配信日時 2021/10/27 09:00

【防衛省の秘蔵映像(38)】9.11同時テロの年 2001(平成13)年の映像紹介 荒木肇

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こんにちは。エンリケです。

「防衛省の秘蔵映像」解説 第38回です。

わが空中機動旅団に関するお話が面白いです。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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防衛省の秘蔵映像(38)

9.11同時テロの年
2001(平成13)年の映像紹介


荒木 肇
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 2001(平成13)年の映像紹介
平成13年防衛庁記録 - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=q0d-0t1dBkU

□はじめに

 21世紀は「国際同時テロ」で幕を開けました。
どなたも、あのハイジャックされた民間航空機がビ
ルに衝突する映像をご覧になったことでしょう。ア
メリカ政府は、ただちにこれを戦争と受け止めると
宣言し、世界中の列国が自分たちの立場を明らかに
せざるを得なくなりました。アルカイダとか、タリ
バンというような言葉がマスコミにも頻繁に流れ、
多くの日本人が防衛や安全にも心を配るようになり
ました。

 わが国の周辺でも事件が起こります。九州南西海
域で「不審船」が発見されました。このとき、不審
船は追跡し、停止を命じる海上保安庁の巡視船に至
近距離から発砲します。保安官は撃たれて初めて「
正当防衛」のために反撃し、幸運なことに負傷者2
名を出しながら不審船を撃沈しました。

 悲しい事件もありました。ハワイの近海で米原子
力潜水艦が浮上したところ、海上の漁業実習船「え
ひめ丸」に衝突し、乗員35名中9名の方々が行方
不明になりました。この調査や船体の捜索などには、
海自の潜水艦救難艦「ちはや」とダイバーたちが
加わります。

 このほか、この年の映像構成には大きな変化があ
りました。7つのテーマに分けて、それぞれがオム
ニバス形式で閲覧できます。

 そのテーマは次の通りです。(1)米国同時多発
テロへの対応、(2)えひめ丸事件、(3)国際平
和協力活動と法整備、(4)海上警備行動の組織、
装備、法整備、(5)組織の改編、(6)安全の確
保と規律維持、(7)その他、になっています。


▼インド洋に出発する海自

 わが国の小泉政権は直ちにアメリカを支持するこ
とを表明します。このときの防衛庁長官は中谷元氏、
外務大臣は田中真紀子氏でした。若々しいお二人
の姿が映ります。まず情報収集に護衛艦「くらま」
と「きりさめ」、補給艦「はまな」が先発しました。
その後、掃海母艦「うらが」と護衛艦「さわぎり」、
補給艦「とわだ」がアメリカ海軍への給油活動のた
めに正規に派遣されました。

 また、アメリカ軍の空爆のために避難民が発生し、
その支援のための物資輸送にも海上自衛隊が行動
します。

▼海上警備行動と新しいミサイル艇

 海上自衛隊の艦艇は、基準排水量1000トンを
境にして区分されます。以上は「艦」、未満は「艇」
となっています。昭和の時代には駆潜艇という小
型のフネがありました。魚雷艇もあった時代もあり
ます。時代の趨勢で小型の駆潜艇は引退し、沿岸用
の高速を必要とするミサイル艇もありました。


 ミサイル艇は平成2(1990)年度に登場しま
す。記号は「PG」すなわち、パトロール・ガンボ
ートです。それまでは魚雷艇や砲艇などが担ってき
た沿岸哨戒任務を、対艦ミサイルをもつ(これを水
上打撃力といいます)高速の小型艇が担当すること
になりました。

海上自衛隊も水中翼をもち、水中でプロペラを回す
のではなく、ウォーター・ジェットを噴射して時速
46ノット(約85キロメートル)を発揮するミサ
イル艇を開発します。排水量は50トン、兵装は2
0ミリ多連装機銃を1基もちました。北海道余市に
3隻で艇隊を編成します。

 ところが、高速発揮に有利な水中翼にも弱点があ
ります。整備・保守の難しさと、なんといっても荒
天下の日本海の行動はなかなか難しく、改良が図ら
れました。それが映像にも登場する「はやぶさ」型
です。平成11、12、13年度計画で2隻ずつ建
造し、合わせて6隻が14年から16年にかけて就
役します。

 映像にも登場しますが、基準排水量は200トン、
武装はもちろん対艦ミサイルですが、砲が76ミリ
単装速射砲に強化されています。計画中の11(1
999)年に発生した能登半島沖のスパイ船が領海
侵犯した事件を参考にして対処能力が付けられたの
です。赤外線暗視装置や12.7ミリ機銃、対ミサ
イル防御用のチャフなどを装備しました。

 また、不審船に停止をさせたのちに臨検する特別
警備隊員が使う6.3メートル複合型作業艇の搭載
、艦橋等の上部構造物の一部に防弾板の装着などがあ
りました。また、船体のステルス性(相手レーダー
に映りにくくなる性能)に考慮し、デザインが独
特です。主砲塔の形も工夫され、砲は護衛艦に搭載
するオットー・ブレダ社製の62口径の長砲身です
が、そのシールド(覆い)は十分にステルス性を高
めたものでした。

▼空自、F-2戦闘機による改編

 航空自衛隊の新顔は、新しい支援戦闘機F-2の
就役です。老朽化したF-1戦闘機の後継機として、
当初は純国産で計画されますが、結局、日米共同
開発という形式に落ち着きました。

 映像には3月に、三沢基地の第3航空団第3飛行
隊の改編の様子が映ります。日米共同開発の主旨の
通り、機体はアメリカ空軍のF-16C(ロッキー
ド・マーチン社製)をベースにしました。外見上の
違いがあって、胴体の延長や主翼面積の増加などで
す。キャノピー(操縦席を防護する透明風防)の分
割は前・中・後の3分割がF-16とは異なってい
ます。これは、緊急脱出時にはパイロットを風圧か
ら守る能力が高く、生還率を高めるといわれていま
す。

 支援戦闘機として対艦ミサイルを4発搭載できる
ことが必須です。対空兵装にもスパロー・ミサイル
を4発、赤外線ホーミング・ミサイルも4発、50
0ポンド爆弾やクラスター爆弾などを積むことがで
きます。これが主翼面積が格闘戦を重視したF-1
6より主翼面積が25%も増えた理由です。


▼第12師団は空中機動旅団に

 第12師団(司令部は群馬県榛東村・相馬原駐屯
地)は隷下に3個普通科連隊を基幹とする「乙」師
団でした。その定員は7000名、それが戦車大隊
などを廃止し、ヘリコプター隊を新編して空中機動
力を特徴とした旅団になりました。第13年度から
の5年間の中期防衛力整備計画の第1弾でした。

 旅団司令部があり、ヘリコプター隊が展開する相
馬原(そうまがはら)は、ほぼ日本の中央に位置し
ます。その飛行場の管制塔からは関東平野が一望に
でき、晴天なら遠く千葉の木更津駐屯地(第1ヘリ
コプター団)も見ることができます。西に飛べば日
本アルプスを見て長野県に、北には新潟県に一飛び
です。

 普通科連隊は小粒ながら(すなわち人員的には軽
歩兵連隊)、下越新発田(しばた)の第30連隊、
上越高田第2連隊、信州松本第13連隊の3個があ
ります。ほかに旅団特科隊、同施設隊などなど。い
ずれも、ヘリボーン(ヘリコプターによる移動)訓
練を受けた精鋭ぞろいです。

 空挺部隊をエアボーンといいます。落下傘を用い
て機動・運用されるのがエアボーン、空挺部隊です。
もともと諸説ありますが、「空輸挺進」部隊を空
挺といいました。「挺身」すなわち「身を挺する」
とは異なります。空挺部隊は基本的に歩兵部隊であ
り、協力する特科(砲兵)、施設(工兵)なども編
制内にありますが、要はヘリコプターや輸送機で移
動する部隊です。戦場に到着すると、空挺部隊は地
上に降下してから中隊以上のまとまった戦力として
攻撃、防御など歩兵と同じ戦闘行動をとります。

 第12旅団のような空中機動旅団は、空中機動に
はヘリコプターしか使いません。落下傘降下はしな
いのです。その代わり、日本のどこにでもヘリによ
る移動ができる。飛行隊のパイロットたちといつも
意思を伝え合い、訓練に励み、国民のいつもそばに
いる部隊と言っていいでしょう。



(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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