配信日時 2021/10/06 09:00

【防衛省の秘蔵映像(35)】 日米同盟の堅持  1998(平成10)年の映像紹介 荒木肇

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こんにちは。エンリケです。

「防衛省の秘蔵映像」解説 第35回です。

英国陸軍が

ロイヤル・アーミー

でなく

ブリティッシュ・アーミー

と呼ばれているはなし。

じつに面白かったです!

「軍の文化は国ごとに違う」
という当たり前だけど見落とされがちな視座を、
あらためて拓いてくれました。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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防衛省の秘蔵映像(35)

日米同盟の堅持
 1998(平成10)年の映像紹介


荒木 肇
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1998(平成10)年の映像紹介
https://www.youtube.com/watch?v=m1ZlLSmTe4k


□はじめに

 自由民主党の総裁選挙が行なわれました。結果は
やはり、リベラル色を出す河野氏の敗北に終わり、
「岩盤保守層」を支持者とした高市氏の健闘が見ら
れました。この「岩盤保守」といわれる人たちは、
皇統は男系相続による天皇制を支持し、夫婦別姓に
よる婚姻制度には疑問をもち、国防については専守
防衛ではなく敵基地攻撃能力も抑止力になると考え
るのでしょう。


 これらに対して落選した河野氏は女系天皇も可能
性を考え、夫婦別姓も許し、敵基地攻撃は「昭和の
発想」だと主張しました。もちろん、ご自分の父親
が、あのいまわしい「従軍慰安婦」談話で、日韓双
方の反日運動勢力を応援した過去を否定もしていま
せん。それだけではなく、ご自分の家族や周囲の方
の、中国企業との提携などについても反論どころか
説明もしていません。

 まずは、高市氏よりはソフトで、ややリベラル色
を出す岸田氏に総裁が落ち着いたことを嬉しく思い
ます。ただ、不審なのは「党員・党友」という方々
の投票傾向です。河野氏がむしろ圧倒的でした。そ
れは投票前から予想されていたことで、河野陣営の
方々、石破さんや小泉氏などは、これが国民の声だ
と大騒ぎしていました。たしか前回の総裁選でも、
その票の多くは石破氏が握り、地方で石破氏が圧倒
的人気だったそうです。

 もちろん「国民の声」などではなく、党費を払っ
た党員の声であり、マスコミ各社がいう「次の総理
にふさわしい人」人気ランキングも、無責任な外野
の声でしかありません。手続き通りの党員・党友票
と議員票の合計で岸田氏が選出されたことを、わた
しは嬉しく思っています。ただ、個人的には好みだ
った高市氏が敗れたこと、少し残念でした。


▼国民の声を自衛隊

 平成10年の防衛庁画像は国民の声の結果から始
まります。前年度の総務庁調査によると、防衛問題
に関心があるかと聞かれ、「ある57%」、「ない
が42%」となっています。関心があるという人に
その理由を答えてもらうと、災害派遣が36.3%
とトップで、続いてわが国の平和と独立について関
心がある32.4%、国際社会の安定という観点か
らと答えた人が16.6%、最後に国民の税金が使
われているからが8.1%でした。

 では、防衛力の存在の目的はどうかというと、災
害派遣が66.9%、国の安全確保が56.6%、
国内の治安維持が25.7%、国際貢献が25.0
%、最後に民生協力が9.3%になりました。

 今から20年ほど前の国民の声です。阪神淡路大
震災やナホトカ号の転覆などが強く印象付けられて
いるのでしょう。

▼4つの基本方針

(1)専守防衛、(2)軍事大国にならない、(3
)非核3原則の堅持、(4)シビリアン・コントロ
ールの徹底とわざわざ断っています。

「専守防衛」とは、決してこちらから手は出さない
。やられてからやり返すということです。この平和
主義のおかげで、「明らかにこちらに攻撃の意図が
あることが分かったら、その意図を潰すために攻撃
する」ということが悪とされてきました。今回、高
市氏が敵基地攻撃能力保持の可能性をようやく口に
することができたようです。

もっとも、この年1998年、北朝鮮が初の弾道弾
ミサイル(テポドン1号)を撃ち、わが列島上空を
横断し、三陸沖に着弾していましたが。以来、ひた
すら専守防衛です。わが国のどこかに落ちてから、
ようやっと攻撃してよいということは依然として続
いています。

「軍事大国にはならない」も、不思議な数字の目安
「国民総生産の1%」という決まりがあります。先
日も報道されましたが、諸外国の防衛費の中でも最
低ランクの0.97%でした。陸上兵力は減らされ
る一方です。戦車・火砲の数も減り、任務ばかり増
えている。支える予算はほとんど伸びない。そうい
う実態を国民はどれほど知っているのでしょうか。

「非核3原則」、これも世界で唯一の被爆国という
ことから、持たず、作らず、持ち込ませずという原
則が守られてきました。持てない、作れない、周辺
国家が核武装をしてゆく中で、頑固に核兵器どころ
か原子力推進艦船もちません。世界でも能力は超一
流といわれながらも、通常動力型(潜航中は主に電
池推進)潜水艦で他国の原子力潜水艦に立ち向かわ
なくてはなりません。

そうして最後は「文民統制」です。自衛隊の行動は
すべて「制服を着ない」人たちが決めることになっ
ています。非常事態で、いつも「政府の決断が遅い
」とか、「情報収集と話し合いばかりして、制服組
からの適切な助言を無駄にする」ということが知ら
れてきました。今回のアフガンへの自衛隊輸送機派
遣でも、「行動への決心」が遅かったことも失敗の
一因だという人もいます。この文民統制とは何でし
ょうか。

▼定義が難しいシビリアン・コントロール

 わたしたち、軍隊に関心をもつ者の多くは、『軍
人と国家』(サミエル・ハンチントン)を読んでい
ます。ハンチントンはアメリカの古くからのシビリ
アン・コントロールの研究者です。その著書による
と、文民統制と訳される概念そのものが、満足に定
義されたことがないとあります。

 また、アメリカの第二次大戦後の行政機構の改革
を行なったフェルディナンド・エバースタットも、
その回顧録の中で「魔法の言葉で、誰もがそれが何
を意味しているかを知らなかった」と書いています
。興味深いのは、文民統制理論の確立に貢献したハ
ンチントン、当時のアメリカ国防省にそれを導入し
たとされるエバースタットが2人ともが、何を言っ
ていたのか、どんな意味があるのかについて明確で
はないと言っていることです。

 わが国が占領時代に押しつけられた憲法には文民
統制の精神があるとされますが、議論もなしに、制
服を着、階級をもつ者(自衛官)は文民たる総理大
臣の統制に服し、防衛庁の背広を着た隊員(防衛官
僚ら)の命令を聞くものだとされてきました。いわ
ゆる「背広組の制服への優位」です。人事権も背広
の防衛官僚がもつので、気にいられないと昇任がで
きないということが公然の秘密のように語られます
。それの当否、事実か事実でないかは別として、仕
組みが確かに明らかになっていません。

 しかし、現在のように、将来がなかなか見えない
中で、緊急の行動が要求されてきたとき、戦後占領
下を経て、独立以来70年続いた社会の中で、もう
一度議論をしてもよいのではないでしょうか。

▼定義は多様化してきた

 まず、軍隊や武力を政治統制するのか、あるいは
行政統制をいうのかを区分しましょう。読者の皆さ
んの中にも、市民統制、国会統制、内閣統制、長官
統制などのさまざまなご意見があるでしょう。国家
の武装集団、自衛隊を統制するのは、どこがいいと
思われますか?

 では、行政統制はどうでしょうか。よく考えれば
、わが国は民主主義国家であり、政治統制はすべて
の行政に対して同じです。国民による投票で信任さ
れた国会議員が、相互に選び総理大臣を選ぶ。その
総理が任命する各省庁の大臣、長官が行政を統制す
る。各省庁に勤務する公務員もまた、間接的に国民
に信任を寄せられているのです。

 何も軍事だけ、とりもなおさず防衛省だけ取りだ
して文民統制ということはありません。だいいち、
シビリアン・コントロールと議論され始めたのは、
第2次世界大戦後のアメリカだったことが重要です
。それはアメリカ国防省内における文官の存在と、
その文官による制服軍人部局との関係を話し合うこ
とから始まったのです。そうして、それはちょうど
、わが国がアメリカに占領されていた時代だったの
でした。

 そうして、これは当時の警察予備隊、海上警備隊
、保安隊、自衛隊と発展してきた中の防衛庁の「内
局制度」と「制服部局」の関係と重なります。そう
して結論からいえば、わが国のそれは行政統制なの
です。

▼各国の事情からスタートした概念

 アメリカのように議論もなしに「内局」による統
制がシビリアン・コントロールとされたのがわが国
でした。これに対して、多くの国々では、これこそ
が自国の伝統の成果の文民統制だと主張しています


 まず、英国はどうでしょうか。英国は議員による
議会が、国王の軍隊に対するコントロールからだっ
たといわれます。1628年ですから400年近い
昔、「権利請願」の中には、チャールス国王の戒厳
法、軍隊の民家への宿泊命令書などへの反抗があり
ました。栄光(名誉)革命後の1689年の「反乱
法」には、王の常備軍は議会が毎年更新しないと違
法になるという主旨が含まれました。これが伝統と
なって「毎年法」という法が確立し、現在までも議
会の承認なしには軍隊を持てないということになっ
ています。

 英国の軍隊が、陸軍以外は「ロイヤル」という名
称を冠することはよく知られていますね。英国海軍
はロイヤル・ネービーであり、所属する軍艦は女王
陛下のフネ、ハー・マジェスティーズ・シップであ
り、水兵のかぶるベナントにも金文字で「H.M.
S.」と書かれています。同じように、空軍はロイ
ヤル・エア・フォース(RAF)、海兵隊もまたロ
イヤル・マリン・コーです。陸軍だけは昔、王室に
反抗したことがあり、ロイヤルではなくブリティッ
シュ・アーミーであることが興味深いです。そうし
た伝統を聞くと楽しくなりますね。


 だから英国の議会は1つの標語を大切にしていま
す。「Parlimentary Authori
ty over Army」、軍に対する議会の優
位という意味になります。

▼軍権の分散についてのアメリカの伝統

 アメリカは武力革命を行ない、英国から独立した
国です。英国の王室軍隊を市民による軍隊が破って
成立しました。だからこそ、勝利した米国の兵士た
ちは、大統領が絶大な権限をもち、軍の最高司令官
の権能を肥大化するのを恐れたのです。

 だから、軍権を分けることを考えました。アメリ
カの国会は戦争宣言、陸海軍の建設維持や予算を握
ります。大統領は総司令官として軍の総指揮にあた
ることにしました。行政府の中でも、軍権を長官と
大統領に分属させます。そのうえ、民兵の統制は州
と連邦議会に分けることにもしたのです。大統領の
軍に対する絶大な機能を否定して、大統領がまるで
徳川幕府のような強烈な軍権政治を行なうことを防
ぎました。このときに、連邦議会が用いた言葉がシ
ビリアン・コントロールという言葉だったといわれ
ます。

 こんにちでは、文民である大統領の元に、陸・海
・空軍、海兵隊、宇宙軍などすべてが統制されてい
ることを強調しがちですが、当時としてはむしろ大
統領の権限をなるべく制限する方向で使われていま
した。

□次回はフランスの歴史から見直してみましょう。
さらに「平成の大軍縮」の中身も詳しく映像から読
みとりましょう。


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

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された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
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