こんにちは、エンリケです。
元防衛省情報分析官・上田篤盛さんの、
「短期5回連載:情報分析官が見た陸軍中野学校」
の3回目です。
こんかいのテーマは、
「中野学校の教育内容」です。
<万事を秘密戦の目的という視点から見る、そのう
えで形にとらわれない自由で柔軟な教育、それが中
野教育の魅力でした。これが中野出身者の自由で柔
軟な発想力や想像力を育んだのです。>
とのことばに代表される
「中野の教育」
ここにこそ、
いまわたしたちが中野学校から学ぶべき、
最高のエキスが詰まっているようです。
ご意見・ご感想お待ちしてます。
コチラからどうぞ
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さっそくどうぞ
エンリケ
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短期5回連載:情報分析官が見た陸軍中野学校(3)
中野学校の教育内容
インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)
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□はじめに
A.Y様、お便りありがとうございます。いくつか
の重要な視点をいただきましたが紙面の関係上、一
つだけ取り上げさせていただきます。
私は、1930年代半ばに、日本軍がソ連の鉄壁な
防諜態勢に行き詰ったことが中野学校創設の原因に
なったことを解説しました。それに対し、亡命した
白系ロシア人(ソ連共産主義を打倒を目指すロシア
人)の活用が日本は不十分であったのではないか、
との問題提起でした。
まさに、そのとおりであろうと思います。本書で
も少し触れていますが、日本人は愛情をもって現地
人に接するのですが、どうやら相手側の文化、価値
観を理解するのに疎(うと)いのではないでしょう
か。そのため、貴重な情報源を活用できない面があ
るようです。
他方、A.Y様もご指摘のように、敵側の対立分子
の活用には防諜上の危険があります。また、ソビエ
ト政権から亡命した人物の情報にどれほど価値があ
るかという問題もあります。
混沌とする日中戦争では、関東軍情報課が得た白
系ロシア人、満洲人から入手した情報は、核心的な
情報には乏しく、正確ではなかったと言います。さ
らには白系ロシア人をもって組織した秘密戦組織の
浅野部隊の指揮官がソ連情報機関の幹部というよう
な状況もありました。
ところで今日、民主化運動の際、政府に弾圧され
た民主化グループが海外に脱出し、この時、情報機
関は一般的にどうするのでしょうかね? かかるグ
ループの要員が民主化の重要性や本国の非道ぶりな
どを発言しますが、これはどのように見るべきなの
でしょうか。なかなか難しい問題です。
今回は中野学校の教育内容に焦点を当てて解説しま
す。
▼中野学校の誤ったイメージは映画などが原因
中野学校では、開錠法(鍵開け)、開封法(封書
開け)、窃盗法などの秘密戦技術が重点的に教育さ
れたとの認識があります。これを起点に中野学校は
非合法な行為を行なう“スパイ組織”であったという
イメージが蔓延し、戦後になって中野出身者が国家
犯罪に関与したなどの根拠なき風説が流布されてい
ます。
しかし、中野学校のこうした教育イメージは、19
60年代に映画「007」シリーズが公開され、空
前の“スパイブーム”が起きるなか、これに便乗す
るかのように映画『陸軍中野学校』が誇大宣伝的に
放映されたことが大きく影響しています。
この映画では、身分欺騙、金庫破り、殺人、誘拐な
どの“スパイ技術”を教育する場面が随所に描かれ
ています。主人公の三好少尉が任務遂行のために、
恋人を毒殺するシーンもあります。
映画の中で、草薙中佐(後方勤務要員養成所の秋草
所長がモデル)が「じゃあ、俺の中野学校で盗んで
やろうか。英国(えいこく)の暗号コードブックを」
と語る場面があります。中野学校生が訓練目的でこ
れに類する活動を行なったこともあるようですが、
中野学校は諜報・謀略機関ではないので、このよう
な事例は特殊なケースです。
しかしながら、こうした観客の関心を引く物語が、
中野学校を諜報・謀略などの秘密戦の実行機関であ
るかのような誤解を広めたことも事実です。
▼中野学校での将校教育では諜報・謀略技術は重視
されなかった
中野学校の創設時の目的は「替わらざる武官」の
養成でありました。残念ながら、太平洋戦争が開始
され、この目的は三期生までで潰えてしまいます。
中野学校を創設して何をしようとしていていたのか、
いかなる問題点を改善しようしたのかを明らかにす
るために創設期の教育内容を分析することが重要で
す。
創設期の将校教育では諜報・謀略技術の教育は体験
程度でした。二期生の原田統吉氏は次のように述べ
ています。
「技術に関しては充分に習熟するというよりも、幅
広く基礎をみっちりやっておくことに重点があった
ようである。将来どのような形で任務につくか予断
し難い立場を考慮してのことであったらしい。何し
ろ苦力になるのか、一流商社マンに偽装するのか、
外交官になるのか、全然見当もつかないのだから。
――その基礎さえあれば、その時必要なだけの技術
は現場に即応してマスターできる能力はもっている
はずだ、ということであったのだろう(そして現実
に仕事を始めたときそれは全くそのとおりであった)。
007的教育は、私の『中野』においては部外者が
考えているほど、あまり大きな比重を持たなかった
のである」(本書引用)
▼応用力、判断力などを重視
では、どのような教育が重視されたのか、原田氏
の回想をさらに見てみましょう。
「講義は淡々と進み、やがて問題が出る。いつも
のことだ。『情況は本日の現状、駐ノルウェー武官
としての状況判断及び処置如何』というのである。
ドイツが『ノルウェー、デンマークに進駐した』ニ
ュースが新聞に伝えられた直後である。与えられた
時間は二十分。
軍における情況判断というのは、単に情況の分析だ
けではない。相手の企図、実力及びそれに関連する
一般条件を分析予測し、それを当方の企図から判断
して、最後は『吾方は○○するを要す』という言葉
で終る、主体的な意志決定直前の段階までの作業で
ある。そして武官の処置とはこの場合、独立した秘
密戦指導者の具体的行動を意味する」(本書抽出)
つまり、中野学校の創設期が目指す教育は判断力や
決断力の養成を重視する教育であり、今日の世間が
イメージしている“スパイ教育”ではなかったので
す。
▼自由で柔軟な思想を持った教育
もう少し、教育風景を眺めてみましょう。原田氏は
次のように回想しています。
「秋草さんが、ある日数名の学生をつれてデパート
に行き、屋上から地階まで各階毎に一時間ほどずつ、
一日がかりで、目ぼしい商品や設備について、その
歴史、生産、良否の見分け方、使用法等を全部専門
的に説明し、その上秘密戦的利用法まで得意の話術
で解説して見せ、ヘトヘトになって帰って来た学生
に、レポートの提出を命じた、などという秋草伝説
がある。やはり『中野』のあらゆるものを教師とす
る、万能人への志向を物語るものであろう」(本文
抽出)
万事を秘密戦の目的という視点から見る、そのう
えで形にとらわれない自由で柔軟な教育、それが中
野教育の魅力でした。これが中野出身者の自由で柔
軟な発想力や想像力を育んだのです。
▼実戦的訓練の重視
秘密戦は実戦でできなければ役には立ちません。そ
のため、中野学校では教育訓練の環境を限りなく実
戦に近づけて、決断力(胆力)や行動力の涵養を重
視しました。このため、陸軍省の建物や軍需工場に
守衛などを欺き、こっそりと侵入するなど、犯罪紛
(まが)いの訓練も実施されました。
むろん、現代ではこのような訓練を行なうことはで
きません。しかし、中野学校では実戦的な教育訓練
と行なうための工夫がありました。たとえば、上述
の秋草所長によるデパートでの教育です。つまり、
あらゆるものを秘密戦という目的意識をもって思考
させ、特定の行動をとることで、法に触れずとも実
戦力が養成されることを中野学校の教育から学ぶこ
とができます。
なお実戦とは必ずしも戦争を意味しません。ビジネ
スの現場もいわば戦争であり、失敗が許されない緊
張感の中で商談が行なわれます。そのような状況下
で、正しい思考力や判断力、そして決断力がビジネ
スパーソンに求められます。しなやかで強靭なビジ
ネスパーソンを育成する上でも、中野教育は我々に
一つの視座を与えてくれるでしょう。
私のような長年情報教育の現場に携わった者からす
れば、中野教育から情報教育あるいは情報勤務者を
育成する上でのヒントを汲み取ることができます。
さらに、今日のグローバル化や、AIおよびICT
の技術発展の中で、知識教育よりも創造的思考力、
問題解決力、判断力と行動力などの重要性が高まっ
ていることを踏まえるならば、中野教育は現代のさ
まざまな領域における人材育成上の羅針盤になると
考えます。
それゆえに、人材教育に携わる方々にも、「しょせ
んわが国を誤った道に向かわせた旧陸軍の教育だ」
とか忌避せずに、中野教育の優れた点にも注目して
ほしいのです。また、私は、先進的な中野教育の魅
力も紹介したいのです。
次回は中野学校での精神教育に焦点を当てます。
(つづく)
(うえだ・あつもり)
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【著者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防
衛大学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上
自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語
学課程に入校以降、情報関係職に従事。92年か
ら95年にかけて在バングラデシュ日本国大使館
において警備官として勤務し、危機管理、邦人
安全対策などを担当。帰国後、調査学校教官を
へて戦略情報課程および総合情報課程を履修。
その後、防衛省情報分析官および陸上自衛隊
情報教官などとして勤務。2015年定年退官。
現在、軍事アナリストとしてメルマガ「軍事情
報」に連載中。
著書に『中国軍事用語事典(共著)』(蒼蒼社、
2006年11月)、『中国の軍事力 2020年の将来
予測(共著)』(蒼蒼社、2008年9月)、
『戦略的インテリジェンス入門―分析手法の手引
き』(並木書房、2016年1月)、『中国が仕掛け
るインテリジェンス戦争―国家戦略に基づく分
析』(並木書房、2016年4月)、『中国戦略“悪”
の教科書―兵法三十六計で読み解く対日工作』
(並木書房、2016年10月)、『情報戦と女性
スパイ─インテリジェンス秘史』(並木書房、
2018年4月)、『武器になる情報分析力─イン
テリジェンス実践マニュアル』(並木書房、
2019年6月)、『未来予測入門 元防衛省情
報分析官が編み出した技法 』(講談社現代新
書、2019年10月)。近刊『情報分析官が見た
陸軍中野学校』
ブログ:「インテリジェンスの匠」
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『情報戦と女性スパイ─インテリジェンス秘史』
※女性という斬り口から描き出す世界情報史
『中国戦略“悪”の教科書―兵法三十六計で読み解く対日工作』
※兵法をインテリジェンスに活かす
『中国が仕掛けるインテリジェンス戦争』
※インテリジェンス戦争に負けない心構えを築く
『戦略的インテリジェンス入門』
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