配信日時 2022/04/25 20:00

【我が国の未来を見通す(23)】 「農業・食料問題」(5) 農業政策の概要  宗像久男(元陸将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
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こんばんは、エンリケです。

本連載のアーカイブサイトができました。
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過去記事をすべて格納してますので、
ブックマークに入れ、折に触れ読んでみてください。

冒頭文は示唆に富む必読の内容。
本文も読み応え十分です。

さっそくご覧ください。


エンリケ

追伸
次週の配信はお休みです。
つぎのお届けは5/9となります。



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我が国の未来を見通す(23)

「農業・食料問題」(5)
農業政策の概要

宗像久男(元陸将)

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□はじめに

 ロシアがウクライナ侵攻開始から2か月が経ちま
した。この2か月の間に、現在を生きる私たち人類
は、これまでの人生で経験したことのないような、
また、つい最近まで全く想像できなかったような、
さまざまな“現実”を目の当たりにしました。しか
も先行き不透明なまま現在進行形です。

 しかし、これらの“現実”から感じること、考え
ることは、国のよっても、人によっても差異がある
ようですが、地理的な近さもあっていち早く反応し
たのは欧州諸国でした。

なかでも、天然ガスの半分以上をロシアに依存して
いるドイツは、侵攻開始から3日後、ショルツ首相
はGDP比1.5%の国防費を2%に増やすことを
表明しました。近年、トランプ大統領に国防費増額
を要求され、「ドイツはロシアに完全に制御されて
いる」と名指しで批判されても重い腰を上げようと
しなかったドイツの“決心変更”は電光石火でした。

また、EUの一員であってもNATOに加盟するこ
となく、長年、中立を維持してきたスウェーデンや
フィンランドでさえNATO加盟に舵を切ろうとし
ています。ウクライナ侵攻前と後では自国の安全保
障をめぐる環境が180度激変したことを国のリー
ダーたちをはじめ国民の多くが肌で感じた結果であ
ろうと考えます。

それに対してロシアを挟んで欧州と反対側に位置す
る日本は、欧州とアジアがシベリアという広大な地
域で隔絶されている安心からか、あるいは多くの国
民の“平和ボケ”が根底にあるのか、「次は自分」
とか「明日は我が身」と感じる欧州諸国のような“
肌感覚”を持てないのは明らかなようです。

2か月の間に、ウクライナ侵攻から我が国が学ぶべ
き課題や教訓、我が国が改善すべき国防政策などに
ついては、各論ありますが、有識者、陸海空将官O
B、政治家などの意見がほぼ出尽くした感がありま
す。しかし、まだ結論づけるのは早いでしょう。こ
れからの展開によっては、いま現在考えられている
ような提言などでは不十分という見方も出てくるも
のと予想しています。

その中で、共産党が「自衛隊は違憲だが活用する」
と長年の持論を“ちゃぶ台返し”した表明には、元
自衛官としては何とも複雑な気分になります。これ
まで何度も自衛隊をこき下ろし、防衛費を「人を殺
すための予算」と批判していたことを知っているか
らです。

共産党はまた、「日本が他国に侵略できないように
しているのが憲法9条だ」とも明言していますが、
「ロシアを悪にすることによって安心していないか
・・・自分達の国がどこかの国を侵攻する可能性が
あるということを自覚する必要がある」との某女性
映画監督の発言も気になりました。その場所が、こ
ともあろうに東京大学の入学式でしたので、現下の
情勢下、将来の我が国を背負って立つことを期待し
たい前途有為な若者の前で話す内容なのであろうか、
と首をかしげました。さすが“護憲の牙城”です。
そのような趣旨の発言を期待して呼んだのでしょう。

一方、その共産党でさえ、「環境が変わった」こと
を肌で感じているからこそ、あえて自己矛盾を表明
しているのでしょうが、某野党の幹部が「ウクライ
やコロナに“便乗する”のはいい加減にしろ」と発
言していたのにも驚きました。“思考停止”を自覚
していても、自分たちが政権を取るわけではないと
判断した上での発言なのでしょうが、国民の代表と
して高額な報酬を受けている政治家である以上、一
瞬でも「その資格があるのか」について考えてほし
いと思ったことでした。

さて、結論から言えば、憲法改正は間に合わないと
思います。しかし、現憲法下の防衛政策として「非
核三原則」「専守防衛」「防衛予算GDP1%以内」
など自制に自制を重ねたまま見直されることなく
70年余りが過ぎた政策については、“得意な”解
釈による“変更”、あるいは“新たな政策”を打ち
出す必要があり、また可能であると判断します。今
こそ、思い切った国防戦略を掲げ、国家の運営上苦
しくとも国防力強化が必要なことは論を俟たないで
しょう。

産経新聞の世論調査によれば、「防衛費増額」につ
いては57%が賛成、しかも若い世代ほど高い傾向
にあるようです。若い世代の方が危機感を肌で感じ
ている証拠なのです。

 ウクライナ情勢から最も重視して学ばなければな
らないことは、「ウクライナは抑止(戦争の未然防
止)に失敗した姿である」ということです。「我が
国土があのような姿にならないようにするためには
どうすればいいか」を検討するのが最優先です。

そのような中で、(依然議論中のようですが)自民
党の安全保障調査会が少しは目が覚めたような提言
をまとめているのが唯一の救いと思っています。政
治家の先生方は、今こそ与野党問わず国会議員の役
割や存在価値を自覚し、私利私欲、主義主張、党利
党略、さらにはこれまでのタブーを排して、専門家
の意見などを取り入れつつ、あらゆる知恵を出して
国民の先頭に立って必要な政策を取りまとめるべき
でしょう。

この際、(あえて具体的には書きませんが)あらゆ
る「将来情勢」を漏らさず見積もり、必要な選択肢
を排除せず、真に実効性のある国防力を構築するこ
と、そして、戦後考えて来なかったような「強靭な
国家創り」を目指してほしいと願っています。そこ
にこそ、我が国の未来がかかっていると私は考えま
す。

内閣支持率は66%近くもあるようですが、西側諸
国と歩調を合わせて経済制裁などを決断した結果と
して肯定的にとらえているのだとすればそれは間違
いでしょう。今こそ、ドイツのショルツ首相のよう
に即断即決し、国民の先頭に立って大方の国民の意
識を変える“強いリーダーシップ”が求められてい
ると考えます。現首相にそれが期待できるかどうか
については私にはわかりません。今日はこのぐらい
にしましょう。

▼農業女子プロジェクト

 さて前回の続きで「農業女子プロジェクト」です。
本プロジェクトは、「女性農業者が日々の生活や
仕事、自然との関わりの中で培った知恵を様々な企
業の技術・ノウハウ・アイデアなどと結びつけ、新
たな商品やサービス、情報を創造し、社会に広く発
信し、農業で活躍する女性の姿を多くの皆さまに知
っていただくための取り組み」とされ、平成25年、
農水省主導で設立されました。

 その趣旨は、「農業内外の多様な企業・ 教育機
関等と連携して、農業女子の知恵を生かした新たな
商品・サービスの 開発、未来の農業女子をはぐく
む活動、情報発信等を行い、社会全体での女性農業
者の存在感を高め、女性農業者自らの意識の改革、
経営力発展を促し、職業としての農業を選択する若
手女性の増加を図る」とされ、農業女子同士のネッ
トワークづくりにも取り組んでいるようです。

プロジェクトの目的としては、(1)社会、農業界での
女性農業者の存在感を高める、(2)女性農業者自らの
意識の改革、経営力の発展、(3)若い女性の職業の選
択肢に「農業」を加える、ことがあります。背景に、
現在の農業人口に占める女性の割合が4割以下で、
そのうえ減少傾向にあるとの危機意識があることは
間違いないでしょう。

「農業女子プロジェクト」の最新のデータ(令和3
年12月時点)では、参加メンバー886人、参画
企業37社、教育機関8校です。本プロジェクトに
参加している主要企業には、農機具メーカーや食品
会社などに加え、農業生産法人を目指している企業
などその範囲は拡大しつつあり、教育機関側も東京
農業大学、桜美林大学、近畿大学、山形大学など逐
次全国に拡大しつつあります。

本プロジェクトの効果もあって、新規就農者の女性
の占める割合は、平成25年が全体の23%の1万
1600人、平成28年が25%の1万5200人
、令和元年も25%に相当する1万3800人とな
っていますが、今なお道半ばと言えるでしょう。こ
の続きは、のちほど取り上げることにしましょう。

▼農林水産省の役割

私は、防衛や軍事ついてはある程度の考えを理解し
、共有もできるのですが、農業政策(農政)に関し
ては、これまで行政当局が取り組んできたことを評
価する技量が足りません。その細部について少し触
れてみましょう。

 まず、農林水産省です。農林水産省は、本省の職
員数は1万3800人あまりを数え、法務省、国土
交通省、厚生労働省、財務省に次ぐ大所帯の役所で
す。その役割は、(1)農業施策の企画・立案であり、
関係省庁と調整の上、法律案・予算案を作成し、国
会説明も実施します、そして、(2)農業施策の実施と
して法律・予算の執行、行政指導等を行なっていま
す。また、(3)情報の発信機能も保有し、食料・農業・
農村白書の発刊、WEBサイトの管理、さらに農業
や食料に関する統計情報も集計・公表しています。
最近は、(4)国際交渉へも参画し、国内の農林水産
業への影響等へ反映させています。

 なかでも、農水省は、「農業振興地域制度」にも
力を入れ、絶大な権限も保持しています。この制度
は、農水省の文書をそのまま記載すれば「自然的経
済的社会的諸条件を考慮して総合的に農業の振興を
図ることが必要であると認められる地域について、
その地域の整備に関し必要な施策を計画的に推進す
るための措置を講ずることにより、農業の健全な発
展を図るとともに、国土資源の合理的な利用に寄与
する」ことを目的に行なわれている制度です(役人
の文章は本当に理解困難です)。

本制度は、農業上の土地利用のゾーニングを行なう
「農業振興地域制度」と個別の農地転用を規制する
「農地転用許可制度」から成り立っており、優良農
地の確保と効果的な農業投資を一手に担っているよ
うです。この制度によって、確保すべき農用地面積
の目標、農業振興地域の指定・変更、あるいは農地
振興のマスタープランなどを定めています。

これらはすべて農水省の役割であり、このため、地
方農政局(全国に7カ所)が設置されており、地方
公共団体と協力して農政を推進する体制を維持して
います。

▼農地振興地域整備計画の概要

 具体的な農業政策(施策)に少し触れてみましょ
う。まず「農業振興地域整備計画」という計画があ
ります。都道府県知事により農業振興地域に指定さ
れた市町村が、おおむね10年を見通して、地域の
農業振興を図るために必要な事項を定めたものです


具体的な内容は、「農業振興地域の整備に関する法
律」第8条第2項に定められており、概要は次の通
りです。

 まず、「農用地利用計画」ですが、農業としての
利用の確保を図るために行なう土地利用規制の基礎
となる具体的な計画を定めています。そこには、「
用地等として利用すべき土地の区域及びその区域内
にある土地の農業上の用途区分(農地、採草放牧地
、混牧林地、農業用施設用地)」などが細部にわた
って定められています。

また、農業生産の向上を図るために行なう基盤整備
やライスセンター(米の乾燥施設)などの施設整備、
農業を担うべき者の育成・確保等について、その
方向や計画(マスタープラン)なども定められてい
ます。基盤整備の中には、排水改良、区画整理、農
道整備などの事業概要も規定されています。

考えてみますと、ダム、用排水機場、水利施設など
大規模潅漑施設は国の公共事業でなければ整備でき
ないことは明らかですし、それにつながる幹線水路
や支線水路などの各施設は、国と地方が分担して整
備、管理する必要があります。広域の区画整理など
も、規模によっては地方自治体レベルでは実現困難
な場合もあります。

また、行政側の独自施策として、最近は「次世代施
設園芸」(愛知県豊橋市)のような例もあります。
ここでは、下水処理の放流水を活用して化石燃料の
3割以上を削減しつつ、空調や機械の複合環境制御
技術によりミニトマトなどを安定的に収穫している
ようです。

行政も積極的に「スマート農業」に取り組んでいま
す。ロボット農機による自動走行システム、収穫作
業のロボット化、ビックデータを活用したきめ細か
い栽培管理、AIの活用などですが、細部について
はのちほど詳しく触れることにしましょう。

さて、ほとんどの先進国は、食料をすべて輸入に頼
る危険を避けるために自国の農業を保護しているの
が現状です。我が国においても、農家に対する補助
金が農家の所得を下支えしてきたという歴史があり
ます。最近は生産性を高める補助金や各種交付金が
増加傾向にあるようですが、補助金等が行き渡るこ
とを重視するあまり、有効に活用されていないので
はないかとの指摘もあります。

農産物は絶えず需給の波に左右されるという性質が
あります。生産性を上げることが価格破壊につなが
り、自分の首を苦しめる結果につながる場合もあり
ます。その結果、生産性の低い農家や価格競争から
脱落した農家が淘汰されて離農し、農業従事者が減
少するという現象も発生しました。前にも触れまし
たが、その端的な例こそ、稲作の奨励⇒過剰生産⇒
減反政策⇒農家の崩壊でした。このような現象は、
今後も発生する可能性があるでしょう。

そこに、農業政策の難しさがある一方、農業自体が
さらなる「構造改革」を推進する必要があるとの指
摘もあります。農業問題解決の“核心”はどうもそ
のあたりにありそうです。次回、農業政策の具体的
例として「荒廃農地」の解消策について触れた後に、
別な話題に進みます。


(つづく)


(むなかた・ひさお)



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 【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学
校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロ
ラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第
8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高
射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、
陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、
陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て
、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊
急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業
開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自
衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会
世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防
史』(並木書房)




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