配信日時 2022/04/04 20:00

【我が国の未来を見通す(20)】「農業・食料問題」(2) 我が国の農業・食料問題を取り巻く環境     宗像久男(元陸将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
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こんにちは、エンリケです。

「我が国の未来を見通す」第20回です。

「農業・食料問題」の2回目です。

わが農業が抱える問題は、すべての危機と連関している
ようですね。

わが古典を学ぶと、わが民族の核に「水田、稲作」
があるのは明白です。
カネ勘定より水田や稲作を大切にし、ご先祖から受
け継いだ「わが国の核」を永遠に後世に伝えてゆき
たいものです。

冒頭のウクライナ戦争に関する一文も必読です。
衝撃の事実が紹介されています。

一人でも多くの日本国民に、ウクライナの姿は明日
の我が国、という危機感を強く持ってほしいです。

あれが世界、国際社会の現実です。

さっそくどうぞ


エンリケ


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我が国の未来を見通す(20)

「農業・食料問題」(2)
我が国の農業・食料問題を取り巻く環境


宗像久男(元陸将)

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□はじめに

 やはり冒頭にウクライナ問題に触れておきましょ
う。ロシアの作戦は当初の予定からかなり狂ったこ
とは間違いないようで、作戦目的を「ドンバスの完
全解放」と限定、ついには、「停戦」に至る具体的
な詰めの段階まで歩み寄ってきたようです。

一方、真相は不明ですが、核兵器搭載の戦闘機がス
ウェーデンを領空侵犯したとの報道も流れたり、首
都キーウ(キエフ)陥落をもくろんでいたロシア軍
が撤退し始めた意図は、単に首都陥落を諦めたのか、
あるいは化学・生物兵器、さらには戦術核兵器を
使用するための“間合い”を取るためなのか、不明
なところがあります。

これらから、ウクライナ情勢は再び大きな「岐路」
を迎えていると考えられ、ウクライナや欧米諸国の
報道などに一喜一憂するだけでなく、さまざまな展
開の可能性を視野に入れつつ冷静に戦局の行く末を
見守るべきでしょう。

 これまで私は、ウクライナ側の責任、つまり「戦
争の抑止を間違えば今回のような事態になる」との
観点から何度も取り上げてきましたが、最近、私自
身の疑問が解けたこともありますので補足しましょ
う。

振り返えれば、冷戦終焉間近の1990年、ソ連が
ゴルバチョフによって自由化に踏み出した頃、ソ連
邦の構成国だったリトアニアやラトビアは「独立宣
言」しました。一方、ウクライナをはじめ、カザフ
スタン、ベラルーシなどは「主権宣言」をしました。
その理由は、最高会議の過半数を共産党が占めて
いたため、「独立宣言」の採択が不可能で、国家の
基本方針を先行するような形で「主権宣言」決めて
おくことで独立派が妥協したという事情があったよ
うです。

実は、この「主権宣言」の条文に問題があり、20
14年のクリミヤ侵略や今回の侵攻を生むことにな
った時限爆弾が潜んでいたといわれます。

その条文には「ウクライナは恒久的に中立国であり、
いかなる軍国同盟にも参加しない。ウクライナは
非核三原則を約束する」とありました。この時点で
は、「NATOに加盟する」などと言い出す雰囲気
でなかったことは明白ですが、「非核三原則」を公
表していた国は世界中で日本だけでしたので、「主
権宣言」の起案者たちが日本を倣い、盛り込んだも
のと推測されています。

日本は、敗戦の結果として「非核三原則」以外の選
択肢がなかったという事情がありましたが、このよ
うな事実を無視し、起案者たちは、将来の国家の基
本方針となる文章にわざわざ自らの意思で自国の首
を絞める条文を入れてしまったのでした。その理由
としては、(1)当時のソ連の謀略だったという説
と(2)ウクライナの“平和ボケ”の結果である、
との説がありますが、その条文が公開された時にだ
れも異論を唱えなかったのも事実のようです。

この宣言が出発点となって、ロシア、アメリカに続
き世界第3位の核保有国だったウクライナは、19
94年、米英ロと「ブダベスト覚書」に署名し、段
階的に核兵器を旧宗主国ロシアに返納した後、核施
設を破壊して核保有国の地位を完全に放棄しました。

実は、この「覚書」の内容にも問題がありました。
まず、「約束を破るために約束する」といわれるロ
シアが、「条約」よりずっと弱く、法的拘束力のな
い「覚書」を守るわけがなく、2014年、堂々と
破り、クリミヤ半島を侵略しました。

また、「覚書」には、「米英ロは、ウクライナに対
して武力威嚇及び行使を控える義務を確認する。ウ
クライナが侵略を受けた場合には国連安保理に対し
てウクライナを支援する行動を起こすことを要求す
る」程度の内容しか記載されておらず、米英のウク
ライナの防衛義務は記載されていなかったのです。
よって、今回の事態においても、米英が安保理への
働きかけと支援以外に何もしないのは、「覚書」違
反ではないのです。

私は、この内容を最近ようやく知って唖然としまし
たが、「ただ同然の覚書でウクライナは世界第3位
の核戦力を放棄した」といわれるのはまさに事実だ
ったのです。いま再び、主要11か国による新しい
安全保障の枠組みなどが取りざたされていますが、
そう簡単ではないでしょうし、仮に合意できても、
「覚書」と同じように“骨抜き”になりはしないか
と心配しております。

上記のような事情について私たちはほとんど知らな
いと思いますが、ウクライナ問題は、このような歴
史を知らないと理解できないことを改めて付記して
おきましょう。

もし仮にウクライナが現在も核戦力を(その一部で
も)保有していたら、またすでに触れたように、通
常戦力の大幅削減に「待った」をかけていたら、先
のクリミヤ侵略も今回の侵攻も起きることはなかっ
たと私は思います。

私たち日本人は、これが国際社会の「現実」である
ことをしっかり認識する必要があるのです。

私の後輩たち、防衛大学校卒業生の任官拒否が過去
2番目の72人になったとニュースが流れました。
それぞれ違う理由があるにせよ、ウクライナ人の“
爪の垢”でも飲ませたいと思いつつ、とても残念で
あり、国民の皆様に申し訳ないと思っています。国
を挙げて真剣に国防に取り組まなければならない今
だからこそ、よけいにそう思います。

▼「耕作放棄地」の弊害

さて、本題に戻りましょう。前回、「耕作放棄地」
の話題を取り上げました。またまた個人的なことで
恐縮ですが、私は福島県田村市の寒村出身というこ
とについてはすでに告白しましました。だいぶ前か
ら過疎化が進んでいた地域でしたが、福島原発に近
いこともあって東日本大震災を契機として一挙に過
疎化に拍車がかかってしまいました。

墓参りなどのためにたまに帰りますと、幼なかりし
頃の記憶にしっかり焼き付いている故郷の“原風景”
の変わり果てた無残な「耕作放棄地」(「荒廃農
地」というべきかも知れません)が目に飛び込んで
きます。そのような風景を見るたびに、時の流れを
感じつつもある種の寂しさを感じざるを得ません。

 実家は、かつては2町歩(20反)ほどの稲作を
営む、地域にしては大農家でしたが、「減反政策」
の結果、大規模な稲作を諦め、酪農やドジョウの養
殖で生計を立ててきました。すでに隠居暮らしをし
ている兄は、「政治家と官僚の愚策(「減反政策」
を指します)によって50年も前に農家はつぶされ
た」とぼやきますが、かつては20軒ほどあった稲
作農家は今では2軒のみとなり、実家の残った田ん
ぼはその農家に貸しているようです。

読者の皆様の中の地方出身の方は、これほど極端で
はなくとも、故郷の変わり果てた風景に感慨深い気
持ちを持った方も少なくないと思います。私は、我
が国の農業の衰退は、食糧問題に直結するだけに留
まらず、元来、「農耕民族」の日本人が持つ故郷や
農業に対する愛着心、言うなれば“アイデンティテ
ィ”まで何か別のものに変えてしまっているような
気がしてならないのです。いやすでに変わってしま
っているのかも知れません。そして、このことが日
本の未来にどのような影響を与えるかについては、
まだだれもわからないというべきでしょう。

それでは、我が国の「農業・食料問題」の解決を根
本的に考えるために、まず、「農業・食料問題」を
とりまく環境からその現状と見通し得る将来につい
て考えてみましょう。

▼環境問題と農業・食料問題

 まず、地球規模で議論されている問題からスター
トしましょう。その第1に「環境問題」です。

 「環境問題」といっても、「地球温暖化」「異常
気象」「大気汚染」「生態系異常」「酸性雨」「砂
漠化」「廃棄物問題」「自然災害の増加」「水の確
保」など、実際の問題は広範囲に渡ります。

それらの細部については、本メルマガ第3編の「気
候変動問題」で取り上げることにしますが、たとえ
ば、農業問題に直結する「里山」の存在が最近、よ
く話題になります。里山とは、原生的な自然と人間
が住む集落の中間に位置し、人間の働きかけによっ
て環境が形成・維持されてきた山と定義するのが妥
当でしょう。

里山の存在が土地の荒廃や砂漠化、つまり土砂崩壊
を防止するともに、土壌の侵食を防止します。さら
には、洪水も防止し、生物の多様性を保全するとも
いわれます。何と言っても、前述しましたように、
里山は、田畑とともに「うさぎ追いしかの山」の“
原風景”としてとても重要な要素であり、環境問題
として片づけてしまう以上に大きなインパクトがあ
ると考えます。

環境問題は、地球規模で叫ばれていますが、その実
は、里山のように身近にあることは明白で、最近の
「SDGs」の取り組みにも直結しています。その
細部については後で触れることにしましょう。

地球規模の問題のひとつに「エネルギー問題」もあ
ります。農業・食料問題とエネルギー問題は直結し
ないような気がしますが、地球環境に対して負荷の
ないエネルギー、つまり二酸化炭素を吸収して成長
しているバイオマス資源を燃料とする発電が増加傾
向にあります。

我が国においては、2020年現在、自然エネルギ
ーの割合は約20%でそのうちのバイオマス発電は
さらに約20%ですので、全体からみればわずかに
4%ほどです。一方、現在、石油消費量の額30%
をバイオ燃料に代替しようとしているアメリカは、
バイオマス資源を現在の年間4億7300万トンか
ら約11億トンに拡大可能と見積もっているといわ
れます。広大な農地を有するアメリカなればこそ可
能なバイオ資源なのですが、問題はこのトン数です。

1人の人間が1年間に食べる食料は平均約1トンと
言われますので、日本全体では年間約1億3千トン
の食料が必要なことになります。ラフな見方ですが、
アメリカは、現在の日本人の年間食料の3年半分、
将来はほぼ10年分の食料をバイオエネルギーに変
換することになります。

将来、食料の確保がますます重要になってくる我が
国にあっては、農業生産物を食料にするか、バイオ
マス資源にするか、というような問題が発生するの
は考えにくいですが、アメリカのような農業大国に
あっては、「外国への食料輸出か、自国のエネルギ
ー資源か」という判断が発生する可能性があること
でしょう。少なくとも、食料の価格に大きな影響を
与える可能性があることは覚悟すべきと考えます。

▼少子高齢化・過疎化・空き家問題

 少子高齢化問題や過疎化問題については、第1節
でたっぷり取り上げました。過疎化によって、「限
界集落」や「消滅可能性都市」の拡大と農業従事者
の高齢化・減少は直結する問題でしょう。

 すでに紹介しましたように、政府は1970年以
来、「過疎化地域自立促進特別措置法」等の「過疎
4法」を制定・実行して、さまざまな政策を実行し
てきました。岸田首相は、目玉政策の一つとして地
方の活性化を狙った「デジタル田園都市国家構想」
を掲げていますが、そのような政策が過疎化を防止
する手段になるかどうかは不明でしょう。

 過疎化と密接な関係にある「空き家」についても
触れておきましょう。我が国の居住総数は約626
0万戸といわれますが、現在その約15%に相当す
る約929万戸の空き家が存在します。その数も、
昭和の終わりの昭和64年は394万戸だったもの
が、平成10年は576万戸、平成20年は757
万戸と年々増加し、今に至っています。

 空き家も地域差があります。ただし「空き家率」
で比較すると必ずしも過疎化地域とは一致していま
せん。全国で空き家率が最も高いのは山梨県(22
%)、次いで長野県(20%)、和歌山県(18%)
と続きます。別荘も空き家とカウントされている
ことから高くなっていると考えられます。

全国的にみれば「西高東低」、つまり、西日本の方
の空き家率が高くなっており、意外に低いのが比較
的過疎化が進んでいるといわれる東北地方です。中
でも、宮城県(9%)、山形県(11%)などは全
国で空き家率が最も低くなっています。これには、
親子の同居率が高いことや“家”に対する考え方の
違い、日本海側には雪の影響で空き家はすぐに傷ん
でしまうというようなこともあるのかも知れません。

 現在、「空家等対策特別措置法」(平成26年制
定)に基づき、国も地方自治体もさまざまな空き家
対策に取り組む一方、民間企業も大手不動産が「空
家バンク」を全国的に展開するなど、積極的に取り
組んでおります。なかには、「農地付き物件」もあ
るなど、空き家は、将来の農業問題の解決に向けて
重要なインフラであると考えます。その細部はのち
に触れることにしましょう。

今回はこれくらいにして、次回、我が国の食料事情
について詳しく取り上げてみたいと思います。



(つづく)


(むなかた・ひさお)



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 【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、
陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇
宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、
北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上
幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東
北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸
将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非
常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、
セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常
勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自
衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動
きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)



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発行:
おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)

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