配信日時 2021/07/06 20:00

(新)【武器になる「状況判断力」(1)】判断と決断の違い 上田篤盛(インテリジェンス研究家)

こんにちは。エンリケです。

きょうからはじまる

『武器になる「状況判断力」』

は、「情報分析」とセットで捉える「状況判断」が
テーマです。

日常に活かせる軍隊式状況判断力

といっていい内容になりそうです。


情報分析も状況判断も、
目に耳にする機会のとても多い言葉ですが、
実際どういう意味なのか?
への答えが人によって違う代表選手ですね。

そのあたりの正確な理解を、
インテリジェンスのプロ・上田さんから学び、
わからないことは質問しながら身につけて
まいりましょう。

そして、より質の高い状況判断力を磨いて、
昨日よりクオリティの高い人生を自ら紡ぎあげてゆ
きませんか?

成長に制限はなく、期限もありません。
成長は無限になしえます。

これまで積み上げてきた「情報分析」への視野が
あるから、意味ある「状況判断」の道が開けました。

幣メルマガで、これまで上田さんから
「情報分析」を学んできたあなただから、
意味ある「状況判断」への扉がここに開かれた
のではないでしょうか?

ある意味、運命でしょう。

あなたの今後が、非常に楽しみです。


ではどうぞ


エンリケ


ご意見・ご感想・ご要望はこちらから

https://okigunnji.com/url/7/


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新連載:武器になる「状況判断力」(1)

判断と決断の違い

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)


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□はじめに

「軍事情報」メルマガ読者の皆様、ご無沙汰してお
ります。過日は、拙著『情報分析官が見た陸軍中野
学校』の予約キャンペーンではお世話になりました。
多くの方々にご購入いただき嬉しく思います。

中野学校出身者のほぼ全員が鬼籍に入られようとす
る今日、中野学校を貶める論調を少しでも排斥し、
拙著を通じて真実を世間に押し広めたいと思います。
本メルマガ読者皆様のお力添えをいただければ心
強く思います。引き続きよろしくお願いします。

『情報分析官が見た陸軍中野学校─秘密戦士の孤独
な戦い』
 https://amzn.to/3dq89KQ


▼オリンピック開催の判断とは?

さて、今回の連載のテーマは「状況判断とインテリ
ジェンス」です。「状況判断とは何か?」について
は追って解説したいと思いますが、今日では「判断
」という言葉がマスメディアを賑わせており、これ
を聞かない日はないと言っても過言ではありません。
というのも、オリンピック開催の中止・延期の
〝判断〟を求める世論が高まっているからです。

これに関連し、『時事通信』(6月5日付)によれ
ば、「政府・自民党は尾身茂会長に対する不満を強
めている」として、次のように報じています。

「尾身氏は3日の参院厚生労働委員会で、五輪開催
に関し『普通ではない』と明言。4日の衆院厚労委
でも『人流が増える。やるのであれば覚悟を持って
さまざまな感染対策をすることが求められる』など
と訴えた。こうした発言について、政府高官は『尾
身氏は五輪開催を判断する立場にはない』と不快感
を隠さない。別の政府関係者は『五輪で医療が逼迫
(ひっぱく)したときに〈警鐘を鳴らした〉として
おきたいのではないか』と皮肉った」

ここで筆者が取り上げたいのが「尾身氏は五輪開催
を判断する立場にない」という箇所です。この記事
は、「政府高官」「政府関係者」の発言という情報
源を秘匿した記事なので、やや情報の正確性には疑
義もありますが、正確な情報だとして論を進めます。
さて、尾身氏は本当に判断する立場にはないので
しょうか?

尾身氏6月1日の参院厚労委員会での社民党の福島
瑞穂氏に対する答弁では次のように述べています。

「我々は五輪を開催するかどうかの判断はするべき
でないし、資格もないし、するつもりはない。しか
し仮に五輪を開催する決断をなされた場合、当然、
開催に伴う国内の感染への影響があって、分科会は
我が国の感染をどう下火にするか助言する立場にあ
る」「五輪をやれば、さらに(医療に)負荷がかか
ることがあり得るので、最終的な決断はそういうこ
とも踏まえてやっていただきたい」など述べられて
います。

ここには判断と決断という2つの言葉が出てきます。
判断には「良いか悪いか」「価値があるかないか」
「行動すべきすべきでないか」など二者択一的な
要素があります。ただし、判断が決断に必ずしもつ
ながるとは限りません。AかBかの選択でAが良い
と判断したが、Cを実行した。このようなケースは
あります。

判断と決断は異なります。判断は絶えず刻々と行な
うものですが、決断は適宜行なうものです。判断は
意思決定者のほか、その他のスタッフもそれぞれの
立場で行なうものですが、決断は意思決定者が行な
うものであり、これは原則としてスタッフやAIに
任せることはできません。そして決断には必ず責任
が伴います。委任決済という決断を委ねる方式もあ
りますが、決断を委任したからといって意志決定の
権限のある者の責任は免れません。
言葉はおおらかな面があり、筆者は言葉の広義的な
意味や現代流の解釈には寛容であるべきとの立場で
すが、やはり肝心な議論では言葉は注意して使用す
べきであり、今回のような判断と決断はきっちりと
分別すべきであろうと思います。
そして、上述のコロナ禍と五輪との問題では、尾身
氏は五輪を開催するかどうかの決断はできないが、
「政府の分科会」の代表者として専門家として開催
の是非を判断することは当然に許されると思います。
また、一般国民もそれぞれの立場で開催の是非を
判断し、それぞれのルートで意見を発出して良いと
考えます。判断は決断に影響を及ぼすが、必ずしも
決断には結びつかないことは理解し、決断が行なわ
れた以上はそれを支持する潔さも大切だと考えます。

決断は判断とは比べようもないほど重い。容易には
覆らないし、覆してはならないのです。よく「最終
的な決断」という用法は耳にしますが筆者にはしっ
くりときません。「総合的な決断」ならわかります
が、決断は常に最終的であるべきだと考えています。

▼自衛隊勤務での「判断」との関わり

筆者の防衛省や陸上自衛隊の勤務を振り返れば、常
に判断が求められ、判断力の養成が教育訓練の主軸
であったように思い起こします。初級幹部時代の戦
術教育では、指揮官としての「状況判断」を学ぶこ
とが主題でした。

その後、筆者は国家政策や防衛戦略に資するインテ
リジェンスを作成する情報分析官になりますが、そ
こでは国際情勢や対象国に関する「情勢判断」を求
められました。情勢判断の前には、情報が「正確か
誤りか」の情報自体の判断もあります。

分析の先には必ず判断があります。情報分析とは情
報を分析して情勢を判断することの繰り返しなので
す。

対象地域の情勢判断の上には国際情勢の総合的判断
があり、それに基づいて国家政策や防衛戦略の判断
があります。そして政策や戦略が決定(決断、決心)
され、計画や実行に移されます。このように国家
政策や防衛戦略の決断、計画と実行には多くの担当
者や関係者の判断が幾重にも重なってきます。

 なお、状況判断と情勢判断には多少のニュアンス
の違いはありますが、両者ともに、対象(敵、ビジ
ネスでは競業他者など)と彼我を取り巻く環境が、
我の行動(政策、戦略、戦術など)に有利か不利か
などを判断するという意味があります。以下、両者
を比較、分別する必要がある場合を除き、本メルマ
ガでは状況判断という言葉を用います。

▼状況判断を学ぶことの意義

今日は、スポーツ、ビジネスなどあらゆる分野で
「状況判断」という言葉を耳にします。特にスポーツ
の世界では状況判断という言葉は頻繁に使われます。
たとえば、野球でノーアウト、ランナー三塁の場
面を想定しましょう。野手が内野ゴロを捕獲し、バ
ックホームするか、それとも一塁に送球するか、瞬
時の判断が必要となります。このような場合、野手
は三塁ランナーの位置、打者の打球の速さ、打者の
走力などの状況を総合的に考査して瞬発的に判断を
下すことになります。このような判断が優れている
者を、「彼は状況判断力がある」などと言います。

今日のグローバル化社会では、組織が拡大、分散化
し、行動は複雑多岐になっています。変化の早い情
報化社会では、ビジネスパーソンは各種多様な要件
を緊急に処理することが求められます。
 
このような状況下、もはや少数の英知のみに依存し
て状況判断を行なうことは困難です。つまり、社長
や経営者、各部門や事業部の長といった組織トップ
の判断を待つことなく、現場の担当者の自主判断が
求められるケースが増えていると考えます。

社会の複雑化に追随できない現代人は精神的に疲れ、
思考力が減退しています。やがてAIが状況判断
を行なう時代は来るかもしれませんが、すべての領
域、分野におよぶにはなお時間がかかるでしょう。
また、すべての状況判断をAIに依存できるわけで
はありません。したがって、あらゆる組織に所属す
る個人にとって状況判断はますます重要になってい
ます。

 状況判断はもともと軍事用語です。複雑な戦場環
境の中で指揮官が最良の行動方針を決定するために
行なうものとされます(詳細は今後説明する)。状
況判断には多くの幕僚が関わり、組織として状況判
断を行ないます。また部隊間の協同作戦も通例です。
だから、状況判断のプロセスの標準化やマニュア
ル化が進められてきました。

 複雑な現代社会の中で生きるビジネスパーソンあ
るいは社会組織に属する個人にとって軍隊式の状況
判断を学ぶ意義は大きいと思います。

▼本連載の構想

 本連載では、まず状況判断とは何かについて世間
一般での使用例や旧軍教範や米軍マニュアルなどを
もとに考察したいと考えます。次に歴史上の重要な
ターニングポインに焦点を当てて、それに関与した
歴史英傑の状況判断を学び、状況判断に必要な基本
的要件を浮き彫りにしたいと考えます。

 次に可能であれば、軍隊式の状況判断のプロセス
や思考法をいくつか取り上げ、ビジネスなどの他領
域への有用性などを検証したいと考えます。

また、連載の終始を通じて状況判断とインテリジェ
ンスとの関係について考察し、政策立案者や指揮官
が状況判断を行なうためには情報要員をいかに使い
こなし、インテリジェンスをどう活用すべきかを考
えたいと思います。

今回の連載は、過去の筆者の連載や著作物とは少し
スタンスが異なるものになるでしょう。これまで筆
者は、主として情報分析官の目線で、情報を分析し
ていかに状況や情勢を判断するのか、そのノウハウ
を提示することが主題としてきました。

今回は情報要員という衣を脱いで、インテリジェン
ス使用者(カスタマー)の立場で状況判断を行なう
ためにはいかなるインテリジェンスが必要であるか、
インテリジェンスをどう使うかについて考えたい
と思います。使用者の立場で考えることで、インテ
リジェンスの本質により迫りたいと考えています。

最後に、今回の連載には終着に向かうおよその概念
図はありますが、具体的な設計図は未だできていま
せん。つまり、読者皆様の反応などを羅針盤に試行
錯誤を繰り返しながらの船旅となりそうです。どう
か、無事に航海が完遂できますよう、皆様のお力添
えをいただければ嬉しく思います。

次回は判断および状況判断とは何かについて言葉の
意義や旧軍などでの用例などを見ていく予定です。


(つづく)


(どうした・てつろう)



【筆者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防
衛大学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上
自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語学
課程に入校以降、情報関係職に従事。93年から9
6年にかけて在バングラデシュ日本国大使館におい
て警備官として勤務し、危機管理、邦人安全対策な
どを担当。帰国後、調査学校教官をへて戦略情報課
程および総合情報課程を履修。その後、防衛省情報
分析官および陸上自衛隊情報教官などとして勤務。
2015年定年退官。著書に『中国軍事用語事典(共
著)』(蒼蒼社)、『中国の軍事力 2020年の将来
予測(共著)』(蒼蒼社)、『戦略的インテリジェ
ンス入門―分析手法の手引き』『中国が仕掛ける
インテリジェンス戦争』『中国戦略“悪”の教科書―
「兵法三十六計」で読み解く対日工作』『情報戦
と女性スパイ』『武器になる情報分析力』『情報
分析官が見た陸軍中野学校』(いずれも並木書房)、
『未来予測入門』(講談社)。



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