配信日時 2022/03/11 20:00

【加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編】ウクライナ危機──B-52爆撃機とAGM-86 巡航ミサイル   加藤喬(元米陸軍大尉)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽に
どうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が
出ました。

今回は、
分隊支援火器といえばこれ!
ミニミ/M249です。

『ミニミ軽機関銃』
クリス マクナブ (著), 床井 雅美 (監修), 加藤 喬 (翻訳)
2020/7/10 発行
https://amzn.to/3gGpNcq
※大好評発売中

武器オンチの日本人には
特におススメです。


冒頭文でのご指摘、きわめて重要と考えます。

わが核武装から目を背けて生きることができた時代
は終わりました。


さっそくご覧ください。



エンリケ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編 Takashi Kato  

ウクライナ危機──B-52爆撃機とAGM-86
巡航ミサイル

加藤喬(元米陸軍大尉)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

□ウクライナの轍を踏まないため、今こそ「核共有」
の議論を!
 
本稿執筆時の3月4日現在、ウクライナ戦争はまだ
続いています。ロシア軍の機甲部隊がキエフに近づ
きつつあるとの情報がありますが、これまでの戦況
は必ずしもクレムリンの思惑通りには進んでいない
模様です。
 
ウクライナ軍の戦力と武装市民の徹底抗戦を過小評
価していたこと、米英はもちろん武器供与に否定的
だったドイツや中立国スウェーデンまでが軍事援助
に踏み切ったこと、日本を含む世界各国が科した強
い経済制裁、そしてロシア国内での反戦運動の盛り
上がりなどが要因として挙げられています。
 
もっとも、強気のプーチン大統領と露軍首脳部は作
戦完了まで戦闘を続けるとしており、欧州最大規模
を誇るサポリージャ原子力発電所を占領したとの報
道もあります。
 
ちなみにチェルノブイリ原発事故が起きた1986年当
時、プーチン氏はKGB要員として旧東ドイツのドレ
スデンに駐留しており、国境なき放射能汚染の恐ろ
しさを体験しています。したがってサポリージャ原
発を不用意に損傷すれば、季節風に乗った放射能が
北東に運ばれロシアとベルラーシにも大きな被害が
出ることは熟知しているはず。実際「原子炉そのも
のに被害はない」との国際原子力機関による発表が
今しがたありました。
 
プーチンの狂気を示唆する欧米の報道とは裏腹に、
同原発占領は電力供給削減を狙った周到な作戦と見
ることも可能でしょう。いずれにせよ、このさき状
況がどう推移していくのかは未知数です。
 
 本戦争がどのような経緯をたどるのかの予測は軍
事と外交の専門家に任せるとして、健全な常識に照
らせば直ぐわかる教訓が2つあります。
 
 まず、通常兵器しか持たない国には核大国の侵攻
を防ぐことはできないという事実。今ひとつは、友
邦を救うために核戦争の危険を冒す国はないという
国際社会の現実です。
 
 ウクライナのゼリンスキー大統領は「ロシア軍機
による空爆を防ぐため飛行禁止空域を設定してほし
い」とたびたび要請してきましたが、バイデン米大
統領、ジョンソン英首相、そしてストルテンベルグ
北大西洋条約機構(NATO)事務総長は早くから、
「ウクライナ領土に地上部隊を派遣することも、ウ
クライナを飛行禁止空域に指定することもない」と
明言していました。
 
 ハナから武力介入を避けたのは、ロシア側が欧米
の意図を誤解または誤算しないようにとの配慮でし
た。つまり、英米およびNATO軍がウクライナ領内で
ロシア軍と直接対峙したり同国空域でロシア軍機を
撃墜したりすれば、事態は即時に制御不能に陥り第
3次世界大戦につながると恐れた訳です。ミサイル
や爆弾が降り注ぎ、戦車や空挺部隊が迫りくる状況
下のゼリンスキー氏にしてみれば「裏切られた」気
持ちだったでしょう。
 
 ウクライナの窮状から日本が学ぶべきは、米国が
提供してきた「核の傘」から一歩踏み込んだ「核共
有」(ニュークリア・シェアリング)の可能性です
。以下、広島出身の岸田首相が持つ核の忌諱(きい)
は十分承知の上で、三度(みたび)、核共有擁護の
意見を述べます。
 
 今回、核保有国である米英仏を含むNATO軍が核抑
止力を侵攻阻止のテコに使えなかった理由は、選挙
を控えた欧米首脳らが「外国を守るため、自国民に
核戦争の不安を抱かせることは国内政治上得策では
ない」と考えたからだと思います。対照的にプーチ
ン大統領は、当初から核使用の可能性を示唆してき
ました。「ウクライナがNATOに加盟すれば、母国の
目と鼻の先に核が持ち込まれる」との強い危機感、
すなわち「祖国防衛」の大義がプーチン大統領に核
カードを切らせたのです。
 
 バイデン大統領は2日、予定されていたミニット
マン3型大陸間弾道弾の発射実験を延期しました。
ロシアへの軍事的刺激を避けるためで、プーチン氏
の核カードがてきめんに効いている証左でしょう。
 
 事程左様に、核兵器は持っているだけでは「抑止
力」になりません。「いざとなれば使う」。この明
白かつぶれない決意があってはじめて敵に畏怖を与
え、軍事行動を封じることができるのです。
 
 とすれば、今回バイデン大統領が早々と行なった
非介入宣言は、将来にわたり米国の抑止力を大きく
損ねたと言わねばなりません。台湾・尖閣有事を考
えるなら、日本の安全保障にかかわる失態です。
 
「日米安保で米国は日本防衛の義務を負っている」
のは事実。しかし、核使用のハードルは政治的に極
めて高いものです。2億人の米市民と米本土防衛の
ためならいざ知らず、ただでさえ低支持率に喘ぐバ
イデン大統領が、アメリカ軍による軍事介入を厭う
有権者と共和党の反対を押し切り、太平洋の彼方の
日本を守るために核カードを切れるかとなれば分か
りません。
 
 よしんば使用の決意を固めたとしても、ウクライ
ナの戦訓から敵側が「バイデン政権は外国を守るた
めに核を撃たない」との賭けに出れば核の傘は働き
ません。
 
 この点、米国が提供する核を日本人が運用する「
ニュークリア・シェアリング」政策なら、その時々
のアメリカ内政に左右される可能性は小さくなりま
しょう。
 
核を起爆可能にする暗号コードは米国が握っており、
日本だけの判断で使うことはできません。しかし米
軍将兵ではなく、日本人が日本を守るための最後の
手段として、日本の戦闘機や潜水艦または野砲で核
を実戦投入するのですから、米大統領を煩わす良心
の呵責(かしゃく)と国内政治の駆け引きは減少し
ます。同時に、日本人自らが核を運用することは、
敵に対し「母国を守るためなら日本は核使用に踏み
切る」という強い意思表示になるのです。
 
核という刀を携えた日本は、敵をすくませる殺気を
放つ剣士。「日本に手を出せば深手を負う」との恐
怖感が、日本侵攻や核先制攻撃を思いとどまらせま
しょう。居合道の極意、刀を抜かずに戦いを防ぐ「
鞘の内の勝ち」が核共有によって可能になるのです

 
 アメリカの抑止力に疑問符が付いたにもかかわら
ず、岸田首相と同政権幹部、野党の政治家諸氏は「
非核三原則」を盾に核共有の議論すら阻んでいます。
しかし、法律でも条約でもなく、したがって拘束力
のない非核三原則を堅持し国が滅んでは本末転倒。
ウクライナの轍を踏まないためにも、核共有に関す
る議論はいま行なわれるべきです。
 
 
▼B-52爆撃機とAGM-86巡航ミサイル

兵器は人が生存をかけて使う道具。生き延びるため
には相手より優れた武器を持たねばなりません。兵
器開発競争が文明の黎明から今日まで途切れなく続
いているのはこのためです。よく指摘される武器の
効用に「抑止力」(deterrence)があります。刀を抜
かずとも相手を委縮させ対峙を防ぐ「鞘の内の勝ち」
の如く、敵に攻撃を思いとどまらせる圧倒的な破壊
力のことです。「平和を望むがゆえに兵器を手放せ
ない」。人類が陥って久しいこのジレンマの裏面が
「抑止力」なのです。
「加藤大尉の軍隊式英会話:兵器編」では、それぞ
れの武器が持つ抑止力に着目。兵器と平和の関係を
考えていくことにします。

 ロシアのウクライナ侵攻に先立つ2月10日、米ノ
ースダコタ州ミノット空軍基地所属のB-52戦略爆
撃機が4機、英空軍フェアフォード基地に着陸しま
した。NATO軍との定期演習のためですが、当時、ウ
クライナ国境に大部隊を集結させていたプーチン大
統領を念頭に置いた「示威行動」だったのは明らか
です。

 B-52 は1952年に初飛行した古い機種ですが、
1万6千キロの長大な航続距離や20トンに及ぶ搭載
量、比較的低い運用経費などが買われ近代化改修を
重ねてきました。2050年代まで現役運用される計画
ですから、なんと100年以上実戦配備される稀な軍
用機になります。

 当初は核爆弾を積んでソ連を攻撃する任務を与え
られていましたが、ベトナム戦争では大量の通常爆
弾を用いた「絨毯爆撃」を敢行。北ベトナムの主要
都市などに甚大な被害を及ぼしたのです。しかし、
対空ミサイルの進歩によって高空からの爆撃が危険
になったため、1990年の湾岸戦争ではAGM-86巡航ミ
サイルを搭載できるよう改良され、迎撃ミサイルの
射程外から攻撃することも可能になったのです。

 AGM-86巡航ミサイルは最大射程2400キロ。最大核
出力200キロトンの核弾頭(広島に投下されたリト
ルボーイは15キロトン)や重量1トン近い通常弾頭、
そして地下深く構築された掩蔽壕を破壊する貫通爆
弾を装備することができます。B-52はこれを20発搭
載可能です。

 B-52を英国に配備すればプーチン大統領を牽制で
きる、との読みは外れました。なぜか? バイデン
大統領自らが「米軍がロシア軍を相手に直接戦火を
交えることはない」と宣言したからです。最高司令
官自身が武力行使の意図をハナから否定しては、
B52やAGM-86が抑止力を発揮できなかったのは当た
り前です。「いざとなれば使う」という断固とした
意図を示さない限り、いかなる武器も単なる「物」
に過ぎません。


教材ビデオ:
 Ukraine crisis- #B52bomber lands in Britain t
o deter Putin! - YouTube

(本エピソードは3:27から始まります)

https://www.youtube.com/watch?v=zX1iyiqhkrI&list=PLk2kWhtlkeERNmHhjjwD0qbox5r9ZGvvh&index=240

基本語彙(カタカナ表記は大雑把なものです)
Subsonic(サブソニック)亜音速の
Cruise missile(クルーズミサイル)巡航ミサイル

シナリオ(カウンターを5:31に合わせてくださ
い)

The AGM-86 is a subsonic air-launched cruise m
issile having a range of 2400 kilometers or 14
90 miles depending on the variant.

(AGM-86は空中発射方式の亜音速巡航ミサイ
ル。タイプによるが航続距離は最大2400キロ/
1490マイルに達する)

This will enable B-52s to hit targets without
getting into the strike envelope of air defens
e system like the Russian S-400.

(これによってB-52爆撃機はロシア軍のS-4
00ミサイルなど防空システムの射程範囲に入るこ
となく敵目標をたたくことができるのだ)

(今回のエピソードは最後まで続きます)


英語一言アドバイス:
subsonicは sub(下位の)とsonic(音)を組み合
わせた造語で「音速以下」つまり「亜音速」を意味
します。ちなみに超音速はsupersonic。昨今よく耳
にするようになった「極超音速」はhypersonicです。

発音サイト:
subsonicの発音 How to pronounce subsonic | HowToP
ronounce.com
https://www.howtopronounce.com/subsonic

参考サイト:
AGM-86巡航ミサイル ALCM (ミサイル) - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ALCM_(%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB)

ロシア軍S-400ミサイルS-400 (ミサイル) - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/S-400_(%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB)

B52戦略爆撃機 B-52 (航空機) - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/B-52_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F)

フェアフォード英空軍基地に到着したB-52
https://i.dailymail.co.uk/1s/2022/02/10/15/54019259-10498635-image-a-7_1644505341239.jpg




(かとう・たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。
アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年
空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省
外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―あ
る“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、
『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』
『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢う
まで』『ガントリビア99─知られざる銃器と弾薬』
『M16ライフル』『AK―47ライフル』『MP5サブ
マシンガン』『ミニミ機関銃』『MP38/40
サブマシンガン(近刊)』(いずれも並木書房)
がある。
 
 
追記

『ミニミ軽機関銃』
https://amzn.to/3gGpNcq
※大好評発売中

「MP5サブマシンガン」
http://okigunnji.com/url/14/
※大人気継続中

『AK-47ライフル』
http://amzn.to/2FVniAr
※根強い人気

『M16ライフル』発売中♪
http://amzn.to/2yrzEfW

『ガントリビア99』発売中!
https://www.amazon.co.jp/dp/4890633456/
 
『アメリカンポリス400の真実!』発売中
https://www.amazon.co.jp/dp/4890633405
 
『チューズデーに逢うまで』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063326X
 
『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
ブックレビューの投稿はこちらから
http://okigunnji.com/url/73/
 
---------------------------------------
 
日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専
門用語があります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日
本人が自衛隊のブリーフィングに出たとしましょう。
「我が部隊は1300時に米軍と超越交代 (passage of
lines) を行う」とか「我がほう戦車部隊は射撃後、
超信地旋回 (pivot turn) を行って離脱する」と言
われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」
は "Repeat" ではなく "Say again" です。な
ぜなら前者は砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに
使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍
では建物の「階」は日常会話と同じく "floor"です
が、海軍では船にちなんで "deck"と呼びます。 
また軍隊で 「食堂」は "mess hall"、「トイレ」
は "latrine"、「野営・キャンプする」は "to bivouac" 
と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取
りあげ、軍事用語理解の一助になることを目指して
います。
 
加藤 喬
----------------------------------------
 
 
PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個
人情報を伏せたうえで、メルマガ誌上及びメールマ
ガジン「軍事情報」が主催運営するインターネット
上のサービス(携帯サイトを含む)で紹介させて頂
くことがございます。あらかじめご了承ください。


最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝し
ています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感
謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、
心から感謝しています。ありがとうございました。

-----------------------------------------
メールマガジン「軍事情報」
発行:おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)

■メルマガバックナンバーはこちら
http://okigunnji.com/url/105/

メインサイト:
https://okigunnji.com/

問い合わせはこちら:
https://okigunnji.com/url/7/

メールアドレス:
okirakumagmag■■gmail.com(■■を@に置
き換えてください)
------------------------------------------
 

配信停止はコチラから
https://1lejend.com/d.php?t=test&m=example%40example.com
 
----------------------------------
投稿文の著作権は各投稿者に帰属します。
その他すべての文章・記事の著作権はメー
ルマガジン「軍事情報」発行人に帰属し
ます。

Copyright (C) 2000-2022 GUNJIJOHO All rights reserved.