配信日時 2021/04/07 20:00

【サムライ先生、日本語を教える(20)】 切腹──恥ずかしくねぇのか。腹を切れ! 山下知緒(研武塾代表)

こんにちは。エンリケです。

「すぐそこにある国際情勢」を
味わえる、ドラマになりそうなものがたり。

「サムライ先生、日本語を教える」

きょうは20回目です。

武芸者ならではの

「柔らかい智慧」

を毎回楽しんでいます。

映像で見たい内容です。


なんというか、
山下先生って、ほんといい先生ですよね!!

きょうの話読んでいて、
ちょっと泣きそうになりました。

こういう先生に一度でいいから習いたかったですね。


さっそくどうぞ。


エンリケ


ご意見・ご感想・ご要望はこちらからどうぞ。

https://okigunnji.com/url/7/


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

サムライ先生、日本語を教える(20)

切腹──恥ずかしくねぇのか。腹を切れ!

山下知緒(やました・ともお)(研武塾代表)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

□はじめに

 明日から新学期が始まります。
新2年生は、期末テストの成績結果順でクラス替え
したのですが……学級発表の折りは、もうてんやわ
んやでした。
「もっと上のクラスがいいです!」
「仲のいい友達と同じクラスじゃなければイヤです」
「新しいクラスの先生はイケメンですか?」
といった具合で、いいたい放題。
「いい加減にしろ! 先生がイケメンかどうかなん
て関係ないだろう!」
 そう一喝すると、すかさず女子学生がお世辞をい
いました。
「いえ。山下先生だって、なかなかのイケメンです
よ」
「えっ、そう?」
 毒気を抜かれてたずねると、別の学生が「でも、
山下先生はオッサンすぎるよ」と、これまた大騒ぎ。
 収拾がつきませんでした。
まっ、担当教員がオッサンでも悪しからず。


▼「出入り禁止になっちまったよ!」

 職場での孤立にめげた私は、別の学校への転職も
考え始めた。学生と接している間は迷いが吹っ飛び、
仕事に没頭できたのだが、教務ブースに戻ると気
分がふさぎ、頭の中が真っ白になることが増えたか
らだ。

しかし、願書指導に取られる時間が倍増しており、
悠長に悩んでもいられなかった。学生が受験校に提
出する書類記入を手伝ったり、推薦書を作成したり
といった授業外の業務が、やたら多くなっていたの
だ。

 書類のチェックは伊藤先生がフォローしてくれた
が、志望理由文の書き方などは、ほとんど私一人で
対応していた。一行たりとも文章が書けない学生の
場合、こちらで用意した草稿を丸写しさせるのが手
っ取り早かったため、私は毎日のように作文をひね
り出していた。

 また、推薦文を書くにあたっては、ライター時代
につちかった文章力が非常に役立った。ホメどころ
の少ない商品や人物を「ウソにならない範囲で賛美
する」という表現力は、下っ端ジャーナリストに必
要不可欠である。その要領が、とりえのない学生ら
を美化するのにも有効だったのだ。授業中に私語の
多い生徒を「積極的に発言する学生」といい改めた
り、居眠りばかりしている生徒を「周囲に流されな
いマイペースな学生」といい変えたりするワケだ。

 しかし、どんなにお手盛りをしようと、仮名文字
すら読めぬ成績不良者たちは、不合格をくり返した。
少子化に苦しむ大学や専門学校は、留学生のとり
込みに積極的なのだが、それでも最低ラインという
ものがあった。

 そこで、読み書きが絶望的な学生たちは、「早期
出願」や「単願」の条件と引き換えに思い切った手
心を加えてくれる「AO入試」に送り込むことにし
た。AO入試とは、論文や面接を重視する入学試験
で、実質的には面接だけで合否を決定する学校もあ
る。

「自動車整備の学校へ行きたい」というスリランカ
人学生4人も、千葉県にある自動車学校をAO受験
させる手はずだった。中国人留学生が日本に興味を
抱くキッカケはたいてい「アニメ」であり、ウズベ
キスタン人は「コンビニエンスストア」、スリラン
カ男子の場合は圧倒的に「日本車」が多く、自動車
整備士になりたいという連中は、毎年数人出てくる
のだ。整備士は、就労ビザの取得に有利な職種なの
で、私はできるだけ彼らの希望に沿ってやりたかっ
た。

そんな気持ちで手を尽くしてやったAO入試だった
が、スリランカ人学生らはその段取りをご破算にし
てしまった。試験前日、景気づけの飲み会で受験料
1万5千円を使い果たしてしまい、会場には足を運
ばなかったというのだ。

「大バカヤロウ! 何を考えてんだよ……クソッ!」

 私はあたふたと専門学校へ電話し、ひたすら平身
低頭した。というのも、その入試は、アルバイトで
忙しい学生4人の都合に合わせて準備された特別試
験だったからである。案の定、先方は私の監督不行
き届きを痛烈に批判した。

「先生、ごめんなさい。でも、学校はほかにもあり
ます。気にしないでね」

「ボケナス! オマエらなんぞ、もう知るか。それ
より、うちの学校が出入り禁止になっちまったよ!
 どうしてくれんだ?」

 私が目をむくと、4人の学生はクモの子を散らす
ようにパッと逃げ去った。

▼「まぁ、ここの生徒はそんなもんでしょう」

 経験豊富な教員は、大学や専門学校に独自のツテ
を持っているものだ。伊藤先生にも、そういう底力
があった。彼女は横浜の専門学校へ手を回し、箸に
も棒にもかからぬウズベキスタン学生数人を、形ば
かりの試験を受ければ合格できるようにしてくれた。

 しかし、またしても目を覆いたくなるようなトラ
ブルが発生したのである。私に殴りかかったことの
あるトムニコフが、カンニングをおこない、それが
発覚したのだ。非常にあからさまな不正行為だった
らしく、その様子は試験監督のみならず、学長を含
めた職員全員が会場の小窓から確認したとの話だっ
た。


「まぁ、ここの生徒はそんなもんでしょう」

 そういう伊藤先生の冷笑に私はイライラしたが、
さすがに何もいい返せず、すぐさまトムニコフを呼
びつけた。

「アホタレ! トンマ! オマエ、何やってんだよ
! 何度も、何度も、ルールを守れ、バカほど守れ。
そう教えただろう?」

 トムニコフはうすら笑いを浮かべていたが、心な
しか大きな体を丸めて「ごめんなさい、先生」と消
え入るような声でつぶやいた。

「オレに謝るんじゃねぇ! 学校を紹介してくれた
伊藤先生に謝れ! 今後、門前払いされる後輩たち
に謝れ! そんで、テメェ自身の将来にも謝れ!」

 すると彼につきそってきたルスタムが、非難がま
しく口をはさんだ。

「トムニコフは勉強ができない。だから、答えをコ
ピーするのは当たり前です」

「オマエら、留学生だろう? 『勉強ができない』
じゃ済まされねぇんだよ! それにな、日本ではカ
ンニングして100点とるよりも、ルールを守って
0点とるほうが偉いんだぞ。そのことは、死ぬほど
いっただろう?」

「先生、それはウソです。0点でもいいなら、テス
トをやる意味がない」

「バカヤロウ! そこまでいうなら、バレねぇよう
にやれよ。ウズベキスタン人は、常識のないウソつ
きだ。間抜けな卑怯者だって思われたんだぞ。恥ず
かしくねぇのか!」

私は興奮のあまり「腹を切れ! 腹を!」と、トム
ニコフの太鼓腹を指さしながら怒鳴りつけていた。


(つづく)


(やました・ともお)



【筆者紹介】
山下知緒(やましたともお)
1971年9月9日生まれ。2018年4月以降、
日本語学校教師を務める。民弥流居合術、駒川改心
流剣術をはじめ、小太刀、十手、棒、柔術などを学
ぶ。現在は手裏剣術を表芸とする武術道場「研武塾
」を主宰。手裏剣製作の勉強会「武具学会」を併設
して、多面的な武術研究に取り組んでいる。妻のコ
ミックエッセイ『ある日突然ダンナが手裏剣マニア
になった。』<リーダーズノート>に描かれた私生
活をNHKドキュメント番組「熱中人」が密着取材
して2012年1月に放映。2012年11月、D
VD「山下知緒 手裏剣道 験流手裏剣術入門」<
クエスト>を刊行。2014年4月、『古式伝験流
手裏剣術』<並木書房>を上梓。

≪研武塾道場≫手裏剣術をはじめ、居合術や古流剣
術等を稽古する武術道場。稽古日は毎週土曜日の午
後4時から午後6時。月謝6千円。道場所在地は西
武池袋線「東久留米駅」から徒歩2分。道場の詳細
や問い合わせは、
古式伝験流手裏剣術 http://kenryu-shuriken.jimdo.com/





▼きょうの記事への、あなたの感想や疑問・質問、
ご意見は、ここからお知らせください。
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/


 
PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個
人情報を伏せたうえで、メルマガ誌上及びメールマ
ガジン「軍事情報」が主催運営するインターネット
上のサービス(携帯サイトを含む)で紹介させて頂
くことがございます。あらかじめご了承ください。
 
PPS
投稿文の著作権は各投稿者に帰属します。
その他すべての文章・記事の著作権はメールマガジ
ン「軍事情報」発行人に帰属します。
 
 
最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝し
ています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感
謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、
心から感謝しています。ありがとうございました。

 
●配信停止はこちらから
https://1lejend.com/d.php?t=test&m=example%40example.com
 
 

-----------------------
発行:
おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
 
メインサイト
https://okigunnji.com/
 
問い合わせはこちら
https://okigunnji.com/url/7/
 
-----------------------

Copyright(c) 2000-2021 Gunjijouhou.All rights reserved