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荒木さんの最新刊
知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。
そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!
自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。
『自衛隊警務隊逮捕術』
荒木肇(著)
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こんにちは。エンリケです。
「防衛省の秘蔵映像」解説 第18回です。
冒頭文、面白いですね。
戦後日本(いや、明治以降かもしれません)の
エリートに国家観がないことがよくわかりますね。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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防衛省の秘蔵映像(18)
ソ連戦車を撃ち止めろ!対戦車誘導弾「重MAT」
─昭和61年映像─
荒木 肇
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昭和61(1986)年の映像紹介
https://www.youtube.com/watch?v=vNF7PzwbhCo
□はじめに
いよいよ昭和も61年、映像には天皇陛下在位6
0周年を祝う行事も映っています。対米協調、ソ連
の脅威への対応を目指す陸・海・空自衛隊。その訓
練、装備などが続々登場します。
中曽根首相はアメリカのレーガン大統領との濃密
な関係のもとに、防衛力の向上を目指しました。「
東京サミット」、先進国首脳会議も開かれ、わが国
は経済力にふさわしい防衛力を整備するという目標
を立てたのです。
ソ連とアメリカの両首脳、レーガンとゴルバチョ
フは年頭に会談を行ないますが、意見の一致を見る
ことはありませんでした。一方で、中国に対しては
「わが国は過去を反省し、中国の発展を援助しなけ
れば」という政財界の声が高く、日中友好の世論が
高かった頃です。
今朝(6月5日)の産経新聞のコラム「産経抄」に
は、当時の「親中派」の代表として後藤田官房長官
が、わが国の歴史教科書への中国の口出しについて
容認した事実が書かれています。他国の教科書の記
述に文句をつけるのは、まさに内政干渉そのもので
す。
「(要求を)はねつけたら、向こう(中国)はまた
(日本に)攻め込まれると思うだろう」と、流行り
言葉では「忖度」とも思える発言を政府高官がして
いたのでした。
それが、この30年あまり後に、攻め込まれている
のはどっちだと、思わず不謹慎ながら笑いがこみあ
げています。このように、当時はソ連が危険、中国
は大切に、アメリカ一辺倒という時代でありました。
▼針の一刺し
「対戦車ミサイルは大きな鬼に立ち向かう、一寸
法師の針の剣なのです」。アメリカのヤキマ演習場
で、戦車目標への実射訓練を終えた幹部が話してい
ました。身を守る装甲もなく裸で立ち向かう歩兵に
とって、戦車はまさに金棒をもった鬼でした。第2
次大戦の頃は、対戦車地雷を埋めたり、束ねた手榴
弾などを投げつけたり、あるいは対戦車弾を撃つロ
ケット・ランチャー(通称ロケラン、あるいはバズ
ーカ)で対抗したりしていました。
陸上自衛隊もアメリカ供与のロケランを長い間使
っています。それが89ミリ・ロケット発射筒M2
0改4型といわれた携帯対戦車兵器です。ソ連のT
54・55級の戦車には対抗できたといわれます。
T54は1956(昭和31)年のハンガリー動乱
で姿を見せました。その改良型がT55です。
軽量、約7キロで1人~2人の手動で装塡、発射で
きました。ロケット弾(M35A1型対戦車榴弾)
の威力は大きかったといわれます。全長は1535
ミリ、電気式発火、1分間に10発が撃て、有効射
程は対戦車・装甲車で200メートル、地域目標な
ら600メートル、弾重は3450グラム、初速は
102メートル/毎秒。
T55は傑作戦車T34の後継で、56口径(砲身
の長さが弾口径の56倍)100ミリ砲を備えて重
量が35.4トン、卵を2つに割ったような形の鋳
造砲塔は世界最高の避弾経始(ひだんけいし)をも
つといわれていました。敵弾をガツンと受け止めて
防禦するより、そらしてしまおうという形状です。
アラブ連合やパキスタンに供与されて、紛争では多
く鹵獲され、その実態も知られていました。
▼115ミリ砲を搭載したT62
この昭和50年代のソ連の主力戦車はT62(重量
38トン)です。1963(昭和38)年には、そ
の存在を西側諸国に知られました。東ドイツやチェ
コ、ポーランド、アラブ連合などには供与され、そ
の性能もだいぶ把握されています。注目されたのは
砲です。初速1600メートル/毎秒で滑腔砲身(
中にライフリングがない)でした。威力は西側戦車
の装甲はすべて貫徹できると思われていました。
当時の米軍の主力はM60A1です。重量は47ト
ンで105ミリ砲をもちました。この105ミリ砲
は英国のビッカース社製105ミリL7A1です。
詳しい方なら、わが74式戦車(1974年=昭和
49年制式)と同じだと気付かれますね。初速はA
PDS弾(減口径徹甲弾)で毎秒1490メートル、
2000メートルの距離でT54・55を撃破で
きるとされていました。
そうです。このビッカースの105ミリ砲は、西ド
イツのレオパルト戦車、英国のセンチュリオンMK
6などにも採用されました。1967(昭和42)
年の中東戦争では、イスラエル軍が同戦車で、アラ
ブ連合軍のT54を多く撃破して強力さを示しまし
た。
▼第1世代のマット
歩兵がもつ対戦車兵器も進歩します。それは精密
な誘導能力をもつミサイルです。現在は、ロケット
とミサイルの区別が曖昧になってきました。しかし、
当時は射手が有線で有翼弾を命中するまでガイドす
る方式でした。わが陸自は64式対戦車誘導弾
(MAT=マット)を採用しました。
ほんとうはアンチ・タンク・ミサイルですから、A
TMという略称が正しいのですが、アトムというの
は原子力を連想させるということから、ミサイル・
アンチ・タンクという語順にしたそうです。このこ
とは、『不思議で面白い陸戦兵器』(市川文一・2
019年・並木書房)に載っています。
『不思議で面白い陸戦兵器』
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200メートル以内に近づかなければならないロケ
ランに比べると、有線のワイヤーの長さは1500
メートルなので、より遠くから撃てます。しかし、
秒速が85メートル(すなわち時速は約300キロ)
ですから、1000メートルを飛ぶには12秒近
くがかかりました。
その間、眼鏡で照準し、手元のジョイスティックで
操作誘導する照準手は動くことができません。当時
の演習や富士山麓の総合火力演習では、その命中率
の高さが見られます。この有線誘導方式は諸外国で
も採用されており、これを第1世代といいます。
▼着上陸するソ連軍を撃滅せよ・重マット
79式(1979=昭和54年制式)重マットは
第2世代です。防衛庁の映像では85(昭和60)
年に鹿児島県大隅半島にある佐多岬(さたみさき)
の射撃場で公開射撃する姿が見られます。第2世代
とは、半自動・半有線誘導をいいます。つまり、撃
ちっぱなしではないということです。
照準装置で狙った所へ飛翔した弾が命中します。
射程は4キロメートル、川崎重工業が10年近くか
けて開発しました。1964(昭和39)年度から
74年度まで開発経費は約11億円でした。
システムは発射機1型、2型、照準架、照準器、
送信器で構成されました。ミサイルの本体は長さが
1.57メートル、胴体直径15センチメートル、
重量は33キログラム。ミサイルはコンテナに納め
られ、コンテナ重量を含めると42キログラムにな
ります。当時のTOW(対戦車誘導弾)といわれた
AH-1S対戦車ヘリコプター搭載されたミサイル
(1975年に生産が始まる)と比べると重量は2
倍以上です。
これは対戦車だけでなく、榴弾も撃てて、上陸用
舟艇も撃破できるようにしたからでしょう。対戦車
用だけを考えれば、HEAT弾だけで済みます。H
EAT弾はヒートといわれる成形炸薬弾(せいけい・
さくやくだん)です。ふつうは対戦車榴弾で通用
します。
モンロー効果という言葉をご存じでしょうか。第2
次大戦を戦った各国の中で、成形炸薬弾を実戦で多
く使ったのは米軍とドイツ軍です。映画等でドイツ
兵がパンツァーシュレック、アメリカ兵がバズーカ
のような対戦車ロケット弾を使うところが見られま
す。
炸薬の一面に円錐形状の空間、漏斗(ろうと)のよ
うに成形すると爆発力が中空になったところに集束
されて厚い装甲鈑でも貫通する、これをモンロー効
果、あるいはノイマン効果といいます。これを実用
化して中空成形炸薬弾(ホローチャージ弾)を開発
したのはスイスの発明家だったそうです。『間に合
わなかった兵器』(徳田八郎衛・東洋経済新報社・
1993年)
日本陸軍でもドイツからの情報に接し、「タ弾」と
して開発しますが、あまりにも遅く、実戦で使われ
た記録も少なくなっています。ところが、舟艇を撃
破するにはHE弾が必要になるのです。これは普通
の榴弾をいい、爆発と破片効果で敵に損害を与えま
す。この榴弾の信管は目標の磁気を感知して作動す
るのです。1発で舟艇を撃沈、あるいは大破させる
には多くの炸薬を必要とします。
調達は1979(昭和54)年から5セットで始ま
ります。1セットで5800万円余りだったようで
す。1994(平成6)年度で約230セットが調
達されたといいます。
射手とランチャー(発射機)は50メートルほど
離すこともできました。秒速200メートルにも達
するミサイルは後部のキセノンランプから赤外線を
出します。これを照準器のセンサーが捉えて、照準
線に一致するように発射機からワイヤーを通じてミ
サイルに操舵信号を送りました。
秒速200メートルですから時速では720キロ
メートル。なかなか肉眼では追い切れませんが、2
000メートル先までは約10秒間かかります。こ
の間はやはり射手は危険なのでした。有線であるこ
とが最大のネックです。
▼2.5世代の「中マット」
続いて開発されたのが87式対戦車誘導弾です。
この昭和の最末期、ソ連が崩壊する寸前に登場する
強力な誘導弾でした。アクティブ・レーザー・ホー
ミング誘導方式です。照準装置からレーザーを目標
にあてて、反射したレーザーをミサイルの探知機が
見つけて突っ込んでゆきます。
射手は発射位置から自由に離れることができ、発
射煙や光を見つけられても安全です。また、本体が
全長1メートル、重量は約12キログラムと軽いの
で肩撃ちも可能。けわしい地形にも人による運搬が
できます。システムの重量も、ミサイル6発を含ん
でも140キログラムと軽量です。88年から部隊
配備が始まります。こうして普通科の対戦車火器は
充実してゆきます。
▼対戦車兵器の系列
当時の師団はいわば金太郎飴でした。4個普通科
連隊を基幹とする甲師団も、3個普通科連隊をもつ
乙師団も、その編制は変わりません。師団司令部、
普通(歩兵)科、野戦特科(砲兵)の各連隊、施設、
通信の各大隊、補給、衛生、武器、飛行の各隊、
そして対戦車隊でした。師団には必ずマットを装備
した対戦車隊がありました。
そして普通科連隊にはロケラン、106ミリ無反
動砲、64式MATがあり、81年からは新しい携
帯兵器として84ミリ無反動砲がロケランに代わる
装備になってきます。84ミリ無反動砲は84年度
からライセンス生産されていました。
全長は1130ミリ、重量は16.1キログラム、
有効射程は700メートル、初速が砲口で260
メートル/秒。元はといえば、スウェーデンが19
49(昭和24)年に開発した84ミリ・カールグ
スタフ砲です。FFV551対戦車榴弾の威力は高
く、成形炸薬弾は命中角度が80度でも起爆し、0
度で正面からぶつかれば400ミリの厚さの装甲板
を貫徹します。
陸自はこのころ、ソ連の脅威を真剣に受け止め、
旭川の第2師団は自分たちが盾となって時間を稼ご
うと思っていたのです。
(つづく)
(あらき・はじめ)
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●著者略歴
荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
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