配信日時 2021/07/29 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (334)】  神は賽子を振らない(13)

こんばんは、エンリケです。

一昨年と去年にお届けしたシリーズ

「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」

のつづきをお届けしています。

過去配信した内容はこちら
http://okigunnji.com/watanabe/category1/category45/


今回の記事を読むと、
自衛隊の指揮運用系統がわかります。

さっそくどうぞ


エンリケ

追伸
東京五輪がはじまっています。
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』
を読んで、大会全般の支援に当たっている
わが自衛隊に思いを馳せます。
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「ライター・渡邉陽子のコラム」バックナンバー
https://okigunnji.com/watanabe/



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『ライター・渡邉陽子のコラム (334)』

 神は賽子を振らない(13)

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こんばんは。渡邉陽子です。
1回目のワクチンを接種しました。腕に鈍痛はありますが、それ以
外の副反応は特にありません。ただ周囲の人の多くが2回目の副反
応がけっこうひどいので、今からちょっと憂鬱です。それでも、早
く2回接種して、取材先にも安心して受け入れていただけるように
なりたいです。


雑誌記事のお知らせです。

「丸」7月号に「日本の無人機最新レポート」が掲載されました。
竹内修氏の巻頭グラビアページと合わせてお楽しみいただければ幸
いです。ドローンは戦闘を変え、災害で命を救い、宅配便にもタク
シーにもなり……ものすごい可能性を秘めていて、知るほどに面白
く、空恐ろしくもあります。まずは国産ドローン頑張って欲しいで
す!https://amzn.to/2SoRO18

PANZER8月号に連載「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱
芳文の半生」の最新号が掲載されています。ヘリによる原発への放
水準備が進むなか、水面下で計画されていた幻の「鶴市作戦」とは。
そして行方不明者捜索中の部隊は警察との間にトラブルが……
お手に取っていただければ幸いです。https://amzn.to/3hfMg32


「正論」7月号に「われらの女性自衛官」第4回が掲載されます。
今回は航空自衛官の整備幹部。防大1期生であり、防大生の長女、
高校3年生の息子たち(双子!)のお母さんでもあります。取材時
は空幕勤務でしたが、現在は那覇の第9航空団整備補給群司令とし
て約700名の隊員を率いています。https://amzn.to/3oKDWKK



■神は賽子を振らない(13)

火箱は発災直後に各方面隊へ電話し、たてつづけに指示を出したが、
実のところ、これは自衛隊の運用規則上やってはいけないことであ
る。
このような指示を出すのは、海自なら自衛艦隊司令官、空自なら航
空総隊司令官という全軍司令官だ。つまり指揮系統が一元化してい
る。
しかし陸自には5方面総監を司る陸上総隊がないので、総隊司令官
が存在しない。陸自は災害派遣でも防衛出動でも、出動の際は5方
面隊のうちその現場を管轄する方面総監が最高司令官となる。

以前は陸海空の各幕僚長が大臣命令を執行していたが、2006(平成
18)年に運用規則が変わり、陸海空自衛隊の運用に関して大臣命令
を執行するのは統合幕僚長の権限となった。つまり陸自の総司令官
(フォース・ユーザー:部隊運用の責任者)は陸海空自衛隊を束ね
る統幕長であり、陸幕長はフォース・プロバイダー(部隊の提供者。
人事、兵站、教育支援、防衛力整備を担う)として「統幕長の命令
に応じて措置する」ことが職務である。
だからいくら事前に統幕長に向かって「部隊を集めます」と言った
ところで、陸幕長の火箱が大臣・統幕長の命令を受けずに「部隊を
出せ」ということはできない。方面総監に指示を出す運用上の権限
は、火箱にはないのだ。

「お叱りを受けるか、ひょっとしたらクビになるかもしれないな」
火箱自身もそう考えた。
運用違反・規律違反を追及されたときのことを考えたら、各方面総
監には「出す準備をしろ」と言えばいいのだが、火箱はためらわず
「出せ」と命じた。処分を覚悟で迷わず迅速な初動を最優先した。
有無を言わさず出動しなければ、統幕が「どの部隊をどれくらい出
せるか」などを方面隊ごとに細々調整しなければならない。それだ
けで一晩かかってしまうだろうし、その間に救える命が失われてし
まう。
「この状況で、この段階で、方面総監を動かせるのは俺しかいない」、
そういう思いだった。
また、平時ならともかく、この有事に統幕長が防衛大臣の補佐をし
つつ各方面隊にそれぞれ連絡するというのも非現実的と言えた。電
話できたとしても、火箱のように地震発生から30分以内にすべての
方面隊へ指示を出し終えているという速さは実現できなかっただろ
う。しかも日没が刻々と迫っている。隊員が帰宅する時間になって
しまえば、帰宅後の呼集は時間も手間暇もかかる。初動の1時間遅
れが被災地到着・人命救助に1日、2日の遅れを生み、「生存率72
時間の壁」を越えてしまう。
統合運用の原則の越権行為、ひいては「シビリアンコントロールの
原則背反の疑い」ともされかねない異例の指示が批判を招いた際に
は腹をくくるつもりで、頭の片隅で「辞任の弁」も考えていた。

後日、防衛省の内局が火箱の行為を「越権行為」として調査検証し
たことを知った。
結果的になんのお咎めもなかったのは、「被災者救助に向けて最大
限の行動をしよう」という共通の認識と暗黙の了解があったからか
もしれないと、火箱は思った。



(つづく)

(わたなべ・ようこ)


過去記事はこちら
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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。


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