配信日時 2021/10/19 20:00

【武器になる「状況判断力」(14)】 状況の変化を捉える  上田篤盛 (インテリジェンス研究家)

こんにちは。エンリケです。

『武器になる「状況判断力」』の十四回目です。

インテリジェンスの力は、
マーケティングや投資、就職先選びといった具体的現実
の把握理解に役立つことがよく見える記事です。

さっそくどうぞ。

エンリケ


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武器になる「状況判断力」(14)

状況の変化を捉える

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)

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□はじめに

 前回の謎解きは「ここ最近、松屋は値上げ、吉野
家は減収、すき家が一人勝ち。その理由は?」でし
たね。

 答えは、「この中で、すき屋だけが郊外型だから
」です。吉野家も松屋も駅近て通勤者がターゲット
、すき屋はマイカーでの家族連れもOKなので、コ
ロナ禍のテレワーク以降は「牛丼を食べるならば、
すき屋で」という流れになったようです。
 
前回の本文中でも述べましたが、勝負には「天」と
「地」を知ることが重要です。「天」とは時間的、
流動的で状況や時機(タイミング)を指し、「地」
とは固定的な地理環境、つまりここでは上述のよう
な立地条件を指します。地理環境の有利、不利は状
況や情勢によって変わる、地理的な位置関係は変わ
らずとも、その価値つまり利・不利は不変ではない
のです。

今回の謎解きは、「なぜ日本は左側通行になったの
か?」です。以前、日本の信号機が向かて左から青
、黄色、赤になり、東京など(大阪という例外を除
く)のエスカレターでは左側立ちで右側から抜いて
いくという事例を挙げましたが、そもそも、「日本
はなぜ左側通行だったのか?」を考えてみようとい
うことです。

さて、前回から、軍隊式「状況判断」の第2アプロ
ーチの「状況及び行動方針」に移りましたが、今回
はその2回目です。

▼「アウトサイド・イン」思考とは

状況には「地域」、「我」、「敵」の3つがありま
すが、この思考手順は、地域の特性、敵情、我が状
況の順に考察して、最後に相対戦闘力を明らかにし
ます。

しかしながら実際には、おおまかに敵を意識する、
次いで我を意識する、そして敵と我を地域という土
俵の上に置いて、敵と我の利・不利などを考察して
、相対的戦闘力を算定するというのが一般的です。

作戦では、地域とは気象と地形に大別できます。こ
れは『孫子』の流動的な天(気象)と固定的な「地
」(地形)に相当します。国家安全保障では「気象
」は国際情勢に置き換わり、地形は地理的環境とな
り、ビジネスでは「気象」は経営を取り巻く情勢や
時機(タイミング)となり、「地形」は立地条件や
サプライチェンーンなどになるでしょう。

気象は流動的であり、地形は固定的ですが、流動的
な気象が固定的な地形に影響を及ぼします。たとえ
ば、錯雑地は夜間には機動障害になりますが、日中
のそれは隠蔽良好な機道路になります。このことは
ビジネスでも同様であり、コロナ禍ではテレワーク
が主体となったため、これまで駅近型の「吉野家」
や「松屋」に先行を許していた郊外型の「すき屋」
が売り上げを伸ばし〝独り勝ち〟になったりするの
です。

つまり、地形や立地条件という固定的な状況も実は
質的な変化を起こしているのであって、状況を認識
するとは変化を読み取ることにほかなりません。

安全保障やビジネスでは問題の周辺に位置する環境
を幅広く考察する必要があります。グローバル社会
では様々な事象が影響を及ぼすため、「網を大きく
かける」ことで、状況判断のための重要な要因を見
逃さないようにします。そして、前述のとおり、流
動的な情勢の変化をとらえ、それが彼我に及ぼす影
響を考察します。

▼「アウトサイド・イン」思考

ビジネスを例に、環境を幅広く捉え、変化する情勢
を捉えるためのポイントを考えてみましょう。

ビジネスの問題を取り巻く環境は大きく「外部環境
」と「内部環境」に分けられます。外部環境は「マ
クロ環境」ともいい、世界的な潮流ないしは社会全
体を指します。つまり、これが軍隊式「状況判断」
で言うところの「地域の特性」になります。

これに対して内部環境は、業界内部の環境や自社の
環境のことです。ここには軍隊式「状況判断」の敵
、我という要素が入ってきます。

最近では、すでに把握している内部要因をもとにす
る「インサイド・イン」から、外部要因を幅広く考
える「アウトサイド・イン」に変えることが推奨さ
れています。これを「アウトサイド・イン思考」も
しくは「アウトサイド・イン分析」といいます。ま
ず最も大きな単位である世界について考え、それか
ら少しずつ業界内部や競合他社、自社の能力といっ
た身近な内部環境に着目していき、最後に自社の戦
略・戦術などへの影響を考えていく思考法です。

なぜこうした思考法が重要かといえば、外部環境、
すなわち世界のメガトレンドが内部環境を変化させ
ることは往々にしてあるのに対して、その逆のパタ
ーンというのは、通常は起こりにくいからです。

アウトサイド・イン思考がいかに大事かを示すエピ
ソードに、世界最大の写真用品メーカーであったコ
ダックの例があります。同社は世界で最初にロール
フィルムやカラーフィルムを開発したようにアナロ
グフィルムのイメージが強い会社てすが、実は19
75年に早くも世界初のデジタルカメラを開発しま
した。実はデジタル写真に関してもきわめて高い技
術力を有するメーカーだったのです。

しかし、コダックの上層部は、自社に巨大な成功を
もたらしたアナログ写真の需要を過信するあまり、
自社のデジタル技術を市場に売り込む努力を怠りま
した。つまり、「社会や顧客が急激にペーパレス、
デジタル化を求めている」といった外部環境の変化
を見落としたため、結果としてコダックはデジタル
化の波に乗り遅れ、2012年には倒産してしまっ
たのです。

▼目的の確立は「インサイド・アウト」

 このように「アウトサイド・イン」思考は近年そ
の重要性が重要視されていますが、間違えてはなら
ないことは、「何をなすべきか?」「なぜそれをす
るのか?」といった目的の確立は「アウトサイド・
イン」思考では出てきません。

何をなすべきかは、第1アプローチの「任務分析」
により導き出しますが、軍隊式「状況判断」は作戦
レベルについて規定するものだから、任務(使命)
は上級指揮官から与えられます。だから、自らは上
級指揮官の意図を目的として、与えられ任務を分析
し、その目的に従い任務を達成するためにはいかな
る手段を講じるべきか、すなわち具体的に達成すべ
き目標を明らかにします。

しかしながら、戦略レベルの状況判断(戦略的情勢
判断)では、自らの目的を何に求め、何をなすべき
かを自ら問いかけ、思索することから始めなければ
なりません。すなわち、国家指導者、企業トップあ
るいは個人は「Policy making」や大
綱決定を自分自身で行なわなければなりません。

自己がどうしたいかのか、どうすべきなのかは、そ
れぞれの価値判断に委ねられるものなのです。だか
ら国家指導者、企業トップが自らの目的を定めるの
は、「インサイド・アウト」になります。これは個
人の問題についても同様です。

▼フレームワーク分析とは?

「アウトサイド・イン」分析とよく併用される分析
手法に「フレームワーク」分析があります。フレー
ムワークとは「発想の枠組み」です

「アウトサイド・イン」の「アウトサイド」をどこ
までも拡大し、彼我の行動に影響する要素をあまり
に多岐にアトランダムに抽出すると後で収拾がつか
なくなります。また、重要な要素を見落とすことに
もなります。

そこで、「アウトサイド・イン」分析と併用してし
ばしば用いられるのが、「フレームワーク」分析で
す。

そもそも分析とは「ある何かを、いくつかのより細
かい要素に分ける」という作業であり、物事や現象
は必ずそれより小さいいくつかの要素から成り立っ
ています。その属性や特性を浮き彫りするために構
成要素に分けていくことになります。

しかし、この時にただ闇雲に分けるだけでは意味は
ありません。分けた後にアイデア(影響要素など)
が出しやすくなるように、強制的に発想の枠組み、
つまりフレームワークを設ける必要があります。こ
れが強制発想法の1つである「フレームワーク」分
析です。また、構成要素を「お互いに重複せず、全
体に洩れがない」ように分ける思考法を「MECE
」(ミッシー=Mutually Exclusi
ve and Collectively Exh
austive)と言いますが、「フレームワーク
」分析は、このミッシーな思考を行なうための体系
化された分析手法でもあります。

▼さまざまなフレームワークを知る

さて今日の社会では、さまざまなフレームワークが
あります。国家安全保障の領域では、社会(Soc
ial)、技術(Technological、環
境(Environmental)、軍事(Mil
itary)、政治(Political)、法律
(Legal)、経済(Economic)、安全
(Security)の8つの枠組みを想定する「
STAMPLES」や、政治(Political
)、軍事(Military)、経済(Econo
mic)、社会(Social)、インフラ(In
frastructure)、情報(Inform
ation)の「PMESII」、外交(Dipl
omatic)、情報(Information)
、軍事(Military)、経済(Econom
ic)を想定する「DIME」などが有名です。

ビジネスにおいて外部環境を分析するためのフレー
ムワークが「PEST」です。これは政治(Pol
itics)、経済(Economics)、社会
(Society)、技術(Technology
)の頭文字をつなげたもので、最近は、社会の中に
含まれる環境(Ecology)を分岐させて、語
呂がいいように語順を並び替えて「SEPTEmb
er」と呼ぶことが多くなっています。

他方、内部環境を分析するためのフレームワークに
は消費者(Customer)、競合相手(Com
petitor)、会社(Company)の「3
C」、さらにこの3Cに集客のための媒体、経路(
Channel)を加えた「4C」、そして、製品
(Product)、価格(Price)、Pla
ce(販路)、販促(Promotion)から成
る「4P」などがあります。

「競合分析」(Competitive Inte
lligence=CI)の創始者であるアメリカ
の経営学者マイケル・ポーターは、自社を業界のな
かに位置づけるために業界内部の環境要因を、「新
規参入者の脅威」「代替品の脅威」「買い手交渉力
」「売り手交渉力」「既存競合他社」という5つの
要素にわけて分析する「5フォース」を提唱しまし
た。なおポーターは、この5つのうち最初の二つの
脅威を外的要因、後の3つを内的要因に分類してい
ます。

▼フレームワークの具体的内容を理解する

 こうしたフレームワークの項目を覚えるだけでは
大した意味はなく、それぞれのフレームが具体的に
何を表しているかもしっかり理解しておく必要があ
ります。たとえば、「PEST」によるビジネス環
境の認識では以下のような内容へとさらに細分化で
きます。ただし、この細部化の方法も画一化できる
ようなものではなく、自己を取り巻く環境や任務に
よって、常に内容の部分修正が必要となります。

◇政治(Politics)…国際政治、政府の法
規制の強化・緩和、法改正、行政環境の変化、政府
の意向、補助金等による支援など。
◇経済(Economics)…国際経済システム
、景気動向、株価・為替・金利、雇用情勢、経済成
長率など。
◇社会(Society)…人口動態、文化、世論
、流行、ライフスタイル、自然環境、治安、宗教、
言語など。
◇技術(Technology)…技術革新、代替
技術、特許など。

▼情勢の変化に敏感になる

状況あるいは情勢は常に変化します。環境を認識す
るとは状況や情勢の変化を先行的に捉えろというこ
とです。これは戦争、ビジネス、個人の問題でも同
様です。

ビジネスを例に、「PEST」に基づき、変化する
情勢を捉えることの意味を考えてみましょう。

政治では国内の法律に特に注意します。法律が変わ
ると、それまで合法的であったものが非合法になっ
たりします。米国で銃規制などが行なわれると、た
ちまち銃の商売は上がったりです(規制される前に
銃の売り上げは伸びますが)。

国際情勢の影響にも注意が必要です。米中対立によ
り米国の対中包囲網が形成され、同盟国は5G設備
で華為技術(ファーウェイ)など中国機器を採用で
きなくなりました。

経済では景気動向に特に注意する必要があります。
景気は後退したり、インフレ気味となったりします
。景気動向によって消費者の購入意欲は常に変化し
ています。

社会では流行に注意が必要です。一時的な流行はす
ぐに去ります。過去にはミニスカートの流行が終わ
り、ロングスカートが流行になったりしました。流
行の後追いでは利益は上がりません。

また、レコードがCDになり、CDがアイポットに
なり、すっかりレコードは過去の遺物となった感が
ありましたが、一部ではレコードへのノスタルジー
が起こり、レコードとステレオが高値で取り引きさ
れる状況も生じています。

技術革新は新商品の開発、新規企業の市場参入を促
進します。

自動車の発明により、馬車は輸送手段の主役の座を
失われ、スマホの発明によりデジタルカメラは主役
の座を失われつつあります。IBM社は1960年
代にコンピュータ部門で圧倒的なシェアを誇ってい
ましたが、1970年代のパソコン(PC)の登場
により、アップル社に代表される新規企業のPC市
場への進出により、経営危機に陥りました。

このように状況判断を適切に行なうためには状況や
情勢の変化を捉えることが重要なのです。


(つづく)

(うえだあつもり)


【筆者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防
衛大学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上
自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語学
課程に入校以降、情報関係職に従事。93年から9
6年にかけて在バングラデシュ日本国大使館におい
て警備官として勤務し、危機管理、邦人安全対策な
どを担当。帰国後、調査学校教官をへて戦略情報課
程および総合情報課程を履修。その後、防衛省情報
分析官および陸上自衛隊情報教官などとして勤務。
2015年定年退官。著書に『中国軍事用語事典(共
著)』(蒼蒼社)、『中国の軍事力 2020年の将来
予測(共著)』(蒼蒼社)、『戦略的インテリジェ
ンス入門―分析手法の手引き』『中国が仕掛ける
インテリジェンス戦争』『中国戦略“悪”の教科書―
「兵法三十六計」で読み解く対日工作』『情報戦
と女性スパイ』『武器になる情報分析力』『情報
分析官が見た陸軍中野学校』(いずれも並木書房)、
『未来予測入門』(講談社)。



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発行:
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