こんにちは。エンリケです。
『武器になる「状況判断力」』の六回目です。
「論理的な作業を積み重ねる中で、センスは磨かれる」
は、私のような鈍才には希望を与えてくれる言葉ですね。
自分を実験台にし、
今後の人生を通して確認しますw
きょうも読み応えある内容です。
さっそくお読みください
エンリケ
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武器になる「状況判断力」(6)
状況判断力は養成可能か?──センスは論理的思考
で磨かれる
インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)
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□はじめに
皆様こんばんは。「武器になる状況判断力」の6
回目です。
次回の謎かけは、「将棋には王将と玉将の二つが
ある。上位者が王将を使い、下位者が玉将使う。も
ともとは一つであったが、どちらが先にあって、後
から誕生したのはどちらか?」です。
答えは、「玉将です。歩兵があるので王将がある
と思いがちです。他方、金将と銀将があります。ほ
かに将のつく駒はありません。金、銀はいずれも宝
物ですが、だとするとさらに高価な宝物といえば玉
(ぎょく、ひすい)ということになります。なお玉
将しかなかったものが、王将と玉将に分けたのは豊
臣秀吉との逸話があります。
そもそも、王様と将軍とは異なるので、それを二
つ合わせるのもおかしいと思います。
事象の類似性に着目する思考法をアナロジー思考
と言い、未来を予測するための思考法です。これに
は過去の類似性に着目し、現状から未来を予測する
方法と、他の領域の先行する類似性に着目し、未来
を予測する方法があります。興味があれば、拙著の
『未来予測入門』(*)をお読みください。
今回の謎かけは、「交通事故死亡者数で愛知県は、
2016年から2018年まで全国1位、2019年から2020年
は全国2位です。なぜ愛知県では死亡事故が多いの
でしょうか?」
さて前回は今日の状況判断の重要性の高まりにつ
いて解説しましたが、今回は、状況判断力は養成で
きるのかについて解説します。
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▼状況判断力はスキルかセンスか?
ビジネスの世界では「スキル」か「センス」かとい
う議論があります。戦略・戦術、インテリジェンス
を語る際にも同様の議論があり、ここでは「アート」
か「サイエンス」かという喩えがよく用いられます。
スキルはサイエンス、センスはアートに相当します。
思考法については論理的思考法と創造的思考法(直
観)がありますが、前者はスキルで後者はセンスに
該当します。
スキルは分解して数値化・具体化できます。たとえ
ば、学力はスキルなので算数、国語、社会などに分
類でき、英語はTOEICで何点といったように数
値化できます。しかし、服装センスや人間性などは
数値化・具体化できません。大衆を魅了する、異性
にモテするのは総合的なセンスがあるというほかあ
りません。
このような両者の違いから、スキルは後天的であっ
て養成が可能とされています。企業などがKPI
(重要業績評価指標)などを用いて、社員の能力を
分解・評価し、それぞれの指標を定めて人材育成を
行なうのはスキルの養成です。一方、センスは先天
的なもの、総合的なものであり、センスを養成する
確率的な方法はないと一般的によく言われています。
経営者には一般的にスキルよりもセンスが重要であ
り、社員はスキルが重要とされます。そして、しば
しば養成が困難であるセンスを養成することが論じ
られます。
▼状況判断力を分解する
では、状況判断力はセンスかスキルのどちらに属す
るのでしょうか? まず状況判断が統率や指揮の要
素であるという視点から考察してみましょう。
統率は統御と指揮に分かれます。統御は組織内の各
個人にやる気を起こさせる心理工作であり、指揮官
の個性、人格などが影響することが大きいのでセン
スです。これには形になった養成法がありません。
一方の指揮は、状況判断、決心、命令、監督などに
分類できす。また、米陸軍などがマニュアル化した
状況判断のアプローチは、敵の可能行動と我の行動
方針を掛け合わせて、賭けゲームの理論を適用して
行なう論理的思考法です。
だから、指揮は統御との対比ではスキルです。そし
て指揮の一要素である状況判断もスキルと言えそう
です。だからか、軍隊では戦術教育などを活用して、
状況判断が必要な場面を想定し、それを学生に付与
して、時間内に判断と決断を行なわせ、それに基づ
く計画や命令の作成などの訓練を通して状況判断能
力や指揮能力を訓練します。
▼状況判断にもセンスが重要
しかしながら、状況判断にセンスの要素がないわけ
でありません。状況判断に必要な情報の収集や分析
だけをとっても〝情報センス〟との言葉があるよう
にセンスが必要不可欠です。
また、実際には過去の多くの名将は、戦略眼あるい
は洞察力ともいえる瞬間的な状況判断力で苦難を乗
り越えてきました。このような瞬間的な洞察力や判
断力をフランス語で「クードゥイユ(Coupd’oeil)」
と言います。ジョミニ中将は「どんなに優れた戦略
計画を作れる将軍でも、クードゥイユがなければ戦
場で敵を目の前にしたとき、自身の戦術理論を適用
することはできない」(松村劭『勝つための状況判
断学』)と述べています。クードゥイユとは第六感、
まさしくセンスなのです。
第六感であるクードゥイユが養成できるかどうかに
ついては意見の相違があります。ナポレオンは、こ
の才は神から与えられた先天的なものと考えていた
ようですが、クラウゼヴィッツは、「この才は、先
天的に決まるものではなく、経験と教育の積み重ね
によって得られるもの」と述べています。
▼ハドソン川の奇跡とは
さて、センスはまったく養成できないのでしょうか?
そもそもセンスとは何でしょうか?
高度な状況判断を必要とする職業といえば、真っ先
に挙げられるのはパイロットではいでしょうか。坂
井優基『機長の判断力』(2009年5月)の中で、
2009年1月のチェスリー・サレンバーガー機長が
行った「ハドソン川の奇跡」について書かれていま
す。これは2016年に映画化されましたので鑑賞され
た方もいるかと思います。
坂井氏の著書は「ハドソン川の奇跡」が起きたわ
ずか4か月後に出版されたました。同事件が本書の
刊行の流れを決定づけたと言えますが、坂井氏は常
々、サレンバーガー機長と同じような修練を積んで
いたから、このような著書を短期間に書き上げるこ
とができたのだと考えます。
以下は同著からの抜粋です。
「2009年1月15日、ニューヨークのラガーデ
ィア空港を飛び立ったUSエアウェイズの旅客機1
549便が両方のエンジンに鳥を吸い込みました。
……エンジンの中心部に吸い込まれた鳥がエンジン
の内部を壊し、その結果、両方のエンジンとも推力
をなくしてしまいました。チェスリー・サレンバー
ガー機長は、両方のエンジンが故障したことを知る
と、直ちにハドソン川に降りることを決意して実行
しました。それによって乗客・乗員155名全員の
命が助かりました。この事故では機長の決断と行動
が大勢の人の命を救いました。どれ一つを間違えて
も大事故になった可能性があります。……まず何が
一番素晴らしかったのかというと、離陸した元の空
港に戻ろうとしなかったことです。機体も乗客も両
方無事に着陸させたいというのは、パイロットにと
って本能のようなものです。川に降りると決断した
時点で、機体の無事は切り捨てなければなりません。
もし、このときに機長が離陸した空港に戻ろうと
していたら、途中で墜落して、乗客・乗員の命が助
からなかったのみならず、燃料をたくさん積んだジ
ェット機が地上に激突して、地上にいるたくさんの
人も犠牲になったに違いありません。また、機長は
着水場所にイーストリバーではなくハドソン川を選
びました。……イーストリバーにはたくさんの橋が
かかっており、もしイーストリバーを選んでいたら、
橋に激突した可能性があります。さらに操縦方法
の問題もあります。……着水時の速度も問題です。
……これだけの判断をしながら機長は飛行機を止め
る場所までも選んでいました。このようなケースの
際は、船が近くにたくさんいる場所に止めることが
素早く救助してもらう鉄則です。今回はまさにフェ
リーがたくさんいるフェリー乗り場のそばに着水さ
せています。……機長は全員の脱出を確認してから
機内を二度見て回り、いちばん最後に自分が脱出し
ました。……これからどんなことが言えるのでしょ
うか。いちばん重要なのはよく準備した者だけが生
き残るということです。グライダーの操縦を練習し、
心理学の勉強をし、NSTB(National
Transportation SafetyBoard、国家運輸安全委員会)
のセミナーに参加し、日ごろから様々な状況を考え
て、頭の中でシュミレーションしていたからこそで
きた技ではないかと思います。もう一つ重要なのは、
切り捨てるという決断も必要ということです。もし
飛行機もの乗客も両方救いたいと思えば、結果的に
全てを失っていたはずです。……」
▼センスであっても養成はできる部分はある
この記事は「優れた状況判断は平素からの地道な修
練の賜物である」ことを如実に物語っています。た
だし、機長の優れた状況判断は論理的アプローチに
より手順を追って行われたというよりも、咄嗟の総
合的な判断であったとみられます。つまり、機長は
クードゥイユあるいはセンスを発揮して状況判断を
行ない、危機を脱し、乗客の命を救いました。
ここで注目すべきは、機長は常日頃から、身体を鍛
え、グライダーのライセンスを取得し、起こり得る
危機を想定し、危機が現実となった時に何を判断す
べきかをイメージトレーニングしていたという点で
す。すなわち、常日頃からスキルを磨いていたから
こそ、咄嗟のセンスが発揮できたのです。
物事や環境に対するすべての状況判断は論理的思考
と創造的思考の併用よると言っても過言ではありま
せん。「結局はセンスが大切」といって、一見小難
しい論理的アプローチを一蹴し、感覚や直観だけに
頼より物事を処理するではなく、意識して一定の論
理的思考法や技法を取り入れることが、一部である
かもしれないがセンスを磨くと考えます。
すなわち、論理的思考法(スキル)の向上が創造的
思考法(センス)を活性化し、その相乗効果で状況
判断力が高まると考えます。ここに軍隊式「状況判
断力」の意義があると考えます。
(つづく)
(うえだあつもり)
【筆者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防
衛大学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上
自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語学
課程に入校以降、情報関係職に従事。93年から9
6年にかけて在バングラデシュ日本国大使館におい
て警備官として勤務し、危機管理、邦人安全対策な
どを担当。帰国後、調査学校教官をへて戦略情報課
程および総合情報課程を履修。その後、防衛省情報
分析官および陸上自衛隊情報教官などとして勤務。
2015年定年退官。著書に『中国軍事用語事典(共
著)』(蒼蒼社)、『中国の軍事力 2020年の将来
予測(共著)』(蒼蒼社)、『戦略的インテリジェ
ンス入門―分析手法の手引き』『中国が仕掛ける
インテリジェンス戦争』『中国戦略“悪”の教科書―
「兵法三十六計」で読み解く対日工作』『情報戦
と女性スパイ』『武器になる情報分析力』『情報
分析官が見た陸軍中野学校』(いずれも並木書房)、
『未来予測入門』(講談社)。
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