配信日時 2021/11/22 08:00

【桜林美佐の「美佐日記」(150)】「サンクコスト」の呪縛──ムダ遣いを責め立てる 風潮

おはようございます、エンリケです。

今週もどうぞよろしくお願いします!

150回目の美佐日記。

きょうの記事で、この連載は150回を迎えました。

今年最後の「切りのいい」数です。

はじめた当初は、
とてもこんな長く続くとは想像できませんでした。

読者のあなたと著者の桜林さんのおかげで、
こんなに長く続けることができています。

感謝のみです。

読者のあなた、ありがとう!
桜林さん、ありがとう!
関係者各位、ありがとう!

これからもよろしくお願いします!!


エンリケ


桜林さんの不朽の傑作
『誰も語らなかった防衛産業』の文庫版が、
潮書房光人新社から
『誰も語らなかったニッポンの防衛産業』
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ではさっそく、
本日の「美佐日記」をお楽しみください。


エンリケ

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桜林美佐の「美佐日記」(150)

「サンクコスト」の呪縛──ムダ遣いを責め立てる
風潮


桜林美佐(防衛問題研究家)

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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』、令和3年11月の今
回は150回目となります。

 私が「サンクコスト」(sunk cost)という言葉
を知ったのはごく最近のことです。これは、すで
に投資した何らかの取り組みを諦めた場合、回収
できないコストのことで「埋没費用」とも言われ
ます。

 それまでに費やした労力やお金、時間などを惜し
んで、それが今後の意思決定に影響を与えることを
「サンクコスト効果」と呼ぶそうです。

世の中の様々な失敗は、この「サンクコスト」の呪
縛によって引き起こされていることが多いのではな
いかと思う今日この頃です。

「サンクコスト」は別名「コンコルド効果」とも呼
ばれているといいます。フランスが夢の超音速旅客
機の開発を計画したのが1960年代、しかし程な
くして商業的成功は絶望視され、すぐに計画を中止
すべきでしたが、それまでにかかった費用などから
止めることができず、どんどん費用が積み上がった
という例えです。

かなり身の回りにないでしょうか、同じようなこと
が。

イージスアショアも、アフガン戦争も、先の大戦で
の様々な失敗も、色々なことがこれまでの積み上げ
をムダにできないという「サンクコスト」に縛られ
た状況が見えてきます。

しかし、問題は、それが「サンクコスト」の呪縛で
あると分かったところで、どのようにそこから抜け
出すことができるのか、ということです。

まして、莫大な国民の税金を費やしたとなったら、
また多くの命の犠牲も払ったとなれば、ムダだった
のでやめますとはとても言えるはずがありません。

非常に難しいところですが、ただ、多くの人がこの
概念を認識しているだけでも、いたずらに責任を追
及するのではなく、サンクコストは人間ならあり得
ると許容して、次の合理的な解決策に向かうことに
背中を押せるのではないか、などと考えてしまいま
す。

かくいう私など、これまでサンクコストを相当に費
やしたという自負があります。例えば、今、目の前
にある物の中でも象徴的なものがあります。ほとん
ど着ることのない某ブランドのニットカーディガン。
他のスーツよりもコートよりも高額でした。

これはある意味、特別な思い出の詰まったニットで
す。

数年前、海上自衛隊の某航空基地に講話をしに訪問
した際のことです。

その朝、羽田空港に到着し、あとは搭乗を待つばか
りという時のことでした。トイレに行って鏡の前で
うーんと伸びをしたその瞬間、びりびりっという鈍
い音に、眠かった目が一気に覚めました、なんと、
着ていたスーツが破れたのです!

ええーっ!!

よく、出張の前に何も準備していない夢とか見る私
ですが、これほどの事態は夢にさえも見たことがあ
りませんでした。

何度も鏡を見ましたが、どう工夫してもごまかせな
い破れ方・・。

この話を人にすると「羽田にはユニクロとかあるで
しょ?」などと言われるのですが、もう搭乗口に入
ってしまっているとその選択肢はないのです。

そこでまず探したのは「ソーイングセット」です。
しかし、当たり前ですが保安検査をした後にそんな
物は売っていません。

まあ、それが手に入ったところで処置できた可能性
はかなり低いのですが(家庭科の成績は10段階で
「1」=(赤点)でしたので・・)。

そこで、ゲート内に洋服屋さんがあるのか聞いてみ
ると、現在地から全く逆の端にあるといいます。さ
すがにこれには迷いました。行って帰ってきて飛行
機に間に合うのか、皆目見当がつきません。

かなり大きな賭けではありましたが、私は決断しま
した。

走る!

迷惑をおかけしましたが、とにかく走りました。キ
ャリーバックを引きながら。そして、やっとのこと
で、真逆の搭乗ゲート付近にある大手百貨店の店舗
に辿り着きます。

確かに、ここ知ってました。ゲートに入ってから服
を買う人っているんだろかと、かねがね思っていま
したが、いるんですね、そう、搭乗前にジャケット
が破けた人のための店だったのです!

もし、羽田空港が私のようなケースを想定してこの
店があるなら、空港の危機管理って本当にすごいで
す(違うでしょうけど)。

かくして無事に到着し、店内を一見すると、なんと
そこはメンズショップ。しかもこれまで買ったこと
のないような価格の物ばかりです。

とはいえ、買わないという選択肢はありませんし、
時間もないので、数万円のニットをカードで購入。
再び元の搭乗口に疾走したのでした。

途中で防衛産業の人とバッタリ遭遇するなどありま
したが(なにしろ端から端まで走ってますからね)
事情を説明する間もなく、なんとか予定の便に飛び
乗ったのでした。

あれから幾年月・・。

そのニットは常にハンガーにかけられ、そして引っ
越しの度に「これ着るの?」という話になりますが、
とても手放す気持ちになりません。

なにせ、かかった労力とコストが他の服の比じゃあ
りませんから。しかし着ないとムダ感があるため、
冬になるとむりやり一度は着ているといった次第で
す。だいたいこの時期になると、早く今年もこのニ
ットを着なくては、と思い出すわけです。

全く良い例え話になりませんでしたが、日本の防衛
においても、サンクコストの呪縛がかなりあるので
はないでしょうか。

ムダ遣いを責め立てる風潮が、すでに進んでいるこ
とは変更できないというさらなるムダを生んでいな
いか、次の防衛大綱・中期防策定に向けては、その
あたりの心理的影響も検証する必要があるのではな
いか、などと、思ってしまいます。

今日も最後までお付き合い頂きありがとうございま
した!皆様にとって素晴らしい1週間となりますよ
うに!

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業」連載中です。
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(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フ
リーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(P
HP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載中。新刊『誰も語
らなかったニッポンの防衛産業』(産経NF文庫)



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