配信日時 2021/09/01 09:00

【防衛省の秘蔵映像(30)】新防衛計画―海上自衛隊の地方隊ほか(3) 荒木肇

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こんにちは。エンリケです。

「防衛省の秘蔵映像」解説 第30回です。

地方隊の概略が頭に入りました。


さっそくどうぞ。


エンリケ


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防衛省の秘蔵映像(30)

新防衛計画―海上自衛隊の地方隊ほか(3)


荒木 肇
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 1995(平成7)年の映像紹介(3)
https://www.youtube.com/watch?v=qOvDvnV3bXY
 

□はじめに

 アフガンの日本大使館員の脱出には英国軍機が使
われたとか。マスコミ発表には「友好国の飛行機」
とのことで、ほうアメリカ軍ではなかったのかと思
いました。おりから沖縄付近では日英米蘭(オラン
ダ)の四カ国艦隊が協同訓練。英国空母を中心とし
た空母打撃群とわが「いせ」と「あさひ」が訓練を
行なっているという報道がありました。英海軍の
F-35Bや米軍のオスプレイも飛ぶ様子が見え、
英国との結びつきが目立つ近頃です。

 今回も海自の現状につながる平成7(1995)
年頃の海自の様子をご覧ください。


▼地方隊の成り立ち

 前回は海自の正面を受け持つ自衛艦隊、その隷下
の護衛艦隊、航空集団、潜水艦隊、掃海隊群、開発
指導隊群や直轄部隊についてお知らせしました。で
は、その他の艦艇や航空機はどこに所属するのかと
いう問題です。この平成7(1995)年の新大綱
では、地方隊の護衛隊10個隊が同7個隊に減らさ
れるといわれています。この地方隊について調べて
みました。

 わが国を5つの地区に分けます。これを警備区と
いいますが、陸自の警備隊区と似た言い方です。昔
の海軍では鎮守府(ちんじゅふ)、「警備府」とい
った組織にあたります。担当区域の海上防衛、すな
わち沿岸防備、港湾警備、海峡監視、対潜哨戒、掃
海と区域内の行政組織との交渉などを行ないます。
あわせて自衛艦隊に対しての後方支援などを任務と
します。

 地方総監部は5つあります。北から大湊(おおみ
なと・青森県)、横須賀(神奈川県)、呉(広島県)
、佐世保(長崎県)、舞鶴(京都府)です。大湊の
ほかは戦前からの有名な軍港があり、鎮守府のあっ
たところですからご存じの方も多いでしょう。指揮
官は海将(列国の中将)で補佐役は幕僚長(海将補
同じく少将)。監理部、防衛部、経理部、監察官、
技術補給管理官、衛生管理官などから成っています。

 組織は地方総監部、護衛隊、掃海隊、ミサイル艇
隊、基地隊、航空隊、教育隊、通信隊、防備隊、警
備隊、基地業務隊などです。そのほかに調査隊、衛
生隊、音楽隊、水雷調整所、補給所、造修所、航空
工作所、直轄艦などで、地方隊ごとにこれらの部隊
を組み合わせています。

 配備される護衛隊の主力はDE(デストロイヤー・
エスコート)といわれる小型護衛艦が主力となりま
す。

▼各地方隊の態勢

 大湊地方隊は、ロシアとの国境を接する北方海域
を受け持ちます。宗谷、津軽の両海峡の海上監視を
担当するので、第23と35護衛隊が配備されてい
ます。空の部隊は大湊航空隊のヘリがあり、北海道
には函館基地隊(第17掃海隊)、余市(よいち)
防備隊(第1ミサイル艇隊)、稚内(わっかない)
基地分遣隊が配備されています。直轄艦は輸送艦「
ねむろ(LST4103)」と「きたかみ(元DE
231で特務艦ASUに1990年に変更)」です。

 横須賀地方隊は岩手県から三重県までの太平洋岸
を受け持つ第33、第37護衛隊、第46掃海隊が
ありました。小笠原父島(東京都)は基地分遣隊が
あり、直轄艦には南極観測支援の砕氷艦「しらせ
(AGB5002)」と輸送艦「あつみ(LST4
101)」と輸送艇2号(LCU2002)です。
輸送艇2号は590トンだった「ゆら」型と同じ運
用構想で沿岸や離島への物資輸送を目的としたもの
でした。排水量は420トンと小柄ですが、車輌甲
板の面積は広く、艇首部のドアは門扉タイプではな
く、下に開くランプ・ドアのみです。

 呉地方隊は瀬戸内海を含み、和歌山から宮崎県ま
でを受け持ちます。艦艇部隊としては第22、38
護衛隊のほかに第101掃海隊です。この掃海隊は
瀬戸内海の浅海面の掃海にあたります。また阪神基
地隊(ミニ総監部のような組織)の中に第15掃海
隊と第1港湾哨戒隊がありました。

 呉に隣接する吉浦には大きな貯油所があります。
3自衛隊にすべてに供給する油を保存しています。
紀伊水道地区の港湾警備、対潜哨戒にあたるヘリ部
隊として小松島航空隊(徳島県)もあります。直轄
艦は輸送艦「ゆら(LSU4171)」です。大型
のLSTのように戦車を搭載することを考えないの
で、車輌甲板はトラックなどの一般車両用になって
います。

 佐世保地方隊は山口県から対馬海峡を経て東シナ
海、台湾海峡付近まで、鹿児島県から南西諸島、琉
球列島と沖縄県、その担当海域は地方隊最大です。
下関と沖縄に基地隊があり、奄美大島には基地分遣
隊があり、対馬海峡の監視のために対馬防備隊もあ
ります。

 艦艇部隊は第34、39護衛隊、下関に第11掃
海隊、沖縄に第13同、直轄艦は輸送艦「もとぶ(
LST4102)」と輸送艇1号でした。横須賀の
同2号の同型艇です。航空隊は長崎県大村にあり、
HSS2Bが配備されていました。

 最後は舞鶴地方隊です。秋田と島根の間の日本海
を担当します。第2、第31護衛隊と第12掃海隊
が配備され、直轄艦は「のと(LSU4172)」
です。「のと」は「ゆら」と同型で全長58メート
ル、幅9.5メートル、12ノットを出して命名の
由来の能登半島の近くで頑張っていました。

 この5個地方隊におかれた護衛隊10個を8個に
減らすことになりました。


▼海自のDE

 1995年現在で海自が保有していたDEは3タ
イプです。9隻でした。すべて当初から地方隊に配
備するように計画され、建造されました。ガスター
ビンとディーゼルによる複合推進艦ばかりです。

 たとえば大湊地方隊に所属していた第27護衛隊
は「ゆうべつ」、「いしかり」、「ゆうばり」とい
う3隻で編成されていました。「ゆうばり」と「ゆ
うべつ」は同型艦で、基準排水量も1470トンと
護衛艦隊のDDとは大きさが違います。最大速力も
25ノット(約46キロメートル)でDDが同じく
30ノット(約55キロ)を出すガスタービン艦で
あることとは性格が異なることが明らかです。

 平成元(1989)年から5年にかけて6隻が就
役したDEがあります。すべて地方隊配備用です。
「あぶくま(DE229)」をネームシップ(同型
艦の中でもっとも早く就役した艦)とする「じんつ
う」、「おおよど」、「せんだい」、「ちくま」、
「とね」と名付けられました。詳しい方なら、帝国
海軍では河川の名前がつけられた2等巡洋艦を思い
出されることでしょう。

 船体はずいぶん大きくなり、基準排水量は200
0トン、全長109メートル、速力は27ノット(
約50キロメートル)、護衛艦で初めて対レーダー
・ステルス対策を初めて導入しました。敵のレーダ
ー波を反射しにくい形です。

 武装も強力でヘリコプターこそ搭載しませんが、
76ミリ単装砲、20ミリCIWS(近接防御シス
テム)、ハープーン対艦4連装発射筒2基、アスロ
ック8連装発射機1基、3連装短魚雷発射管2基と
いうものです。

同時期のDD、たとえば「はつゆき」型は昭和57
(1982)年から昭和62(1987)年まで1
2隻が就役しました。オール・ガスタービン艦で、
速力は30ノット(約56キロ)、基準排水量は2
950トン(「やまゆき」以下4隻は3050トン)
、前にも調べた「八八艦隊」用の汎用護衛艦になり
ます。搭載ヘリはHSS‐2Bでした。この護衛艦
隊用の強力なDDが地方隊の削減後(同時にDE
は削減)に、地方隊の護衛隊に回されてゆきました

 
▼教育航空集団

 航空機乗員を養成するための部隊群です。司令部
は千葉県の下総(しもうさ)基地にあります。隷下
には下総、徳島(徳島県)、小月(おづき・山口県)
の各教育航空群と、直轄する教育航空隊(鹿児島県
鹿屋基地)で編成されていました。

 海自にはパイロットと肩を並べる戦術航空士とい
う搭乗員がいます。対潜水艦戦闘の指揮をとるのが
仕事です。当時は航空機の基礎を学び、単発の練習
機(KM2/T5)で操縦基礎を学び、計器飛行
(TC90)を経て、実用機のP-3CやOH6、H
SS2などで飛んでゆきます。戦術航空士課程はY
S11TAで訓練を受けました。

 各航空群は、司令部、教育航空隊、支援整備隊、
航空基地隊(救難飛行隊)などから成っています。

▼長官直轄部隊

 中央通信隊群という海幕と各地の海自基地、艦艇・
航空基地を結ぶ部隊がありました。司令部、東京通
信隊、移動通信隊、通信保全業務隊などで成ってい
ました。市ヶ谷にありました。

 海洋業務隊という横須賀に司令部があり、対潜資
料隊、沖縄海洋観測所、下北海洋観測所をもつ部隊
があります。海洋観測艦「あかし(AGS5101)」、
「ふたみ(前同5102)」、「すま(前同510
3)」、「わかさ(前同5104)」、音響測定艦
「ひびき」、「はりま」と敷設艦「むろと」の直轄
艦がありました。

 敷設艦というのは記号ARCとされます。
Auxiliary Repair and Cablelaying とあるように
水中兵器や海底電纜の敷設を任務とします。当時の
「むろと」は昭和52年度計画艦であり昭和55
(1980)年に竣工しました。基準排水量は45
00トン、全長133メートル、幅17.4メート
ルというけっこうな大きさです。

▼練習艦隊

 旗艦「かとり(TV3501)」を先頭に第1練
習隊、「やまぐも」、「まきぐも」の3隻が江田島
の海自幹部候補生学校を出発する映像もたくさん残
されています。「かとり」は昭和41年度計画艦で
、後継艦は「湾岸戦争」のおかげで建造が中止され
ました。昭和46(1971)年から毎年、実習幹
部の遠洋航海に出かけています。

 「やまぐも(TV3506)」と「まきぐも(同
前3507)」は平成3(1991)年度に護衛艦
から練習艦に種別変更されました。基準排水量は2
050トン、艦内のアスロックの弾庫を改造して実
習員用の講堂にしたくらいで護衛艦当時と外観はあ
まり変わりません。

 次回はいよいよ新大綱の解説の最後です。航空自
衛隊の組織と編成について調べてみます。


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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