配信日時 2021/09/02 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (339)】  神は賽子を振らない(18)

こんばんは、エンリケです。

一昨年と去年にお届けしたシリーズ

「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」

のつづきをお届けしています。

過去配信した内容はこちら
http://okigunnji.com/watanabe/category1/category45/


パラリンピックも面白いですよね!


さっそくどうぞ


エンリケ

追伸
東京五輪は終わりました。
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』
を読み、大会全般の支援に当たった
わが自衛隊に思いを馳せます。
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「ライター・渡邉陽子のコラム」バックナンバー
https://okigunnji.com/watanabe/



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『ライター・渡邉陽子のコラム (339)』

 神は賽子を振らない(18)

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こんばんは。渡邉陽子です。
パラリンピックに夢中です。東京開催だからこそ、これほど多くの
時間を割いて全国委放送できているのでしょう。限られた体の機能
を極限まで鍛えて本番に臨む姿に、アスリートへの敬意だけでなく、
記録にも、競技そのものへの興味もかきたてられます。
実はフリーになってまだ何年も経っていない頃、パラリンピックの
車椅子バスケに5大会連続出場した方を取材しました。10数年ぶ
りにその原稿を読み直して、また熱い思いがこみ上げてきました。

現在発売中の『正論』10月号「われらの女性自衛官」、今回は陸
上自衛隊女性自衛官教育隊の助教の紹介です。ときに入隊したばか
りのひな鳥を、ときに年上の先輩を、助教として指導するWACは
ものすごくかっこいいです。また、陸自2師団レンジャー教育の最
終想定についても、『丸』での掲載とは別の切り口でご紹介してい
ます。https://amzn.to/2WIhoR8


雑誌記事のお知らせです。

『丸』10月号に「第2師団集合教育 レンジャー 密着ルポ」が掲載
されます。レンジャー教育の卒業試験ともいえる3夜4日の最終想
定から帰還式までを追いました。これまで夏の北海道には何度も訪
れていますが、ぶっちぎりで最高に暑かったです……
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『PANZER』10月号に「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱
芳文の半生」最終回が掲載されます。被災地への6度の視察を終え
てから退官までの約2カ月間も、怒涛の日々でした。
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『正論』10月号「われらの女性自衛官」、今回は陸
上自衛隊女性自衛官教育隊の助教の紹介です。ときに入隊したばか
りのひな鳥を、ときに年上の先輩を、助教として指導するWACは
ものすごくかっこいいです。また、陸自2師団レンジャー教育の最
終想定についても、『丸』での掲載とは別の切り口でご紹介してい
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■神は賽子を振らない(18)

3月18日
東電、自衛隊、消防庁、警察機動隊などが入り乱れ、放水と工事の
実施が混乱し始めていた現場を鑑みて、官民・省庁間の枠を超えた
調整の必要性が高まっていた。そこで細野豪志内閣総理大臣補佐官
の名の指示書が出された。

これによると、オフサイトセンターの指揮統制権を自衛隊が持ち、
指揮をしろという。

いくら原発が未曽有の緊急事態になっているとはいえ、自衛隊に対
する指揮権限を持たない首相補佐官名の指示書1枚で、自衛隊がほ
かの省庁を指揮できるわけがない。
警察の放水の指揮を要請されたときもそうだが、自衛隊が「指揮」
というときは、生殺与奪の権限を示す。究極の言い方をすれば「死
ぬかもしれないが行ってこい」と命令できる権限である。
結局、20日に改めて内閣総理大臣名による指示書が出され、自衛隊
は指揮するのではなく「自衛隊が現地調整所において一元的に管理
すること」と修正されていた。

この日は2度目のヘリの放水が予定されていたが、陸上での電源復
旧作業を優先するため中止となった。自衛隊の地上からの放水は実
施、その後予定より大幅に遅れて17時半過ぎに東京消防庁のハイパ
ーレスキュー隊が到着した。自衛隊が1回に放水できる量は50~60
トンだが、ハイパーレスキュー隊の機材だと1時間に100トン放水
できる。
ようやく到着したものの、原発内に散乱しているがれきが邪魔し、
海水を汲み上げるスーパーポンパーが岸壁まで近づけない。迂回す
ると3号機から離れすぎ届かない。しかもハイパーレスキュー隊は
機材設置が終わった段階で作業困難と判断し、放水しないままオフ
サイトセンターに撤収してしまった。その報告を受けた海江田万里
経産大臣は、「自衛隊が代われ!」と激怒したという。
結局、ハイパーレスキュー隊は自衛隊の援助を得て、日付が変わっ
た19日の夜中から未明にかけて2度の放水を実施、東京に帰った。
その後、ハイパーレスキュー隊長の涙ながらの記者会見を、事情を
知る火箱ら自衛官は複雑な思いで見た。

「放水用のキリン(大型コンクリートポンプ車)が到着するので、
原発内のがれきを除去してくれ」という要請もあった。
(それはうちにしかできないことなのか? ほかに頼めるところは
ないのか?)
喉まで出かかった言葉をぐっと飲みこみ、戦車に排土板をつけてが
れきを除去するよう指示した。
ところが今度は東電が「戦車がむき出しになっている配線を全部切
ってしまう」と慌て、結局ゼネコンが除去することになった。
(じゃあ最初からゼネコンに頼んでくれよ……)

放水と並行し、陸自内でいくつもの作戦が計画されていた。そのひ
とつが、最悪の状況になったときにおける東電社員の救出作戦であ
る。
いざとなったら放射線遮蔽効果が高い戦車や装甲車で突入できるよ
う、96式装輪装甲車、通称WAPCの上部に手すりをつけて改造したも
のを8両準備し、ピストン輸送で全員避難させる計画だった。この
ため中央即応連隊を「いわき自然の家」に待機させ、いつでも行動
に移せるように予行をくり返していた。
また、幻の作戦となった「鶴市作戦」も、公にされないまま粛々と
準備が進んでいた。



(つづく)

(わたなべ・ようこ)


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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。


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