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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
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こんにちは、エンリケです。
「情報機関はインテリジェンスの失敗をどう克服し
てきたか」の四回目。
きょうは9.11がテーマです。
じつに学びになります。
さっそくどうぞ
エンリケ
おたよりはコチラから
↓
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rl/7/
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情報機関はインテリジェンスの失敗をどう克服して
きたか(4)
想像力の欠如──9.11テロにおけるインテリジ
ェンスの失敗
樋口敬祐(元防衛省情報本部分析部主任分析官)
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□出版のお知らせ
このたび拓殖大学の川上高司教授監修で『インテリ
ジェンス用語事典』を出版しました。執筆者は本メ
ルマガ「軍事情報」でもおなじみのインテリジェン
ス研究家の上田篤盛、名桜大学准教授の志田淳二郎
、
そしてわたくし樋口敬祐です。
本書は、防衛省で情報分析官を長く務めた筆者らが
中心となり、足かけ4年の歳月をかけ作成したわが
国初の本格的なインテリジェンスに関する事典です
。
2017年度から小学校にプログラミング教育が導
入さ
れ、すでに高校では「情報科」が必修科目となって
います。また、2025年の大学入学共通テストか
らは
「情報」が出題教科に追加されることになりました
。
しかし、日本における「情報」に関する認識はまだ
まだ低いのが実態です。その一因として日本語の「
情報」は、英語のインフォメーションとインテリジ
ェンスの訳語として使われているため、両者の意味
が混在していることにあります。
一方で、欧米の有識者の間では両者は明確に区別さ
れています。状況を正しく判断して適切な行動をす
るため、また国際情勢を理解する上では、インテリ
ジェンスの知識は欠かせません。
本書は、筆者らが初めて情報業務に関わったころは
、
ニード・トゥ・ノウ(最小限の必要な人だけ知れ
ばいい)の原則だと言われ、ひとくくりになんでも
秘密扱いされて戸惑った経験から、ニード・トゥ・
シェア(情報共有が必要)の時代になった今、初学
者にも分かりやすくインテリジェンス用語を伝えた
いとの思いから作り始めた用語集が発展したもので
す。
意見交換を重ねているうちに執筆賛同者が増え、結
果として、事典の中には、インテリジェンスの業界
用語・隠語、情報分析の手法、各国の情報機関、主
なスパイおよび事件、サイバーセキュリティ関連用
語など、インテリジェンスを理解するための基礎知
識を多数の図版をまじえて1040項目を収録する
ことができました。
当然網羅していない項目や、秘密が開示されていな
いため、説明が不足する項目、現場の認識とニュア
ンスが異なる項目など不十分な点が多数あることは
重々承知していますが、インテリジェンスや国際政
治を研究する初学者、インテリジェンスに関わる実
務者には役立つものと思っています。
『インテリジェンス用語事典』
樋口 敬祐 (著),上田 篤盛(著),志田 淳
二郎(著),川上 高司(監修)
発行日:2022/2/10
発行:並木書房
https://amzn.to/3oLyWqi
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□はじめに
2001年9月11日米中枢同時多発テロが起こりまし
た。あれから20年以上が経過し、アメリカのZ世代
の若者(1990年半ば~2010年代生まれの世代)の間
では9.11を知らない人や学校において詳しく学ば
ない人も増えてきたそうです。
そうであるならば、わが国のZ世代はなおさらそ
うでしょう。9.11テロとアフガニスタン戦争やイ
ラク戦争が関係あるとは知らない人、真珠湾攻撃に
ついても詳しく知らない人がいるのも当然でしょう
ね。
さて、2001年当時の筆者はといえば、世界貿易セ
ンターのツインタワーの一つから煙が出ているニュ
ーヨークからの中継のニュース速報を観ている最中、
もう一方の高層ビルに旅客機が突っ込む映像をリア
ルタイムで観ました。
それは、映画の宣伝だと思えるほど、現実離れし
た映像でした。マスコミでは、第二の真珠湾攻撃と
の表現が繰り返されていました。
少し考えれば、分かることですが、真珠湾攻撃は
正規の軍隊による戦争行為であり、9.11はテロリ
ストによる犯罪です。したがって両者は、全く種類
や次元の違ったものです。
しかし、アメリカの領土における敵の攻撃という
点、奇襲を受け全米が衝撃を受けたという点では確
かに似ています。では、インテリジェンスという視
点で両者を見た場合どうなのでしょうか?
前回までは、真珠湾奇襲におけるアメリカのインテ
リジェンスの失敗について考察しました。今回から
は、真珠湾における奇襲から60年後の9.11テロに
おけるインテリジェンスの失敗について考察しよう
と思います。
▼9.11同時多発テロの概要
2001年9月11日朝、19人のテロリストに次々とハ
イジャックされた民間の旅客機4機がニューヨーク
の世界貿易センター(WTC)ビル、ワシントン郊
外の国防総省などに突入し、合わせて2977人(犯人
19人除く)が犠牲となり、アメリカ史上最悪のテロ
事件になりました。
午前8時46分(現地時間)、ボストン発ロサンゼ
ルス行きアメリカン航空11便がWTCの北棟(110
階建て)に突入。続いて午前9時3分、ボストン発
ロサンゼルス行きユナイテッド航空175便が南棟に
突入しました。2機の飛行機の突入により、2つの
ビルは約1時間後相次いで倒壊しました。
午前9時37分、ワシントン発ロサンゼルス行きア
メリカン航空77便がワシントンの国防省ビルに突入
し、建物の一部が倒壊、炎上しペンタゴンの職員を
含む184名が死亡しました。
午前10時3分、ニューアーク発サンフランシスコ
行きユナイテッド航空93便がピッツバーグ近郊の林
に墜落し、乗客乗員40人が死亡しました。犯人たち
は、ホワイトハウスか連邦議会議事堂を標的にして
いたとされますが、異変に気づいた乗客らがコクピ
ットに乗り込んだため、途中で墜落したものです。
▼9.11同時多発テロの犯人
当時のブッシュ政権は、国際テロ組織アルカイダ
を率いていたオサマ・ビン・ラディン(以下ビン・
ラディン)をすぐに首謀者と断定しました。当初、
ビン・ラディンは事件への関与を否定していました
が、2004年には一転して同時多発テロ事件への関与
を公に認めるようになりました。
同時多発テロ計画の考案者は、ハリド・シェイク・
モハメドであり、1996年にこの計画をビン・ラディ
ンに提示したとされています。
1999年の初め頃までに、ビン・ラディンは、モハ
メドらが同時多発テロ計画の準備に着手することを
承認したとされています。
実行犯の中核となるのは、ドイツ(ハンブルク)
在住のモハメド・アタらの一団でした。彼らは19
99年後半、アフガニスタンのアルカイダ訓練キャ
ンプを訪問し、そこでビン・ラディンから9.11
テロの実行メンバーに抜擢されました。
彼らは高等教育を受けており、また英語が堪能で
欧米での生活に慣れていることが評価されたようで
す。
その後、アタらはアメリカで航空機の操縦を学ぶ
など着々と準備を進めていきました。計画の実行直
前には、その他の要員も次々と訪米し、総勢19名
のテロリストが4機の航空機をハイジャックして
9.11テロを実行しました。
▼アルカイダの活動と9.11テロの予兆
首謀者のビン・ラディンは、1957年、サウジアラ
ビアの富豪の家に生まれました。1980年頃、ソ連の
アフガニスタン侵攻に対して戦うイスラム原理主義
集団に加わり、ソ連軍と戦いました。
当時は、ソ連をアフガニスタンから排除する共通
目的のため、ビン・ラディンとCIAとは協力関係
にありました。
ソ連のアフガニスタンからの撤退が濃厚になると
、ビン・ラディンはその後の世界各地におけるイス
ラム教徒たちの戦いに備え、その戦士を養成するた
め、1988年アフガニスタンに戦士の訓練基地である
アルカイダ(アラビア語で基地の意味)を設立しま
した。
その後ビン・ラディンは、サウジアラビアに戻り
ますが、湾岸戦争でアメリカ軍がサウジアラビアに
駐屯したこと(聖地に異教徒を招き入れること)に
反発、両国政府を激しく非難しました。
サウジアラビア政権を非難し過ぎたため、ビン・
ラディンとサウジアラビア政府との関係は悪化し、
湾岸戦争終結後の1991年12月、ビン・ラディンはサ
ウジアラビアを追放されスーダンに逃れました。そ
こで建設業のほか、複数の事業を興して資金を獲得
し、アルカイダの資金源の一つとしました。
その後、アルカイダのメンバーの仕業とされる爆
弾テロが次々に起こりました。
1992年12月29日、スーダンのアルカイダ・キャン
プで訓練を受けた者がイエメン・アデン市の米軍人
が利用していたホテル2か所で爆弾テロを起こしま
した。
1993年2月には、のちに9.11テロ計画を立案し
たハリド・シェイク・モハメドの甥のラムジ・ユセ
フらが、アフガニスタンのアルカイダ・キャンプで
訓練を受け、WTCビルの地下駐車場で自動車爆弾
を爆発させました。6人の死者と1000人を超える負
傷者が出ました。
1996年5月、今度はスーダンから追放された
ビン・ラディンは、アフガニスタンに拠点を移し、
8月には、サウジアラビアでの米軍駐留を批判し、
米国に対するジハードを呼びかける「対米ジハード
宣言」を発出しました。その後、米国の海外施設な
どへの攻撃が加速していきました。
1998年8月7日、ケニア首都ナイロビ米大使館と
ほぼ同時にタンザニア首都ダルエスサラームの米大
使館でアルカイダのメンバーが自爆テロを実行しま
した。
2000年10月12日には、イエメン・アデン湾停泊中
の米駆逐艦コールに対しアルカイダのメンバーが海
上で自爆テロを敢行。コールは大破し航行不能とな
り、乗員56名が死傷しました。
このように、ビン・ラディンの言動の過激化、ア
ルカイダの行動を時系列的に並べてみれば、中東や
アフリカにおいて米軍や米国人に対する攻撃が増加
し、いずれ、アルカイダが米本土でさらに大規模な
攻撃を行なう意図があることは明白なように見えま
す。
しかし、これだけで、9.11のような「米本土に
おける大規模テロが予測できたはずだ」というのは、
2001年9月11日に、米本土で同時多発テロが起こっ
たことを知っている立場からの発言だと思います。
9.11の直後には、実は自分はテロを予測してい
たとか、トム・クランシーの小説(『日米開戦』
(原題:Debt of Honor))が、民間航空機による
ホワイトハウスへの突入を予測していたなどの
(噂レベルの)情報が溢れましたが、このような現
象を「後知恵バイアス」といいます。
▼アルカイダに関する大統領日々報告(PDB)
しかし、2001年になると、アルカイダのテロに関
する情報が急増しました。NSA(国家安全保障局)
はアルカイダが米本土を標的にテロ攻撃を計画に関
する通信を多く傍受するようになりました。
さらに、その他の秘密情報も入手され適宜大統領に
報告されていました。
歴代の中央情報長官(CIA長官兼務)は、毎朝
定期的に大統領に安全保障などに関する報告を行な
っています。現在は、その役割は国家情報長官(D
NI)が担っていますが、これをPDB
(President’s Daily Brief:大統領日々報告)と
いいます。
2001年の春から夏にかけてブッシュ大統領は
、PDBのブリーファーに対しアルカイダのアメリ
カに対する脅威について何回か質問していました。
その質問に答えるかのようにPBDではアルカイダ
のアメリカ国内における攻撃の可能性について述べ
ていました。
2001年1月29日~9月11日までの間、テネットC
IA長官が報告したPDBの中にはビン・ラディン
関連のものが40件以上あったとされています。
5月24日には、CSG(対テロ対策グループ)
の担当官たちは、イエメンとイタリアでの陰謀に関
するインフォメーションや、匿名電話によるカナダ
のアルカイダ組織によるアメリカ攻撃計画の情報も
入手し、それも報告されていました。
テロの脅威報告は6月、7月になるとさらに高ま
りました。6月21日、米中央軍(CENTCOM)
は、中東に駐留する米軍の防護態勢レベルを最高
度の「デルタ」に上げ、一時的に第5艦隊の艦艇は
バーレーンの港から離れ、イエメンの米大使館は閉
鎖されました。
アルカイダの計画はあったかもしれませんが、実
際には何も起こりませんでした。
6月末には「きわめて近い将来、劇的なテロ攻撃
が起きる」可能性の高いことを示すテロ脅威警告が
情報機関から発出されました。
しかし、その頃までの報告や警告はどれも海外に
おけるアメリカの権益に対する脅威についてでした。
ところが、8月6日のPDBは「ビン・ラディン
はアメリカ国内における攻撃を決意した」として、
アルカイダのアメリカ本土に対する攻撃の可能性に
ついて初めて言及したものでした。
公表されている内容の概要は次のとおりです。
●秘密の情報、外国政府からの情報およびメディア
からの報告は、すべてビン・ラディンが1997年以降、
アメリカ国内におけるテロ攻撃を実行したいと望ん
でいることを示している。
●1999年のカナダにおけるミレニアム計画は、
ビン・ラディンによるアメリカにおけるテロ攻撃実
行のための最初の重要な企ての一部だと思われる。
●アルカイダのメンバーたち(その中には複数のア
メリカ市民も含まれる)は、アメリカ国内に何年も
住んだり旅行したりしており、攻撃を支援する組織
を維持している。
●われわれには、1998年に〇〇機関(非公開)が報
告したような、ビン・ラディンが、現在逮捕されて
いるイスラム過激派を解放するため、米航空機をハ
イジャックしようとしているといったような、人騒
がせな脅威報告があるわけではない。
しかしながらFBIは、ビン・ラディンと関連があ
るとみられる捜査を、全米約70か所で行なっている
が、イスラム過激派などによるアメリカ国内での怪
しい行動パターンは、ハイジャックの攻撃準備に似
ている。
前述のアルカイダの設立からの活動に、2001年に
なってからの各種報告や警告を見れば、アルカイダ
がアメリカに対する攻撃を激化させ、執拗にアメリ
カ本土においてテロを起こそうとしている時が近づ
いているのは、明らかなように思います。
しかし、当時は誰もこれらの事象をまとめて、米
本土に対する攻撃があるという大きな絵を描くこと
はできなかったとされています。これが、事件後に、
指摘されたいわゆる「想像力の欠如」というイン
テリジェンス上の問題点です。
つまり、9.11テロを示唆する情報は多くあった
のに、インテリジェンス・コミュニティーでは、
それを結びつける「想像力」が欠けていたというコ
ミュニティー全体に対する痛烈な批判です。
では、それ以外の問題点はなかったのでしょうか?
次回は、それ以外の問題点を見てみましょう。
(つづく)
(ひぐちけいすけ(インテリジェンスを日常生活に
役立てる研究家))
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【著者紹介】
樋口敬祐(ひぐち・けいすけ)
1956年長崎県生まれ。拓殖大学大学院非常勤講師。
NPO法人外交政策センター事務局長。元防衛省情報
本部分析部主任分析官。防衛大学校卒業後、1979年
に陸上自衛隊入隊。95年統合幕僚会議事務局(第2
幕僚室)勤務以降、情報関係職に従事。陸上自衛隊
調査学校情報教官、防衛省情報本部分析部分析官な
どとして勤務。その間に拓殖大学博士前期課程修了。
修士(安全保障)。拓殖大学大学院博士後期課程修
了。博士(安全保障)。2020年定年退官。著書に
『国際政治の変容と新しい国際政治学』(共著・志
學社)、『2021年パワーポリティクスの時代』(共
著・創成社)、『インテリジェンス用語事典』(共
著・並木書房)
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(代表・エンリケ航海王子)
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