配信日時 2021/06/24 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (330)】  神は賽子を振らない(9)

こんばんは、エンリケです。

きょうから、一昨年と去年にお届けしたシリーズ

「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」

のつづきです。

過去配信した内容はこちら
http://okigunnji.com/watanabe/category1/category45/

現代の自衛官を主人公にしたよみものは
多そうで実は非常に少ないです。

渡邊さんならではの、過剰な感情表現をせず
読み手の心を揺さぶる文章を堪能いただけま
す。


さっそくどうぞ


エンリケ

追伸
東京五輪は一年延期されました。
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』
を読んで思いを馳せます。
https://amzn.to/33WBBlB



「ライター・渡邉陽子のコラム」バックナンバー
https://okigunnji.com/watanabe/



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『ライター・渡邉陽子のコラム (330)』

 神は賽子を振らない(9)

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こんばんは。渡邉陽子です。
今週から『パンツァー』で連載中の「神は賽子を振らない 第32代
陸上幕僚長火箱芳文の半生」の一部を抜粋してご紹介します。
過去に4回ずつ、2度にわたってご紹介していますが、今回はぐっ
と時間を現代に寄せて、東日本大震災の部分にクローズアップしま
した。


雑誌記事のお知らせです。

「丸」7月号に「日本の無人機最新レポート」が掲載されました。
竹内修氏の巻頭グラビアページと合わせてお楽しみいただければ幸
いです。ドローンは戦闘を変え、災害で命を救い、宅配便にもタク
シーにもなり……ものすごい可能性を秘めていて、知るほどに面白
く、空恐ろしくもあります。まずは国産ドローン頑張って欲しいで
す!https://amzn.to/2SoRO18

「PANZER」7月号に「神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳
文の半生」第27回が掲載されました。福島第一原発の状況を政府な
どから一切知らされないまま迎えた14日朝。3号機で起きた水素爆
発で、初めて火箱氏は原発が危機的状況にあることを知ります。翌
日、ヘリ放水の打診がありました。https://amzn.to/3fj8ikq

「正論」7月号に「われらの女性自衛官」第4回が掲載されます。
今回は航空自衛官の整備幹部。防大1期生であり、防大生の長女、
高校3年生の息子たち(双子!)のお母さんでもあります。取材時
は空幕勤務でしたが、現在は那覇の第9航空団整備補給群司令とし
て約700名の隊員を率いています。https://amzn.to/3oKDWKK



■神は賽子を振らない(9)

2011(平成23)年3月11日。
その日、火箱は午前から防衛省の防衛事務次官室で開催されている
情報委員会に出席していた。
参加者は防衛事務次官、統幕長、陸海空各幕僚長、情報本部長、内
局の防衛政策局長ほか課長クラスを含めて10名ほど。奇しくも統幕
長以下陸海空自衛隊のトップが一堂に会する会議中だった。
15時30分には久留米の幹部候補生学校に向かい、卒業式で訓示を述
べる予定になっていた。
時計を見て「そろそろかな」と退出準備を始めようかとしたそのと
き、次官室が大きな揺れに襲われた。
「おっ、なんだ!」
火箱の背後の壁に飾られている大きな絵画が波打つように激しく揺
れている。「危ない、頭に当たりますよ!」と中江事務次官から声
をかけられ、慌てて隣の折木良一統幕長と左右から額縁を押さえた
。これほど強い揺れを経験するのは、火箱にとって初めてのことだ
った。
「東京がこれほど揺れるとは。どこだ、震源地は」
すぐにテレビのスイッチを入れると、東北の太平洋沖を震源とする
マグニチュード8.4(のちに9.0に修正)の地震で津波警報も発令さ
れている。
昨年訪れて見てきた建て直したばかりの東北方面総監部庁舎や、19
60(昭和35)年のチリ地震で松島を襲った津波の高さなどを君塚栄
治東北方面総監から示されたことが脳裏に浮かんだ。同時に、第10
師団長時代に起きた能登半島地震のことを思い出した。
名古屋の官舎で大きな揺れを感じた火箱は「震源地が離れているの
にこれほど揺れたということは、現地ではより大きな被害が出てい
るはずだ」と考え、「一刻も早く現地へ」と、怒涛の勢いで指示を
出して部隊を現地に派遣したのだった。
「能登半島のときと同じだ。東北はとんでもないことになっている
はずだ」
東北地方は30年以内に大地震が起こるのがほぼ確実と言われていた
から、東北方面隊も自治体とともに「みちのくALERT2008」と呼ば
れる訓練を実施するなど、防災対策にはとりわけ力を入れてきた。
しかし、この地震は予想されていた規模よりはるかに大きかった
(政府の見積もりではマグニチュード7程度の地震が想定されてい
た)。
「『東北地方で発生する地震には東北方面隊の約2万人で対応する』
という当初の地震対処計画では、とても対処しきれないはずだ。
全国から部隊を集めて東北に送らなければ」
会議は即刻中止となり、火箱を含む4幕僚長や会議に参加していた
者たちは、それぞれの部屋へと飛び出して行った。
会議が行なわれていたのは11階、統幕長室は14階で陸幕長の執務室
は4階だ。エレベーターは止まっており非常階段に向かうとき、火
箱は統幕長に「部隊集めますから!」と言った。別れ際だったので
いいも悪いも返事を聞くことのないまま、4階まで一気に駆け下り
た。
災害における人命救助には「72時間の壁」がある。この時間を過ぎ
ると著しく生存率が下がるため、1分1秒でも早く、被災地に大部
隊を送り込み生存者を救出しなければならない。
「全国から部隊を集めるといっても、どこを送るか」
階段を駆け下りながら頭の中は目まぐるしく動き、構想を固めた。
「戦争も災害も初動が大切だ。これは戦争だ。負けたら国は亡びる。
絶対に負けられない」



(つづく)

(わたなべ・ようこ)


過去記事はこちら
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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。


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