配信日時 2021/07/01 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (331)】  神は賽子を振らない(10)

こんばんは、エンリケです。

一昨年と去年にお届けしたシリーズ

「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」

のつづきをお届けしています。

過去配信した内容はこちら
http://okigunnji.com/watanabe/category1/category45/

発災直後の火箱さんと君塚さんの対話。
非常に印象に残ります。


さっそくどうぞ


エンリケ

追伸
東京五輪は一年延期されました。
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』
を読んで思いを馳せます。
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「ライター・渡邉陽子のコラム」バックナンバー
https://okigunnji.com/watanabe/



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『ライター・渡邉陽子のコラム (331)』

 神は賽子を振らない(10)

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こんばんは。渡邉陽子です。
今週も『パンツァー』で連載中の「神は賽子を振らない 第32代
陸上幕僚長火箱芳文の半生」より、東日本大震災発災直後の様子を
お届けします。


雑誌記事のお知らせです。

「丸」7月号に「日本の無人機最新レポート」が掲載されました。
竹内修氏の巻頭グラビアページと合わせてお楽しみいただければ幸
いです。ドローンは戦闘を変え、災害で命を救い、宅配便にもタク
シーにもなり……ものすごい可能性を秘めていて、知るほどに面白
く、空恐ろしくもあります。まずは国産ドローン頑張って欲しいで
す!https://amzn.to/2SoRO18

「PANZER」7月号に「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳
文の半生」第27回が掲載されました。福島第一原発の状況を政府な
どから一切知らされないまま迎えた14日朝。3号機で起きた水素爆
発で、初めて火箱氏は原発が危機的状況にあることを知ります。翌
日、ヘリ放水の打診がありました。https://amzn.to/3fj8ikq

「正論」7月号に「われらの女性自衛官」第4回が掲載されます。
今回は航空自衛官の整備幹部。防大1期生であり、防大生の長女、
高校3年生の息子たち(双子!)のお母さんでもあります。取材時
は空幕勤務でしたが、現在は那覇の第9航空団整備補給群司令とし
て約700名の隊員を率いています。https://amzn.to/3oKDWKK



■神は賽子を振らない(10)

火箱は執務室に戻るとすぐさま、自ら君塚東北方面総監に電話をか
けた。幸い防衛マイクロ回線は異状なく、電話はすぐにつながった。
「やられました」
君塚総監の第一声はそれだった。
庁舎は停電、棚という棚から中身が飛び出し、新庁舎と旧庁舎のつ
なぎ目からは土煙があがっているという。停電でテレビも映らない
ので、総監部では津波の状況があまり認識できていないようだった。
「しっかりしろ。東北方面隊は全員非常呼集。ただちに出動、現地
に向かえ。災害派遣要請を待つ必要はない。津波が来ているからな、
気をつけろ」
自衛隊は災害発生時、部隊ごとに担当区域が決まっている。そこで
「まず各部隊はそこを目指し、救助に当たれ」というざっくりとし
た指示を出し、さらに「全国から東北方面に部隊を集める。君が指
揮して災害に対処しろ。頼んだぞ」。
そう言って電話を切ったときは、地震が発生してからまだ10分も
経っていなかった。

火箱の動きは止まらない。一度置いた受話器をすぐさま手に取り、
木崎西部方面総監に電話した。
北部、東北、東部、中部、西部という5つの方面隊のうち、被災し
た東北を除くどの方面隊から連絡するか考えたとき、「被災地から
遠い部隊ほど到着まで時間がかかるから、まずは西部だ」と考えた
のだ。
西部方面隊隷下には、福岡に第4師団、熊本に第8師団、そして沖
縄に第15旅団がある。西方総監によると、九州では小さな揺れだ
ったという。
「すぐに西方から部隊を出せ。ただし8師団と15旅団は動かすな、
出すのは4師団だ。それから方面隊直轄の第5施設団(福岡)も出
せ。道路啓開が必要になるだろうし、橋も架けられる。施設の持っ
ているボートも救助に使えるだろう。行先? とにかく東北に向か
って走れ!」
陸幕長から直々に電話がかかってきただけでも異例のことなのに、
いきなり「すぐ部隊を出せ、とにかく東北に向かえ」と言われ、西
方総監も驚いたに違いない。しかも九州の震度は1~2だったから
なおさらだ。しかし火箱からの電話によって、事態の深刻さが一気
に認識されたところもあったかもしれない。
乱暴な指示を出したものの、もちろん算段はあった。九州から陸路
で東北に向かうには、給油のためなど中継しながら進むので、少な
くとも一晩はかかる。前進中に新たな指示を出せると見込んでいた
から、「行先が決まるまで待機」ではなく、「とにかくすぐに出ろ
」とスピードを重視したのだ。
また、8師団と15旅団は留まるよう指示したのは、尖閣諸島など
南西諸島への対処のためだった。日本の混乱に乗じて中国が上陸を
もくろまないとも限らない。また、当時は霧島山が噴火しており、
火山噴火による災害も懸念されていた。
「もしもなにか問題になるようなことになったなら、『陸幕長から
の指示だ』と言え」。
わざわざ火箱がそう言ったのは、すべての責任を負うつもりでいた
からだ(理由は後述)。

次に電話したのは中部方面隊である。
中方総監部幕僚副長、第10師団長、そして前職の中部方面総監と、
過去3度の勤務経験がある火箱にとってなじみのある方面隊だ。
2府19県におよぶ担当地域の広さといった中方ならではの特性も
熟知していたから、判断は早かった。



(つづく)

(わたなべ・ようこ)


過去記事はこちら
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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。


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