配信日時 2021/12/21 07:39

【本の紹介】『能登半島沖不審船対処の記録 P-3C哨戒機機長が見た真実と残された課題』木村康張(著)

こんにちは、エンリケです。

平成11年(1999年)3月、戦後日本初の「海上警備
行動」が発令されました。

「能登半島沖不審船事件」

今日ご紹介する本は、
この件に関する、当時のわが国の危機管理行動の一
部始終を時系列で整理したデータブック、といって
差し支えない資料性の高い本です。

兆候探知から発見、海上保安庁、海上自衛隊の対処
と海上警備行動発令から終結まで……現場にいた著
者が、すべてを明らかにした内容です。

20年以上経たいま、海上自衛隊P-3C哨戒機機長とし
て事態に対処した著者が克明な記録に基づいてまと
めた迫真のドキュメントであり、内容に信頼がおけ
るのはもちろん、抑制の取れた留保性の高い記述内
容が、資料としての価値を一層高めています。

読者想定は自衛官および意思決定者、研究者であろ
うと推察されますが、われわれ一般読者にも「きち
んとした歴史認識」を得る素材としてたぐいまれな
価値を持つ内容と感じます。

海上保安庁、海上自衛隊、そして永田町・霞ヶ関・・・。
あの時、何が出来て、何が出来なかったのでしょう
か。

そして現場には、
それぞれの立場で与えられた「使命」を果たそうと
した男たちがいました。


<中央では国土交通大臣、防衛大臣や総理大臣は
「どこまで海上保安庁(警察)で対処し、如何なる
時点から自衛隊に行動命令を発令するか」という苦
悩の「決断」を迫られ、現場に所在する平時に権限
が付与されていない自衛隊の部隊指揮官は、目前で
行われる不法行為に対して何らの対処行動をとるこ
とはできず、事態の緊迫化によっては苦悩して
「不法行為を抑制し、中止させるための手段を自ら
がとるか否か」という独断専行の「決断」を迫られ
ることとなる。>(P231)

<すべての配置における個々の責任の重さは、能登
半島沖不審船事案当時と変わらず、むしろ重くなっ
ているのではないであろうか。
二十年以上前に日本が経験した「中央」と「現場」
の苦悩は、未だ課題として残されている。>(P232)


このことばは、「自衛隊可哀そう」という感情レベ
ルで受け止めるものでは一ミリもありません。
むしろ、自衛隊や政治はきわめて窮屈な制約の中、
事態対処にあたって最高度の力を発揮していました。

問題は、この事案を通じても、必要な変化を必要な
だけ実行させていない日本の世論であり、それを醸
成する「空気」ではないでしょうか?

ここまで異常な制約下にあっても、最前線のわが自
衛隊、中央の政治は苦悩と苦闘のはざまで引き裂か
れそうにながら最高度の対処、決断を発揮していた。
そのことが、この本を読めばよく分かります。


初の海上警備行動発令を通じて
「我が国の危機管理体制」
の何が変わり何が変わっていないのか?
をこの本で明確に把握するきっかけにしてほしい。

戦後日本国民のほとんどすべてが
軍事ファンも国防を叫ぶ人たちも含め、

わが安保、わが国防、わが危機管理に
いったいなにが欠けているのか?

について、ピントのずれた勘違いをしている気がし
てなりません。

本著に書かれている内容は「過去の話」ではありま
せん。あの時の教訓からいまあなたは何を学ぶでし
ょうか?


『能登半島沖不審船対処の記録
P-3C哨戒機機長が見た真実と残された課題』
著者:木村康張
出版年月日:2021/12/10
判型・ページ数 :四六版248ページ
https://amzn.to/3p3i7Yz


◆目次

プロローグ
 1.日本人拉致と不審船
 2.緊迫する朝鮮半島情勢
第1章 兆候……発見
 1.消えた工作母船と不審電波
 2.不審船を探せ!
 3.偽りの船名
 4.不審船は北朝鮮工作船?
第2章 追 跡
 1.巡視船、四六年ぶりの警告射撃
 2.海上保安庁のみでは対応できない!
 3.早くしないと逃げられてしまう……
 4.目標が停止しました
第3章 海上警備行動の発令
 1.行くときには俺が行く!
 2.不審船に命中させてはならない
第4章 航空部隊による警告爆撃
 1.一五〇kg対潜爆弾を抱いて
 2.不審船の注意を本機に引き付ける!
 3.不審船捕獲の「漁網作戦」
 4.北朝鮮戦闘機の飛来
第5章 海上警備行動の終結
 1.虚脱と緊張の狭間で
 2.終焉へ
 3.凪いだ海
第6章 残された課題
 1.議論は国会の場へ
 2.解決された課題と残された課題
 3.再び現れた北朝鮮工作船
エピローグ
 1.緊張の海
 2.軍事機能の認められない警察機関と警察権の
認められない自衛隊
 3.多様化する任務と広域化する活動海域


今日ご紹介したのは

『能登半島沖不審船対処の記録
P-3C哨戒機機長が見た真実と残された課題』
著者:木村康張
出版年月日:2021/12/10
判型・ページ数 :四六版248ページ
https://amzn.to/3p3i7Yz


でした。


エンリケ

追伸
前家族会会長の飯塚繁雄さんの訃報に接しました。
この場を借りて改めて哀悼の誠を捧げます。

『能登半島沖不審船対処の記録
P-3C哨戒機機長が見た真実と残された課題』
著者:木村康張
出版年月日:2021/12/10
判型・ページ数 :四六版248ページ
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