配信日時 2022/04/29 20:00

【加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編】ロシア軍将官戦士の舞台裏(1)──「将軍という階級とその任務」   加藤喬(元米陸軍大尉)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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どうぞ
 
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が
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今回は、
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さてきょうの冒頭文。
こんかいも非常に重要な内容ですね。

思想的、哲学的、歴史的、人文的に「核武装」を捉
え、考え、把握しようとする加藤さんの姿勢に、
こころから共感します。

この取り組みは日本人なら行ってゆかねばならない
ことですね。

なお本文も実に興味深いポイントです。

さっそくどうぞ


エンリケ


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加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編 Takashi Kato  

ロシア軍将官戦士の舞台裏(1)──「将軍という
階級とその任務」

加藤喬(元米陸軍大尉)

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□アメリカの日和見主義が招く核拡散

 ニューメキシコで大学院に通っていた頃、週末に
なるとサンタフェ近郊の森林にキャンプに出かけ勉
強疲れを癒しました。人里離れた奥深い木立の中に
見え隠れする建物群はロスアラモス国立研究所。19
43年、マンハッタン計画の一環として原爆開発を行
なったところです。
 
初代所長ロバート・オッペンハイマー博士は、もと
もと中性子星やブラックホール(当時、そのような
呼称はまだありませんでしたが)、そして量子力学
などの分野で卓越した先見を顕し、宇宙の起源解明
に挑む理論物理学者でした。戦後「原爆の父」とし
て歴史に名を遺したものの、本人は原爆開発に関わ
った経緯を悔いていた節があります。晩年のインタ
ビューで、博士は1945年7月16日トリニティ・サイ
トで行なわれた人類初の核実験を述懐し、憂いに沈
んだ面持ちで時折涙を拭(ぬぐ)いつつこう述べて
います。
 
 「我々は世界が昨日までとは違ったものになった
ことを悟った。笑う者もいた。泣く者もいた。多く
は無言だった。わたしはヒンズー教の聖典『バカヴ
ァッド・ギーター』の一節を思い起こした。『われ
は死神、全世界の破壊者となった』。誰もが、いろ
いろな意味で、そう感じていただろう」
 
 博士の死後半世紀以上経ち、核というパンドラの
箱を開けてしまった人間はいよいよ抜き差しならな
い状況にあります。冷戦中の1963年、米露中仏英の
核兵器総数が3万発を超えました。人類滅亡の危機
を恐れ、国際連合は核軍縮と最終的な「核なき世界」
を目指し、核拡散防止条約を制定。以来、米英露政
府管理の下で190か国以上が締結しています。
しかし読者諸氏もお気づきのように、核兵器の拡散
は今も確実に続いています。皮肉にも、「世界の民
主化」を国是とするアメリカ合衆国が核拡散の立役
者になっているのです。
 
 アフガニスタン、イラク、リビア、シリア。2001
年の同時多発テロ以降、アメリカが軍事介入した
国々の一部です。国際テロ組織の壊滅と民主化運動
「アラブの春」に乗じて独裁政権転覆を目指しまし
た。ちなみに武力介入による体制変更後、イラクの
サダム・フセイン大統領とリビアのカダフィ大佐は
命を落としています。
 
 アフガニスタン戦争は米史上最長の20年に及び、
イラク戦争では米軍の戦死者4431人(国防総省戦傷
者ウェッブサイト 2022年4月18日現在)だけでな
く、一般市民など50万人が死亡したとの統計があり
ます。また米復員軍人省によると、アフガニスタ
ン・イラク戦争でPTSD(心的外傷後ストレス障
害)を患った元将兵らは、今も一日20人近くが自ら
命を絶っています。リビア内戦の犠牲者は推定5万
人とされ、現在も続くシリア内戦の累計死者数は39
万人。これらの痛ましい数字は、「ならず者国家の
民主化」を使命と任ずるアメリカの強い意志を示し
ています。
 
 ところが、核大国ロシアに対するアメリカの態度
は正反対。バイデン大統領はロシア軍のウクライナ
侵攻前に早々と「米軍部隊をウクライナに派遣する
ことはない」と宣し、米ロ直接対決の可能性を封じ
ています。後日、ウクライナ難民と面会し反露感情
を昂(たかぶ)らせたバイデン氏は、「あの男(プ
ーチン)を権力の座に留めおくことは許されない」
と体制変更を示唆したものの、同政権高官らは間髪
を入れず「アメリカはロシア政府の転覆を意図して
いない」とバイデン発言を否定。そのドタバタ感は
むしろ、核保有国との対峙を忌諱する米政府の本音
を浮き彫りにしました。
 
 では、こういったアメリカの日和見主義を世界の
反米諸国はどう見るでしょうか? 「アメリカは核
を持たない国々には勇んで武力介入してきたが、核
保有国ロシアとの武力対峙は避け続けている。なら
ば核さえ持てば、米国の『政権転覆』リストから外
れる」と結論するのは間違いありません。
 
 ことに金正恩総書記やアーリー・ハーネメイ師ら
は、制裁解除と引き換えに核を放棄し殺害されたカ
ダフィ大佐と自らを重ね合わせているはず。とすれ
ば、北朝鮮とイランが現在進行中の核計画を放棄す
ることはあり得ず、今後も経済制裁に耐え抜き、核
の実戦配備を貫徹するでしょう。
 
 独裁国家が次々と核を手にし、中国が米露に次ぐ
核大国になるのはそう先のことではありません。日
本、台湾、韓国にしても、中露北朝鮮の侵略を未然
に防ぐためには自前の核抑止力が早晩必要になりま
す。
 
時として相反する国益を追求する国々が、ハリネズ
ミのように核武装して対峙する構図は米ソ冷戦時代
よりはるかに複雑。核戦争を恐れて紛争が抑制され
るのか、あるいは追い詰められた独裁者が核使用に
踏み切るのか・・・
 
「われは死神。全世界の破壊者となった」。悄然と
した老オッペンハイマー博士のつぶやきを彷彿とさ
せる憂鬱な未来図です。にもかかわらず、わたしは
日本を含む民主国家が独裁国に対する核抑止力を整
え、将来も戦争を防いでいくのではないかと思いま
す。ヒトと核との際どい共存は、人類が種として成
長するうえで避けることができない「通過儀礼」だ
からです。
 
我々が「技術文明の幼年期」を生き延びた暁には、
若きオッペンハイマーが夢見た「宇宙の起源解明」
に世界が一丸となって取り組む「人類の黄金時代」
がやってくることでしょう。
 
 
▼ロシア軍将官戦士の舞台裏(1)

兵器は人が生存をかけて使う道具。生き延びるため
には相手より優れた武器を持たねばなりません。兵
器開発競争が文明の黎明から今日まで途切れなく続
いているのはこのためです。よく指摘される武器の
効用に「抑止力」(deterrence)があります。刀を抜
かずとも相手を委縮させ対峙を防ぐ「鞘の内の勝ち」
の如く、敵に攻撃を思いとどまらせる圧倒的な破壊
力のことです。「平和を望むがゆえに兵器を手放せ
ない」。人類が陥って久しいこのジレンマの裏面が
「抑止力」なのです。
「加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編」では、それぞ
れの武器が持つ抑止力に着目。兵器と平和の関係を
考えていくことにします。

 ウクライナ戦争開戦からすでに2か月。ロシア軍
の苦戦が伝えられています。その信ぴょう性を示唆
するのが戦死した将官の人数です。英国の古参全国
紙『ザ・タイムズ』によれば、3月26日の時点です
でに7名を数えています。そこで今回から数回にわ
たり、ロシア軍将官戦士の舞台裏を取り上げます、
初回はまず、将軍という階級と任務の特徴に触れま
す。

 米陸軍の士官は迷彩服以外の通常軍服を着用する
場合、2種類の襟章を付けます。上段がアメリカを
示すUS徽章で、その下が歩兵、機甲、砲兵、工兵、
武器、衛生などの兵科徽章になります。小隊長(50
人規模)を務める新米少尉から旅団(4000人規模)
を指揮する大佐まで同じです。

 しかし准将(最下級の将官)になると兵科徽章を
外す慣例があります。これは将官が個々の兵科を超
えた、より全体的なレベルで指揮をとる高級将校だ
からです。

 したがって准将(一つ星)、少将(二つ星)、中
将(三つ星)、大将(四つ星)といった将官クラス
は、順次、より全軍的な視点に立った指揮統制を行
ないます。最前線で部隊を指揮・鼓舞する将軍のイ
メージは、おそらくハリウッドの創作によるところ
が大きいでしょう。

 実際、20年に及ぶ対テロ戦争で戦死した米軍の将
官は2名のみ。米国防総省(ペンタゴン)を狙った
同時多発テロ(2001年)で亡くなったティモシー・
モード中将と、2014年アフガン国軍兵による内部攻
撃で殺害されたハロルド・グリーン少将です。

 これに対し、ウクライナに派遣されたロシア軍将
官20名のうち、わずか1か月で5名が戦死。この異
常に高い戦死率の舞台裏ではいったいどのような要
因が働いているのでしょうか?


教材ビデオ:
 5 reasons #Russia haslost more generals in a
 month than #US in 2 decades! - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=PA1PsY3drTc&list=PLk2kWhtlkeERNmHhjjwD0qbox5r9ZGvvh&index=249&t=10s

(本エピソードは0:15から始まります)
 
基本語彙(カタカナ表記は大雑把なものです)
General officer(ジェネラル・オフィーサー)
陸軍・空軍・海兵隊の将軍
Rare(レア)めったにない
Unbelievable(アンビリーバブル)信じがたい
Brush aside(ブラッシュ アサイド)無視する
At play(アット プレイ)作用する

シナリオ(カウンターを1:03に合わせてくださ
い)

The death of one general officer in combat is
an incredibly rare thing, the death of multipl
e generals is almost unbelievable.  This can’t
 be brushed aside as coincidence and multiple
factors are at play.

(将官の戦死は極めてまれなことだ。複数の将官が
戦死したとなればそれは信じがたい事態だ。偶然で
片づけられることではなく、複数の要因が働いてい
るはずだ)

(今回のエピソードは1:28まで続きます)

英語一言アドバイス:
generalは「全般的な」「全面的な」「全体的な」
を意味する形容詞です。軍事用語では「将官」また
は「大将」を指します。本文でも指摘しましたが、
専門的な「兵科」を超えた総合レベルで指揮を行な
う高級将校という含みがあります。

発音サイト:
generalの発音 general pronounce - Google Search
http://okigunnji.com/url/145/

参考サイト: ウクライナ侵攻で戦死したロシア軍
将官
2022年ロシアのウクライナ侵攻で死亡したロシア軍
高級将校の一覧 - Wikipedia
http://okigunnji.com/url/146/

ロバート・オッペンハイマー博士 ロバート・オッ
ペンハイマー - Wikipedia
http://okigunnji.com/url/147/



(かとう・たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。
アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年
空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省
外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―あ
る“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、
『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』
『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢う
まで』『ガントリビア99─知られざる銃器と弾薬』
『M16ライフル』『AK―47ライフル』『MP5サブ
マシンガン』『ミニミ機関銃』『MP38/40
サブマシンガン(近刊)』(いずれも並木書房)
がある。
 
 
追記

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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
ブックレビューの投稿はこちらから
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専
門用語があります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日
本人が自衛隊のブリーフィングに出たとしましょう。
「我が部隊は1300時に米軍と超越交代 (passage of
lines) を行う」とか「我がほう戦車部隊は射撃後、
超信地旋回 (pivot turn) を行って離脱する」と言
われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」
は "Repeat" ではなく "Say again" です。な
ぜなら前者は砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに
使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍
では建物の「階」は日常会話と同じく "floor"です
が、海軍では船にちなんで "deck"と呼びます。 
また軍隊で 「食堂」は "mess hall"、「トイレ」
は "latrine"、「野営・キャンプする」は "to bivouac" 
と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取
りあげ、軍事用語理解の一助になることを目指して
います。
 
加藤 喬
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