配信日時 2021/10/11 08:00

【桜林美佐の「美佐日記」(144)】多様性の街──2度目の新宿暮らし始まる

おはようございます、エンリケです。

今週もどうぞよろしくお願いします!

144回目の美佐日記。

敗戦直後の治安をヤクザが守ってくれた事実は、
国民として知っておかなきゃいけませんね。


桜林さんの不朽の傑作
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潮書房光人新社から
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ではさっそく、
本日の「美佐日記」をお楽しみください。


エンリケ

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『自衛官が語る災害派遣の記録』に続く、第2弾
『自衛官が語る海外活動の記録』(桜林美佐監修・
自衛隊家族会編)が発売されています。中東シーレ
ーンの安全確保をめぐって新たな自衛隊派遣が行わ
れているこの時期にタイミングを合わせたような出
版です。現地で自衛官たちが何を思い、どのような
苦労をして、任務をこなしてきたか、25人の自衛
官のリアルな体験記です。

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桜林美佐の「美佐日記」(144)

多様性の街──2度目の新宿暮らし始まる

桜林美佐(防衛問題研究家)

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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』、令和3年9月の今回
は144回目となります。

 先週は日記をお休みし、何をしていたかといいま
すと、引っ越しです。埼玉から東京の新宿に来まし
た。

 実は、私は高校生の時から数年間、歌舞伎町に住
んでいたことがありましたので、2回目の新宿住ま
いとなります。

 しかし、田舎暮しにすっかり慣れてしまい、夜中
もひっきりなしに救急車などのサイレン音が聞こえ
る環境下で眠りも浅くなっております。そのうちに
慣れるのでしょう・・(昔は外が騒がしくないと落
ち着かなかったのですが)。

おまけに大きな地震があって動揺したり、日中は片
付けに追われ、水漏れ修理、壊れた扉の補修、部屋
が狭く入らなかったため洗濯機を買いに行ったりと、
何かと落ち着かない1週間となりました(どんな部
屋なんだよ~!)。

周辺には、新宿御苑や新宿2丁目のゲイバー街があ
り、まさに「多様性」を象徴する街と言えます。

2丁目あたりはその昔はいわゆる「赤線地帯」だっ
た場所で、昭和33年に売春防止法が完全施行され
てからはゲイの聖地!?として世界的(?)に有名
です。

かつて、私も2丁目のお店には何度か連れて来ても
らったことがありましたが、今はどうなっているの
か皆目見当がつきません。

まさに緊急事態宣言の解除とともに新宿上陸しまし
たので、今後またこの辺りが活気を取り戻すのかど
うか見ていきたいと(もう夜の街に出ることもない
と思うので、あくまで遠目で)思っています。

 そして近くには、あの知る人ぞ知る水炊きの「玄
海」もあります。

 いきなり話は逸れますが、最近、「博多〇〇」「
福岡△△」みたいな店って多いですよね。ついつい
入ってしまい後悔することしばしばです。

しかし、しょうゆなど、福岡とかけ離れたものばか
りで、外国における韓国人経営の寿司屋みたいなパ
ターンが多いような気がするのは私だけでしょうか
(私も全くのにわか福岡人ですが)。

 しかし「玄海」は違います。実際、ここの水炊き
がホンモノなのかどうかは私には全く判断できない
のですが、それ以外の点においてここにはホンモノ
の福岡ワールドがあるのです。

 なんと、ここには頭山満翁の直筆の書が飾られて
いるのです。そしてこの書には戦後の新宿を物語る
逸話が秘められています。

 戦後すぐに、ここ新宿一帯には闇市が開かれてい
ました。これを取り仕切っていたのが「関東尾津組
」の尾津喜之助です。

 尾津は若い時分に人を殺め、刑務所で5年7ヶ月
の刑期を過ごします。出所の時、行く当てがない尾
津に刑務所の看守が親切に教えてくれたのが東京の
頭山満邸だったというのです。

「面倒を見てくれるだろう」ということで、訪ねて
みると、頭山翁は「何もないが飯だけはたらふく食
え」と快く受け入れてくれたそうです。

 昼は働きながら他の仲間たちと大部屋で暮らし、
そのうちに頭山邸を出ることになった時、頭山翁は
餞別として自身の書を手渡したといいます。

 困ったことがあれば、この書を手形代わりに持っ
て行けば高額で買い取ってくれる所があるというの
です。

 その一つが「玄海」でした。

昭和3年から続くこのお店の創業者は福岡の甘木(
あまぎ)出身でした。頭山の書を持参するだけで見
も知らない人間であっても信頼するというのですか
ら、いかに福岡「玄洋社」のネームバリューが強力
であったか窺い知ることができます。

 因みに、頭山の書というのはともすると自らを危
険にする側面もあったようで、米国やイギリス、ロ
シアなどの国々からは玄洋社といえば危険な集団と
みなされていたようです。頭山の掛け軸を飾ってい
たためにフランス当局に検挙された事例もあったの
だとか。

 しかし、玄洋社の意を汲む人々にとっては、頭山
の書を持って現れたということは、それだけで信頼
に値することだったというわけです。私などは映画
の中の世界でしかしらない
「一宿一飯」の恩義スパイラルがあったのです。

 そんなこんなで、玄洋社の繋がりで救われること
になった尾津喜之助は、その後、新宿一体を取り仕
切る「関東尾津組」の親分となります。

 この闇市は「光は新宿より」の名文句を生んだ日
本最大のマーケットでした。敗戦からわずか5日後
に立ち上がったといいます。

 尾津は「あらゆる日用品の大量適正販売」を旗印
にし、約7万人の商店主たちを傘下に収めました。

 新橋や渋谷では「関東松田組」が大規模な闇市を
仕切り、またこの頃、渋谷には安藤昇が率いる「安
藤組」もありました。

「闇市がなかったら東京の人はほとんど餓死してい
ただろう」

 そんな述懐もあるように、戦後の食糧難の中、不
可欠な存在だったのです。

 そして当時のヤクザは治安維持にも欠かせない人
たちだったとも言えます。この頃、台湾、朝鮮出身
の昔でいうところの三国人たちが闇市に流れ込み、
暴力沙汰が起きていました。

 警察もそれらを取り締まる力が及ばず、そんな中、
1945年に尾津喜之助は東京露店商同業組合の
理事長に任命され、治安維持を任されることになる
のです。

 こうして尾津組や松田組などと外国人勢力との抗
争は激しさを増していくことになります。

 しかし「もはや戦後ではない」と言われ、東京五
輪も開催されるようになると様子が変わります。暴
力団は必要ないという意識が世の中に高まります。

 暴力団撲滅作戦が進められるようになり、多くの
組が解散していきます。それまで黙認されていた人
たちは「用済み」になっていったのです。

 赤線で生きていた娼婦たちも同様でした。みんな
職を失ったのです。「こんな~女に誰がした~」と
『星の流れに』の詩を自然に口ずさんでしまうのが
2丁目やゴールデン街です。

「光は新宿より」
 
それにしても、戦後の「光」は「闇」市から始まっ
たというのはアイロニーですよね。虚無と希望が混
在する新宿の戦後史を辿る日々が始まりそうです・
・・。

 今日も最後まで読んで頂きありがとうございまし
た!皆様にとって素晴らしい1週間となりますよう
に!


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(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フ
リーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(P
HP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載中。新刊『誰も語
らなかったニッポンの防衛産業』(産経NF文庫)



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