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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応
予備自衛官でもあります。お仕事の依頼など、問い
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こんにちは、エンリケです。
きょうからはじまる
「情報機関はインテリジェンスの失敗をどう克服し
てきたか」
は、元情報本部主任情報分析官・樋口敬祐さんの手
になる、
インテリジェンスの失敗はいかに克服されてきたか?
を分析して今に活かすこと
をテーマとする連載です。
具体的には、
<アメリカのインテリジェンスの失敗についての事
例研究からその失敗の原因と問題点を導き出し、ア
メリカの情報機関がいかにしてその問題点を克服し
てきたかを明らかに>
する内容となります。
<この問題点の把握と解決によりわが国のインテリ
ジェンスの発展に少しでも寄与できるのではないか
とも思っています。>
情報史から何を学ぶか?は意外にむつかしい課題で
すが、「ケーススタディ分析」は「現実に活かせる
教訓を得やすい」重要な手法と思います。
また、「なぜ失敗から学ぶか?」にかんする貴重な
指摘がなされています。これはまさに盲点でした!
経験豊富なプロが何をどう分析し、どういうエキス
を絞りだすか? これから楽しみです!
ではさっそく初回記事をご覧ください!
エンリケ
おたよりはコチラから
↓
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(新)情報機関はインテリジェンスの失敗をどう克服して
きたか(1)
真珠湾奇襲と60年後の9.11テロの比較研究
樋口敬祐(元防衛省情報本部主任分析官)
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□ご挨拶
皆様はじめまして、樋口敬祐(ひぐちけいすけ)
と申します。現在、拓殖大学大学院で非常勤講師と
して「インテリジェンス」に関する講義を行なって
います。
また、インテリジェンスを日常生活に役立てる研
究家として、セミナーなどを通じて「インテリジェ
ンス」という用語や概念を一般に普及させるべく活
動しています。
近年、インテリジェンスに関する書籍などにより、
インテリジェンスという言葉は世の中にはかなり
普及していると思っていましたが、セミナー活動な
どを通じて、あまり普及していないことが分かって
きました。
さて、私は、約41年間勤務した自衛隊を2020年に
定年退官しました。その間約25年間は、防衛省の情
報関係で勤務していました。情報関係といってもい
ろいろな業務がありますが、私はオシント(公開情
報)を丹念に読み込んで分析していく分析官業務を
長くやっていました。
その勤務の中で特に衝撃を受けたのが2001年の
9.11テロでした。なぜなら、アメリカは真珠湾攻
撃の教訓から、二度と安全保障上の奇襲を受けな
いように巨大なインテリジェンス組織を作り日々情
報活動を続けてきたからです。
初めて情報勤務についた頃は、アメリカのインテリ
ジェンス・コミュニティーは理想的な組織だとあこ
がれを持って見ていました。なにしろわが国の防衛
費を上回る予算、自衛隊の定員にほぼ匹敵する要員
をインテリジェンス・コミュニティーだけで抱えて
おり、さまざまな情報収集手段を持っているのです
から。
しかし、その世界最大規模のコミュニティーが、2
001年9月11日、米本土において、しかもアメリカを
象徴する建物に対する未曽有のテロ攻撃を許してし
まったのです。そしてそのわずか2年後には、大量
破壊兵器(WMD)の排除を大義名分として掲げて
進攻したイラクにおいて、こともあろうにその国内
でWMDを何ひとつ発見できませんでした。
イラク戦争開戦直前、テネットCIA長官が、イラ
クのWMDについて「証拠はこれだけしかないのか
?」と尋ねるブッシュ大統領に、「今ある証拠だけ
で“スラムダンク”です」と答えて開戦判断を後押
ししたにもかかわらずです。
さらに最近では、アフガニスタンからの米軍の撤退
後の状況について、2021年4月頃には、米軍が撤退
してもタリバンが現アフガニスタン政府を倒すには
1年半はかかると情報機関が見積もっていました。
しかし、米軍が本格的撤収を開始するやいなや、ア
フガン軍は逃げ出し、あっという間にタリバンが首
都カブールへ侵攻してきました。
そして、まさにベトナム戦争時のサイゴン陥落のよ
うな状況がテレビ画面に映し出されたのは皆様も記
憶に新しいと思います。
わが国が模倣することすら困難な巨大な組織をもっ
てしても、インテリジェンス上の重大な失敗を犯す
という事実に、長年自衛隊でインテリジェンスに関
わってきた私は大きなショックを受けました。
情報機関とはいったいどうあるべきなのか。理想的
なインテリジェンス・コミュニティーは存在するの
かなど、定年後自由になった立場でゆっくりとそれ
らの疑問を考えてみたいと思っていました。
アメリカは真珠湾攻撃以降どのようにしてインテリ
ジェンスの失敗を克服しようとしてきたのか、なぜ
それができなかったのかについて興味を持ち少しず
つ調べてきました。
その成果の一端を披露したいと本メルマガを書いて
みようと思いました。この問題点の把握と解決によ
りわが国のインテリジェンスの発展に少しでも寄与
できるのではないかとも思っています。皆様にお付
き合いいただければ幸いです。
▼失敗のたびに指摘されるインテリジェンスの統合
アメリカは、1941年ハワイの真珠湾において日本軍
に奇襲を受けた教訓として、二度とこのような戦略
的奇襲は受けまいと、情報機関を拡充してきました。
アメリカのインテリジェンス・コミュニティーはわ
が国の防衛費を上回る予算、自衛隊の定員にほぼ匹
敵する要員を有しています。
しかし、真珠湾奇襲から60年後の9.11テロで再び奇
襲を受け第二の真珠湾攻撃を受けたと多くの報道が
なされました。実際はそれまでにも、いくつかもの
重大なインテリジェンスの失敗がありました。そし
て、そのたびに改善策が実行されてきました。
9.11テロ、さらにその後のイラクの大量破壊兵器
(WMD)に関する冷戦後の重大なインテリジェン
スの失敗については、それぞれ調査委員会が設置さ
れ、両失敗に共通する問題点として「有益なインフ
ォメーションはあったにもかかわらず、それが共有
されず、各組織からのインテリジェンスが統合され
ていない」ことが指摘されました。
その問題を解決するため、インテリジェンスを統合
するための組織の必要性について盛んに議論がなさ
れました。強固な反対もありましたが、結果的に、
米政府は調査委員会の勧告を受け入れ、2005年4月、
インテリジェンスを統合するため、既存の情報機関
の上に国家情報長官(DNI)を新設することとな
りました。
実はこのインテリジェンスを統合する組織の必要性
は、インテリジェンスの失敗のたびに指摘されてき
たものの、FBIや軍の情報機関の強い反対に合い
なかなか設立されなかったという経緯があります。
したがって、2005年にDNIを設けたことにより、
インテリジェンスに関する長年の懸念事項が一挙に
解決したかのように見えました。
しかし、UCLA准教授のエイミー・ゼガートは、
「アメリカインテリジェンス・コミュニティーは適
応に失敗しており、9.11以降の組織改革は、まだ
まだ不十分」だとすぐに問題提起し(2005年)、
コロンビア大学教授のロバート・ジャービスは、
「インテリジェンス・コミュニティーの組織やシス
テムを変更しただけで問題を解決できるわけではな
い」(2010年)と指摘しました。
実際、その後も、2014年、ロシアのウクライナ侵攻
察知の失敗、ISIL(イスラム国)の勢力拡大も
的確に予測できませんでした。そして今回(2021年)
の米軍がアフガニスタン撤退したあとの、アフガン
情勢見通しの誤りなど、インテリジェンスの失敗は
続いています。
▼インテリジェンスの失敗(intelligence failure)
とは何か?
インテリジェンスの失敗とは、一般的にインテリジ
ェンスのプロダクトを作成する過程における1つ、
または複合的な失敗を意味します。
そのインテリジェンスとは、インテリジェンスの入
門書などにおいては、「インフォメーションを収集、
加工、統合・分析・評価・解釈した結果としてのプ
ロダクト」そして、「インフォメーションとは、観
察、報告、噂、画像及び他のソースを含むあらゆる
種類のマテリアル[データ、資料]であって、いま
だ評価・加工されていないもの」などと定義されて
います。
しかし、国家安全保障の現場で用いられているイン
テリジェンスの概念には、インテリジェンス・プロ
ダクト以外にもインテリジェンス活動やインテリジ
ェンス組織も含まれます。
したがって、本メルマガにおいては、インテリジェ
ンスとは、これらインテリジェンスの概念すべてを
含むものとし、それらに関連する失敗をインテリジ
ェンスの失敗として取り扱い考察を進めたいと思い
ます。
▼インテリジェンスの失敗と成功
ここではインテリジェンスに関連する失敗とその対
策についての研究と述べましたが、「失敗」という
概念自体にも注意が必要です。世の中においては、
失敗のほうが成功よりも注目を集めるため、失敗の
ほうが成功より多いと誤解されやすいからです。
インテリジェンスの失敗は、その傾向が特に顕著で
す。コロンビア大学国際公共政策大学院教授のリチ
ャード・ベッツは、インテリジェンスの失敗の事例
研究は多いが、現実には成功の事例のほうが多いと
しています。
インテリジェンス活動の失敗はメディアに暴露され
面白おかしく書かれやすく、公式の調査は過失の所
在を常に求めています。失敗とは対照的に、成功し
た事例は、安全保障上秘密のベールに包まれてしま
うことが多いからです。
たとえば、第二次世界大戦中に連合国軍は、日本軍
やドイツ軍の暗号解読に成功していましたが、その
成功が明らかになると直接の作戦・戦闘にも影響が
あるため、これらの事実は戦後、影響がないと考え
られる期間を経てからでなければ、明かされません
でした。
さらに、優れたインテリジェンス活動により、危機
を回避できたとすれば、その危機は顕在化しないた
め、インテリジェンスの成功はほとんど気づかれな
いことになります。人は成功よりも失敗のほうから
教訓を得やすいので、失敗は研究対象となりやすい
のです。
本メルマガでは、アメリカのインテリジェンスの失
敗についての事例研究からその失敗の原因と問題点
を導き出し、アメリカの情報機関がいかにしてその
問題点を克服してきたかを明らかにしたいと思いま
す。
先にも述べたように、2001年に9.11テロが発生した
時、「60年前の日本軍による真珠湾攻撃と同様の奇
襲を受けた」と盛んに報道され、インテリジェンス
の失敗が指摘されました。
そこでまず、日本軍による真珠湾奇襲と9・11テ
ロについて比較研究することにより、インテリジェ
ンスのどこに失敗があったのか、その原因は何だっ
たのかを考察し、その後事例研究の範囲を広げたい
と思います。
真珠湾奇襲については、戦後だけでなく第二次世界
大戦中にも調査委員会が設けられ、各種報告書が提
出されているとともに、多くの学者の研究もなされ
ています。また、9.11テロについても、2つの委員
会が設置され、2003年と04年に最終報告がなされて
います。
次回からは、それらの報告書などをもとにインテリ
ジェンスのどのような問題点が指摘されているのか
を明らかにしていきたいと思います。
(つづく)
(ひぐちけいすけ(インテリジェンスを日常生活に
役立てる研究家))
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【著者紹介】
樋口敬祐(ひぐち・けいすけ)
1956年長崎県生まれ。拓殖大学大学院非常勤講師。
NPO法人外交政策センター事務局長。元防衛省情報
本部分析部主任分析官。防衛大学校卒業後、1979年
に陸上自衛隊入隊。95年統合幕僚会議事務局(第2
幕僚室)勤務以降、情報関係職に従事。陸上自衛隊
調査学校情報教官、防衛省情報本部分析部分析官な
どとして勤務。その間に拓殖大学博士前期課程修了。
修士(安全保障)。拓殖大学大学院博士後期課程修
了。博士(安全保障)。2020年定年退官。著書に
『国際政治の変容と新しい国際政治学』(共著・志
學社)、『2021年パワーポリティクスの時代』(共
著・創成社)、『インテリジェンス用語事典』(共
著・並木書房)
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発行:
おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
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