配信日時 2021/06/21 08:00

【桜林美佐の「美佐日記」(129)】戦傷病者とパラリンピック

おはようございます、エンリケです。

今週もどうぞよろしくお願いします!

129回目の美佐日記。

まもなくはじまる東京五輪!
同時に開催されるパラリンピックへの
視線も忘れないようにしましょう!

パラリンピックと軍事は不可分一体なん
ですよ!

さっそくどうぞ。


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『誰も語らなかった防衛産業』の文庫版が、
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ではさっそく、
本日の「美佐日記」をお楽しみください。


エンリケ

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『自衛官が語る災害派遣の記録』に続く、第2弾
『自衛官が語る海外活動の記録』(桜林美佐監修・
自衛隊家族会編)が発売されています。中東シーレ
ーンの安全確保をめぐって新たな自衛隊派遣が行わ
れているこの時期にタイミングを合わせたような出
版です。現地で自衛官たちが何を思い、どのような
苦労をして、任務をこなしてきたか、25人の自衛
官のリアルな体験記です。

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桜林美佐の「美佐日記」(129)

戦傷病者とパラリンピック

桜林美佐(防衛問題研究家)

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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』、令和3年6月の今回
は129回目となります。

 なぜかあまり指摘する人がいませんが、非常に気
になることがあります。

 政府が設置した大規模接種センターで一時期、予
約に空きが出たと報じられていて、その対策として
「自衛官や警察官など危機管理に関わる分野の公務
員に接種を行なう」ということになりました。

 しかし、その後、接種券が65歳以下の人にも送
付されるようになり予約が埋まり始めました。

 そうなると、自衛官たちはまた後に回されるわけ
ですよね。

 おかしくないですか??

危機管理従事者への優先接種についての議論はどこ
にいったのか。

予約が空いたから自衛隊に打ってもらえばいいとい
うのは「優先接種」でも何でもありません。

 余ったワクチンを活用することで、この議論を沙
汰止みにさせることはいかがなものかと思っていま
す。

 「職域接種」の枠組みの人たちのほうが自衛官よ
りもはるかに早いという現実を、誰も疑問に思わな
いほうが不思議です。

 因みに、警察・消防など地方公務員は、自治体に
よってばらつきはあるものの、すでに終わらせてい
る場合が多いようです。大丈夫なのか日本は、とい
うことほんとに多いですよね・・。

 話は変わって、先日はとうとう行ってきました。
東京・九段下の戦傷病者史料館「しょうけい館」へ。
もう何年ぶりだったことでしょう。昔はよく行っ
ていました。

 靖国参拝(時間あれば「遊就館」」→「しょうけ
い館」のコースは私にとって定番でした。今回は、
近くにアメリカンスタイルのチリのお店を見つけて、
ベジタリアンチリとコーンブレッドで腹ごしらえ
をして行きました。知らない間に素敵なお店ができ
ていて感激でした!

この日のお目当てはパラリンピックの企画展。本当
はGW中に開催予定でしたが、緊急事態宣言が出た
ため、ずっと延期されていたのです。

 といってもこれは私の想像で、緊急事態宣言発令
中は休館していて、いったいこの企画展はどうなっ
てしまうのかHPにも何も書いていなかったので(
休館しますとも記されてなく)、毎日のようにハラ
ハラしながら更新されないHPをチェックしていた
のですが、緊急事態に入って職員が在宅勤務になり
HPのことなど忘れているんだろうなあ~と思いつ
つ6月に入って史料館が再開し、企画展は6月13
日までだというので大慌てで行って来たのです。

 さて本題のパラリンピックです。パラリンピック
はイギリスが起源です。元々は第二次世界大戦の負
傷兵のリハビリのために開いたスポーツ大会でした。

 始まりは1948年にロンドン郊外のストーク・マン
デビル病院で行なわれたアーチェリー大会というこ
とです。当時は負傷兵の中でも脊髄を損傷した兵士
は医者からも匙を投げられることが多く、生涯寝た
きり暮さねばなりませんでした。

 生きる希望を失くし、欝病になってしまう人も後
を絶たなかったため、ストーク・マンデビル病院で
はそうした兵士たちのリハビリの一環としてスポー
ツをすることを推奨したのです。スポーツに取り組
むことで負傷した兵士たちは生きる希望を取り戻し
ていったといいます。

 現在もパラリンピックには多くの軍出身者がいて、
米国でもイラクやアフガンで負傷した選手が多く
存在します。その意味で、パラリンピックは戦争の
産物と言っていいかもしれません。

 イギリスで始まった当初は、脊髄を損傷し下半身
不随になってしまった兵士のためのスポーツ大会だ
ったことから、「麻痺」を意味する「paraplegia」
と「olympic」を繋げてパラリン
ピックと呼ばれたようです。

 この名称は1985年にIOCで正式に認証され、
この頃はすでに下半身不随以外の選手もいたため、
オリンピックと並行して(parallel)開催される
「パラリンピック」に、意味が微妙に変わったの
だそうです。

 日本においても戦傷病者とパラリンピックには深
い関わりがありました。

 わが国の脊髄損傷者専門の施設は日露戦争後に設
置されました。手足を失い、生活が困難になってし
まった傷病兵を受け入れるための施設「廃兵院」で
す。

 そうです。乃木大将が足しげく通い、たくさんの
寄付をした所。手を失った兵士を見て「せめて煙草
を吸わせてやりたい」と自費をはたいて義手を作り、
配った「乃木式義手」の物語はよく知られている
話(かな?)ですよね。

 義手を受け取った兵士たちが新たな手でペンを持
ち乃木さんに御礼の手紙を書いたエピソードには胸
を打たれます。

 この東京にあった「廃兵院」は昭和に入って「傷
兵院」に改称され、昭和11年に箱根に移転します。

 日中戦争が始まると、ここに脊髄損傷の傷兵を受
け入れる施設として傷痍軍人箱根療養所が併設され
ました。

 戦後、東京パラリンピックの開催が正式に決定さ
れると、脊髄損傷者及び下半身麻痺者を集める出場
選手である必要が生じたため、脊髄損傷者の施設か
ら多くの選手(といっても未経験の人が多い)が集
められますが、特に箱根療養所からは日本代表選手
53名のうち19名もの戦傷病者が集められたのだ
そうです。

 この時点で開催まで1年を切っていたのですが、
選手たちは懸命に練習を始め箱根療養所の選手たち
は銀メダル4つ、銅メダル3つを獲得したほか、多
くの選手が上位に入賞したのでした。

 大会の名誉総裁として期間中、選手たちを激励し
続けた皇太子殿下・美智子妃殿下(現在の上皇上皇
后両陛下)は、翌年1月に箱根療養所を訪問し、選
手たちとの再会を果たされたといいます。

 私たちは戦死した先人たちのことを決して忘れて
はなりませんが、実は戦争で障害者となり、生涯、
車いすや寝たきりの生活を余儀なくされた箱根療養
所の人々のことも知っておく必要があると強く感じ
ました。

 今日も最後まで読んで頂きありがとうございまし
た。皆さんにとって素敵な1週間となりますように!



<おしらせ>
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(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フ
リーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(P
HP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載中。


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