こんにちは。エンリケです。
『武器になる「状況判断力」』の十回目です。
自衛隊の教育にも触れられていて、
実に面白い内容です。
飯村穣中将の言葉も紹介されています。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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武器になる「状況判断力」(10)
任務分析は「状況判断」の基礎
インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)
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□はじめに
前回の謎かけは、「大阪ではエスカレーターの右側
に立ち、東京では同左側に立つのは、なぜか?」で
す。大阪の方には当たり前かもしれませんが、広島
出身(1960年)の私は東京方式の左立ちに慣れてい
たので、今から10年前に大阪に行った時に、友人に
注意され、少々まごつきました。
そこで、その理由を改めて調べると「1967年に阪急
梅田でエスカレーターが設置されたとき、右手で手
すりを持つ人が多かったので混雑し、『お歩きにな
る方のために左側をお空け下さい』とアナエンスし
た。それが1970年の大阪万博の時の海外の観光客を
意識して、当時、『国際標準』の右立ちルールが定
着した」などとあります。
私の〝謎(why)〟はここからです。では、「東京
人も右利きなのに、なぜ東京では右立ちではない
の?」、「そもそも、右利きは荷物を右で持つのだ
から、左手で手すりを持った方が自然ではないの?」、
「国際標準とはいったい何?」「車両の右ハンドル、
追い越し車線は右側が定着している日本では歩く際
にも右側追い越しが自然では」……その他、疑問は
出てきます。
3年前に台湾に行きました。大阪と同じようにエス
カレーターが右立ちであったので、台湾も大阪と同
じかと思うと同時に、私は「台湾の車両は右側通行
だな」(実際そう)と咄嗟に考えました。
今では車両の「国際標準」は右側通行ですが、これ
は米国製の左ハンドル車の世界的な増加と輸出が影
響したようです。そのため、安全性に配慮して(ド
ライバーが中央で進行方向が見やすい)車両の右側
通行が国際標準になりました。左ハンドル車の増産
は、右利きの人がブレーキハンドルを引きやすかっ
た(当時は米国車のブレーキはハンドルであった)
からといいます。つまり人間の特性に基づき利便性
と安全性が配慮されました。
物事は「なぜか、なぜか」を問い詰めると、より論
理的な回答を得ることができます。しかし、いくら
論理的思考を働かせても解けない疑問もあるという
点です。私は、膝の破れたジーパンの価値に合理性
を見出すことはできませんが、大阪のエスカレータ
ー右立ちも合理性の観点からは説明しにくいのでは。
迷信、言い伝え、風土、慣習、過去の偶然の所作が
現在の事象に影響している場合が多々あります。国
際政治も同様です。「なぜ、米国はイラク攻撃をし
たのか?」。それを「なぜなぜ」で追求すれば、ひ
ょっとすれば、そこに表面では目に見えない、たと
えば米国のディープステートの真実の意図が隠され
ているかもしれません。逆に、この攻撃は単なる施
政者の〝復讐〟〝気まぐれ〟〝人気取り〟〝勘違い
〟などであったのかもしれません(喩えばの話)。
要するに、物事はすべて合理で動くわけではないし
、そこに必ずしも因果関係があるわけでもないので
す。頑迷固陋に〝因果関係論〟に立って、点(事象)
と点を無理繰りに結びつけて物事を判断とようとす
れば誤ることがあります。
ところで、最近は「エスカレーターでは歩かないで
ください」というアナウンスがされるようになりま
した。しかし、依然として東京などでは左立ちであ
り、右側は開放され、皆さんはどんどんと右側を歩
いて追い抜いていきます。
緊急の人は階段を歩けばよいし、体のご不自由な人
はエレベーターを利用していただき、その他の人は
左右のエスカレーターに並んで乗ればと思うのです
が。ただし、歩いてはならないのだからといって、
エスカレーターの右側に立つ〝勇気〟は私にはあり
ません。
少々、解説が長くなりましたので、次回は簡単な謎
かけにしましょう。「マンホールの蓋は、なぜ丸い
か?」です。これは、「マイクロソフト社」の入社
試験にもなったという非常に有名な問いです。
さて、これからしばらくは米軍式「状況判断」の思
考手順に基づいて論旨を展開します。今回は、軍隊
式「状況判断」の第1条、任務分析について解説し
ます。
▼任務分析とは何か?
最初のステップは、任務(mission)、すなわち任
務分析です。任務分析は軍隊式「状況判断」の基礎
というべきものです。
任務分析とは、指揮官が自らの地位と役割を考察し、
「達成すべき目標とその目的を明らかにする」こと
です。
もう少しかみ砕いて解説しましょう。筆者が若手自
衛官時代に学んだ戦術教育では、教育開始に先駆け
て事前課題が出されました。それは、ほぼ決まって
「諸君は〇〇地域の△△を命じられた指揮官である。
指揮官としての任務分析は?」というものでした。
つまり、事前に配布された仮想の状況想定(例:作
戦地域の概況、敵の進出状況、我が軍の準備状況な
ど)を読み、自らの地位と役割(例:師団の先遣連
隊として、当面の敵を撃破して主力の進出を容易に
する)を認識した上で、上級部隊指揮官から与えら
れた任務に基づき、「具体的に達成すべき目標が何
か?」を案出します。
たとえば「〇月△日まで、××丘陵のA高地を死守
して、主力の□□平地への進出を掩護する」などの
ことを明らかにします。
つまり、任務分析では、自分(あるいは所属組織)
が組織の中でどのような地位にあって、組織目標の
どの部分を達成すべきであって、そのためには具体
的に何をなすべきかを明確にする思考過程です。言
い換えれば、自分が設定した具体的な目標を達成し
なければ、組織目標の達成はできないことを深刻に
認識させる思考過程といえるかもしれません。
▼任務分析は自衛隊の優れたノウハウ
他方、〝転勤族〟である自衛官はさまざまな職場を
転々として、それに付随する職務につきます。新た
な職場でまずやることが「職務分析」です。任務分
析と職務分析の意味合いはやや異なりますが、自分
の地位と役割を考察して、具体的に達成すべき目標
を明らかにするという点はまったく同じです。
大規模な軍事組織である自衛隊は高度な組織性が求
められます。それゆえに、個人の努力を散逸させず
に、全体目標に集中発揮する試みが重視されており、
それが任務分析や職務分析であるといえます。
筆者は、自衛隊の人材教育が民間に比して優れてい
るなどと申し上げるつもりはありません。大規模な
国家組織であるが、鈍重性ゆえに、人材教育は形式
主義に陥り、時代ニーズに柔軟に対応できないなど、多
くの非効率性が存在します。しかしながら、任務分
析と職務分析を重視する点は、「組織で仕事する」
がモットーの自衛隊の優れたノウハウであると考え
ます。
▼地位、役割の考察とは何か
任務分析は、前述のとおり、「指揮官が自らの地位
と役割を考察し、達成すべき目標とその目的を明ら
かにすること」ですが、地位と役割の考察について
解説を加えておきます。
小難しい説明はさておき、戦前の総力戦研究所の所
長などを歴任した飯村穣中将(※)の次の言を引用
しましょう。
「私が兵術研究の道程として選定し、深く掘り下げ
たものは、通俗的な次の言葉である。一、私は誰で
しょう。二、ここはどこでしょう。三、誰が、何が
、私をこうした、こうさせたか。(以下略)」(上
法快男『現代の防衛と政略』)
筆者は、ここには任務分析の本質が述べられている
と考えます。軍隊、企業に限らず、およそ、その組
織に所属する個人は、まず自分がどこに所属して、
どのような仕事を任せられているのかを認識する必
要があります。次に、視野をやや広くして、組織が
どこに向かっているのかを認識する必要があります。
すなわち、組織の目的やビジョンを理解しなければ
なりません。
さらに関係者の要求(誰)および仕事上のニーズ
(何)に対し、自分が行なっていることは整合して
いるかを考えなければなりません。要するに、「自
分の周囲にいる誰が私に何を求めているのか?」、
「私がやろうとしていることが誰のためになり、そ
れが組織全体のいかなる目標につながっているか?」、
「どの仕事が緊急かつ重要であるか?」などを考え
る必要があります。つまり、周囲をよく見渡して連
携をはかり、周囲とともに上司の意図を体するとい
う意識を持つことが重要です。
自分の任務と役割を認識することで、周囲の雰囲気
に流されない、ブレない信念が確立されます。その
信念あるいは自己の価値観を軸にすることで、「自
分が組織に対し、いかに貢献できるか、貢献するた
めに達成すべき具体的な目標は何か?」を明確にす
ることができると考えます。
(※)飯村譲中将は総力戦研究所において、研究生
とともに「総力戦机上演習」という、日米開戦とな
った場合の状況シミュレーションを行ない、日本の
敗北という結論を出した。この演習では、船舶の喪
失が生産量を上回り、戦争遂行が困難になること、
ソ連とアメリカが軍事的に協力することなど実際の
太平洋戦争をかなり正確に予測した。しかしながら
、研究所という性格もあり、この予測が実際の政治
的意思決定に何ら影響を及ぼさなかった。著名な思
想家である安岡正篤氏は、「飯村穣将軍は日本現存
の武人中恐らく唯一の名将というべき人であろう」
( 上法快男『現代の防衛と政略』1973年)
と述べている。
(つづく)
(うえだあつもり)
【筆者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防
衛大学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上
自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語学
課程に入校以降、情報関係職に従事。93年から9
6年にかけて在バングラデシュ日本国大使館におい
て警備官として勤務し、危機管理、邦人安全対策な
どを担当。帰国後、調査学校教官をへて戦略情報課
程および総合情報課程を履修。その後、防衛省情報
分析官および陸上自衛隊情報教官などとして勤務。
2015年定年退官。著書に『中国軍事用語事典(共
著)』(蒼蒼社)、『中国の軍事力 2020年の将来
予測(共著)』(蒼蒼社)、『戦略的インテリジェ
ンス入門―分析手法の手引き』『中国が仕掛ける
インテリジェンス戦争』『中国戦略“悪”の教科書―
「兵法三十六計」で読み解く対日工作』『情報戦
と女性スパイ』『武器になる情報分析力』『情報
分析官が見た陸軍中野学校』(いずれも並木書房)、
『未来予測入門』(講談社)。
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