
うやく解消事業がスタートするということになるよ
うです。

それぞれの分類の段階で「否」と分類されれば、別
のルートでさらに細分化されます。たとえば、(3)段
階の大規模基盤整備事業が困難な場合は、「簡易な
農地整備等と併せて荒廃農地の解消」や畑地あるい
は放牧などを活用した荒廃農地の解消事業が選択さ
れます。

これらから、最終的な「荒廃農地」解消施策は、「
自助努力」を加えれば10施策に及び、それらがま
た対象面積や用途区分などによって細分化されるな
ど、追いかけるだけで気が遠くなります。

実際の「荒廃農地」の解消は、上記「分類表」に基
づいた交付金などを活用しながら取り組んできてお
り、さまざまな成功例もあります。たとえば、「地
域・集落の共同活動」として「多面的機能支払交付
金」や「中山間地域等直接支払交付金」等を活用し
て、地域の環境整備やまちおこし等の共同作業を通
じて地域の活性化を図るとともに、荒廃農地の発生
防止の解消にも寄与している事例もあります。

また、同様の交付金を活用して、「鳥獣害対策」の
軽減、「基盤整備」の推進、あるいは「農地中間管
理機構」「新規就農者」「企業法人」の参入などに
至った例もあります。さらには、さまざまな工夫を
凝らした結果、高収益作物等の導入に成功して高付
加価値化を図った例や福祉施設と連携して新たな雇
用の創出や学習活動等に寄与した例もあるようです。

 そのような努力を継続してきても、現実に進む農
地の荒廃化に行政が追い付くことは困難で、「荒廃
農地」が年々増加傾向にあるのは事実です。その主
要因が農業従事者の減少にあることは判明していま
すが、これまでの行政努力が限界を迎えていると言
わざるを得ないのかも知れません。

▼「農業経営の変革」に影響を与えてきた「農地法」

 さて「農業政策の概要」に続き、次回以降、「変
革する農業経営」をテーマにメルマガを進めること
を考えていますが、その前に「農業経営の変革」に
影響を与えてきた法律について触れておきます。

我が国では、長い間、「農地の所有者が農業従事者
として実際の農業を行なう」というスタイルが定着
していました。逆にそのことが、本シリーズの第1
編で取り上げた少子・高齢化の波をまともに受け、
農業従事者の極端な減少につながったものと考えま
す。

 我が国は、戦後間もない昭和27年に「農地法」
という法律を制定しました。「農地法」とは、国が
農業者の権利を守るとともに、農業生産を促進して
国民に安定した食料供給を行なうため、農地などの
売買による権利移動や転用の制限を行なっている法
律です。農地は国にとって大切な資源であるため、
「自己所有地であっても、農地を無許可で耕作以外
の用途に転用することはできない」ことを規定する
目的で制定されたのでした。

実際にこの法律の条文を読みますと、戦後まもなく
制定されたとはいえ、法律の専門家以外、農業従事
者などの素人には解読困難でしょう。しかし、実際
には、農業者の権利を守るために制定された「農地
法」が逆に農業経営の新規参入者に対する“法律の
壁”として立ちはだかってきたことは否定できない
と考えます。

 それを解決するため、政府(農林省)は、この「
農地法」の特例等の処置や改定を繰り返してきまし
た。まず、平成15年に「特区法による特例」とし
て「耕作放棄地が多い特区において市町村を介して
リースにより農業参入を容認」しました。この特例
こそが一般法人による農業経営参入のキックオッフ
となります。

さらに平成17年、この「特区」を「全国展開」す
ることによって株式会社や特例有限会社などの農業
経営参入が三桁に増加します。

そして、平成21年、「農地法」の抜本改正が行な
われ、リース方式による農業経営参入が全面自由化
されました。この「改正農地法」の概要は次の通り
です。まず、個人が農業に参入しやすくするために、
農地を取得する際の下限面積(50ha)を地域の
実情に応じて自由に設定できるよう緩和しました。
次に、株式会社等が農地の賃借によって参入する
規定を緩和して全国的に参入可能とし、農地の賃借
期間の上限も20年から50年に延長しました。さ
らには、「出資」という形の農業参入者を獲得する
ため、農業生産法人の要件を緩和しました。

一方、農地の適切な利用を徹底するため、病院や学
校等への公共転用に向けた協議制の導入や遊休農地
対策を強化するため、毎年、全ての農地を対象とし
た利用状況の調査についても規定しました。

実際に、この「改正農地法」によって、平成21年
以降、農業生産法人数は年々急増し、平成30年度
には約3300法人に至ります。その内訳は、株式
会社が約2100法人、特例有限会社が約400法
人、NPO法人等が約800法人を数え、今なお増
加傾向にあります。

前回紹介した「農業女子プロジェクト」もそうです
が、近年、我が国の農業の歴史が変わろうとしてい
ることも事実であり、その延長にある「農業経営の
変革」こそが、「農業・食料問題」を解決する糸口
になると考えます。その細部については次回以降、
触れてみましょう。

(つづく)


(むなかた・ひさお)



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 【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学
校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロ
ラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第
8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高
射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、
陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、
陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て
、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊
急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業
開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自
衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会
世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防
史』(並木書房)




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