配信日時 2021/08/26 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (338)】  神は賽子を振らない(17)

こんばんは、エンリケです。

一昨年と去年にお届けしたシリーズ

「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」

のつづきをお届けしています。

過去配信した内容はこちら
http://okigunnji.com/watanabe/category1/category45/

月刊「PANZER」での渡邉さんの連載「神は賽子を振らない」
が最終回を迎えました。
毎号楽しみにしてましたので、これから少し寂しくなります。

きょうの記事には、

渡邉さんの筆致でないと伝わらないかもしれない。

そんな、現場の空気感がヒシヒシ伝わる箇所がありました。

さっそくどうぞ


エンリケ

追伸
東京五輪は終わりました。
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』
を読み、大会全般の支援に当たった
わが自衛隊に思いを馳せます。
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「ライター・渡邉陽子のコラム」バックナンバー
https://okigunnji.com/watanabe/



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『ライター・渡邉陽子のコラム (338)』

 神は賽子を振らない(17)

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こんばんは。渡邉陽子です。
『PANZER』で連載し、現在このメルマガでも一部をご紹介している
「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」が今週
発売の10月号で完結しました。全30回、人の半生を書かせていただ
くことは、回を追うほど重みを増しました。最後まで忍耐強くお付
き合いくださった火箱氏に感謝するばかりです。


『丸』10月号に「第2師団集合教育 レンジャー 密着ルポ」が掲載
されます。レンジャー教育の卒業試験ともいえる3夜4日の最終想
定から帰還式までを追いました。これまで夏の北海道には何度も訪
れていますが、ぶっちぎりで最高に暑かったです……
https://amzn.to/3goByGN

『PANZER』10月号に「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱
芳文の半生」最終回が掲載されます。被災地への6度の視察を終え
てから退官までの約2カ月間も、怒涛の日々でした。
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雑誌記事のお知らせです。

『丸』10月号に「第2師団集合教育 レンジャー 密着ルポ」が掲載
されます。レンジャー教育の卒業試験ともいえる3夜4日の最終想
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『PANZER』10月号に「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱
芳文の半生」最終回が掲載されます。被災地への6度の視察を終え
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■神は賽子を振らない(17)


3月17日
8時58分、通常業務の搭乗ローテーション通りに乗り込んだ隊員た
ちを乗せたチヌークが霞目駐屯地を離陸した。
放水のためのメンバーを志願制にしなかったのは、隊員の練度が変
わらず、誰が任務に当たっても結果は同じという第1ヘリ団の任務
意識の高さと矜恃ゆえだ。

2機のチヌークによって計30トンの海水が原子炉に放水されたシー
ンは、国民の多くがテレビで目にしたことだろう。
作戦を立てるのが困難な中での放水は、どこまで効果があったのか
わからない。しかし、無人機ではなく有人のヘリがここまで近づけ
るということを初めて示せた意義は大きかった。そしてこの放水が
「日本政府は原発に対してなにをしているのか」と不信を募らせて
いた米国の態度を変えるきっかけにもなった。また、東電の原発再
興意欲の振作(しんさく:勢いをふるい起こすこと。)となったと
火箱は自負している。
ただし、その日の陸幕長定例記者会見では、火箱は記者たちに「隊
員の被ばくはどれくらいか、健康への影響はないのか」から「陸幕
長が無理に行かせた無謀・無意味な作戦ではないか」「陸幕長は隊
員の命を平気で危険にさらさせたのではないか」まで、随分と責め
立てられた。非難の矢面に立つのも陸幕長の役目かもしれなかった


ヘリからの放水後は、地上から3号機へ放水することになった。
陸海空各自衛隊は、それぞれ航空基地に航空機の事故に備えた高機
能な化学消防車を所有している。
前日の16日に統幕長から指示があったので準備を進めていると、今
度は防衛大臣が「陸幕長、警察が放水をやりたいと言っている。自
衛隊が警察の放水を指揮できるか?」と聞いてきた。機動隊がデモ
隊鎮圧のために用いている高圧放水車を使うという。
省庁の枠を超えた指揮は難しい。現場の人間に、そんな重いものを
背負わせるわけにはいかない。
「うちが指揮して警察官が死んだりしたら『誰の命令でやったんだ』
と問題になります。われわれが警察部隊に対してやれることは援助
までです。たとえば化学防護隊がそばにいて、放射線量が高いから
撤退しろというような側面援助は可能です。それでよろしければや
ります」
大臣もそれで了承した。どうも警察は、自分たちが最初に放水した
いらしい。要求通り、自衛隊の地上からの放水は警察の直後に実施
することにした。

そして17日、ヘリからの放水後はすぐさま警察が地上から放水を実
施するという話だったのに、当日朝、自衛隊との待ち合わせ場所に
なかなか警察が集まらない(自衛隊は正午前には予行も済ませ待機
していた)。
結局、警察が放水を始めたのは19時過ぎで、しかも一部放水した
ところで水の勢いが弱まり届かなくなってしまった。それでも最初
に放水できたからいいということなのか、これ以降は二度と放水は
しなかった。警察の後は自衛隊が放水を実施した。翌日も自衛隊は
放水を行い、次いで東電も放水した。




(つづく)

(わたなべ・ようこ)


過去記事はこちら
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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。


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