配信日時 2021/08/03 20:00

【武器になる「状況判断力」(5)】状況判断の重要性─VUCA時代では状況判断力が一層重要 上田篤盛(インテリジェンス研究家)

こんにちは。エンリケです。

『武器になる「状況判断力」』の五回目です。

VUCAなど、いろいろ知らない用語が出てきますが、
解説が分かりやすくてスッと馴染みますね。

<ドッグイヤーあるいはVUCA時代と言われる今日、
一般人やビジネススパーソンにとっても、環境
(戦況)の流動性が高い作戦・戦闘の教訓を踏まえ
て誕生した軍隊式「状況判断」を学ぶことの意義は
大きいと考えます。>

<戦術と戦略との一体化を強化>

との一文に深く共感しました。


きょうの記事。
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エンリケ


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武器になる「状況判断力」(5)

状況判断の重要性─VUCA時代では状況判断力が
一層重要

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)


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□はじめに

 皆様こんばんは。「武器になる状況判断力」の5
回目です。
 ところで、前回の謎かけは「最近、石油価格が上
昇しているのはなぜか?」でした。これは、インタ
ーネットなどで検索すると、「まもなくコロナ禍が
終わり、今冬あたりから海外旅行が再開される。そ
のため航空運輸業が石油のストックに乗り出したか
ら」という仮説に接します。

「なるほど、そうか!」と実に納得できる仮説では
ありますが、1つの仮説に満足すると判断を誤りま
す。石油価格の変動には中東の政治情勢、米国や中
国の戦略、ロシアのエネルギー戦略などさまざまな
要因が複雑に絡んでいます。だから複数の仮説を立
てて、石油価格上昇という現象をもたらす要因やそ
れが織りなすシナリオを考察してみることが大切で
す。ここでの教訓は、1つの仮説で満足しない、決
めつけないということです。
 次回の謎かけは、「将棋には王将と玉将の2つが
ある。上位者が王将を使い、下位者が玉将を使う。
もともとは1つであった。どちらが先にあって、後
から誕生したのはどちらか?」です。少し、マニア
ックな謎かけですが、この回答が筆者には「なるほ
ど」と言わしめるものでした。

 さて前回は状況と情勢の違いから、状況判断と情
勢判断、戦術的状況判断、戦略的情勢判断などにつ
いて解説しました。今回は、今日の状況判断の重要
性について解説します。
 
▼ドッグイヤーの到来

 今日、ICT技術の目まぐるしい進化によって、
昔なら1年くらいかかった技術革新が数か月で達成
されるようになったとされます。そのスピードの早
さを「ドッグイヤー(dog year)」と言います。
「成長の早い犬の1年は人間の7年に相当する」こ
とからIT産業の変化の早さを喩えたメタファです。

従来は、成功を遂げた企業をモデルに研究し、それ
を追い越すよう戦略の目的や目標を立て、それに適
合する戦術を案出するというのがオーソドックスな
方法でした。

しかし、ドッグイヤーでは、これまで成功したビジ
ネスモデルが応用できなくなったとされます。消費
者や市場の変化に対応できない企業は淘汰され、予
想もしない新規参入業者が登場しています。だから、
「現在好調な企業が本当に成功していると言えるの
か、その成功は一過性のものではないのか」などの
疑念が尽きず、また明確な目標はどこにもないと言
われます。

また、消費者はインターネット情報などに敏感に反
応し、どんどん意思決定し、それを次々と変更しま
す。アンケートのような旧態依然とした市場・消費
者に対する調査・分析では、ニーズに対応できる
「生きた情報(生情報)」が入手できなくなったよ
うです。

▼戦場の霧は依然と晴れない

クラウゼビッツは『戦争論』の中で、「軍事行動が
くり広げられる場の4分の3は霧の中」「戦争中に
得られる情報の大部分は相互に矛盾。誤報はそれ以
上に多く、その他のものも何らかの意味で不確実」
と述べています。
現代社会では人工衛星やインターネットの発達で、
戦場でのISR(情報収集・警戒監視・偵察:In
telligence, Surveillance and Reconnaissance)
能力は飛躍的に向上し、〝戦場の霧〟は晴れたかの
ように見られます。

しかし、優れたAIをもってしても相手の意図は依
然としてわかりません。また、インターネット上に
は多くの情報がありますが、誤情報が氾濫し、意図
的な偽情報による誘導工作も散見されます。

クラウゼビッツは、「情報が多ければ判断が楽だ、
というものではない。心配の種を増すだけのものも
ある」と述べましたが、まさにそのとおりの社会に
なっているような気がします。すなわち、霧は晴れ
ようとも、〝戦場の霧〟は決して晴れることはない
のです。

▼VUCA時代の到来

ビジネス社会に目を転じてみましょう。マスメディ
アの報道やインターネットで得られる情報の多くは
発信者にとって都合のよい「売り込み」情報です。
企業経営などで必要な情報は、相手側が秘匿・防護
しています。この点が学問とは全く異なるのです。
現代社会は「VUCA(ブーカ)時代」(V:Volat
ility(変動性)、U:Uncertainty(不確実性)、
C:Complexity(複雑性)、A:Ambiguity(曖昧性))
と呼称されます。すなわち、テクノロジーの進化に
よって、社会やビジネスでの取り巻く環境の複雑性
や変動性が増し、将来の予測が困難になっています。

こうしたなか「戦争では予想外の事の現れることが
多い。情報が不確実なうえ、偶然が多く動くからで
ある。洞察力と決断とが必要である」とのクラウゼ
ビッツの箴言は、現代社会における状況判断力の重
要性を物語るものとして今なお新鮮な響きがありま
す。

▼戦術と戦略との一体化を強化

 環境諸条件の変化の流動性が増し、先行きが不透
明な現代では「戦略を立てようにも立てられない、
戦略を立てても市場ニーズの変化に追随できなくな
って、すぐに戦略を変更しなければならない」とい
う不安の声を耳にします。

 そのため、「企業はどんどん戦術を繰り出し、そ
の反響により生情報を入手し、戦術を修正する、ま
たは新戦術を考えることが重要なのだ」という声が
増えているようです。

ただし、これを「戦略よりも戦術の重要性が高まっ
た」というように短絡的に判断することは危険です。
戦略は「何のために(why)何を(what)なすべき」」
であり、戦術が「いかに(how to)なすべきか」と
いう本質的な相違からすれば、戦略→戦術の流れは
〝普遍の原理〟です。目的や方向性のない、行き当
たりばったりの戦術をやみくもに繰り出していては
犠牲や損害を被ることになります。

要するに、戦略を膠着化させず、戦略と戦術の一体
化を強化することが重要なのです。つまり、「戦略
に対する戦術の適合性(整合性)を判断する、戦術
の実行可能性を見極めて躊躇せずに戦術を実行に移
す、戦術の戦略への影響性を考察して戦略の修正を
図る」ことが重要です。すなわち、戦略と戦術を同
時一体的に律していくことが重要だと言えます。
 
▼「OODAループ」の登場

現在のビジネス界では、業務改善の手法として有名
な「PDCA((1)計画、(2)実行、(3)評価、(4)改善)
」に代わり、「OODA(ウーダ)ループ」が注目
されています。これは、「(1)観察する(Observe)」
「(2)状況を理解する(Orient)」「(3)決める
(Decide)」「(4)動く(Act)」の頭文字をとった
造語です。

この思考法は、「物事はなかなか計画どおりには進
まない。だから、現場サイドが市場や顧客などの外
部環境をよく観察し、『生データ』を収集して状況
を理解して、具体的な行動を決断し、即時に実行に
移せ」というものです。

「OODAループ」は、米空軍将校が、環境諸条件
が流動点であるという作戦・戦闘の特性を踏まえて
提起した概念です。実は、前線での個々の戦闘の場
面では、事前の作戦計画を遵守するよりも、状況に
応じて臨機応変に判断し、実行に移すことが鉄則な
のです。ある意味、軍事作戦においては「OODA
ループ」は相当以前から当たり前でありました。

 ここにも軍事ノウハウの他領域への越境を感じざ
るを得ません。

▼軍事マニュアルはあらゆる領域で活用できる

前述のVUCAも軍事用語からの派生です。米国では、
軍事における教訓が続々とビジネスに浸透していま
す。かのドラッカーは米軍の諸制度を高く評価して
いました。実際、米軍マニュアルには、環境諸条件
の流動性が激しい現代社会を生き抜くビジネスパー
ソンに役立つ多くの知見があると考えます。

現代の人生やビジネスも一種の戦いです。だから、
かつて筆者が学んだ陸自教範で戦略・戦術の原則書
『野外令』にもビジネスに役立つ知見があります。
しかし、残念ながら、米軍マニュアルはほとんどが
公開されているのに比して、自衛隊の教範は公開さ
れていません。未公開にはそれなりの理由があるの
でしょうが、筆者は情報公開の遅れを痛痒します。

他方、米軍マニュアルとともに、陸自『野外令』の
源流となったわが国の旧軍教範には戦略、戦術、指
揮、統率、勝利するための原理・原則が記されてい
ます。筆者は、今日のビジネス書に接するたびに、
「このアイデアは『統帥綱領』、『統帥綱領』や
『作戦要務令』(※)に書かれていることと根底が同
じだ」と感じることが多々あります。これは、ビジ
ネス書が『統帥綱領』などを参照にしているという
よりも、競争社会の原理・原則には共通性があるか
らだと考えます。

ドッグイヤーあるいはVUCA時代と言われる今日、一
般人やビジネススパーソンにとっても、環境(戦況)
の流動性が高い作戦・戦闘の教訓を踏まえて誕生し
た軍隊式「状況判断」を学ぶことの意義は大きいと
考えます。そこで、米軍マニュアルや旧軍教範、さ
らには古今東西の兵術書や戦史などを引き合いにし
ながら、米軍式「状況判断」の現代的活用法につい
て、筆者の私見を踏まえて追い追い述べていきたい
と考えます。
※『統帥綱領』、『統帥綱領』は非公開であり、
『作戦要務令』は公開。今日では、一般販売している
ので自由に手に入る。


(つづく)

(うえだあつもり)




【筆者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防
衛大学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上
自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語学
課程に入校以降、情報関係職に従事。93年から9
6年にかけて在バングラデシュ日本国大使館におい
て警備官として勤務し、危機管理、邦人安全対策な
どを担当。帰国後、調査学校教官をへて戦略情報課
程および総合情報課程を履修。その後、防衛省情報
分析官および陸上自衛隊情報教官などとして勤務。
2015年定年退官。著書に『中国軍事用語事典(共
著)』(蒼蒼社)、『中国の軍事力 2020年の将来
予測(共著)』(蒼蒼社)、『戦略的インテリジェ
ンス入門―分析手法の手引き』『中国が仕掛ける
インテリジェンス戦争』『中国戦略“悪”の教科書―
「兵法三十六計」で読み解く対日工作』『情報戦
と女性スパイ』『武器になる情報分析力』『情報
分析官が見た陸軍中野学校』(いずれも並木書房)、
『未来予測入門』(講談社)。



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