配信日時 2022/04/18 20:00

【我が国の未来を見通す(22)】「農業・食料問題」(4) 我が国の食料事情   宗像久男(元陸将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
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WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは、エンリケです。

「我が国の未来を見通す」第22回です。

「農業・食料問題」の4回目です。

冒頭文のウクライナ情勢判断。
今回も実に読み応えあります。

宗像さんをはじめ、弊メルマガの執筆者各位に
よるウクライナ情勢分析は、おそらくいまの
わが国で最も優れたものといえましょう。

私もあなたも幸せものです。


さて本文は

新規就農者にかかわる課題、若者の農業離れに関わる課題

です。

新規就農に関して、
「農業女子」のはなしが出ていますが、
女性に着眼するのはいいポイントと思いますね。


さっそくご覧ください。


エンリケ


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我が国の未来を見通す(22)

「農業・食料問題」(4)
我が国の食料事情


宗像久男(元陸将)

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□はじめに(またしても、ウクライナ情勢)

 前回約束しましたように、今回は、ウクライナ問
題の根本的要因となっているNATOとロシア(ソ
連)の対立について、少し触れてみることにします。

 NATOの発足は、1948年、ソ連によるベル
リン封鎖などの敵対行為に対して、西欧諸国が集団
安全保障と集団防衛の仕組みを作ったことに始まり
ます。当初は、イギリス、フランス、オランダ、ベ
ルギー、ルクセンブルクの5か国が署名し、その後、
英仏がアメリカに防衛構想を打診、1949年に
アメリカも参加し、12か国でもって署名して「北
大西洋条約機構(NATO)」が発足します。よく
「NATOはアメリカが作った」といわれますが、
それは事実と違います。

 当然、ソ連は「NATOは覇権主義を目指す同盟
だ」と大反発しますが、NATO側は、「あくまで
国連憲章が認める集団的自衛権の範囲以内で憲章違
反でない」と主張しましたので、ソ連は東欧の衛星
国と一緒になって「ワルシャワ条約機構」を結成し、
東西の冷戦構造が出来上がります。

 その後、デタント(緊張緩和)を迎え、ソ連との
共存を試みたり、フランスのNATO離脱などの紆
余曲折もありましたが、NATOは、抑止力として
の軍事力の必要性を訴え続け、安易な軍縮に走るこ
とはありませんでした。やがて、ソ連のアフガニス
タン侵攻によって、デタント時代は終了し、再び、
東西対立が再燃します。

そして、1980年代、アメリカにレーガン大統領
が登場します。レーガンは、有名なSDI構想を大
々的に展開するなど、ソ連に軍拡競争を仕掛けるこ
とによってソ連を追い込むことに成功します。その
結果、ソ連は、ペレストロイカを余儀なくされ、ワ
ルシャワ条約を解体、東欧を解放し、ソ連邦が崩壊
することによって冷戦は終焉します。

冷戦終焉後、NATOは、自由や人権尊重の価値観
に基づく組織として、その価値観を持つ国は、旧ワ
ルシャワ条約の国であっても加盟を承認します。

これに対して、ソ連の後継国を主張するロシアは、
「NATOは東方拡大しないと約束したはずだ」と
1990年にベーカー米国国務長官がゴルバチョフ
に語ったといわれる約束を引用して大反発しますが、
正式な合意として双方が署名する外交文書にはこの
内容は存在しません。北大西洋条約第10条にも
「加盟国の全員一致」の合意があれば加盟できるこ
とになっています。日本の有名なマスコミ人にもロ
シア側に立って堂々と論陣を張る人がおりますが、
それは誤解でしょう。

しかし、もっと根本的な問題は、冷戦終焉後のNA
TOのリーダーたちが、当時のベストセラー『歴史
の終わり』の著者フランシス・フクヤマの「人間の
政治の最終形として西欧自由・民主主義が普遍化し
ていくのを目の当たりにしている」との考えに代表
されるように、冷戦の勝利に酔いしれていたことで
す(当時、私は「甘いな」という印象を持ったこと
を今でもよく覚えています)。

その結果、ロシアという国(民族)は、本来、“自
分たちの勢力圏でしか国際政治を考えない”覇権を
目指す国家であり、自由や人権をめぐる価値観や法
治主義のような概念を理解することが不可能な国家
であること、そして相手側よりはるかに上回る「力」
をもたないと落ち着かない“過剰防衛意識”を保有
して国家であることなど、冷戦が終焉したといても、
民族の“血”の方が政治体制やイデオロギーなどよ
りはるかに優先するロシア(人)の本質を見抜けな
かったのです。

そして、勢いのままのNATOの東方拡大は、上記
のようなロシアの猜疑心をより強め、いつか再び暴
発する可能性があることまでは思いが至らなかった
のでした。そこに、ソ連邦時代にKGBで勤務し、
冷戦で敗退したことを人一倍屈辱に感じ、なおかつ
人の数倍も猜疑心の強いプーチン大統領が誕生しま
す。

プーチンは、NATOの拡大は百歩譲っても東欧諸
国やバルト3国までで、ロシア帝国以来の固有のテ
レトリー(兄弟国と明言)であり、地政学的にもN
ATOとの緩衝地帯の地位にあるベラルーシやウク
ライナを手放すはずがありません。

ましてウクライナは、ロシアの伝統的な国策である
「南下政策」の入り口に所在し、その南端のクリミ
ヤ半島は血にまみれた戦いの歴史を何度も繰り返し
てきました。ロシアの不法占領は、その延長にあり、
まさに「核心的利益」というべき地域でしょう。

2008年、ウクライナはNATOの加盟申請を行
ないましたが、ドイツやフランスの反対で実現しま
せんでした。「ミンスク合意」(2014年)の生
みの親といわれるメルケルは、かつてヒトラーが蹂
躙したウクライナの地政学やロシアの意図を理解し
ていたというべきでしょう。

個人的には、改めて、「抑止力」という概念が内在
する限界のようなものに思いが至ります。「抑止力」
が過剰に効きすぎると対象国の警戒感や猜疑心が異
常に拡大し、抑止の“効き目”を失ってしまうとい
う“現実”を私たちは今回、知ることとなりました。
相手側の立場も考えた“ほどよいバランス”が重要
なのです。

さて、核保有国同士の対立は“チキンレース”だと
いわれます。互いに向かって突っ走る車であり、衝
突を回避するため、先に動揺した方が負けます。冷
戦終焉の立役者となったレーガンは、さまざまな手
法を用いて、「レーガンは正気でない」ことをソ連
に思い込ませることに成功しました。

今回、プーチンはこのレーガンの手法を学んだので
しょう。侵攻前から巧みな「ハイブリット戦」を展
開し(前回紹介)、「プーチンは正気でない」こと
をバイデン大統領はじめ、NATO諸国のリーダー
たちに思い込ませることに成功しました。

巷で「もしトランプ大統領だったとウクライナ侵攻
は起こらなかった」とよく話題になりますが、トラ
ンプとプーチンは、何か“常人には理解できない感
覚の保有者”として共通点がありますし、その“交
渉術”の巧みさもあって、「事前に何らかの手を打
ったのではないか」とどうしても考えてしまうのは
私だけではないと思います。いつの時代も「国のリ
ーダーの良し悪しで国家の命運は決まる」というこ
とを歴史は何度も教えているのですが、残念です。

最終決着までにはまだまだ予想もできない紆余曲折
がたくさんあることでしょうが、このたびのウクラ
イナ侵攻を「対岸の火事」として我が国が学ぶこと、
活かすことはたくさんありますし、我が国もロシ
アの隣国であり、歴史的には2度(ノモンハン事件
を加えれば3度)の戦争を経験しています。ウクラ
イナ戦争に対する我が国の専門家や政治家などの「
反応」については、(寂しさが増すばかりですが)
次回取り上げましょう。今回も「はじめに」が長く
なりました。

▼我が国の食料安全保障政策の概要

今回のテーマは「農業従事者の最新状況」ですが、
前回、先送りした「我が国の食料安全保障政策の概
要」について、まず触れておきましょう。

長い間、私も「食料安全保障政策」は農林水産省の
所管と思っていましたが、外務省も重要な一翼を担
っています。当然ですが、その役割分担は、農水省
が総合的な食料の安定供給の確保・向上政策を、外
務省が世界の情勢の変化に重点を置き、我が国の食
料安全保障のために国際社会の取り組みなどを重点
に行なっているようです。

 農水省の食料安全保障政策は、「平時からの安定
供給の確保・向上」と「不測事態の対応」から成り
立っています。

「平時からの安定供給の確保・向上」のために、さ
らに3本柱を掲げていますが、その第1「国内の農
業生産の拡大」を推進するために、「目標自給率」
を明示しています。その細部は、基準年度を平成3
0年度、目標年度を令和12年度と指定して、カロ
リーベースでは37%から45%に、生産額ベース
では66%から75%にそれぞれの目標を設定し、
そのために必要な施策を推進しています。

第2「安定期な輸入」を推進するために、輸入相手
国との良好な関係の維持・強化や関係情報の収集、
船舶の大型化に対応した流通基盤の強化などを通じ
て輸入の安定化や多角化を図ることを方針に関連施
策を実施中です。

そして、第3に「備蓄の活用」を掲げ、たとえば、
米については政府備蓄米を100万トン程度、小麦
については外国産食料用小麦を2.3か月分、飼料
穀物については、トウモロコシなど100万トン程
度の民間備蓄を推進していることに加え、家庭内備
蓄として最低でも3日分、できれば1週間分程度の
食料品の備蓄を奨励しています。

大きな柱の2番目「不測事態の対応」については、
「凶作や輸入の途絶等の不測の要因により国内にお
ける需給が相当の期間著しくひっ迫し、またはひっ
迫する恐れがある場合の対応」を規定しています。

そのための「緊急事態食料安全保障指針」としては、
緊急時のレベルの類型と対策の概要、体制整備、各
レベルの具体的対策を詳細に規定しています。(細
部は省略しますが、ご興味のある方は農水省のホー
ムページなどをご参照下さい)。

また、外務省は、世界の食料安全保障の現状から、
食料不安を引き出す要因として次の7つを挙げてい
ます。つまり、(1)「世界人口の増加に伴う食料需要
増大」、(2)「新興国の経済発展による食生活の変化」、
(3)「バイオ燃料向け需要の増加」、(4)「政情不安
による紛争の勃発、長期化」、(5)「気候変動、異常
気象の頻発」、(6)「越境性の病害虫・疫病の蔓延」、
(7)「新型コロナウイルスのような新たな感染症」
「グローバルな食料サプライチェーンの脆弱性」で
す。

これらに対処するために、国際社会とともに「SD
Gs」の推進の必要性を訴えつつ、「食料安全保障
のための国際社会の取り組み」として、(1)持続可能
な食料システムの構築の促進、(2)安定的な農業市場・
貿易システムの形成、(3)脆弱な人々に対する支援・
セーフティネット、(4)気候変動や自然災害などの
緊急事態に備えた体制づくりなどを掲げています。

両省とも、いかにも官僚らしい体裁の政策を掲げ、
素人には理解しがたい表現もありますが、これらの
食料安全保障政策がどれほど功を奏し、また今後と
も有効か否かについては不明です。

特に、「安定期な輸入」が今後も引き続き維持され
るか、あるいは、「目標自給率45%」(令和12
年度)が達成可能かどうかなどについては、現時点
では全く不明です。しかし、すでに取り上げたよう
に、ウクライナ情勢など国際情勢の激変や農業従事
者が年々減少する現状から厳しさが増すばかりで、
それぞれの目標が“絵に描いた餅”に終わらないよ
う祈るばかりです。

▼「新規就農者」の内訳

 さて本題です。農業従事者が年々減る一方、高齢
化が進み、今後ますます減るだろうということにつ
いては触れましたが、もう少し細部ついて現状を見
てみたいと思います。

 まず「新規就農者」については、令和元年には5
万6千人を数えますが、毎年5万人から6万人ぐら
いで推移しています。その内訳は3形態に区分され
ます。まず「新規自営農業就農者」(自営農業のみ
に従事、または主に自営農業に従事するようになっ
た人)です。実家を継いで新たに農業を始める人が
これに該当しますが、小規模な個人経営の農家は離
農するケースが増えているため、今後も減少が予想
されます。令和元年には4万3千人を数えましたが、
49歳以下は9.2千人しかおりません。

次に、「新規雇用従事者」(法人等の従業員として、
年間7か月以上農業に従事している人)で、農業
法人に就職する人がこれに該当します。個人経営の
農家が法人化したり、一般の企業が農業参入したり
と、農業経営体全体は減少するなか、農業法人数は
増加しています。それに伴い、雇用就農者の数は増
加しており、今後もその需要が見込まれます。令和
元年には9.9千人、49歳以下は7.1千人です。

 最後に、「新規参入者」(独自に土地・資金等を
調達し、責任者として新たに農業経営を開始した人)
です。新規自営農業就農者のように家業を継ぐの
ではなく、農業で起業する人がこれに当たります。
令和元年には3.2千人おり、49歳以下が2.3
千人でした。

「新規就農者」にはもうひとつ大きな問題がありま
す。せっかく農業を目指してもその約35%が離農
することです。なかなか定着しないのです。このよ
うな現実から、2019年3月22日、総務省行政
評価局から、「農業労働力の確保に関する行政評価・
監視─新規就農の促進対策を中心として─」とし
て農水省に次のような改善勧告がありました。

(1)新規参入希望者への農業機械の取扱いや農業経営
に関する研修も含めた研修内容の充実、(2)普及及び
指導センターが新規参入者に重点的な指導等を行う
よう必要な助言等の実施、(3)新規雇用就農者の離農
理由の的確な把握及び関係者への情報提供、などで
す。これらを受け、農水省は勧告に沿った対応を検
討したいと応じていました。


これらもあって、高齢化に伴う農業従事者の減少傾
向は喫緊の課題との認識がある農水省は、「地域の
活力創造プラン」と題した施策を用意し、2023
年までに「40歳代以下の農業従事者を40万人に
引き上げる」目標を掲げ、農業に足を踏み入れよう
とする人々への必要な技術習得の研修や、経営の不
安定な新規就農者への補助金などによる支援などの
対策を講じることを明示しています。

特に、研修中の2年間に150万円支援する「農業
次世代人材投資事業」、就農する青年を支援するた
めに5年間で150万円支援する「青年等就農計画
制度」のほか、農機具や施設の導入に際して無利子
で支援する経営開始型の施策もあります。

農業は、特に最初の数年は利益が上がらないことが
少なくありません。資金援助をしてもらえる期間内
に農業や経営に関するノウハウを身につけて事業を
軌道に乗せることが就農成功の近道なのですが、そ
の前に離農してしまう若者が後を絶たないのが現状
のようです。

▼若者の農業離れの要因

「あぐりナビ」という日本最大級の農業求人数の情
報量を誇る求人サイトが「深刻な若者の農業離れ」
の現状から、全国の男女(年齢不問)100人にア
ンケート調査しました。

 まず、「仕事として農業をやりたいと思うか」の
問いに対して、74人が「思わない」と答え、「思
う」と答えたのは26人のみでした。その理由は、
「1年365日、休みがない」「天候に左右される」
「安定した収入の確保ができるか心配」「親など
が専業農家で苦労している姿を見てきた」などに加
え、新規就農へのハードル、つまり初期費用なども
その理由になっているようです。

 たしかに、農業と他産業の1日当たりの所得を比
較しますと、製造業が1万6千円に対して、農業は
その約3分の1の5930円(平成26年調査)に
とどまっていますので、収入の安定確保は大事な要
素に違いありません。

一方、「仕事として農業をやりたいと思う」の理由
として、「自然の中で、やりがいを感じることがで
きる」「テレビで知ったり、知人などをみてかっこ
いいと思った」「実家が農家」「家庭菜園などの経
験から興味を持った」などが挙げられています。

これらを子細に分析すると、若者が農業を目指すこ
とを躊躇する障害となっている要因を取り除き、若
者を惹きつける農業の魅力化をさらに推進するなど、
農業従事者離れを食い止めるためにヒントが隠さ
れていると考えますが、詳しくはのちほど取り上げ
ることにします。

現在、農水省が推奨し、一定の効果を上げている施
策として「農業女子プロジェクト」があります。こ
れについては、次回、取り上げましょう。



(つづく)


(むなかた・ひさお)



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 【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学
校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロ
ラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第
8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高
射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、
陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、
陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て
、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊
急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業
開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自
衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会
世話人。著書『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防
史』(並木書房)




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おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)

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