『インド太平洋戦略の地政学
中国はなぜ覇権をとれないのか』
ローリー・メドカーフ 著
奥山 真司 監訳
平山 茂敏 監訳
?橋 秀行 訳
後瀉 桂太郎 訳
長谷川 惇 訳
中谷 寛士 訳
出版年月日:2022/01/25
判型・ページ数:A5・450ページ
発行:芙蓉書房出版
https://amzn.to/3npUmJe
おはようございます、エンリケです。
インド太平洋エリアの海を中核とする歴史、治乱興
亡、地理、地勢、通商を地政学的視座から有機的に
学べる読み物です。教科書としてだけでなく、よみ
ものとして楽しんでほしいとおススメできる珍しい
本ですね。
明るく楽しい専門書。読みやすいことこの上ありま
せん。
インド太平洋にかかわる諸国の現状を把握できる。
著者、訳者をはじめ、関わった人が明るい気持ちで
笑顔で作った本ではないか?と感じました。
「インド太平洋学原論」ともいうべき内容で、
学校で教科書として使われてもおかしくない内容です。
「インド太平洋」というアイデアはいかに生まれ、
いかに成長し、いかに関係各国を動かすに至ったのか?
について、エリアスタディよみものテイストでスッ
と楽に読めます。
その視座は「オーストラリアから見たインド太平洋」
であり、インド太平洋に対するオーストラリアの
姿勢の根っこにある論理、アイデア、概念は何か?
が記してあります。豪州から見たインド太平洋への
視座が理解できる内容です。
「インド太平洋」とかかわる宿命に置かれているわ
が国の盟邦予備軍たるオ-ストラリアの地政学視座
を把握するうえで必読の本といえましょう。
豪州発の「インド太平洋」地政学本。
インド太平洋という場における海洋地政学を解説し
たインド太平洋地域のエリアスタディ本。
「インド太平洋」という概念の何たるかが見え、地
政学的にインド太平洋とは何か?がわかる本です。
想定される主読者は、
豪州の安保政策を深く理解する必要に迫られている
政治、軍、外交、インテリジェンスの当局者、そし
て政策を生み出す論を生み出す必要に迫られる専門
研究者、心あるジャーナリストなど、安保政策に深
くかかわる方々でしょう。
これほど豪州の安保への考えの核心を描き出した本
はありません。担当者だけでなく、そうなる可能性
が高い予備軍の方々も必読です。
インド太平洋というアイデア概念への確固たる理解・
把握をして教養を深めておきたい知的な方にも、
もちろんおススメです。
◆本著について
2020年初めに出版された
INDO-PACIFIC EMPIRE: China, America and the Co
ntest for the world Pivotal Region
の全訳版です。
この種の本ではじめから全訳版が出るのは珍しいこ
とかもしれません。
通常は抄訳版が出てから、、という印象ですが・・
・
理由は不明ですが、「豪州発」という点が大きいの
かもしれません。
前内閣官房副長官補の兼原さんは「日本語版刊行に
寄せて」のなかで
「本書に展開されたメドカーフ教授の主張は、オー
ストラリアがインド太平洋戦略をどう構想し、どの
ような哲学と政策を持って臨もうとしているかを知
ろうとしている人々にとって最良の入門書となるで
あろう」
と言っています。
◆著者
著者、ローリー・メドカーフ(RORY MEDCALF)さん
はオーストラリア国立大学教授。
ナショナル・セキュリティ・カレッジの代表を務め
てらっしゃいます。
外交、情報分析、シンクタンク、学者、ジャーナリ
ストなどのキャリアを持っており、シドニーの名門
ローウィー研究所では、安全保障プログラムの創設
ディレクターを務めた方です。
豪州政府では、上級情報アナリストや外交官として
、インド、日本、パプアニューギニアに赴任経験が
あり、一九九九年には日本の外務省に出向。「核不
拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」への専門的
な支援を行ったとのことです。
「クアッド」と呼ばれる安全保障パートナーシップ
を早くから提唱し、現在では、わが国を含む多くの
インド太平洋諸国との非公式な「トラック2」外交で
主導的な役割を果たしている方だそうです。
2016年に発表された豪州防衛白書のアドバイザーも
務めておりインド太平洋戦略コンセプトのオピニオ
ンリーダーとして、国際的なメディアで頻繁に意見
を発表しています。
ASEAN地域フォーラムの専門家/著名人(EEP: Experts/
Eminent Persons)会合(トラック 1.5) のメンバー
でもあります。
◆翻訳にあたった方々
翻訳に当たられた方々の顔ぶれも「なるほど」と感
じさせるものです。
■監訳者
奥山真司/国際地政学研究所上席研究員
平山茂敏/防衛大学校防衛学教育学群教授
■訳者
?橋秀行/海上自衛隊幹部学校
後瀉桂太郎/海上自衛隊幹部学校
長谷川惇/海上自衛隊幹部学校
中谷寛士/航空自衛隊幹部学校
奥山さんについては言うまでもないですね。
英国で学ばれ、いまはわが国社会で地政学を普及す
る主軸的な役割を果たされている方です。
その他の方々は海空自の士官の方々です。
知り合いの将校さんと全く同じ読みの名前の方がい
らっしゃいましたw
「あれ?」と思いましたが、よく見ると字が違いま
したw
では、地政学の視座からインド太平洋戦略を解説す
るガイドブックの内容を見ていきましょう。
◆目次
◎日本語版まえがき(ローリー・メドカーフ)
◎日本語版刊行に寄せて(兼原信克)
第1章 名称、地図、そして権力
「インド太平洋」という超特急に乗れ/その名前に
は何が含まれているのか?/メンタルマップと物理
的な事実/境界線を打ち壊す/過去の海図を描く/
現状の争い:多くのプレイヤーや階層/地経学/軍
事力/外交/ナラティブをめぐる戦い/未来を守る:
戦争と平和、生存と戦略/ブリッジングとバランス、
陸と海
〈 過 去 〉
第2章 アジアの水面下の歴史
地図を傾けて見る/奥深い歴史、幅広い水平線/イ
ンド洋の重心/中国の初期の進出/西方よりの風:
インド太平洋の植民地化/地図づくりによるつなが
り/帝国の系譜/地政学の闘技場
第3章 国家による波乱の航海:地域の故郷を求め
る探求の旅
偽りの春/反目と分離/インドと中国:巨大な分断/
インド太平洋に響き渡る反響と予感/太平洋と出
会うアジア/「アジア太平洋」という舞台/東アジ
アの進撃:奇跡、はかない希望、誤った呼び名/大
嵐と首脳会談
第4章 インド太平洋の台頭
海賊とパートナーシップ/海における事実:中国の
危機的状況/押し戻しとピボット/ワシと象/象と
ドラゴン/四カ国の仲間たち/プレゼンスと「真珠」/
海上シルクロードをたどる/オーストラリアが命名
した場所/海を越えた言葉/不確実性の時代/イン
ド太平洋の移り変わり
〈 現 在 〉
第5章 ゲームと主なプレイヤーたち
パワーゲーム/国家はビリヤードの玉ではない/中
国/インド/アメリカ
第6章 数多のプレイヤー
日本/オーストラリア/インドネシア/多様な国が
集う海/グローバルなインド太平洋地域
第7章 狙われるウォーターフロント
海を観察する/風向が変わる貿易風/火に油を注ぐ/
多帯多路
第8章 拡大する戦線
中国のインド太平洋軍事地図/基地をめぐる競争/
戦略的空間と現実/水面下の闘争/核の影/外交を
つくりあげるもの/丼の中をさまよう/ナラティブ
を巡る戦い:最前線に立つオーストラリア/あらゆ
る分野で、あらゆる手段で
〈 未 来 〉
第9章 不信の海を航行する
ブラック・スワンとブラック・エレファント/共倒
れもしくは崩壊:不安の連続/次なる段階へ/共存
への道筋を描く/原則その一:開発/原則その二:
抑止/原則その三:外交/原則その四: 団結/原
則その五:レジリエンス/開かれた海
訳者解説(後瀉桂太郎)
監訳者あとがき(奥山真司・平山茂敏)
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いかがでしょうか?
●「インド太平洋」という概念は地政学そのもの
●自由で開かれたインド太平洋”の未来像とは?
●強大な経済力を背景に影響力を拡大する中共にど
う向き合うのか?
●インド太平洋地域において性急な拡張政策をとる
中共の内在するリスクとは?
●アメリカ・バイデン政権はパワーを維持すること
ができるのか
●インド太平洋というグローバル経済を牽引する地
域のダイナミズムが2020年代以降の世界情勢に
どのように影響するのかを、地政学的観点から説明
する
●インド太平洋地域を独占しようとする中国の挑戦
に断固とした態度で臨むことの重要性を、国際政治、
外交・安全保障、経済、技術など多角的観点から説
く
●現代のグレートゲームが、インド太平洋という場
で行われようとしている
という内容を記しているこの本。
インド太平洋戦略という概念を「理解」するうえで
欠かすことのできない基本書と言えましょう。
◆グレートゲーム
インド太平洋エリアは今や現代の「グレートゲーム」
の舞台となっており、「インド太平洋」というアイ
デアといかにかかわるか?は、安倍さんが主要なプ
レーヤーへとわが国を押し上げた根幹ともいえる知
性です。
アジア太平洋とかかわるわが国の姿勢をいかにより
普及し、発展させ、国益の維持拡大をいかに図るか?
という問題意識を持つ人には格好の書と言えます。
「インド太平洋」のエリアスタディ、地政学基本書
として挙げられる内容ですから。
「インド太平洋」というアイデアが初めて公的に明
らかになったのは、2016年に安倍さんがTIC
ADで行ったスピーチでした。
◆安倍元首相
その後も、安部さんの外交戦略としてしか「インド
太平洋」という概念を知らない人は多いことでしょ
う。
しかし、、、じつは、インド太平洋戦略についてき
ちんとまとめた本格書籍はこれまでほぼありません
でした。
この本は、そんな「インド太平洋戦略」を地政学で
描き出した初の書籍といって差し支えありません。
中共の侵攻に対処する「知的武装」として役立つ基
本書ともいえます。
◆対中共知的武装の土台となる内容
中共の地図(口絵の一番初めにある)を見ると、中
共の意図が見えてきます。かの国はまさに遅れてき
た帝国主義国を志向しており、過去の歴史をなぞっ
て世界中に植民地を作り自国繁栄につなげようとし
ています。
かの国の海における動きを見れば一目瞭然です。
一帯一路構想は、海が主軸の中共帝国主義の建設路
です。中共はインド太平洋という海を使って何をし
ようとしているのか?本著を読むとそれが見えてき
ます。
海国は海の視点・視座が不可欠です。
この本で、インド太平洋の海洋地政学的視座を養っ
てください。
日本発のこの種の専門書がなぜ出ていないのか?
非常に不可解で不満です。
◆オーストラリアの安保国防
豪州の仮想敵国はインドネシア。
やはりその感覚が強く、本著も、豪州周辺の地政分
析が主となっており、わが国とのかかわりをあまり
感じない記述が多いです。
著者はこういいます。
「本書は、2030年以降の世界の深層を流れる地政学
的潮流をたどりながら、海洋にまたがる国際的な連
接と競争の歴史を語るために地図を傾けて見よう、
という本なのだ。…本書は戦争を奨励したものでは
ない。いわゆる“反中”本でもない。むしろ多極化
を支持する本なのだ」(「日本語版まえがき」より)
◆特徴
現在過去未来の時間軸で内容を整理している点です。
目次を見ればわかる通り、思考の流れと思考範囲を
きちんと整理できるからすっきり理解が進みますね。
過去のはなしと今のはなしと未来のはなしがごっち
ゃになって何が何だか分からなくなる。
この種の情勢把握本を読むときは、そういうことが
よく起こりますからね。
◆豪州から見たインド太平洋
全編通じていえるのは、
すべてに「豪州から見たインド太平洋」が頭につく
ことです。
その点をキチンとわきまえて読むべきでしょう。
インド太平洋というアイデア・概念に関する
一般状況解説や知識については、非常に学びになる
内容といえます。
一つだけ残念なのは、安倍さんを通じて、米太平洋
軍の名称変更を通じて、「インド太平洋」という概
念・アイデアは、わが国一般人にも身近な存在であ
ったにもかかわらず、わが専門研究者の方の手にな
る本著と同様の啓蒙書が日本発で出なかったことで
す。
超おススメです。
『インド太平洋戦略の地政学
中国はなぜ覇権をとれないのか』
ローリー・メドカーフ 著
奥山 真司 監訳
平山 茂敏 監訳
?橋 秀行 訳
後瀉 桂太郎 訳
長谷川 惇 訳
中谷 寛士 訳
出版年月日:2022/01/25
判型・ページ数:A5・450ページ
発行:芙蓉書房出版
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エンリケ
追伸
「インド太平洋」というアイディアが具体的政策と
して明らかになったのは、安部さんが2016年に
TICADで行ったスピーチのようです。
それ以来、わが周辺を意味する概念として急速に浸
透。地政学的な概念として定着し、米軍も太平洋軍
をインド太平洋軍に名称変更しました。
そのあたりのことも巻末の訳者解説で書かれていま
す。
読みどころは本編だけではありません!
『インド太平洋戦略の地政学
中国はなぜ覇権をとれないのか』
ローリー・メドカーフ 著
奥山 真司 監訳
平山 茂敏 監訳
?橋 秀行 訳
後瀉 桂太郎 訳
長谷川 惇 訳
中谷 寛士 訳
出版年月日:2022/01/25
判型・ページ数:A5・450ページ
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