───────────────────
ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
合わせは以下よりお気軽にどうぞ
E-mail
hirafuji@mbr.nifty.com
WEB
http://wos.cool.coocan.jp
───────────────────
こんにちは、エンリケです。
「我が国の未来を見通す」第19回です。
きょうから「農業・食料問題」がはじまります。
個人的に私は、この問題が一番危ういと気になって
います。食料自給率が異様に低い現実に、なぜか理
解できませんが国民があまりに鈍感だからです。
「ゆでガエルのたとえ」を強く感じています。
さっそくどうぞ
エンリケ
ご意見・ご感想はコチラから
↓
https://okigunnji.com/url/7/
ブックレビューの投稿はこちらから
http://okigunnji.com/url/73/
───────────────────────
我が国の未来を見通す(19)
「農業・食料問題」(1)
なぜ今、「農業・食料問題」なのか?
宗像久男(元陸将)
───────────────────────
□はじめに
こうしている間にも、ウクライナでは無辜の民が
何百、何千と殺戮されているかと思うと、本当に気
持ちが滅入ってしまいます。
今回のウクライナ侵攻で明らかになったなかで強く
印象に残ったことは、(1)核兵器を保有している、
(2)大多数の国民が行動の「正当性」と(その事実
を知っているか否かにかかわらず)「非情さ」を共
有できる、などの条件を有する国は、その気になれ
ばプーチン同様の行動が可能だということです。
さらに、(3)拒否権を持つ国連安全保障理事会の常
任理事国であれば、安保理のような場でも、おくび
れもなく堂々と自国の行動の「正当性」を主張でき
るなど、第2次世界大戦後に創り上げた国際社会の
安全保障システムそのものが機能しないことも判明
しました。
しかし、新たなシステムを再構築したとしても、
この事態が一段落した後のロシアが仮に一時、国家
として衰退するようなことがあってもいつか蘇り、
ヘーゲルがいう「歴史に学ばない人間」が再び出現
する可能性もあることでしょうし、虎視眈々と漁夫
の利を狙っている国にあっては、今回の事案から多
くを学び、自ら意図する勝利のためのさらに巧妙な
「手の内」を考察しているでしょう。
ウクライナ側も、わずかに30年あまりの短い独
立の歴史の中にあって、その状態を永く維持するた
めに、今回のような侵攻があることを予期して、そ
れを“未然防止”するためにさまざまな知恵を働か
せ、国を挙げて国防力の強化に努めて来なかったこ
とは、歴代の大統領をはじめリーダーたち、それを
選出した国民の“落ち度”だったとどうしても考え
ざるを得ないのです。
何度も繰り返しますが、我が国が学ばなければな
らないことは、自国の防衛に失敗したウクライナと
いう国のあり様や国民の精神です。
侵攻開始から1か月あまり、ますます戦局は混迷
を深めていますが、ロシア軍の作戦が当初の予定
(見積)とかなり違ってしまったことから、それを打
開するためにより非情な手段に訴えることが懸念さ
れます。人類の歴史は、建設と破壊の繰り返しです
が、現状程度の破壊で早期に終結することをひたす
ら祈るばかりです。
さて、前回まで我が国の「少子高齢化問題」を取
り上げました。その影響がさまざまな分野でじわり
じわりと顕在化して来ることは間違いありません。
しかし、これから取り上げる「農業・食料問題」は、
さまざまな理由から危機状態がもっと早く現れる
可能性があるでしょう。これまで予測しなかったよ
うな内外情勢の変化が危機をさらに高めることも考
えられます。
たとえば、今回のウクライナ情勢によって、すで
に小麦などの穀物や原油などの価格が上昇し、世界
全体が食糧危機やインフレに突入する可能性も叫ば
れています。のちほど詳しく触れますが、食料自給
率が低く、円安が進む我が国への影響は半端じゃな
いでしょう。問題の顕在化が“眼前に迫っている”
との見方もできるのです。
江戸時代の江戸湾の防備などの国防問題について
も同じですが、深刻な状態が迫ってこないと真剣に
考えない、あるいは、考えても“まだ時間がある”
と先延ばしするのは、我が国の歴史で何度も繰り返
してきましたし、ある種の「国民性」として定着し
てきました。戦後はそれに輪をかけて、あらゆるも
のに対する「平和ボケ」が蔓延しました。
「平和ボケ」の国民によって選ばれた政治家も
「平和ボケ」になるのは致し方ないことでしょう。
それに、「国民のしもべ」たる官僚も国民の精神に
おもねるし、高級官僚はすぐ人事異動するので、
“無作為の過失”を問われることはありません。
今回、取りあげる「農業・食料問題」は、私など
門外漢が取り上げる必要がない問題です。関係者は
皆、その実情を分かっていますし、将来を憂いてい
ます。これまでもさまざまな対策を講じてきました。
その代表的な政策は、1970年代から2017年
まで約50年も継続してきた「減反政策」でした。
しかし、状況を抜本的に改善するには至らず、む
しろ事態を悪化させて今の状態になっています。そ
れは、なぜなのでしょうか。
国内外を問わず、どの分野も「目利きができる賢
者」が出現しないと衰退するのは世の常なのでしょ
う。「農業・食料問題」についても、近い将来、目
利きの鋭い賢者の出現を待望しつつ、皆様と一緒に
考えてみることにしましょう。
▼食料自給率の低さが際立つ日本──増える「耕作
放棄地」
さて読者の皆様は、我が国の食料自給率が先進国
で最も低いという事実を知っているでしょうか。一
般に自給率は、「カロリーベース」と「生産額ベー
ス」で表されますが、我が国の場合、自給率は年々
削減傾向になり、最新のデータでは、カロリーベー
スでは38%、生産額ベースでは66%といずれも
先進国で最下位です。毎日の食卓に並ぶ食料の3分
の1あまりしか自給せず、ほかは外国からの輸入に
頼っているのです。
自給率のトップはカナダ(カロリーベース255
%、生産額ベース120%)、2位がオーストラリ
ア(カロリーベース233%、生産額ベース133
%)、3位はアメリカ(カロリーベース233%、
生産額ベース90%)です。これらの国は自国で消
費する以上の食料を生産し、余剰分は輸出に回して
います。
欧州諸国では余剰が出ているフランスや自給率10
0%に近いドイツを除き、食料の一部を輸入に頼っ
ている国が多いですが、自給率が最も低いスイスで
あっても、(生産額ベースでは我が国と同じ66%
ですが)カロリーベースで52%を維持しているこ
とをみますと、我が国の自給率の低さは際立ってい
ます。
この背景は、我が国が世界で11位番目の人口の割
には、国土面積の約7割を森林が占めて農地面積は
限られており、1人当たり農地面積が3.5アール
しかないことにあります。我が国でなじみの「反(
たん)」を使うと、1反は約10アールですので、
約3.5反ということになり、坪数に直すと1反は
約300坪ですので、わずか105坪しかありませ
ん。
この面積は、オーストラリアの約400分の1、ア
メリカの約40分の1、イギリスの約8分の1と諸
外国に比べて圧倒的に小さい面積です。その意味だ
けからすれば、第1編で取り上げた「少子化」の進
展は、食料問題の緩和という点ではプラスに作用す
ることになります。
問題は、このような農地面積が限定されている我が
国にあって、「耕作放棄地」は増え続け、最新のデ
ータでは、おおむね富山県の面積に相当する約42.
3万ヘクタールに及んでいるということです。
この「耕作放棄地」とは、「以前は耕作していた土
地で、過去1年か以上作物を作付け(耕作)せず、
ここ数年の間、再び作付けする意志のない土地」と
定義されています。
ちなみに「現に耕作されておらず、耕作の放棄によ
り荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に
不可能となっている農地」と定義される「荒廃農地」
も指標として使われます。つまり、「耕作放棄地」
をそのまま放置すれば、やがて作物の栽培のために
再生不可能な「荒廃農地」になるということです。
我が国の荒廃農地は、すでに約28万ヘクタールに
及び、神奈川県の面積(24.2万ヘクタール)よ
り少し大きいくらいの面積に相当します。
このように「耕作放棄地」が年々増加する傾向にあ
りますが、それの原因や対策についてはじっくり考
えることにしましょう。
そもそも我が国の農地面積は、昭和36年頃は約6
08万ヘクタールほどありました。その5割強が田
んぼで約332万ヘクタール、残りが畑で約270
万ヘクタールでした。それが「減反政策」(これも
のちほど詳しく触れます)の推進や市街化の拡大に
よる宅地等への転用、それに「荒廃農地」が拡大す
ることによって、平成27年時点で約450万ヘク
タールに減少しました。50年余りの間に全体の4
分の1に相当する約160万ヘクタールも減少した
ことになります。
▼「農業従事者」の激減
科学技術の発展など時代の進展により、産業構造
が変わりつつあり、農業など第1次産業が減少の一
途をたどり、第2次産業、第3次産業へシフト、最
近は第4次産業革命が進展することによって、それ
ぞれの産業の従事者も様変わりしています。
農業従事者については、昭和60年頃には350
万人を数えたものが、平成31年には140万人に
減少しました。わずか35年ほどの間に200万人
あまりの減少です。背景には農業の機械化もありま
すので、昔のように一家総出で一年中、朝から晩ま
で田畑で農作業をするという時代でなくなったこと
は間違いないでしょう。
ただ、昭和60年頃の自給率は、カロリーベース
で53%ほどありましたので、当然ながら自給率の
減少と農業従事者の減少は相関関係があるというこ
とも間違いありません。
実は、問題なのは農業従事者の「内訳」にありま
す。つまり年々年若者や女性の従事者が減り、その
分、高齢化が進んでいることです。約7年前の平成
27年には基幹的農業従事者(自営農業者)は17
8万人で、そのうち65歳以上が114万人と全体
の約65%を占め、49歳以下は17.4万人で約
10%でした。それから5年後の令和2年には、全
体の従事者が136万人と約40万人減りました。
65歳以上の従事者も約19万人も減ってはいるの
ですが、農業従事者に占める割合は約70%に上昇
しました。
わすか5年の間にも高齢化率がさらに進んだわけで
すが、その後に続く60歳~64歳が14万人(1
0%)、50歳~59歳が13万人(9%)、40
歳以下が15万人(10%)、合わせても42万人
しかおらず、近い将来、高齢化した農業従事者がリ
タイアすることによって農業従事者そのものが激減
することは明白なのです。
すでに述べたように、わずかに38%の自給率し
かない食料ですが、その自給量の7割は65歳以上
の高齢者によって支えられているのが現実ですので、
近い将来、これらの高齢者がリタイアすれば、自
給率はますます減少することでしょうし、全国各地
の「耕作放棄地」も増えることでしょう。
現時点では、日本人の誰もが「明日、食べるもの
がない」などとは思わないことでしょう。しかし、
5年後、そして10年後はどうでしょうか。世界全
体を見れば、人口はやがて100億人に到達すると
見積もられます。温暖化が進み、現在の穀倉地帯の
気温が上がりすぎ、農業には適さなくなるという分
析もあります(詳しくは、第3編で取り上げます)。
ウクライナ情勢の行く末によっては、今年中にも
食料の争奪戦が始まる可能性すらあります。小麦の
輸入をロシアやウクライナに頼っていた中東諸国で
はすでにその状態にあるとのニュースも流れていま
す。
「農業・食料問題は」はこのまま放置すると「少子
高齢化」問題より先に、我が国の未来に立ちはだか
る“暗雲”となる可能性があります。「ではどうす
ればいいか」について、多くの国民が“我が事”と
して考える時が来たのではないでしょうか。
(つづく)
(むなかた・ひさお)
宗像さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
このURLからお知らせください。
↓
https://okigunnji.com/url/7/
【著者紹介】
宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、
陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇
宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、
北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上
幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東
北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸
将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非
常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、
セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常
勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自
衛官の再就職を応援する会世話人。著書『世界の動
きとつなげて学ぶ日本国防史』(並木書房)
▼きょうの記事への、あなたの感想や疑問・質問、
ご意見をここからお知らせください。
⇒
https://okigunnji.com/url/7/
ブックレビューの投稿はこちらから
http://okigunnji.com/url/73/
PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個
人情報を伏せたうえで、メルマガ誌上及びメールマ
ガジン「軍事情報」が主催運営するインターネット
上のサービス(携帯サイトを含む)で紹介させて頂
くことがございます。あらかじめご了承ください。
PPS
投稿文の著作権は各投稿者に帰属します。
その他すべての文章・記事の著作権はメールマガジ
ン「軍事情報」発行人に帰属します。
最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝し
ています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感
謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、
心から感謝しています。ありがとうございました。
●配信停止はこちらから
https://1lejend.com/d.php?t=test&m=example%40example.com
----------------------------------------------
発行:
おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
メルマガバックナンバーはこちら
http://okigunnji.com/url/105/
メインサイト
https://okigunnji.com/
問い合わせはこちら
https://okigunnji.com/url/7/
---------------------------------------------
Copyright(c) 2000-2022 Gunjijouhou.All rights reserved