配信日時 2021/12/28 20:00

【 武器になる「状況判断力」(最終回)】OODA(ウーダ)ループの内容  上田篤盛(インテリジェンス研究家)

こんにちは。エンリケです。

本連載『武器になる「状況判断力」』は、
今回で最終回です。

いかがでしたか?

日常生活に活かせるインテリジェンス。
連載で伝えられた内容を実践すると可能になるはず
です。

最終回の今回も、

<(OODAとPDCAは)状況に応じて併用すればよい>
<このような「隠れている前提」を無視してはなりま
せん。>

といった、地に足の着いた実に役立つアドバイスが
あります。こういうちょっとした「プロのコツ」を
わきまえているといないとでは、その後の成果に大
きな違いが生まれます。実にありがたいことです。


年末年始は過去連載を読み直すことになりそうです
ね。

では最終回、さっそくどうぞ。


上田さん、今回も素晴らしい内容の連載を長い間あ
りがとうございました!



エンリケ


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武器になる「状況判断力」(最終回)

OODA(ウーダ)ループの内容

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)

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□はじめに

前回の謎解きは、「なぜ、正月には子供にお年玉を
あげるのか?」です。お正月は新年の神様である「
年神(としがみ)様」を家に迎えて、もてなし・見
送るための行事です。そこで年神様にお供えをする
と、年神様は私たちに魂を分けてくださると考えら
れてきました。
 
その魂をもらうのは家長なので、それを家族に「御
年魂」「御年玉」として分け与えました。お供えの
餅に、神様の魂が宿るので、昔のお年玉はお餅であ
ったようですが、今ではお金になりました。
 
魂は見えないものですが、可視化しなければ、魂を
いただけたのか、家族に分け与えることができたの
かどうか分かりません。本ブログでは、直観やセン
スを可視化する、経験やスキルを言語化することを
訴えてきました。
 
連載の最終回となりましたが、なぜ筆者が軍隊式
「状況判断」を長らく語ってきたのか、その理由が今
回の解説にてご理解いただけたら、幸甚です。
 
 
1 「OODAループ」とは何か?
 
 前回は、軍隊式「状況判断」の利点・欠点を述べ、
迅速な意思決定の場面では、この意思決定法は役
に立たたないこと、その対策としてOODAが注目
されていることを述べました。
 
 今回は、OODAとはどのようなものかについて
解説します。
 
▼OODAの4つのループ
 
OODAループは、以下の4つの過程からなります。
順次解説します。
 
1)Observe(観察)
 
 観察とは現状を把握することであり、自分以外の
外部の状況や事物から生データ(インフォメーショ
ン、以下「情報」)を入手することです。まずはど
んな事象が発生しているのか、見たままの状況を洗
い出します。場合によっては、単なる状況の探知に
とどまらず、積極的に情報を収集し、処理し、評価
し、解釈し、以降のサイクルに役立てる必要があり
ます。
 
 米軍では、観察のために、指揮官が収集部隊など
に対して情報要求(CCIR)を明示します。これ
は、指揮官が行動方針を決定するための、もっとも
優先度の高い情報要求のことです。採用公算の高い
敵対勢力の行動に関する情報、敵対勢力の奇襲に関
する情報、我が部隊に乗じる敵の弱点に関する情報
など、通常10個以内に設定します。(中村好寿
『米軍式意思決定の技術』)
 
ビジネスでは、会社や上司の情報要求(戦略や戦術
を立てるために知りたいこと)、たとえば業界や顧
客のニーズ、競合他社の動向、新しい技術、社内環
境などの状況や変化に着目します。
 
情報は組織で収集する、あるいは個人で収集する、
直接現場で確認する、新聞、ニュース、文献を活用
するなど、さまざまな収集手段がありますが、ここ
では、「情報が有用なものであるか」、「情報が正
しいものか」を確認することが重要です。
 
2)Orient(方向性判断)
 
観察した情報に基づいて、行動の方向性を判断しま
す。方向性判断はOODAの心臓部になります。こ
れは、米軍式意思決定法の見積り(行動方針の選定)
に相当します。
 
ビジネスでは観察で得た情報から、次のDecide(意
思決定)に必要な情報を見極めていくことが重要で
す。
 
ボイドは電撃戦の研究のアウトプットとして、随所
で「アジリティ(機敏性)」の概念を取り上げ、こ
の重要性を強調しています。
 
ボイドは「アジリティとは、外部の世界で起こって
いるめまぐるしい環境変化に即応して、自らの方向
性(大雑把に言えば進むべき方向性のようなもの)
を変化させる能力を意味する。」と言っています。
 
つまり、方向性判断のアジリティが我に主導権を獲
得させ、相手側にパニック、カオス、価値観・一体
感の喪失を起させることになります。
 
3)Decide(決定または仮説)
 
前段階での判断を基に、行動として具体化するため
の方策・手段を選択し、場合によって計画や命令を
策定します。
 
米軍式意思決定法では、「決定」(決心のこと)は
複数の行動方針を比較して出した幕僚の「結論」を
指揮官が承認するという意味を持ちます。
 
 つまり、幕僚が最良の行動方針として選定したも
のを、指揮官が最終的に選択します。この際、指揮
官は幕僚案を拒否する、留保する、再考させる、い
ずれも自由です。決心を意図的に遅らすことで、部
隊が行動を起こす時期を調節することも可能です。
 
スピードを重視するOODAでは、決定は必要な場
合のみ明示的に行なわれ、省略できれば省略します


集団(組織)レベルでは、意思決定を計画や命令な
どで明示的に周知させることは個人の活動に方向性
と焦点を与えます。

しかし、個人レベルでは方向性判断さえ行なえば、
大部分のことでは「何をすべきか」はわかっている
ので、決定は必要ではありません。

小集団では、方向性判断が決まれば、意思決定を明
示する必要性はありません。暗黙のコミュニケーシ
ョン(「Implicit Guaidance& Contolol、暗黙の
誘導と統制」があれば、前段階の「方向性判断」か
ら直接に行動を起こすことができます。

OODAでは「決定」と「方向性判断」との境界は
不明確であり、暗黙のコミュニケーションが不十分
な場合にのみ、「決定」が行なわれることになりま
す。

4)Act(行動または検証)

決定されたことを計画や命令を踏まえて、実際の行
動に移します。軍事作戦では、指揮官が部隊の行動
を指揮・監督します。

これは、米軍式意思決定法では言及されていない過
程です。ただし、意思決定の先に行動があるのは当
たり前です。

OODAは、作戦実行型の意思決定なので、行動が
すぐに新たな状況を生み出し、この状況を観察し、
方向性判断を行なうなどループを再開することにな
ります。
 

2、米軍式意思決定法とOODAの違い

 OODAの特色を、米軍式意思決定法との違いに
ついて整理しておきます。

第一に、米軍式意思決定法は直線的で一方向ですが、
OODAループは循環(ループ)型です。しかも、
O→O→D→Aの順番にループするのではなく、決
定あるいは実行(act)から再び観察に還ってきます。
 
第二に、米軍式意思決定法に比して、スピードとア
ジリティ(機敏性)を重視していることが特徴です。
米軍式意思決定法では、「地域」「敵」「我」の
三点から状況の把握を行ないますが、OODAでは
現場での観察から、「即時即物」的に「何をなすべ
きか」の行動の方向性判断を行ない、それをすぐに
決定へと移します。

 前述のように、暗黙のコミュニケーションによっ
て、方向性判断(上記では情勢判断)から決定をワ
ープして行動に移行することもあります。また。後
述する「直観的思考法」を重視することがスピード
とアジリティにつながっています。
 
第三に、米軍式意思決定法では「任務分析」から開
始され、これが最も重視されます。しかし、OOD
Aに任務分析はありません。つまり、「何のため
(Why)に、何(What)をなすべき」はすでに明確
になっていることが前提です。すなわち、OODA
は組織の目的や目標を確立するものには使用できま
せん。
 
第四に、米軍式意思決定法は「論理的思考法」を重
視し、OODAは「直観的思考法」を重視していま
す。米軍式意思決定法の見積り(行動方針の選定)
では、行動方針の列挙し、比較しますが、OODA
はこの段階を省略し、直観的に閃(ひらめ)いた行
動方針が妥当なものかどうかを判断することになり
ます。
 
第五に、これは上記の特質から必然的に出てくるも
のであり、またOODAが誕生した理由でもありま
すが、適用する領域が異なるという点です。

 軍隊の意思決定には「全般作戦計画型」と「作戦
実施型」の2つがありますが、米軍式意思決定法は
「全般作戦計画対応型」であり、OODAは「作戦
実施対応型」であると言えます。
 

3、陸上自衛隊ではIDAが注目

▼軍隊での全般作戦計画の意義

軍隊では通常、作戦開始前に全般作戦計画を作成し
ます。ここでは、一連の作戦における作成開始から
作戦終了までの全局面で実施すべき行動の概要が示
されます。

ところが、作戦開始前には情報を収集する時間は十
分にある一方、敵情は戦争を開始し、敵と接触して
初めて明らかになるのが通常です。

 だから、最初に立てた全般作成計画どおりに事が
進展することは皆無です。よって上級指揮官から、
任務を与えられた各指揮官は未知の敵情に遭遇して、
新たな情報と戦況の推移に応じて、直面する敵に
対する作戦(戦闘)計画を立てて、部隊を指揮運用
する必要が出てきます。
 
したがって、全般作戦計画では最終目標を達成する
方向性を定めることを主眼に、一時点の作戦実施間
の作成(戦闘)計画は骨子のみとし、ほとんどを空
白にしておきます。そして状況の進展を見つつ、最
終目標の達成に整合するように臨機に戦闘計画など
の作成や全般作戦計画の修正などを行なうことにな
ります。
 
ただし、「全般作戦計画の細部はどうせ状況に応じ
て修正や作成することになるのだからこれに時間が
かかる綿密周到な思考手順は必要がない」というの
は間違いです。
 
第二次世界大戦における米軍のパットン将軍は次の
ように述べています。

「将来の将軍たちは状況に適合するように計画をつ
くるだろうが、計画に適合するように状況を作ろう
としないだろう。それは危険なことだ」(松村『勝
つための状況判断学』)
 
つまり、全般作戦計画を立てることは、最終目標に
向けて状況を整合させる効能があります。だから、
全般作戦計画を立てるための軍隊式「状況判断」で
は、任務分析を最も重視します。状況を計画に整合
させるためには、まさに、この思考手順は理に適っ
ていると言えます。
 
しかしながら、作戦開始後には認識していた、ある
いは予期していた状況が激変することは必然です。
疲労困憊する中で、軍隊式「状況判断」の手順を順
次よく行なうことは困難です。また、一つの手順を
飛ばす、一手順の考え方を間違えることで誤った結
論が出てくることにもなりかねません。このように、
実際の作戦では、手順を追って論理的に考える軍事
式状況判断は役に立ちません。

ここに米軍がドクトリンとして採用したOODA意
義があります。
 
ようするに、米軍は作戦実施対応型のドクトリンと
してOODAを採用したのであって、軍事式「状況
判断」からOODAに乗り換えたのではありません。
全般作戦計画型の軍事式「状況判断」は依然として
有用です。

▼臨機応変の状況判断力を養成する

陸上自衛隊での戦術教育などでは、今日まで軍隊式
「状況判断」に基づく意思決定などの教育が主流で
す。
 
ただし、筆者の記憶するところでは、1991年の
湾岸戦争以後、米国のRMA(軍事革命)の影響を
受けて、「将来戦では、衛星や通信などが発達し、
敵や友軍の位置情報が瞬時にデジタル表示され、迅
速な判断と決断が要求されるであろう。だから、戦
術教育などで用いる状況判断の思考手順は役に立た
ない。実際の戦場では指揮官が独自の直観力によっ
て判断と決断を下す必要があるだろう」との議論が
高まるようになりました。
 
他方、「状況判断の思考手順を頭の中で高速回転さ
せ、状況を瞬時にイメージ化して直観的に判断する
ことが重要。直面している状況の中で、頭に浮かぶ
敵の可能行動を列挙して、それに対する行動方針を
複数考えて、その中から戦局眼を働かせて最良の行
動方針を選定することが重要」などの議論も起こり
ました。
 
しかしながら、ずっと軍隊式「状況判断」を基礎と
する戦術教育が行なわれ、実践現場では指揮官など
による直観的思考法、あるいは米軍式意思決定法の
一部だけを切り取る意思決定法が取られました。
 
これは、軍隊式状況判断の利点が認識されているこ
と、直観的思考法をマニュアルとして体系化するこ
とが困難であることの両面の理由によるものでしょ
う。

そのため、論理的思考法である軍隊式状況判断の思
考手順を基本形(幹)として習熟させることで臨機
応変の状況判断力を養成すること狙ったのだと筆者
は考えています。
 
▼陸上自衛隊で注目されるIDA

陸上自衛隊ではOODAは普及していませんが、近
年、IDA(Information、Decision、Action)の重
要が強調されています。これは、世界的なRMAの
影響と、災害派遣、国際貢献などの新たな任務への
対応という背景があります。

このあたりのところをさらに理解するために、20
11年3月に発生した東日本大震災時に統合幕僚長
であった折木良一氏が次のように書かれているので
紹介します。
 
「軍事戦略・作戦を立てるときに自衛隊がまず行う
のは、現状認識のための『情勢見積もり』です。…
…作戦レベルの見積もりは、『情報見積もり』と呼
ばれます。(中略)
『情勢見積もり』の情報とは、ただ集めればよいわ
けではありません。そうして集めた情報資料につい
て、当然ながら自衛隊は取捨選択を行っています。
自衛隊では情報資料、いわゆる生情報を処理し、論
理的、合理的な情報を提供するために『情報担当』
と呼ばれる、指揮官を補佐するスタッフが存在しま
す。『情報担当』は相手についての情報資料を収集
したうえで、最終的には、それを『目的』『現状認
識』『考えられるオプションの列挙』『考えられる
オプションの比較』『考えられるオプションの結論』
というかたちに整理し、『処理された情報』を指
揮官に報告します。(中略)
 その一方で、『自分はどうすべきか』を考えるの
は『作戦担当』と呼ばれます。『作戦担当』は、自
分たちが戦略レベルで相手に対して何をしたいのか、
あるいは作戦・戦術レベルでどのように振る舞う
かなどのオプションを指揮官に示します。さらに
『作戦担当』は自らが見積もった戦略・作戦を、
『情報担当』が見積もった成果を踏まえたうえで、
相手がどのような動きや手段に出てくるのかを分析・
比較しながら、さらに戦略を練り上げていきます。
じつはこの『情報』と『作戦』のバランスこそ、戦
略を考えるうえでは決定的に重要であることを、重
ねて強調したいと思います。(中略)
さて、こうして『情報担当』と『作戦担当』のオプ
ションが出揃ったところで、そのなかで最良のオプ
ションとは何か、ということが徹底的に議論されま
す。その議論の結果を踏まえて、最終的な意思決定
を指揮官が行うのです。(中略)
その後、そうした戦略や作戦は具体的な行動計画に
まで落とし込まれますが、そこでは指揮官はコンセ
プト(構想)を与えたうえで、現場レベルの自衛官
にまで具体的な目標を示さなければなりません。そ
してもちろん、その戦略や作戦は状況の変化や時間
の経過に伴って、必要に応じて修正されます。
最後に実行のあとにはAAR(After Action Review)
を行ない、その成果を蓄積していきます。そこでの
教訓が自衛隊や自衛隊員の経験として受け継がれ、
次の戦略立案や、アクション・プランの作成に生か
されるのです。(中略)
自衛隊の戦略立案手順を概観したとき、それがビジ
ネスの世界でいうPDCA(Plan→Do→Ch
eck→Action)に、似ていると思った方も
多いでしょう。しかし自衛隊の戦略立案手順が一般
的なPDCAと異なるのは、先ほど申し上げた『情
報見積もり』の部分です。状況が複雑でないたんな
る教育訓練ではあれば、たしかに『PDCA』サイ
クルの考え方を適用し、訓練成果を積み上げてくこ
とができます。
しかし、現実の戦いの場を想定した場合、あらゆる
状況が生起し、それが絶えず変化していきます。そ
こで重視しなければならないのは『IDA』サイク
ル、いわゆる情報(Information)、決心(Decision)、
実行(Action)サイクルだと思います。その中でも
情報は、敵、地域に関する情報ばかりではなく、自
分の部隊の状況や処理されていない情報資料を含ん
だ幅広いもので、『IDA』サイクルの流れの重要
な部分を形成し、その制度と正確度こそがサイクル
の基本となります。現代戦では、情報・決心・実行
のサイクルの速度、正確度が、敵に対して相対的に
優越することが重要になります」(折木良一『自衛
隊元最高幹部が教える経営学では学べない戦略の本
質』)
 
 折木氏は、自衛隊の業務運営はPDCAサイクル
に似ているが、異なる点は情勢見積もりを行なって
戦略・作戦を立案することにあると述べています。
そして、ここで折木氏が述べる、情勢見積もりと戦
略・作戦の立案するための思考手順が軍隊式「状況
判断」なのです。
 
PDCA最も重要なポイントは「P」の計画にあり
ます。Pで重要なことは、現状を認識して問題点や
課題を明らかにし、それに対する改善策を提示する
ことです。PDCAには隠れて見えませんが、戦略
・作戦の立案に相当するものが前提としてあります。
すなわち、米軍式「状況判断」→戦略等の立案→
P(計画)→D(実施)→C(検証)→A(行動)
として、米軍式「状況判断」が活用できるでしょう。

IDAサイクルでは、情報の正確性に加えて、速度
の要素が加わり、この両方で敵に相対的に優越する
ことが重要です。米軍が現場レベルでは軍隊式「状
況判断」の適用が困難として、OODAのドクトリ
ン化を進める中、自衛隊も当然、そのことは認識し
ていました。

 ただし、OODAの「O→観察」と「O(方向性)」
では、情報の重要性が埋もれてしまうかもしれませ
ん。「情報」の軽視によって敗北したという第二次
世界大戦の敗北の教訓が薄れてしまうことは危惧す
べきことです。
 
ようするに、IDAサイクルとは迅速な意思決定を
旨とするOODA、PDCAサイクルの利点である
実施・検証・行動のフィードバック重要性を認識し、
さらに情報の重要性を強調したものと言えます。

また、軍隊式「状況判断」の思考手順を状況や対応
時間のレベルに応じて、取り入れる柔軟な思想に立
脚していると言えます。

さらに付言すれば、軍隊式「状況判断」が最も重視
する任務分析は、IDAでは隠れた前提としてすで
に行っているのです。
 
3、OODAなどの有効活用

▼OODA等の問題点

 OODAやIDAについて、スピードや直観的思
考法ばかりが強調される傾向にあるのではないかと、
筆者は危惧しています。

最近、ビジネス現場でOODAを取り入れようとの
試みによく接します。他方、OODAの講演や研修
などに参加したビジネスパーソンに話を聞いても、
あまり「納得した。理解した」との答えは聞きませ
ん。

「ようするに、現場に権限を付与して意思決定を早
くする。直観的に状況判断する。行動により市場や
顧客のニーズを捉え、即応することですね。いうな
らば当たり前のことですよね」という答えが、ほと
んどです。
 
ここには、「組織として迅速な意思決定をするため
の組織文化をどう醸成するのか」「各個人が直観力
を養成し、それを組織に普及するためにはどうする
のか」「観察できない重要な情報はどう収集し、処
理するのか」「スピーディーな業務運営のための計
画やマニュアルの在り方は?」などの深掘りがあま
りみられていない気がします。

▼OODA等を活用するために留意すべきは

〝新し物好き〟の日本人がPDCAに変えてOOD
Aに飛びつく傾向があります。しかし、そもそもこ
の両者は適用領域も異なるのですから、状況に応じ
て併用すればよいのです。

また、PDCA、OODA、IDAにしても、平常
時において組織全体として任務の理解が共有される
組織文化を作ることや、戦略にあたる経営目的や経
営ビジョンを確立しておくことは前提として必要で
す。

このような「隠れている前提」を無視してはなりま
せん。

筆者はOODAを理解し使いこなすためには、その
前史で創設されたPDCAや軍隊式「状況判断」の
特性を理解し、その利点を応用的に活用することが
重要であると考えます。

特に、任務分析を基本に戦略を立案する軍隊式「状
況判断」の有用性や利点をOODAに融合させるこ
とが重要であると考えます。

VUCA時代の現代、OODAがもてはやされてい
る今だからこそ、思考の幹となる軍隊式「状況判断
」について理解する必要がると考えるのです。

これが、今回の連載で、筆者が最も強調したかった
点です。

また、謎解きは、少し難しいテーマであったため一
服の清涼剤という意味でおつきあい願いましたが、
平時のモヤモヤを可視化する、文字化するというこ
との重要性も含んでいました。

□おわりに

まだまだ申し足りないことは多々ありますが、枚数
が増えましたので、このくらいにしておきます。

本連載を再構築し、来年は著書という形でより鮮明
に文字化して、その趣旨がお伝えて着るよう奮起し
たいと思います!

では皆様よいお年を!


(おわり)

(うえだあつもり)


【筆者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防衛大
学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上自衛隊に
入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語学課程に入校
以降、情報関係職に従事。93年から96年にかけて在
バングラデシュ日本国大使館において警備官として
勤務し、危機管理、邦人安全対策などを担当。帰国
後、調査学校教官をへて戦略情報課程および総合情
報課程を履修。その後、防衛省情報分析官および陸
上自衛隊情報教官などとして勤務。2015年定年退官。
著書に『中国軍事用語事典(共著)』(蒼蒼社)、
『中国の軍事力 2020年の将来予測(共著)』(蒼
蒼社)、『戦略的インテリジェンス入門―分析手法
の手引き』『中国が仕掛けるインテリジェンス戦争』
『中国戦略“悪”の教科書―「兵法三十六計」で読
み解く対日工作』『情報戦と女性スパイ』『武器に
なる情報分析力』『情報分析官が見た陸軍中野学校』
(いずれも並木書房)、『未来予測入門』(講談社)。


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発行:
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