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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
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こんにちは。エンリケです。
加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が
出ました。
今回は、
分隊支援火器といえばこれ!
ミニミ/M249です。
『ミニミ軽機関銃』
クリス マクナブ (著), 床井 雅美 (監修), 加藤 喬 (翻訳)
2020/7/10 発行
https://amzn.to/3gGpNcq
※大好評発売中
武器オンチの日本人には
特におススメです。
冒頭文も本文もひとつも読み落とせない内容でした。
中でも冒頭文からは、
加藤さんの深い愛国心と
冷静沈着な軍人魂を強く覚えました。
さっそくご覧ください。
エンリケ
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加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編 Takashi Kato
プーチンの誤算(1)──ウクライナ人の愛国心を
過小評価した
加藤喬(元米陸軍大尉)
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□「複数の真理や真実」を受け入れることの大切さ
民族抗争というものは、当事者でないと理解できな
い面があります。わたしはそれを国防総省外国語学
校(DLI)の旧ユーゴ出身教授らから学びました。
1999年、DLI同僚の伝手(つて)でセルビア北東
部の田舎街ソンボルで一夏を過ごしました。
中心部を縦横に走る道はどこも石畳。道路の両端か
らしなだれかかる並木が緑のトンネルになり、涼し
げな木陰を作っています。街角ではジプシーたちの
奏でる音楽に合わせ人々が昼から踊っており、深い
木立の向こうには聳え立つ教会の尖塔が見えます。
子供のころ読んだ童話の世界に迷いこんだようでし
た。
お伽の国ソンボルから1時間ほど農耕地帯を南下
しドナウ川を越えると、クロアチアのブコバルに着
きます。案内してくれた同僚は、
「1991年のユーゴスラビア紛争で、この街にセルビ
ア人民兵組織『タイガー』が侵攻し、クロアチア住
民多数を虐殺した。その後ボズニア・ヘルツェゴビ
ナやサラエボで行なわれた民族浄化作戦の皮切りだ
った」
と説明してくれました。穏やかに流れるドナウ川
を前に聞いた「民族浄化」という言葉に絶句すると、
同僚は続けました。
「第1次世界大戦が終わり、南スラブ人の国として
ユーゴスラビア王国が建国されたとき、すでにセル
ビア人とクロアチア人の間には雌雄(しゆう)をめ
ぐる対立感情があった。第2次世界大戦では、ナチ
スドイツと同盟したクロアチアの民族主義組織『ウ
スタシャ』が多くのセルビア人に対し、ナチスです
ら目を背ける凄惨な拷問を行なったのち虐殺した。
セルビアの民族主義武装組織『チェトニック』もク
ロアチア人に蛮行を振るった。冷戦時代、ユーゴス
ラビア連邦ではチトー大統領のカリスマが重(おも)
しになり民族対立は抑えられていた。だが1980年チ
トーが亡くなると、民族間の怨念が息を吹き返した。
ブコバルの虐殺はその一つだ。昨日まで隣人同士だ
った人々が、銃や斧をとって殺し合う。おぞましい
ことだが、内戦になると人間は限りなく残虐になれ
る」
その時は黙って頷きました。しかし正直なところ
、外国人には言葉も文化も風俗習慣も同じに感じら
れるセルビア人とクロアチア人の確執と、その血で
血を洗う殺戮の歴史は今も理解することができずに
います。
不幸なことに、類似の事態はウクライナでも起こ
っているようです。2014年クリミアがロシアに併合
されると、ウクライナ東部のドンバス地方でも親露
派による分離独立運動が始まりました。この実質的
内戦では、ウクライナ民族主義を掲げる準軍事組織
と親露派の民兵集団の間で戦闘が繰り返され、2020
年までに1万3千人以上の人々が命を落としていま
す。
ウクライナ側の主な民兵組織は2つあります。ま
ず「右派セクター」。ウクライナの極右民族主義政
治団体で、第2次世界大戦中ウクライナ独立運動を
率いた民族解放指導者ステパーン・バンデーラの流
れをくんでいます。パンデーラは一時期、ナチスド
イツを支持していたことが知られています。
次に「アゾフ大隊」ですが、これはウクライナ内
務省の治安部隊から派生した準軍事組織で、部隊章
にハーケンクロイツに似たデザインを使っています。
プーチン大統領がウクライナを牛耳る「ネオナチ」
と呼ぶのは「右派セクター」と「アゾフ大隊」を
指すものと思われます。
一方、親露派住人が多く住むウクライナ東部のドン
バス地方には40近い民兵組織があり、ロシア、ギ
リシャ、ポーランド、セルビア、ハンガリー、フラ
ンス、ドイツ、イタリア、そしてアメリカなどから
義勇兵が参加しています。
双方の民兵集団は規律正しい軍隊とは言いがたく、
ロシア語を話すかウクライナ語を話すかで地域住民
を敵か味方に識別し、略奪、拉致、虐殺などを繰り
返しています。戦国時代の群雄割拠を思わせる混と
ん状態です。
そこに先月24日、20万人近いロシア正規軍が三方
から侵攻し、事態は一挙にエスカレート。日ごとに
混迷の度を深めています。今朝、新聞でキエフ近郊
の路上に横たわる4人家族の写真を見ました。
避難中、近くに着弾した迫撃砲弾の犠牲になったの
です。ネット配信ニュースには、廃墟と化したアパ
ートに立ちすくむ子供の姿がありました。カメラの
方を見る目は虚ろで、恐怖と錯乱を通り越し乖離
(かいり)状態に陥っているようです。砲撃で半壊
した病院から運び出される妊婦の姿にも心が痛みま
した(その後、この妊婦は死産で、本人も負傷がも
とで亡くなられたと報道で知りました)。戦地から
の映像を見るたび、目頭が熱くなります。
非戦闘員が辛酸をなめる現下の現状を考慮すれば、
米英はもとより、中立を国是とするスウェーデン
を含む多くの国々が武器弾薬をウクライナに提供し
たのは次善の策。米露全面戦争につながる米軍派遣
が選択肢でない以上、ウクライナ人に自衛手段を供
与するのは人道に叶ったことです。
しかし・・・あえて疑問を差しはさむなら、欧米
の武器弾薬が戦地に入り提供国の手を離れた瞬間、
どんな兵器がどれだけの数量、誰の手にわたるかは
コントロールできないことが挙げられます。
たとえば1980年代、旧ソ連によるアフガニスタン
侵攻に対し、米国はムジャヒディン勢力に携帯地対
空ミサイルを含む多額の武器援助を行ないました。
これによって大損害を受けたソ連軍が退却に追い込
まれたのは史実。しかし、米国の援助で力を得たム
ジャヒディン勢力がタリバン政権となり、アフガニ
スタンは反米テロ組織の温床と化しました。これが
2001年9月11日の同時多発テロに結びついています。
とすれば「右派セクター」や「アゾフ大隊」に渡
った武器が、この先のウクライナ内戦でロシア語を
話す住民への民族浄化作戦に使われる可能性は排除
できません。また、正義感に駆られウクライナ入り
した多くの外国人義勇兵が、反ユダヤ主義や白人優
越主義といった民兵集団の過激思想に染まり、帰国
後、母国社会でテロ活動に手を染めることもあり得
ましょう。国の舵取りを任された各国首脳には、こ
れらの可能性を見据えたうえでウクライナ支援を行
なう責務があります。
ちなみに目下、世相は「プーチン悪」「ゼレンス
キー善」に二分されています。グレコローマン文明
の大前提、つまり「世の中には唯一絶対の真理や真
実、正義がある」という潜在意識がプーチン氏とゼ
レンスキー氏を対峙させ、ひいてはロシア対米欧と
いう対立構図を産み出していると気づく人は稀です。
民族抗争をめぐる根深い怨念や入り組んだ背景は
往々にして白黒つけがたいものです。これが無視さ
れるのは、「一方が正しければ他方は誤っている」
という頭が大多数の人々にあるからです。
ちなみに、「プーチン批判を避ける著名人の社会的
排除」がアメリカで広がっていますが、こういった
検閲主義の背後にも、すべてを「真偽」「善悪」に
分ける世界観があります。
ウクライナ戦争がいかなる結末を迎えるにせよ、
対立を産む視点そのものを自覚しないと意味ある解
決策は得られません。正義感に駆られ米欧がプーチ
ン氏とロシア政府を追い詰めれば、「窮鼠猫を噛む」
の状況が現出しましょう。
柔道の黒帯であり「引き分け」を解したプーチン氏
を無謀な戦争に駆り立てたものは何か? ここを考
察できるのは「複数の真理や真実」を受け入れられ
る日本人しかありません。人類の危機を避けるため、
日本人の「懐の深さ」を活かした取り組みがいまこ
そ必要です。
▼プーチンの誤算(1)
兵器は人が生存をかけて使う道具。生き延びるため
には相手より優れた武器を持たねばなりません。兵
器開発競争が文明の黎明から今日まで途切れなく続
いているのはこのためです。よく指摘される武器の
効用に「抑止力」(deterrence)があります。
刀を抜かずとも相手を委縮させ対峙を防ぐ「鞘の内
の勝ち」の如く、敵に攻撃を思いとどまらせる圧倒
的な破壊力のことです。「平和を望むがゆえに兵器
を手放せない」。人類が陥って久しいこのジレンマ
の裏面が「抑止力」なのです。
「加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編」では、それぞ
れの武器が持つ抑止力に着目。兵器と平和の関係を
考えていくことにします。
開戦前、大方の予想では質・量ともに優勢なロシ
ア軍が一方的勝利を収めるだろうとされていました。
しかし侵攻から2週間以上たったいまも(3月11日
現在)キエフは陥落しておらず、「電撃作戦」はプ
ーチン大統領の思惑通りには進んでいません。
今回から数回「プーチンの誤算」と題し、露軍苦戦
の理由を探ります。
開戦初日の2月24日、ロシア軍はウクライナ各
地の飛行場や軍事施設にミサイル攻撃、砲撃、爆撃
を加え「制空権」を獲得したと主張しました。確か
にウクライナ空軍の有人機は大打撃を受けたかも知
れませんが、無人攻撃機は露軍の車列を縦横に攻撃
し続けています。
また、歩兵が携帯できる地対空ミサイルが露軍の
戦闘機やヘリコプターを頻繁に撃墜していることか
らみて、ロシア軍は制空権確保を待たずに侵攻を開
始する戦術上の過ちを犯したようです。
また写真や動画によると、車列を組んだロシア軍
戦車が対戦車ミサイルの餌食になっている様子がわ
かります。散開した歩兵の援護がなければ戦車は格
好の標的。ここでも初歩的な戦術エラーが窺えます。
それにもまして大きな敗因は、ウクライナ軍人の
士気の高さと一般市民の愛国心を侮ったことでしょ
う。
破竹の勢いのタリバン兵を前に戦わずして武器を
置いたアフガニスタン国軍とは対照的に、ウクライ
ナ人は軍民を問わず、優勢なロシア軍に対し徹底抗
戦の決意で臨んだのです。
ウクライナでは、21歳以上の犯歴や精神疾患のな
い人ならライフル銃や散弾銃を所持することができ、
多くの国民が銃器の取り扱いに慣れています。「志
願者には政府が軍用ライフルを提供する」ゼレンス
キー大統領呼びかけに多くの市民が応じた背景には、
このような国柄があります。
ウクライナ内務省によれば、2月末現在、2万5千
丁以上の軍用自動小銃と1千万発の弾薬、そして多
くのRPG(対戦車榴弾発射機)が民間人に供与され
ています。ロシア軍の総攻撃に備えるキエフ市では、
退役軍人による射撃訓練が行なわれているとの報道
もあります。
(本エピソードは1:50から始まります)
基本語彙(カタカナ表記は大雑把なものです)
Put up(プット アップ)抵抗する
Resistance(レジスタンス)抵抗
Underestimate(アンダーエスティメ
イト)過小評価する 見くびる
シナリオ(カウンターを2:21に合わせてくださ
い)
Ukraine’s military aided by civilians has put
up fierce resistance and it is clear that Russ
ian military planners have underestimated them.
(一般市民に支援されたウクライナ軍は激しく抵抗
している。明らかにロシアの戦略立案者らはこれを
侮っていた)
教材ビデオ:
7 ways #Putin has got Russian invasion of #Uk
raine wrong! - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=9yFFI1cVh_8&list=PLk2kWhtlkeERNmHhjjwD0qbox5r9ZGvvh&index=248
(今回のエピソードは2:47まで続きます)
英語一言アドバイス:
underestimateは under(不十分に)+ estimate
(見積もる)で「過小評価」、「見くびる」または
「侮る」と訳されます。「買いかぶる」の場合は
overestimateになります。
発音サイト:の発音
underestimateの発音 underestimate - Google Search
http://okigunnji.com/url/141/
参考サイト:
ウクライナ軍 ウクライナ軍 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E8%BB%8D
(かとう・たかし)
●著者略歴
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。
アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年
空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省
外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―あ
る“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、
『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』
『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢う
まで』『ガントリビア99─知られざる銃器と弾薬』
『M16ライフル』『AK―47ライフル』『MP5サブ
マシンガン』『ミニミ機関銃』『MP38/40
サブマシンガン(近刊)』(いずれも並木書房)
がある。
追記
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『チューズデーに逢うまで』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063326X
『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320
オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
きょうの記事への感想はこちらから
⇒
https://okigunnji.com/url/7/
ブックレビューの投稿はこちらから
http://okigunnji.com/url/73/
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専
門用語があります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日
本人が自衛隊のブリーフィングに出たとしましょう。
「我が部隊は1300時に米軍と超越交代 (passage of
lines) を行う」とか「我がほう戦車部隊は射撃後、
超信地旋回 (pivot turn) を行って離脱する」と言
われても意味が判然としないでしょう。
同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」
は "Repeat" ではなく "Say again" です。な
ぜなら前者は砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに
使う言葉だからです。
兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍
では建物の「階」は日常会話と同じく "floor"です
が、海軍では船にちなんで "deck"と呼びます。
また軍隊で 「食堂」は "mess hall"、「トイレ」
は "latrine"、「野営・キャンプする」は "to bivouac"
と表現します。
『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取
りあげ、軍事用語理解の一助になることを目指して
います。
加藤 喬
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