配信日時 2021/08/18 09:00

【防衛省の秘蔵映像(28)】新防衛計画―平成の大軍縮(1) 荒木肇

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こんにちは。エンリケです。

「防衛省の秘蔵映像」解説 第28回です。

いまの陸自の態勢ができた当時の話です。
まだほんの少し前、という感じがします。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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防衛省の秘蔵映像(28)

新防衛計画―平成の大軍縮(1)

荒木 肇
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1995(平成7)年の映像紹介
https://www.youtube.com/watch?v=qOvDvnV3bXY

□はじめに

 線状降水帯により記録的な大雨被害が起きていま
す。九州、中国、近畿、中部の知人からは、記録が
更新される降水量について、水害についてお知らせ
をもらいました。梅雨の再来です。気象が変わって
きているのでしょうか。

 コロナ禍も収まらず、新しい株に変異し、政府、
自治体はまた人流を減らせと同じようなことを言っ
ています。飲食業界に親しい人が多いわたしは、な
んとも具体的な応援ができません。酒類の提供禁止、
営業時間の短縮、複数人での会食禁止、このまま
では飲食業界もお先真っ暗です。

 とうとう首都圏では、デパートの地下食料品街も
入店制限とか。事実をきちんと発表しながら為政者
も的確な手を打つことが出来ないのでしょうか。あ
れよせ、これよせ、出かけるな・・・我慢すれば、
ほんとうに良くなるのか。人流を減らし、同時に交
流も不可能にしてしまいました。

 今回から数回にわたって「新防衛計画」、平成7
年の「07(まるなな)大綱」についてご紹介した
いと思います。いまの事態、自衛隊の現状につなが
る重要な内容です。


▼平成の大軍縮

 映像はいきなり新しい防衛計画の解説に入ります。
街角インタビューで年齢層の異なる方々に「自衛隊
に何を期待するか」という問いを出していました。

ある男性は、「軍隊になるわけではないから、もっ
と防衛費を増やすべき」と答え、壮年の男性は「し
っかり国防をしてもらいたい。しかし、防衛費は増
やすな」と言い、若い女性は「防衛技術の移転など
を工夫したら」、落ち着いた女性は「災害などで指
揮命令系統がしっかりしていないから不安」とまち
まちな答えが返ってきています。

1995(平成7)年11月28日、連立政権の首
班村山富市首相が率いる閣議は「新防衛大綱」を決
定します。この大綱は20年ぶりに見直されたもの
で、平成8年度以降に関わる防衛計画の大綱であり、
翌年「中期防衛力整備計画」も見直しが決まります。
ポイントは3つです。

(1)合理化・効率化・コンパクト化が標榜されま
した。総兵力や装備の大削減です。とりわけ陸上自
衛隊がその姿を大きく変えることになりました。陸
自はさまざまな議論を経ながらも、一応は拡大と発
展の道をたどってきました。戦略単位としては13
個師団と2個混成団を育ててきたのです。人員数も
定数は18万人でしたが、今回の新大綱によって定
数は16万人、9個師団と6個旅団という編制に変
わることになりました。

(2)機能の充実・質的向上を挙げています。これ
までのような他国からの侵略事態だけでなく、大規
模災害など多様な事態に有効に対応できるようにす
るとしました。この年の初めに起きた阪神・淡路大
震災で自衛隊の評価は大きく高まりましたが、正面
から大規模災害への対応をうたったのは初めてです。
装備の更新・近代化、情報・指揮通信機能の充実、
技術研究開発の推進などを図り、必要な機能の充実
及び防衛力の質的な向上に努めるとあります。

(3)弾力性の確保もうたわれました。いままでの
予備自衛官に加えて、即応予備自衛官を確保し、有
事などの事態の推移に円滑に対応できるよう、防衛
力に弾力性をもたせるようにします。18万人体制
といいながら、実際のところ決して定員が満たされ
たことはありませんでした。定員通り人がいない、
そうしたことを低充足といいますが、充足率を上げ
るためのリストラをするということになります。

▼世界の流行-軍備縮小

 1980年代後半から90年代にかけての東西冷
戦の終結、東側諸国の民主化、まさに世界の大勢が
変わりました。ヨーロッパでも自由主義諸国のNA
TO(北大西洋条約機構)軍と社会主義体制諸国の
ワルシャワ条約機構軍が対峙し続けた半戦時体制も
終わります。ヨーロッパ諸国では軍備縮小の嵐が吹
きました。英国もドイツも、みな火砲や戦車を減ら
します。


 だからといって欧州とアジア情勢は必ずしも同じ
ではないのに、軍縮の気分はわが国にもやってきま
す。まるで70年前の世界大戦後と同じように、「
もう戦争は起きない」、「敵がいなくなった」とマ
スコミも、平和主義者の学者たちも声を揃えました。
わが国の歴史でも同じことが繰り返されます。

大正時代のマスコミや識者と同じように、評論家や
軍事ジャーナリスト、学者という人たちが「陸上兵
力は非生産的だ」、「もう戦争も起きないのに」、
「ロシアは友好国だ」、「中国は友達だ」と口をそ
ろえて言いました。政治家もまた、根拠のない数字
を持ちだして、兵力の削減を言いだします。

時代はまさにバブル経済崩壊から、まるで将来が見
通せない大不況の真っ最中でした。財政負担の削減、
それは自衛隊のリストラだとなったのです。四半
世紀後には中国が強大化すること、北朝鮮が核兵器
をもって周辺諸国への恫喝に使うことなど、誰も考
えていませんでした。

 映像では戦車が1200輌から900輌に、海自
の護衛艦が60隻から50隻へ、空自は戦闘機を3
50機から300機に減らされることが説明されて
います。


▼減ってしまった新装備と訓練の紹介

 新しい装備の紹介には陸自の「96式多目的誘導
弾システム」と海自護衛艦の戦闘指揮システム、空
自のF-15Jしか出ていません。この96式多目
的誘導弾システムは通称「重MAT」といわれた7
9式対舟艇対戦車誘導弾の後継として開発されまし
た。着岸する前の敵上陸用舟艇の撃破や遠距離から
の対戦車戦闘を任務とします。

 ミサイルは、上空から赤外線シーサーで目標を探
し、赤外線画像をファイバーで射撃指揮装置に送り
ます。射手はTVモニターで画像を見ながら識別し、
追尾指示を送り、ミサイルは画像追尾によって目
標に命中というシステムです。射程は約8000メ
ートルといわれますから、師団対戦車隊や普通科連
隊対戦車中隊に配備されれば、戦力の向上になるで
しょう。

 しかし、「新大綱」は大規模な災害や、国際平和
協力活動を正面に掲げました。国連平和維持活動(
PKO)や人道的国際救援活動、海外の災害への国
際緊急援助活動などへシフトしてゆきます。単なる
国防組織、国内への災害派遣活動組織ではなく、海
外へも出かけることがふつうの組織になったのです。

 先年ようやく活動を終えたゴラン高原派遣輸送隊
も出かけます(平成8年1月)。その初代隊長が、
後にイラクにも出かけた佐藤正久参議院議員です。
佐藤2佐の若いころの映像が出ていました。また、
政府専用機を使った「在外邦人救助訓練」も行なわ
れます。地下鉄サリン事件もありました。予想もし
ない災害でした。化学科部隊の活躍が報じられまし
た。

 映像にはそれまで紹介されたこともない給水車や
炊事車、野外風呂などが登場します。海自も輸送艦
で被災地への物資輸送を行なっていました。雲仙天
草普賢岳の災害派遣の終了に際して当時の長崎県知
事が「地球より重い人命があり、人命より重い使命
感を見ました」と自衛隊の活動を讃える挨拶があり
ました。

▼陸自の編成替え

 自衛隊の経費の中でもっとも高い比率を占めるの
は人件・糧食費です。企業などではリストラといえ
ば解雇というイメージでしたが、3自衛隊で何より
も大ナタを振るわれたのが人員削減でした。とくに
陸上自衛隊が対象となりました。

 削減前の陸上自衛隊の編成を説明しましょう。当
時は防衛庁長官のスタッフである「陸上幕僚監部(
ふつう陸幕という)」、方面隊以下の「実働部隊」、
その第一線部隊を支える後方部隊の「補給・教育・
行政等」の3種に分かれます。「実働部隊」は「方
面隊」と「その他の長官直轄部隊」に分かれます。

 方面隊(方面総監を長とする。階級は陸将)は、
わが国を5つのブロックに分けて、各方面隊には総
監部と2個から4個の師団、その他の総監直轄部隊
があります。直轄部隊は、混成団、特科団(砲兵旅
団)または特科群1個、施設団(工兵旅団)1個、
教育団もしくは教育連隊1個、その他長官が定める
部隊です。

 師団(指揮官は師団長、階級は陸将)は師団司令
部と普通科(歩兵)連隊3個から4個、(ただし第
7師団=機甲師団だけは1個普通科連隊と3個戦車
連隊、高射特科連隊1個)、戦車大隊1個、特科連
隊1個、後方支援連隊1個、施設大隊、通信大隊、
高射大隊、航空隊などで編成されています。

師団は、北部方面隊に4個、東北方面隊に2個、東
部方面隊に2個、中部方面隊には3個師団、西部方
面隊には2個師団と合計13個、四国と沖縄にはそ
れぞれ1個混成団が置かれていました。この15個
の戦略単位を、9個師団6個旅団に大改革を行なっ
たのです。

▼師団の個性化

 師団として存続が決まったのは、北部方面隊の第
2(旭川)、第7師団(千歳)、東北の第6(山形
県神町)、第9師団(青森)、東部は第1師団(東
京)のみ、中部は第10(名古屋)、第3(兵庫県
伊丹)師団、西部は第4(福岡)、第8(熊本)で
す。
旅団(旅団長は陸将補)になったのは第5師団(帯
広)、第11師団(札幌)、群馬県の第12師団
(榛東村)、広島県の第13師団(海田市)でした。
沖縄の第1混成団と四国の第2混成団は、それぞれ
旅団になります。

 この改編で運用構想も大きく変わります。防衛上、
特に重要な地域とされているのが、宗谷海峡(担任
は第2師団)、津軽海峡(同第9師団)、京浜地域
(同第1師団)、阪神地域(同第3師団)、九州北
部(同第4師団)でした。

これに加えて、「上記に準じた重要性を有する地域」
として、根室海峡(担任は第5旅団)、石狩湾(同
第11旅団)、沖縄(同第15旅団)があげられま
した。

 注目されるのは、これまでの北方重視、対ロシア
一辺倒というより、西方への対処、すなわち対北朝
鮮も警戒するようになってきたことです。また師団・
旅団の役割から、第1、第3、第4の各師団は「政
経中枢師団」といわれ、「沿岸配備師団・旅団」は
第2、第9師団、第11旅団、第15旅団のことを
いいます。

 第13、第12の各旅団、第6、第10、第8の
各師団は「戦略機動旅団・師団」となりました。と
りわけ群馬県榛東村(相馬原駐屯地)の第12旅団
は「空中機動旅団」といわれ、輸送用大型ヘリコプ
ターをもちました。

 これまでのように、全13個師団が「金太郎飴」
のように、どこも同じ編成・装備をもつようなもの
でなくなったことが大きな変化でした。旭川の第2
師団を例とすれば4個普通科連隊に戦車連隊1個
(他の師団には大隊です)が付きました。また特科
連隊(4個大隊)は1個大隊が3個中隊(15門)
となり、第5大隊がつき、MSSRといわれた75
式自走多連装ロケット弾発射機が配備されます(の
ちに多連装ロケットシステムMLRSに改編されま
した)。敵の着上陸に対処し、海岸で撃滅する戦力
を必要とするからです。

 師団の人員規模は9000人ないし7000人。
これに対して旅団は4000人です。旅団普通科連
隊は「軽」普通科連隊といわれます。師団普通科連
隊は本部管理中隊の他に重迫撃砲中隊や対戦車中隊、
小銃中隊が4個といった大規模なものですが、それ
と比べて軽量化しています。本部管理中隊と3個中
隊です。旅団には戦車中隊、旅団特科隊、同施設隊
などという規模を小さくした支援部隊がついていま
す。

 もともと、旅団では連隊をなくして普通科大隊を
設けるつもりだったという話を聞きました。でも、
地域の支援者の方々やOBたちの気持ちを考えると
伝統ある連隊旗(自衛隊旗)を返納させ、名称もな
くすということは人情として忍び難く、結局、連隊
をなくすことはできなかったそうです。

 昔の陸軍の話を思い出します。大正時代の軍縮で
4個師団の16個歩兵聯隊、4個騎兵聯隊がなくな
りました。大きな衝撃だったそうです。また、伝統
ある旅団の名称が復活したのは嬉しくも思ったもの
です。混成団という名称も諸兵科混成の独立混成旅
団を思わせるものでした。

▼即応予備自衛官とコア連隊

 自衛隊には予備自衛官という制度があります。元
自衛官が志願し、審査に合格すると、年間5日間の
訓練出頭が必要とされる予備自衛官(予備自)とな
れます。防衛出動命令が発せられると招集され、後
方支援や警備部隊の勤務に就くのが原則です。定員
は当時、4万7900人でした。

 新大綱では、これと異なる「即応予備自衛官」と
いう制度がスタートしました。「即自(そくじ)」
と言っています。年間30日の訓練に出頭して定員
は1万5000人です。現役の「常備自衛官」は1
4万5000人、これで定数16万人になっていま
す。

 普通科を例にとると、師団普通科連隊は4個、う
ち1個がコア(核)といわれる招集された即応予備
自衛官が主になる連隊になります。勤務する常備自
衛官を基幹(きかん)要員といい、連隊長はじめ中
隊長や本部勤務員は合わせて2割、そこへ8割の即
自が招集されてきます。防衛出動だけでなく、災害
派遣のときにも招集されるのが即自です。

 いまも即応予備自衛官の募集は行なわれていて、
協力する企業には協力金も支払われているようです。
年間で30日は訓練に応じているので、雇用する企
業にも迷惑をかけるからという主旨なのでしょう。

 次回は海上自衛隊の当時の新大綱対処について考
えてみましょう。
 


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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