配信日時 2021/07/21 09:00

【防衛省の秘蔵映像(24)】 カンボディアへ施設大隊の派遣 ─平成4年映像─ 荒木肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
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自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
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『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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こんにちは。エンリケです。

「防衛省の秘蔵映像」解説 第24回です。

カンボジアへの自衛隊派遣時の映像が登場します。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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防衛省の秘蔵映像(24)

カンボディアへ施設大隊の派遣
─平成4年映像─

荒木 肇
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1992(平成4)年の映像紹介
https://www.youtube.com/watch?v=22fz6uxzW_w


□はじめに

 防衛省は今年の3月、「女性職員活躍とワークラ
イフバランス(WLB)推進のための取組み計画」
を発表しました。令和3年度以降の実施目標が盛り
込まれています。

 2030(令和12)年度を目途に、全部の自衛
官の中の女性自衛官の割合を現在の7%から12%
以上にするそうです。また、男性職員(防衛省職員
です)の育児休業取得率も現在の約5%から25
(令和7)年度までに30%に引き上げるように数
値目標を揚げています。

 女性事務官等の採用に関しては、「防衛省専門職
員」と「国家公務員採用職員」の全体の35%以上
に設定するということです。女性自衛官(階級をも
ち、制服を着る)の割合を30(令和12)年度ま
でに女性の割合を12%にするために、今年度以降
の採用者のうち現在の16.1%から17%に引き
上げるといいます。

 これは新採用隊員を約1万2000人とすると、
これまでの1930人から2040人に増やすとい
うことですね。

 1992(平成4)年の映像には、いきなり妙齢
の女性が「公務員です。週休2日制です。婦人自衛
官です」と登場し、帽子をかぶって敬礼し、「平和
を愛する人を待っています」と締めくくるシーンが
現われます。前年には若い女性自衛官がころころ笑
いながら上官に敬礼もせずにすれ違う様子がありま
した。女性にとって働きやすい場だと訴えたかった
のでしょうか。

 この平成4年度は、陸海空それぞれに活躍する女
性が出てきます。陸は看護官、空は基地の除雪作業
で大型ローダーを動かす隊員、海は女性パイロット
候補生でした。


▼国際連合平和維持活動への参加

 「国際平和協力法(略称)」が6月に野党の猛反
対の中に成立しました。映像を見ても国会の野党議
席には誰もおりません。テレビでは盛んに「戦争に
つながる」、「海外への派兵は9条を無視する暴挙
だ」という声が流されました。中には「現地の人は
日本軍に警戒心をもっている。絶対に危険だ」とい
うマスコミ人もいたのです。

 指揮官は1954(昭和29)年生まれ、防衛大
学校第21期卒業、当時は第4施設団本部におられ
ました。指名されて、第1次派遣施設大隊の指揮官
になったのです。その活躍や、褒貶(ほうへん・ほ
めたりけなしたりすること)は今でも各種出版物や
ネットで見ることができます。報道されたすべては
「確かに自分であっても、決して自分ではない」と
渡邊さんは語ってくれました。

 外務省の職員も、文民警察官も不幸にして殉職さ
れます。しかし、自衛官たちは誰も襲われたり、危
害を加えられたりしませんでした。黙々と橋を架け、
道路を補修し、カンボディアの人たちと手を振り
合う、そんな映像を見ることができます。

▼帰ってきた要塞砲兵―88式地対艦ミサイル連隊

 明治以来、砲兵は野山砲(やさんぽう)兵と重砲
兵に分かれました。野砲も山砲も口径75ミリの砲
弾を撃ちました。野砲は野戦砲のことで、馬で挽き
ます。山砲は分解して馬の背に載せたり、人がかつ
いだりして山道も進むことができました。対して、
10センチ以上の口径をもつ重砲は内地の軍港や海
峡を守るために要塞に固定されていました。

 口径の大きな加農(カノン)や榴弾砲が野戦に出
るようになったのは日露戦争からでした。その背景
には、大口径の野戦砲が必要だという信念をもった
児玉源太郎の主導があったそうです(長南政義『児
玉源太郎』2019年、作品社)。

 そのため重砲兵も要塞砲兵と野戦砲兵に専門が分
かれるようになりました。戦後の自衛隊には要塞が
なかったために、敵勢力が着上陸する前に海上で叩
くためには203ミリや155ミリの大口径加農(
陸自ではGUNといいます)・榴弾砲を装備しまし
た。


 陸上自衛隊が長射程の地対艦ミサイルを富士総合
火力演習で公開したのは1988(昭和63)年の
ことでした。もともと航空自衛隊の80式ASM-
1(空対艦ミサイル)を元にしたものです。フォー
クランド紛争で名をあげたフランス製エグゾセ・ミ
サイルや、アメリカ海軍や海自のハープーン対艦ミ
サイルより優れているといわれていました。

 映像には北千歳駐屯地で編成完結を行なう第1地
対艦ミサイル連隊の様子が見えます。海岸線から1
00キロメートル以上も離れた山間部に隠れます。
施設科の坑道掘削機はそのために開発されました。
北海道の大雪山系に陣地を構えて、有効射程150
キロメートル。日本海、オホーツク海、太平洋のど
の正面でも射程に収めることができました。

 SSM-1(地対艦)ミサイルは本体が全長4メ
ートル、これに発射時には1メートルの長さの個体
ロケット・ブースターが付きます。ターボジェット
で地上ぎりぎりの高度で山間部を巡航します。地形
を縫うように海岸線まで飛び、ここからはアクティ
ブ・レーダー・ホーミングに切り換えて目標を識別、
追尾し、最後には突入寸前にポップ・アップ(急上
昇)して命中します。

 この後、北部方面隊には第2(美唄)、第3地対
艦ミサイル連隊(上富良野)が編成されてゆきます


▼90式戦車もデビュー

 総合火力演習には90式戦車が初めてお目見えで
す。そのナレーションが「きゅうじゅっしきせんし
ゃです」と聞こえます。「え!キューマルじゃない
の?」と驚く人もいますが、90を「きゅうまる」
と呼ぶのは自衛隊部内での通称です。あくまでも制
式名は「きゅうじっしき」もしくは「きゅうじゅっ
しき」になります。

 ちなみに名称は制式化された年の西洋年号で表し
ます。明治・大正の頃は元号の年式をいいました。
明治30年なら「さんじゅうねんしき」、大正14
年なら「じゅうよねんしき」となったのです。昭和
に入ると紀元年号を使い、97式は紀元2597年
制式、つまり昭和12(西暦1937)年に制式化
された兵器・装備になります。

 自衛隊は西暦を使うことにしました。62式機関
銃は1962(昭和37)年、61式戦車はその前
年でした。同じように74式戦車は1974年に制
式化されました。

 この90式戦車はいわゆる戦後第3世代に属しま
す。第1世代が61式、つづいて第2世代の74式、
そうして90式です。戦車砲の口径も90ミリ、
105ミリ、120ミリと増えて、車体重量も35
トンから38トン、そうして50トンとなりました
。同時にエンジンの馬力も順に570馬力、720
馬力、90式は1500馬力ですから機動力がどん
どん向上したことも分かります。
 
 90式は砲弾の自動装填装置をつけました。また
焼尽式の薬莢を採用したため、装?手がいなくなっ
たのです。戦車といえば狭い車内に撃ち殻の細長い
薬莢がカラーンと落ちて、戦闘の合間にはそれを捨
てていたような覚えがあります。戦車はそれまで6
1式、74式には乗員が4人いました。車長、砲手、
操縦手、それに装?手です。戦車砲弾はラックに入
ったり、砲塔のゴンドラの下部に格納されたりして
いましたから、装?手が車長の指示で弾種を確かめ
て出していました。それが自動で砲尾に挿入される
ので、省人化されたわけです。

 これは定員がなかなか充足されない戦車隊にとっ
ては良いことのようですが、困ったこともありまし
た。戦車は整備も調整も修理も乗員がまず行ないま
す。それまで4人でやっていたことを3人でやらな
ければならなくなりました。

また、若い乗員は装?手として経験を積み、資格を
取って操縦手になったのです。その経験をもとに砲
手になり、指揮官である車長になりました。装?手
として学んだことは多かったといいます。

▼優れ物の高機動車

 73式小型トラック、わたしたちがジープと呼ん
でいた小型車輌があります。もともとは人員や弾薬
を何でも運ぶ、そして106ミリ無反動砲や64式
MATなども積みました。その他に人員輸送を主と
する2トン積みの中型トラックがあります。


 これらを統合するような、アメリカ軍のハマー
(あるいはハンヴィー)のような、普通科1個班
(歩兵10人)が乗れる機動力のある車輛が要求さ
れました。93年度予算で調達が始まりましたが、
何年式という制式名はありません。

 プレスフレームに鋼板のボディで、ボンネットは
グラスファイバー製です。後部のキャビンはキャン
バス張りのソフトトップになります。サイズは全長
4.91メートル、幅は広くて2.15メートル、
高さは2.09メートル、重量は2.44トン。エ
ンジンの排気量は約4リットル、インタークーラー・
ターボチャージド・ディーゼルで150馬力です。
フルタイムの4輪駆動、4輪操舵で旋回半径は6メ
ートルと機動力が高く、タイヤも操縦席から空気圧
を調整できます。フラットな道路では高く、不整地
では低くすることで機動性を確保しています。

 操縦席、中央席、指揮官席と3人が乗れて、後方
の兵員室は4人用のベンチシートが両側にあり8人
が座れます。

 次回は大きな軍縮の波が、誰も気づかないうちに
近づいてくる平成5年の映像です。


(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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