配信日時 2021/09/09 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (340)】  神は賽子を振らない(19)

こんばんは、エンリケです。

一昨年と去年にお届けしたシリーズ

「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」

のつづきをお届けしています。

過去配信した内容はこちら
http://okigunnji.com/watanabe/category1/category45/


読んでいるだけで冷や汗が出ました。

さっそくどうぞ


エンリケ

追伸
著者多忙のため、次週の配信はお休みです。

追追伸
東京五輪は終わりました。
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』
を読み、大会全般の支援に当たった
わが自衛隊に思いを馳せます。
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「ライター・渡邉陽子のコラム」バックナンバー
https://okigunnji.com/watanabe/



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『ライター・渡邉陽子のコラム (340)』

 神は賽子を振らない(19)

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こんばんは。渡邉陽子です。

雑誌記事のお知らせです。

『丸』10月号に「第2師団集合教育 レンジャー 密着ルポ」が掲載
されます。レンジャー教育の卒業試験ともいえる3夜4日の最終想
定から帰還式までを追いました。これまで夏の北海道には何度も訪
れていますが、ぶっちぎりで最高に暑かったです……
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『PANZER』10月号に「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱
芳文の半生」最終回が掲載されます。被災地への6度の視察を終え
てから退官までの約2カ月間も、怒涛の日々でした。
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『正論』10月号「われらの女性自衛官」、今回は陸上自衛隊女性自
衛官教育隊の助教の紹介です。ときに入隊したばかりのひな鳥を、
ときに年上の先輩を、助教として指導するWACはものすごくかっこ
いいです。また、陸自2師団レンジャー教育の最終想定についても、
『丸』での掲載とは別の切り口でご紹介しています。
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■神は賽子を振らない(19)

3月15日、陸自ヘリによる福島第一原発への放水の検討が始まって
間もなくのことだ。
防衛省地下にある陸幕指揮所で放水作戦の準備を進めている火箱の
ところに、突然、及川防衛大臣補佐官が経産省官僚で補佐官付の戒
能(かいの)氏を連れてやって来た。そして「この男の話を聞いて
ください」と言う。
彼は驚くべきことを言った。

「陸幕長。2号機にホウ酸を撒いてください。今いちばん危ないの
は2号機です」

「え? 4号機や3号機じゃなくて2号機? 水じゃなくてホウ酸?」
この段階では、放水は4号機の燃料プールを最優先する方向で準備
が進んでいたし、公式の会議ではない場での申し出に火箱は戸惑っ
た。相手が切実な様子で、しかもチェルノブイリ原発事故を研究し
ているスペシャリストだったからだ。
しかも恐ろしいことを畳みかけるように言われ、あまりの衝撃の内
容に言葉を失った。

「2号機はすでにメルトダウンをしていると思います(実際、この
時点ですでにメルトダウンしていた)。場合によっては放射能が噴
き上げて、圧力容器や格納容器を溶かすメルトスルー状態になって
いるかもしれません」

ホウ酸は水素・酸素・ホウ素の化合物だ。ホウ素は中性子を吸収し
やすいので、ホウ酸をまけば核分裂反応は止まる。
しかしチェルノブイリでメルトダウンした4号炉が、ホウ酸や石灰
など5000tをまいて放射線放出量を下げたうえで外側をセメントで
固めた「石棺」のように、ホウ酸をまくことは廃炉を意味する。つ
まり、原発を抑え込む最後の手段ということだ。

石棺化については官邸から要請はまだない。しかし非公式ながらこ
のような依頼があった以上、最低最悪の事態に備えをしておかねば
ならないと考えた。
ホウ酸は水に混ぜたりせず、粉状のまま直接2号機にまく必要があ
るという。しかし2号機は爆発したわけではないので屋根がある。
つまりこれから予定されている放水のような建屋上空からのアプロ
ーチでは、ホウ酸が建屋内部にある原発の心臓部にまで届かない。

空自が撮影した2号機の航空写真を確認したところ、屋上に小さな
ひび割れが見えた。このわずかな隙間から、建屋内部へホウ酸を投
入できるかもしれない。

ヘリが建屋の真上でホバリングするためには、風下から入って機体
を風上に向けると安定するが、それでは一定の高さまで真っすぐ立
ち上り、そこから線香の煙のように風下に流れている放射能をもろ
に浴びてしまう恐れがあるので、風上から入ったほうが安全操縦上
はいい。技術的には難しくなるが、第1ヘリコプター団のパイロッ
トならば可能だと火箱は考えた。

では屋根のある原子炉にどうやってホウ酸をまくのか尋ねると、
「お任せします」という。ホウ酸はまいて欲しいが、その方法につ
いては依頼している側にも策がないのだ。
そこでホウ酸をスリングネットに入れてロープで吊るし、屋上のひ
び割れの部分から投入する方法を提案した。
粉状のホウ酸20kgを入れた袋を250袋、計5t分用意する。
そして建屋上空20mでホバリングしたヘリから、ホウ酸の重量に
耐えられるよう3本を束ねた70mのロープで吊るすという方法を
火箱は指示した。



(つづく)

(わたなべ・ようこ)


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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。


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