こんにちは。エンリケです。
『武器になる「状況判断力」』の十二回目です。
日常に活かせるプロの技。
ともいうべき上田さんのコンテンツは、
永遠に古びない内容を持つと思いますね。
これまで知りたかったことがわかるだけでなく、
どのように具体的に活用するかの手順があるので、
目の前の現実に活かしやすいのです。
こんかいもそうです。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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武器になる「状況判断力」(12)
目標の整合性を図る
インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)
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□はじめに
前回の謎かけは「1973年のオイルショックでは
なぜトイレットペーパーが不足したか?」です。
「トイレットペーパーは石油から作られる。第四次
中東戦争で中東の石油生産量が低下→石油の輸出価
格が高騰→日本の石油の輸入価格が上昇→トイレッ
トペーパーの値段が上昇→トイレットペーパーが不
足」
このような論理的思考力を働かせた方はいましたか?
でも実は、トイレットペーパーが不足したのは、
デマ(誤情報)が大きく影響したのです。
当時、さまざまな製品の主原料となる石油の値上げ
が、物価の上昇を引き起こすのではないかという人
々の不安感が高まっていました。
そこに、1973年10月に日本政府が「紙資源節
約の呼びかけ」を行なったために、「紙がなくなる」
というデマが口コミで流れたのです。そして1カ月
後の11月、大阪で、チラシに煽られた主婦が特売に
殺到してトイレットペーパーが瞬く間に売り切れる
という出来事がおこりました。
その情報を聞いた新聞社が「あっという間に値段は
2倍」という記事を出しました。このために騒動が
大きくなり、全国各地でトイレットペーパー買い占
め騒動が起きてしまったのです。
しかし、騒動が起きた当時はトイレットペーパーの
品不足は実際にはありませんでした。要するに、マ
スコミや口コミに踊らされただけでした。今日もマ
スコミや口コミでたくさんのデマが流されています。
注意が必要です。
今回の謎かけは「マシュマロ実験」に関するもので
す。「マシュマロ実験という社会心理学の研究では、
マシュマロを食べるのを長時間我慢できた4歳児は、
成長してからの成績が良かった。それはどうしてか?」
さて前回は、ミッドウェー海戦を事例に取り上げ、
南雲忠一第一航空艦隊司令長官が山本五十六連合艦
隊司令長官の意図(構想)を理解しなかったために、
南雲は自らの目的を確立できずに、そこから達成
すべき目標にブレークダウンできなかった。これが
ミドゥエー海戦の〝失敗の本質〟であることを述べ
ました。
今回は、もう少し目的や目標について考察したいと
考えます。
▼上級指揮官の意図が目的になる
状況判断の第一アプローチである任務分析における
任務の付与は通常、上級指揮官から「達成すべき目
標」とその「目的」をもって示されます。
指揮官は任務の分析にあたって、上級指揮官の意図
(構想)をよく理解しなければなりません。与えら
れた任務が、上級指揮官の意図の中で占める地位と
役割を明確にして「具体的に達成すべき目標」とそ
の「目的」を明らかにします。
目的とは「上級指揮官の判決において示される意図」
(菊池宏『戦略基礎計画』)です。また意図は、一
般的には上級指揮官が目標を達成するために選定し
た手段となります。つまり、上級指揮官が選定した
「具体的に達成すべき目標」を部下の指揮官に示す
ことが意図の伝達になります。
指揮官は上級指揮官の「具体的に達成すべき目標」
を確認することにより、自らの任務上の「目的」を
明らかにします。その上で上級指揮官から付与され
た「達成すべき目標」をブレークダウンして、自ら
の「具体的に達成すべき目標」を明らかにすること
になります。
こうして上級指揮官が指揮官に与えた任務の具体化
が図れるわけです。
▼社長の意図は部長の目的
上述のことを、会社での社長-部長-課長の指揮系
統で解説しましょう。社長には会社の利益やブラン
ド力を向上させる「大目的」があります。そこで社
長は「競合他社との販売競争に勝利して利益を拡大
する」ことを基本目標とします。これが会社全体か
ら見た場合の社長の「大目標」となります。
社長は状況判断を行ない、いくつかの戦略構想の中
から「設備投資に踏み切る」ことを「具体的に達成
すべき目標」に選定します。つまり、社長は判決に
よって「大目標」に対する「大手段」を選定しまし
た。この「大手段」が社長の判決によって示される
部長に対する「意図」になります。
社長は複数の部長を呼び、「設備投資に踏み切る」
という「意図」を示し、各部長には意図を達成する
ために振り分けたそれぞれの「達成すべき目標=中
間目標」を伝えます。
たとえば、総務部長には「土地と建物の取得、経費
の捻出、人員雇用対策」を、生産管理部長には「生
産機械の購入と設置」を、営業部長には「新製品の
販売計画の作成」を命じます。
「設備投資に踏み切る」という社長の「意図」は生
産管理部長にとっての「目的」になります。生産管
理部長は「設備投資に踏み切るために(目的)、『
生産機械の購入と設置』(中間目標)を実現する」
ことを認識します。これが与えられた任務の中で自
らが「達成すべき目標=中間目標」を確認する行為
になります。
次に生産管理部長は「社長の意図=自らの目的」お
よび「社長から分与された目標=中間目標」、すな
わち「生産機械の購入と設置」を踏まえ、任務分析
します。そして「中間目標」をブレークダウン(具
体化、細分化、特殊化)して「いつまでに、最低こ
れくらいの資金を調達して、このような機械を〇〇
台購入する」といった「具体的に達成すべき目標」
を定めます。これが生産管理部長の「中間目標」に
対する「中間手段」、すなわち生産管理部長が部下
である課長に示す意図になります。
生産管理部長は各課長を集めて自らの意図、つまり
「具体的に達成すべき目標」を意図として伝えます。
同時に各課長に対し、担当すべき業務(任務)と
業務目標(末端目標)を分与します。たとえば情報
システム課長に「工場内の生産機械の情報システム
の設計を〇〇までに行なえ」といった「目標=末端
目標」を分与します。
情報システム課長は課に戻り、部長の意図と自分に
与えられた末端目標を持ち帰り、それを最適に実施
するための最適な手段である「具体的に達成すべき
目標」を立てます。これが「末端目標」に対する「
末端手段」です。
「末端手段」は課長が部下に与える意図になります。
課長は自らの意図を課員に伝え、課員を督励して自
らの目標を達成するために課の努力を集中します。
▼目標の分与によって意図が連結される
少し説明が冗長になりましたが、要するに社長の意
図が部長の目的、部長の意図が課長の目的となり、
課長の意図は課員の目的となるということです。
そして、上司から与えられた「達成すべき目標」を
任務分析により「具体的に達成すべく目標」にブレ
ークダウンします。それを自らの意図とし、合わせ
て部下指揮官にそれぞれの「達成すべき目標」の分
与を行ないます。
この目標の分与によって、各レベル(社長、部長、
課長)の意図が連結されることになります。すなわ
ち、社長の意図が組織的、合理的、段階的に最下層
に透徹することになります。
▼目標は整合性が図られるべき
目標は個別分断的に存在するのではなく、その先の
もっと大きな目標があり、目標の下には具体化され
た目標があります。
これを最終目標から逆行的に考えると、そこには連
鎖があります。この連鎖には「時系列的連鎖」と「
階層的連鎖」があります。前者は、「一流企業への
入社←一流大学の入学←一流高校の入学」という形
態となります。後者は、「会社の利益←営業本部の
利益←営業課の利益←社員の営業成績」という形態
となります。
最も重要なことは上位目標と下位目標には整合性が
確保されているということです。言い換えれば、任
務分析とは上位目標から整合性のある下位目標を導
き出すことです。
▼上位目標との整合性を図る
整合性は厳密には2つあります。第1は上位目標と
の整合性です。たとえば、生産管理部長が「生産機
械の購入と設置」という目標=中間目標を社長から
分与された場合、この目標は、その先にある社長が
設定した「具体期に達成すべき目標=大手段=意図」
である「設備投資に踏み切る」という上位の目標に
合理的につながっているかを確認します。
この際、整合性が担保されていなければ社長に意見
具申することが必要です。命じられた目標を単にこ
なすだけでは、社長の意図を体(たい)することに
ならず、指揮の統一が図れないのです。
前出のミッドウェー作戦では、南雲は、山本から与
えられた「ミッドウェー島を攻撃する」という目標
が、「空母を誘い出す」という山本の上位目標(南
雲にとっては目的)に対して整合性がとれているか
を確認する必要がありました。この確認を行なうこ
とで、自分の目標がどのように直属上官の意図の達
成につながるかを理解できるのです。
▼下位目標との整合性を図る
第2は下位目標との整合性です。リーダーは上司か
ら与えられた目標に基づいて、この目標を達成する
ために「具体的に達成すべき目標」を明確にします。
たとえば、生産管理部長は社長から与えられた「生
産機の購入と設置する」目標から「具体的に達成す
べき目標」を「生産機を○○台購入するため、資金
〇〇円を△△までに確保する」とした場合、この両
者に整合性があるかどうかを確認します。
こうして指揮系統におけるあらゆる目標間に整合性
が確保されることを確認します。目標の整合性を確
保されているか否かを判断することは、状況判断あ
るいは任務分析において非常に重要なことなのです。
次回は、軍隊式「状況判断」の第2アプローチ「情
況および行動方針」について解説します。
(つづく)
(うえだあつもり)
【筆者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防
衛大学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上
自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語学
課程に入校以降、情報関係職に従事。93年から9
6年にかけて在バングラデシュ日本国大使館におい
て警備官として勤務し、危機管理、邦人安全対策な
どを担当。帰国後、調査学校教官をへて戦略情報課
程および総合情報課程を履修。その後、防衛省情報
分析官および陸上自衛隊情報教官などとして勤務。
2015年定年退官。著書に『中国軍事用語事典(共
著)』(蒼蒼社)、『中国の軍事力 2020年の将来
予測(共著)』(蒼蒼社)、『戦略的インテリジェ
ンス入門―分析手法の手引き』『中国が仕掛ける
インテリジェンス戦争』『中国戦略“悪”の教科書―
「兵法三十六計」で読み解く対日工作』『情報戦
と女性スパイ』『武器になる情報分析力』『情報
分析官が見た陸軍中野学校』(いずれも並木書房)、
『未来予測入門』(講談社)。
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