配信日時 2021/09/27 08:00

【桜林美佐の「美佐日記」(143)】潜水艦建造をめぐる仏豪の対立──問題だらけのフ ランスに三行半?

おはようございます、エンリケです。

今週もどうぞよろしくお願いします!

143回目の美佐日記。

一般国民はこういうはなしを聞きたいんですよね。

と思わせてくれる一文でした。


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ではさっそく、
本日の「美佐日記」をお楽しみください。


エンリケ

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桜林美佐の「美佐日記」(143)

潜水艦建造をめぐる仏豪の対立──問題だらけのフ
ランスに三行半?

桜林美佐(防衛問題研究家)

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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』、令和3年9月の今回
は143回目となります。

またオーストラリアがすごいことをやってくれまし
たね。フランスとの潜水艦共同開発計画を破棄する
とともに、米英豪による新たな安全保障の枠組み
「AUKUS」を創設するといいます。

フランスは大激怒で、駐米・駐豪大使を一時召還す
るといった措置を取りました。しかし、この光景を
苦笑して見ていた人は多いのではないでしょうか。

そもそも2016年に仏、独、そして日本で受注競
争となり、結果として仏が落札したものの「できる
のか?」という疑問は誰もが抱いていました。

安倍政権になって「武器輸出3原則」が緩和されて、
「装備移転3原則」となり、初めての案件が「い
きなり潜水艦なの!?」と、当時は興奮状態で報じ
られましたが、日本は敗退。この競争のためにかか
った経費だけが残ったという顛末でした。

オーストラリア海軍が求めていたのは、コリンズ級
潜水艦の更新でした。保有していた潜水艦はスウェ
ーデンのコッカムス社が設計したもので、水中排水
量3300トンの通常動力型潜水艦です。この頃から
「可動率がかなり低いらしい」という噂がありまし
た。何らかの不具合があったのでしょう。

そこで、同じコッカムス社のエンジンを使っている
日本の潜水艦の優れた運用能力に目が向けられたの
です。

海上自衛隊の「そうりゅう」型は、水中排水量42
00トンで、通常型の潜水艦としては世界に冠たる
ものでしたので、この輸出はオーストラリア海軍か
らの熱いリクエストだったわけです。

安倍総理とアボット首相の関係も良く、あの時は多
くの関係者が「そうりゅう」型の輸出は、半ば決ま
ったものだと思っていました。むしろ悩んでいたの
は、あまりにもこちら側の準備が整っていないこと
でした。

しかし、段々とオーストラリア国内の情勢が変わっ
て来ました。国内製造業が低迷し雇用不安が高まる
中で、高額な潜水艦を購入するならば、現地に製造
拠点を設けるべきだという声が高まっていたのです。

それまではオーストラリア側から「頼まれた」ので、
日本の技術を提供する、それも潜水艦建造という
かなり特殊かつ高度なレベルを国外に出すことに賛
否が分かれていたのですが、オーストラリアの地方
議員などが言ってくることは「うちに工場を建てて
くれ」みたいな話ばかりなので、どうもこれは話が
食い違っているのではないかという懸念が、日本の
関係者にも薄々広がり始めていました。

そんな矢先に、アボット政権の退陣です。そして、
潜水艦建造はドイツとフランスとの競争となりまし
た。この時点で事実上、万事休す・・・だったので
すが、日本としては乗り掛かった船、いえ乗りかか
った潜水艦ということで、引き続きこの受注競争に
参画せざるを得ないということになったのです。

アボット首相から交代したターンブル首相は、ご存
じのとおり親中的でしたので、その意味でも、当時
は「日米豪」(日本のみならず3カ国の共同開発と
いう想定があった)での体制構築を望まなかったで
しょうし、何より国内経済対策を重視しなければな
らない政情を読めば、日本が関わり続けるべきでは
なかったのかもしれませんが、今さら言っても仕方
がりません。

ともあれ、この競争で、最後はフランスが受注した
のですが、4000トン級の通常型潜水艦の建造経
験がない同国が「よく受注できたよね」というのが、
関係者の声でした。

もしかしたら、後で日本のディーゼル発電機やリチ
ウムイオン電池の登場機会があるのではないか?と
いう密かな期待の声さえありました。

そして、あれから5年余・・、潜水艦建造をめぐり、
オーストラリアとフランスの間では多くのトラブ
ルが発生していたようです(案の定)。

まずは建造計画の延長、その結果として1隻目の就
役は2020年代の半ばから2030年代の半ばに
大幅に先延ばし(大幅すぎるでしょ!)。

契約額も、400億ドルと見積もられたものがすで
に600億ドルにまで膨れ上がっていて、さらに増
額も予測されていました。

かんじんの雇用面でも、ターンブル首相が打ち出し
た「80%を国内建造」のかけ声はどこへやら、仏
側は80%→60%に修正し、さらに減らす可能性
も示していたといいます。

受注する時に言っていることが、段々と変わってい
ったり、作っている途中で「やっぱりお金が足りな
い」ということは、実は実際にはあることなのです
が、ここまでになると、そりゃ怒りますよね、とい
うことなのです。

そこにきて、現在のモリソン首相になって豪中関係
は決定的に決裂し、その中国が原子力潜水艦を始め
とする海軍力を飛躍的に増強しているわけですから、
問題だらけのフランスに三行半を下すのは、ある
意味、当たり前だったのです。

しかし、ある意味アッパレなのは、フランス政府陣
のあの「逆ギレ」ぶりです。もしあの時に日本の潜
水艦が選ばれて、もし、同じように契約破棄なんて
いうことになっていたら、果たしてあのように総理
はじめ政府あげて激怒して見せたのでしょうか・・・。

日本の防衛産業は納期を守ることに関しては多分、
世界一だと思いますので、そんなことはあり得ない
でしょうけど、とにかく、装備輸出というのは一企
業の話ではなく、国が一丸となってケンカするぐら
いの覚悟がないとできないということを、日本の学
びとすべき、ではないかと私は感じています。

今日も最後まで読んで頂きありがとうございました!
皆様にとって素晴らしい1週間となりますように!


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(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フ
リーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(P
HP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載中。新刊『誰も語
らなかったニッポンの防衛産業』(産経NF文庫)



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