配信日時 2021/12/15 09:00

【防衛省の秘蔵映像(45)】「真の信頼を得るために」 2008(平成20)年の映像紹介   荒木肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
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自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
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『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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こんにちは。エンリケです。

「防衛省の秘蔵映像」解説 第45回です。

考えさせられるところ多い記事でした。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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防衛省の秘蔵映像(45)

「真の信頼を得るために」
2008(平成20)年の映像紹介


荒木 肇
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2008(平成20)年の映像紹介
平成20年防衛省記録 - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=QsTdsgPizx8

□16大綱の下で

 大綱の決定の直後、2004(平成16)年には、
スマトラ沖大地震が起きました。海自の輸送艦「お
おすみ」の甲板上には陸自のチヌーク・ヘリコプタ
ー(大型輸送用・CH47)が固縛されて海を渡っ
てゆきました。揺れる護衛艦の飛行甲板に降着する
ことが前提の海自のヘリと比べると、陸自のヘリは
脚が弱く、苦労したと聞きました。

 このことは昔の陸海軍の航空機を比べても、まっ
たく同じでした。「制御された墜落」とも言われる
ように、海軍機の着艦は荒っぽいのです。甲板に脚
を叩きつけるように降ります。対して陸軍航空機の
脚は強度をそれほど考えなくて良かったのです。同
じエンジンを使った海軍零式戦闘機と陸軍一式戦闘
機(愛称・隼)の脚回りを見ても、その思想の違い
は歴然でした。

 インド洋津波災害には、翌年1月に国際緊急援助
活動。そうしているうちに、2月、北朝鮮外務省が
「核兵器製造」などの声明を発表します。マラッカ
海峡では日本船舶が襲撃を受けました。国民の生命・
財産は確実に脅かされそうになってきます。パキス
タンでは大地震(10月)。

 平成18年には米軍が新しい体制を発表、わが自
衛隊も統合運用体制がスタート、インドネシア・ジ
ャワ島の中部で大規模地震、これには国際緊急援助
活動で対応。北朝鮮は日本海に向けて弾道ミサイル
を7月に発射します。そうして地下核実験を行ない
ました。もちろん、わが政府は「遺憾砲」で反撃し
ます(笑)。しかし、言葉だけではどうにも仕方が
ありません。

 平成19年には防衛省に移行し、国際活動が「本
来任務化」します。中央即応集団が新編されました。
20年度の映像の中には栃木県宇都宮市で新たに、
中央即応連隊が開隊した様子が映っています。

▼不祥事が続く

 映像のタイトルには、「真の信頼を得るために」
という言葉が使われます。自衛隊がらみの不祥事が
次々と起きました。護衛艦「あたご」の千葉県房総
沖での漁船の衝突事故が大きく報道されます(2月)。
また、海自の士官によるイージス艦の機密漏洩事件
も起きました。

 ただ、こうしたことが起きようとも、国民が「け
しからん」の大合唱をしたかというと、そうでもな
かった気がします。いつもながらマスコミの世論?
を背景にした攻撃は大きく扱われがちです。自衛隊
もまた、自ら「国民の生命財産を守る立場でありな
がら」と大きな声ですぐにお詫びします。

そうした自衛隊の配慮はけっこうなことだし、素晴
らしい姿勢とも言えます。しかし、報道する側に「
自衛隊反対」というバイアスが常のようにかかって
いた過去、現在を思うと、その結果も検証されてい
かねばならないと思うのです。

今では冷静にふり返れば、「あたご」に一方的な過
失があったとは断言できないのですが、当時の報道
はとにかく海自の責任追及に懸命になっていました。
朝日新聞や信濃毎日新聞などはとにかく悪玉が自衛
官、善玉が漁師父子で、海事審判も裁判も行なわれ
る前から護衛艦にすべての責任があると世論をあお
っています。

海事審判でも双方に責任があることが指摘されまし
た。「あたご」の当直士官たちは無罪を勝ち取りま
す。誤った偏見に溢れた記事を書いた人たち、審判
官、裁判官でもないのに「自衛官に罪がある」と断
言した人たちはどう責任を取ったのでしょう。

▼自衛官の地道な活動

 東部方面隊後方支援隊の隷下、第102不発弾処
理隊が東京都内調布市にあった戦時中の不発弾(米
軍航空爆弾)を安全に無力化した映像があります。
この不発弾処理隊の人たちは陸自武器科の隊員です。
武器科は火砲、弾薬、兵器等に関する業務を主と
する隊員になります。

特別な教育・訓練を受けた爆発物処理のエキスパー
トで、わずかな危険手当を支給されるだけで命をか
けた任務に携わっています。不発弾はそれを起爆さ
せる信管が生きている場合もあり、事故があれば死
に直結する業務です。不発弾は激しい陸上戦闘があ
った沖縄県に最も多く、不発弾処理隊は大活躍して
います。

イラクに派遣された部隊といえば、陸自の復興支援
群にどうしても注目が集まりがちです。しばしば私
たちは兵站を忘れます。後方支援ですね。空自の派
遣輸送航空隊のご苦労が紹介されています。

6月の岩手・宮城内陸地震、マグニチュード7.2
という規模で、死者13人、行方不明者10名を出
した災害でした。この救援活動は陸自が主役ですが、
現場の隊員の真摯さがよく伝わります。

▼お宝だらけのトピックス

 陸・海・空3自衛隊で初の協働部隊である「指揮
通信システム隊」が発足します。これまで3自衛隊
それぞれが持っていた指揮通信のインフラを統合し
た部隊です。これで統合作戦能力が高まりました。

 先にもふれた中央即応連隊が発足します。この年
のキーワードは「即応」でした。いつでも動ける、
命令一下直ちに任務につけるというのが即応です。
大きなドーム型天幕が紹介され、その機動力も映像
に出ています。

 砕氷艦「しらせ(初代・艦番号5002)」が退
役します。南極観測船は海上保安庁の「宗谷(そう
や)」でした。この老朽化に対応して、1964
(昭和39)年度予算で、大急ぎで建造されたのが
「ふじ(5001)」です。全長は100メートル
で、ヘリコプター3機を収容する格納庫と飛行甲板
がありました。

 砕氷艦は過酷な任務につくために老朽化が激しか
ったので、1979(昭和54)年度に計画された
のが全長134メートル、排水量が1万1600ト
ンの初代「しらせ」です。艦名を聞いた時には、「
え、人名を付けるの?」と驚きました。それは私た
ちの世代は白瀬といえば、すぐに白瀬矗(しらせ・
のぶ)陸軍中尉を思い出すからです。

 白瀬中尉は南極観測に大きな貢献をされました。
欧米ではしばしば軍艦名に人名を使いますが、自衛
隊にはその伝統はないはず。驚いたのですが、南極
の地図を見ると、そこには「白瀬堆(しらせたい)」
という地名がありました。海自の担当官たちのセ
ンスの良さを思い知らされました。

 護衛艦「ひゅうが」の命名の様子が少し映ってい
ます。空母型船型の1番艦です。いよいよ空母保有
かと大騒ぎされましたが、あくまでも「ヘリ搭載護
衛艦(DDH)」です。

▼TK-XとXP-1とKC767

 とうとう陸自の10式戦車がデビューします。部
内のふつうの呼称では「10」をヒトマルと呼ぶの
で、それが正しいと思われがちですが、公文書上で
は「ジュウネンシキ」となります。その雄姿が見ら
れます。次週はそのご紹介が楽しみです。

 海自新型哨戒機のP-1の試作型が紹介されます。
4つのジェットエンジンを積んだ国産哨戒機です。
また、空自の空中給油機KC-767も登場します。



(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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