こんにちは。エンリケです。
『武器になる「状況判断力」』の七回目です。
前回のクイズ
「愛知県でなぜ交通死亡事故が多いか?」
の答え合わせ。
あなたはいかがでしたか?
ちなみにわたしは正解でしたw
なんとはなくうれしいですねw
さてきょうは、<センスを向上させるための秘訣>です。
〝文字による可視化〟
ということばに「ハッ」としました。
マニュアル化は暗黙知の形式知化である。
との指摘も誠にその通りですね。
私の場合、
新卒で入った会社で最初にやらされた仕事がマニュ
アル作成でした。当時を懐かしく思い出しています。
日常生活でもどんどん活用してください。
きょうも読み応えあります。
さっそくお読みください
エンリケ
追伸
冒頭文にもある通り、
本連載の配信は2週間お休みをいただきます。
次回配信は9/7の予定です。
ご意見・ご感想・ご要望はこちらから
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武器になる「状況判断力」(7)
センスを高める秘訣──暗黙知を形式知に置き換え
る
インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)
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□はじめに
こんばんは。「武器になる状況判断力」の7回目
です。
前回の謎かけは、「交通事故死亡者数で愛知県は、
2016年から2018年まで全国1位、2019年から2020年
は全国2位です。なぜ愛知県では死亡事故が多いの
か?」でした。
その答えは「都道府県別の車両数が愛知県は最も
多いから」です。「愛知県の運転手は気が荒い」と
答えた人は正解ではありません。車10万台あたり
の交通事故死亡者数では愛知県は全国的に下位です。
統計数字は気をつけなければ、誤った判断をする
という一例です。
前回は、パイロットを例に挙げて、状況判断力は
養成できるということを解説しましたが、今回は消
防士を例に、センスを向上させるための秘訣を考え
てみたいと思います。なお、今回で「武器になる「
状況判断力」」の第1章は終わります。2週間ほど
お休みをいただいて9月7日より、第2章の「軍隊
式「状況判断」の思考手順」を解説します。
▼冷静な状況判断力が必要に消防士
消防士もパイロット同様に高度な状況判断力を必
要とします。消防士に向いている資質、性格、適性
などについてネット検索しますと、「体力」、「正
義感」、「使命感」などともに「冷静な状況判断力」
という表示に接します。
消防士は危険な状況の中で、一刻一秒を争う生命の
救出作業に携わるのですから高度な状況判断力が求
められるのは当然です。
しかし、正義心だけで、自らの命を顧みず、無鉄砲
に火の中に飛び込んでくことは勇気ある行動ではあ
りません。現場を混乱させるだけで、チームに迷惑
をかけることになります。だからこそ、周囲の状況
をみながらの冷静な状況判断力が必要となります。
▼某消防隊長の咄嗟の状況判断力
ゲーリー・クライン『決断の法則』では、状況判断
に関するさまざまな事例を扱っています。その中で、
次のような某消防隊長の話がでてきます。
「ある消防士のチームが火災現場に駆けつけ、火元
とおぼしき台所で消火作業を始めた。ところが放水
を初めてすぐに消防隊長は自分でも分からないまま
に『早く逃げるんだ』と叫んでいた。ちょうど全員
が退去した直後、床が焼け落ち、間一髪でチーム全
員の命が救われた。
実は、火元は一階の台所ではなく、消防士たちが立
っていた床の真下の地下室であった。もし隊長が叫
ばなければチーム全員は地下の火の渦に巻き込まれ
たのである。」(『決断の法則』から筆者が抜粋、
再編集)
▼なぜ消防隊長は咄嗟に正しい状況判断ができのか?
では、隊長はどうしてこのような咄嗟の状況判断が
できたのでしょうか。
最初は隊長も、なぜ咄嗟に適切な判断が下させたの
か自分でもわかりませんでした。隊長は言いました。
「危険の第六感がした。でも、『何かがおかしい』
とは感じたが、自分でもどうしてあのように叫んだ
のかもわからない。」
「どうして、あのような絶妙なタイミングで避難の
指示が出せたのですか?」と尋ねる隊員に隊長は次
のように答えました。
「正直言って、オレにもよく分からない。神秘的だ
ね。強いて言えば直観かな。すぐさま退避しないと
やばいということを、直観が教えてくれたんだ」
隊員は「いつか、あんなにすごい直観が、われわれ
にも備わるんでしょうか?」と言いました。そこで、
隊長は自分が突然得た直観を「隊員に具体的に教
えられるのか、具体的に教えられればすばらしいだ
ろう」と考えたのです。
結論から言えば、このような直観は、隊員が具体的
に学ぶことは可能です。なぜならば、「直観は、決
して神秘的なものではなく、科学的に説明できるか
ら」(北岡元『速習!ハーバード流インテリジェン
ス仕事術─問題解決力を高める情報分析のノウハウ』)
です。
しばらくたって消防隊長は、3つの「なんとなく変
だ」と思っていたことがある、と言い出しました。
1)あれだけの放水をしながら、火が弱まらないの
は、何となく変だ。
2)キッチンはそれほど広くない。その割に火災が
発する熱があれだけ高いのは、何となく変だ。
3)あれだけの高熱を発する火災の場合には、もっ
と火が燃えさかる音がするはずなのに、あれだけ静
かなのは何となく変だ。(前掲、北岡)
直観とは広範かつ高速な「パターン認識」が原動力
になって起きます。つまり、過去の経験から潜在意
識に蓄積された「何となく変だ」という「パターン
認識」が極めて高速に行われることによって直観が
生まれます。
上述のように、隊長の頭の中で「この程度放水すれ
ば火はこの程度になる」、「この程度の広さでの火
災なら、発生する熱はこの程度になる」というよう
な、過去の経験により蓄積された情報が呼び起こさ
れ、それが瞬時の答え、すなわち判断を導き出した
のです。
ただし、無意識の状態で起こるので自分ではすぐに
説明できません。しかし、冷静になって考えれば、
「パターン認識」をいくつかに分解して科学的に説
明できるのです。
ここに第六感であるク・ドゥイユ(瞬間的洞察力)
の本質と、それを養成する可能性を見出すことがで
きます。多くのセンスの正体は、実は経験、学習、
訓練によって潜在意識の中に蓄えられた「パターン
認識」であるのでしょう。すなわち、クラウゼヴィ
ッツが述べるように経験と教育の積み重ねによって、
ク・ドゥイユは向上すると言えるのではないでしょ
うか。
▼直観を可視化する
日ごろよく使う「直観」という言葉の本質はなんで
しょうか? 「専門性と経験に裏打ちされた直感な
のか?」それとも「感情的な直感なのか?」「なぜ
自分はこう感じたのか?」など、「なぜなぜ思考」
を用いて「なぜ?」をどんどんと掘り下げていくと、
直観の「言語化」がなされます。
野球の長嶋監督は天才肌です。選手時代、なぜ自分
があの場面で打てたのかの説明は得意ではなかった
ようです。監督になってからも、「なぜあの場面で
あんな判断をしたのか」の説明に窮するところがあ
りました。人々は監督の判断を「カンピュータ」と
言って褒めたり、揶揄したりしていました。
一方の落合監督は、自分がなぜ打ってたのか、打て
なかったのかを言葉で論理的に説明しています。引
退して、現役の野球選手がなぜ打てなかったのかな
どを実に論理的に解説しています。
落合監督は、投手が投げるボールが捕手のミットに
収まるわずか数秒間の自分の打撃を振り返ることで、
無意識を意識、そして言語に変換しているのでし
ょう。ちなみに落合監督は試合前にはボールとバッ
トの当たる角度の調整だけに集中したという逸話が
あります。
今を時めく大リーガーの大谷翔平選手は、小学3年
生になる直前から「野球ノート」をつけています。
そこには、大谷選手が感じた「良かったこと」「悪
かったこと」「目標(これから練習すること)を記
しています。この簡潔な可視化が、繰り返しで身に
着ける技術と一体となり、大谷選手のスキルや状況
判断力を向上させてきたのだと考えます。
東京オリンピックの女子レスリング50kg級で金メダ
ルを取った須崎優衣選手に関する記事に感動すら覚
えました。須崎選手は全相手から1ポイントも奪われ
ないパーフェクト勝利という偉業を達成しました。
「決戦前、相手の孫亜楠(中国)を〝丸裸〟にした。
『金メダルを取るために、ここまでやるかってく
らい研究し、対策しました(須崎)』。相手の特徴
に加え、スタートからの構え、手と足の位置、どう
攻めてポイントを取るかなどの要点を文字でまとめ
た。それを受け取った吉村祥子コーチは『私が書き
出していたものとすべて一致』と証言……」(東ス
ポWeb 2021/08/08)
つまり、試合では相手の攻撃を受けて、咄嗟に状況
判断して、まるで激流が岩場を巧みに潜り抜けるが
ごとく、臨機応変かつ感性的に戦っているようであ
っても、そこには勝つための〝文字による可視化〟
があったというのです。
このように成功者の多くは、直観を可視化する、言
語化することで、咄嗟の状況判断に必要なセンスを
自然と向上させているのでしょう。
▼科学技術によって可視化領域は拡大
400メートルハードラーで、世界選手権で二度も
銅メダルを獲得した為末大氏は、東京大学経済学部
教授の柳川範之氏との対談で次のように述べていま
す。
「……私たちの現役の頃には取れなかった身体デー
タが、今はいろいろな手法で取れるので、データを
もとに選手に説明する必要があります。ですから、
データの扱い方が分からないコーチだと、指導して
いくのが徐々に難しくなってきているような側面も
あります。…」(10?TV)
これは、従来は勘に頼っていたコーチングが、科学
技術の発展よりデータ活用してのコーチングへと転
換していることを示唆しています。つまり、スポー
ツの分野では、過去には潜在的であったものがどん
どん可視化され、言語化されています。
「おばあちゃんの知恵袋」は現代でも役に立つ知識
が満載です。おばあちゃんは、孫になぜそうなるか
を理論的に説明はできませんが、昔からの言い伝え
や先人からの言い伝えを体現し、実際に有益である
ことは知っています。実は、これも物理的、化学的
に説明できます。仮に、言葉で「なぜ」を説明でき
たら、おばあちゃんの知恵はより広く、迅速に伝わ
ることでしょう。ここにも可視化の効能を認識する
ことができます。
▼暗黙知を形式知に置き換える
高度で瞬時の状況判断が求められる場面では、たし
かにセンスや直観、あるいはク・ドゥイユ(瞬間的
洞察力)というのが必要です。これらは、ナポレオ
ンが言うように、たしかに先天的要素もあるかもし
れませんが、その多くは努力して蓄積された経験な
のだと私は考えます。
人は誰しも、直前の情報や周囲の特別な状況に影響
され、しばしば冷静的な判断を失います。そのため、
経験という暗黙知を形式知に置き換える、つまり
思考過程の手順を言語化、マニュアル化しておく必
要があります。実は、後で説明する軍隊式「状況判
断」は頭の中で行なわれている思考作用を書き出す
という行為なのです。
可視化すること、つまりマニュアル化することで、
組織としての共通意識が生まれ、個人の「なんとな
く」が明確化され、チームや個人の状況判断力を確
実に高めることができると考えます。特に、マニュ
アル化による共通意識の下での学習や訓練がチーム
全体の状況判断力の強化を可能にすると考えます。
(つづく)
(うえだあつもり)
【筆者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防
衛大学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上
自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語学
課程に入校以降、情報関係職に従事。93年から9
6年にかけて在バングラデシュ日本国大使館におい
て警備官として勤務し、危機管理、邦人安全対策な
どを担当。帰国後、調査学校教官をへて戦略情報課
程および総合情報課程を履修。その後、防衛省情報
分析官および陸上自衛隊情報教官などとして勤務。
2015年定年退官。著書に『中国軍事用語事典(共
著)』(蒼蒼社)、『中国の軍事力 2020年の将来
予測(共著)』(蒼蒼社)、『戦略的インテリジェ
ンス入門―分析手法の手引き』『中国が仕掛ける
インテリジェンス戦争』『中国戦略“悪”の教科書―
「兵法三十六計」で読み解く対日工作』『情報戦
と女性スパイ』『武器になる情報分析力』『情報
分析官が見た陸軍中野学校』(いずれも並木書房)、
『未来予測入門』(講談社)。
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