こんにちは。エンリケです。
『武器になる「状況判断力」』の八回目です。
二週ぶりの記事のテーマは、
軍隊式「状況判断」の思考手順
です。
読み手が日常に活かせる
「活きた知恵」
と感じます。
インテリジェンスの知恵を己の目の前の現実に
自由自在融通無碍に活かせたら、
はっきり言って、人生怖いものなしだと思い
ませんか?w
インテリジェンスには、
そういう強烈な魅力があります。
きょうも読み応えあります。
さっそくお読みください
エンリケ
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武器になる「状況判断力」(8)
米軍式「状況判断」の内容
インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)
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□はじめに
オリンピックでは日本選手がたくさんのメダルを
獲得しました。また、陸上種目ではメダル獲得はな
かったものの、中長距離の若手選手が日本記録を連
発し、将来への希望を抱かせました。
しかし、オリンピック開催の是非や成否をめぐっ
ての議論は止みません。民主主義国家ではさまざま
な意見があってしかるべきですが、個人の素直な意
見というよりも、マスメディアやSNSなどを経由
してのバイアスがかかった意見です。だから、国民
の「多数意見」あるいは国家の「全体意志」は奈辺
にあるかについて無性に知りたくなりますが、それ
は叶わぬ願いのようです。
さて、今回の謎かけは「日本の信号機は進行方向
に向かって左から「青、黄、赤」となっていますが、
それはなぜか?」です。
▼軍隊式「状況判断」とは?
これまで、「状況判断とは何か?」「状況判断力
は養成できるのか?」などについて解説してきまし
た。これから米軍や自衛隊などで採用されている状
況判断を軍隊式「状況判断」と呼称し、その思考手
順について解説します。
まずは、米軍の「フィールドマニュアル」の記述
内容を紹介します。ただし、本連載では米軍マニュ
アルそのものを理解することが目的ではありません。
よってマニュアルの内容はざっと要点のみを述べ、
その後、国際情勢判断や、一般社会やビジネスの場
などで汎用できるよう筆者独自の解釈を加えて解説
します。
なお、自衛隊教範『野外令』でも、状況判断の思
考手順を記述していますが、こちらの方は部内限定
となっています。ただし、その内容の本質部分は米
軍マニュアルとまったく同じです。
そもそも各国軍の状況判断の思考手順はほぼ共通
です。それにより言語や文化などが異なる各国の軍
隊の連合作戦を可能にしていると言っても過言では
ありません。
軍隊式「状況判断」の思考手順は少々複雑ですが、
要するに、目的と目標(戦略)の確立と、方法(戦
術)の案出方法を、なるべく順序立てて論理的に考
えるということに主眼があります。あまり枝葉末節
にこだわらず、大局的な理解に努めて下さい。
▼米軍が採用する「状況判断」の思考法
1984年の米軍マニュアル「FM101-5」
に基づき、「状況判断」の思考手順を述べます。な
お『勝つための状況判断学』(松村劭著)では、米
陸軍の「状況判断」の思考手順を簡潔に整理してい
ますので、同書を適宜に参考にします。
1 任務(※)
任務を分析して、具体的に達成すべき目標とその
目的を明らかにする。任務は通常、目標と目的をも
って示される。分析の結果、具体的に達成すべき目
標が2つ以上ある場合、優先順位をつける。
2「状況及び行動方針」
(2a)状況
【ア】地域の特性
我が任務に関係する作戦地域の気象(weather)、
地形(terrain)、 その他(other factors)
を要因として考察し、作戦地域の状況を認識する。
【イ】敵の状況
敵の配置(Dispositions)、編組(Composition)、
戦力( Strength)、重要な活動(Significant activity)
を把握し、特性および弱点(Peculiarities & weakness)
を明らかにする。この際、当面の敵のみならず増援
兵力、火力支援、航空支援、NBC(核、生物、化
学)兵器などの状況に注意する。
【ウ】我の状況
敵の状況把握に準じて我が状況を認識する。この
際、上下級の部隊、隣接する友軍等の現況を認識す
る。
【エ】相対的戦闘力
彼我の一般的要因、軍事的要因を定量的、定性的
に比較し、さらにこれらが地域の特性によってどの
ような影響を受けるかを考察し、考察した項目別に
彼我の強みと弱みを一表で表示するなどに留意する。
(2b)敵の可能行動の列挙
我の任務達成に影響するすべての可能行動を列挙
する。このため、任務、地域の特性、敵情、我が部
隊の状況を踏まえて、敵が能力的に取り得る行動を
列挙する。次いで、列挙した行動の場所・時期・戦
法などを考察する。次いで、我が任務にあまり影響
を及ぼさない可能行動は排除し、我が任務への影響
度の差の少ないものは整理・統合する。
敵情の分析や敵の可能行動の列挙は、通常は情報
幕僚が「幕僚見積(情報見積)」として実施する。
情報幕僚は自らの判断結果を指揮官に具申し、これ
を指揮官が総合的に判断する。指揮官は情報幕僚の
判断を採用することもあれば、拒否することもある。
さらに敵情の認識を深化させる、また幕僚見積のや
り直しを命じることもある。
(2c)我の行動方針の列挙
敵の可能行動を踏まえて、我が任務を達成する行
動方針を案出、列挙する。指揮官は作戦幕僚に1つ
か複数の行動方針を示し、作戦幕僚は指揮官の指針
に基づいて、さらに行動方針を案出する。指揮官は
作戦幕僚が提出した行動方針を採用、拒否、変更(
修正)する。
行動方針には、行動の形態(攻撃、防御など:W
HAT)、行動開始および完了の時間(WHEN)、行動
する場所(防御担当地域、 攻撃の一般方向など:WHERE)、
利用可能な手段(機動の方式、隊形、核および化学
攻撃の採用など:HOW)、行動の理由(WHY)を状況
に応じて含める。これらの内容をどの程度まで詳細
に明記するかは指揮官の判断による。
3 各行動方針の分析
敵の可能行動が我の行動方針どのような影響を及
ぼすかを考察する。このため、敵の可能行動と我の
各行動方針を組み合わせて(戦闘シミュレーション
の実施)、戦況がいかに推移し、戦闘の様相がどう
なるかなどを考察する。
分析を経て、我の各行動方針の特性や問題点が浮
き彫りする。さらに、これらを踏まえて我の各行動
方針の優劣を比較して、その妥当性や効果性などの
評価を行なうとともに問題点に対する処置、対策を
明らかにする。
分析を行なうことで、行動方針を比較するための
要因を明らかにしていく。要因は、地域の特性、相
対戦闘力、敵の可能行動などから、我が行動方針に
重大な影響与及ぼす要因を選定することになる。
4 各行動方針の比較
「各行動方針の比較」と同時並行的に実施する。
比較のための要因の重みづけ、とくに重視する比較
要因(加重要因)を明らかにする。
次いで、要員が各行動方針に及ぼす影響を考察し、
比較要因ごとに最良の行動方針を判断し、最後に総
合的に最良の行動方針を選定する。
5 結論
選定した行動方針に所要の修正を加えて、1H5
Wのうち所要の事項を定める。行動方針の決定が事
後の作戦計画の構想となる。
(※)米軍マニュアルでは「状況判断」の思考手順
の第1アプローチは、「mission」である。
これは翻訳すると「使命」となるが、日本語の使命
の意味は曖昧であり、使命感などから米軍の「mission」
の意味とはやや異なる解釈をしている。
「mission(使命)」という用語は、米軍の意思決
定では特別の意味をもっている。すなわち、米軍で
は「mission」を「直属上官の全体計画+指揮官の
任務」と定義している。「直属上官が自ら選んだ目
標+指揮官の与えられた目標」と言い換えることも
できる。あるいは、「使命(mission)は、
「目的(purpose)と任務(task)からなり、取る
べき行動とその理由が明確に定義されたもの」
(堂下哲郎『作戦司令部の意思決定』)とも定義で
きる。
一方、米軍では、「任務(task)」は「指揮官の
与えられた目標」と規定している。(アメリカ海軍
大学『勝つための意思決定』)
このように、米軍の「mission」と「task」には
差異があるが、陸上自衛隊の状況判断などでは「使
命」を使わず(旧軍もそうであったが)、「使命分
析」ではなく「任務分析」を使用する。ただし、自
衛隊の状況判断は米軍マニュアルの焼き直しなので、
ここでの任務は米軍の「mission」に相当する。
よって、「○○をやれ」という単なる命令・指示で
はなく、「上級指揮官が示す『なぜやるのか』とい
う目的(purpose)を含んだ全体計画(構想)と、
それに基づいて下級指揮官に示された目標を含んだ
概念であることを理解する必要がある。
(つづく)
(うえだあつもり)
【筆者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防
衛大学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上
自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語学
課程に入校以降、情報関係職に従事。93年から9
6年にかけて在バングラデシュ日本国大使館におい
て警備官として勤務し、危機管理、邦人安全対策な
どを担当。帰国後、調査学校教官をへて戦略情報課
程および総合情報課程を履修。その後、防衛省情報
分析官および陸上自衛隊情報教官などとして勤務。
2015年定年退官。著書に『中国軍事用語事典(共
著)』(蒼蒼社)、『中国の軍事力 2020年の将来
予測(共著)』(蒼蒼社)、『戦略的インテリジェ
ンス入門―分析手法の手引き』『中国が仕掛ける
インテリジェンス戦争』『中国戦略“悪”の教科書―
「兵法三十六計」で読み解く対日工作』『情報戦
と女性スパイ』『武器になる情報分析力』『情報
分析官が見た陸軍中野学校』(いずれも並木書房)、
『未来予測入門』(講談社)。
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