配信日時 2021/03/30 20:00

(新)【短期連載:情報分析官が見た陸軍中野学校(1)】「中野学校を等身大に評価する」 上田篤盛(インテリジェンス研究家)

こんばんは、エンリケです。

元防衛省主任情報分析官・上田篤盛さんの、
「短期連載:情報分析官が見た陸軍中野学校」
がはじまりました。

全5回の予定です。

テーマは、帝国陸軍で情報員教育を行った
陸軍中野学校です。

中野といえば小野田寛郎少尉で有名ですが、
実は小野田少尉が入った頃の中野学校は、
インテリジェンス要員の教育機関というより
は、遊撃戦(ゲリラ戦、非対称戦)の戦士を
育成する機関に変質していました。

そういった歴史や、
中野をめぐる荒唐無稽なフィクション話、
そもそもの把握が間違っている話などなど、
「いわゆる中野伝説」をぶっ壊す話が満載です。

この連載でリアルな陸軍中野学校を把握し、
今に活かせる具体的現実的な知恵やスキルを
見出すきっかけにしませんか?

さっそくどうぞ


ご意見・ご感想お待ちしてます。
コチラからどうぞ
 ↓ ↓ ↓ ↓
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エンリケ


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短期連載:情報分析官が見た陸軍中野学校(1)

中野学校を等身大に評価する

  インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)

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□はじめに

「軍事情報」メルマガ読者の皆様、ながらくご無沙
汰しております。以前、「兵法三十六計」「女性ス
パイと情報史」「わが国の情報史」を連載させてい
ただいた上田です。

「わが国の情報史」では、少しだけ中野学校に触れ
ましたが、このたび、これを拡大リニューアルして
『情報分析官が見た陸軍中野学校』を5月に出版さ
せていただくことになりました。

これまでの拙著の中でも、とりわけ“生みの苦しみ”
を味わったとの思いがあり、本書では以下のよう
に表現しました。本音です。

「……中野学校を一冊の著書として刊行しようとし
た過程では、理解力や筆力の欠如から、中野学校の
実相あるいは先人たちの労苦を表現しきれない挫折
感を覚え、執筆を中断したこともあった。
 だが、筆者の友人の支援、中野関係者および出版
社のご厚意で、五年の歳月をかけて、ようやく一つ
の形にすることができた。
 少々大袈裟ではあるが、本書は自身の内面と向き
合い、先人たちの崇高な精神をあれこれ分析する資
格もない自らの“未熟さ”を自覚し、また“葛藤”
と戦い抜いた末の書なのである」(本文引用)
 
さてタイトルにもありますが、これは既存の中野学
校関連本とはまったく一線を画する本です。つまり、
情報分析官あるいは調査学校などでの情報教官を
経験した私が、自らを当時の環境に置き、先覚諸氏
の情報活動への追体験を試み、中野学校の組織や出
身者の活動がどうだったのかなどを分析・評価して
います。


もちろん、過去に自分を投影するなど簡単な口には
できないし、至らない点は多々あると思います。実
際、前述のような挫折を存分に味わいました。

しかし、以下に述べるような状況を放置することは
できないと考え、本書を世に問うこととしました。


▼中野出身者は“スーパー・スパイ”ではない

今日の中野学校関連本の多くは、戦前や戦後の中野
出身者の活動に焦点が当てられています。中野出身
者の1人である小野田寛郎少尉を代表とするアジア
での遊撃戦や、最近では沖縄戦での中野出身者の国
内遊撃戦を取り扱う傾向にあります。しかし、中野
学校では秘密戦と遊撃戦はまったく異なる概念であ
り、中野学校が止むを得ずに遊撃戦の教育を引き受
けた経緯があることはほとんど認識されていません。

さらには中野出身者が戦後になって、帝銀事件、松
川事件、白鳥事件などの「国家重大謀略事件」に関
与したかのような俗悪本がはびこっています。つま
り商売主義によって偏向された根拠のない風説や、
中野出身者を“スーパー・スパイ”に囃し立てる本
が跋扈しています。

中野学校には、長くても1年くらいの課程しかあり
ません。そこには開錠(鍵開け)、開封(封書あけ)、
薬物(毒殺)などのスパイ教育もありましたが、秘
密戦の基礎教育、国際情勢、占領地行政などさまざ
まな教育をやっていました。多くのカリキュラムを
こなすなか、いわゆる“スパイ技術”を短期間で修得
できることなどあり得ません。
 
失礼ながら、多くのジャーナリストや作家の方には、
情報活動および軍事での現場感覚がないので、ちょ
っと教育すれば「スーパー秘密戦士」ができるよう
な錯覚をお持ちになるのだろと思います。そうした
錯覚を前提に中野出身者による戦後の謀略説などが
組み立てられていくのだと考えます。

他方、中野学校の組織や出身者の活動を、過去資料
に基づき考察している良書もありますが、中野学校
を国家謀略機関として他国の情報機関と比較したり
する点には若干の問題があると思います。

▼中野学校は情報機関ではなく教育機関である

中野学校は陸軍の一教育機関です。私のように自衛
隊の一教育機関の教官として長年勤務した経験から
すれば、組織内の一教育機関が諜報、謀略を実行す
る主体になり得ません。

国家への影響も限られていることは明らかです。教
育は国家全体の国力維持の屋台骨ではありますが、
即戦力の養成という点での限界もあります。

たしかに、当時、国家および陸海軍が本格的な情報
教育の機関を有していなかったため、中野学校での
情報教育は画期的なものでしたが、中野学校ができ
たからといって、戦前の情報活動の問題点が一掃さ
れる、太平洋戦争を回避できたかもしれないと過大
視するのは希望的観測であり幻想です。このような
感覚論は、情勢判断に失敗し無謀な太平洋戦争に突
入し、太平洋戦争で情報活動の失敗をしたことの本
質の理解を遠ざけることになります。

以上のような状況を憂慮するとともに、中野学校の
より実相に迫りたいと考え、私は次の2つの目的を
もってこの著書を書きました。

「本書の目的は二つある。一つは、陸軍中野学校(
以下、中野学校)の創設理念や教育内容を正しく評
価し、現代社会における情報戦争(情報戦)への対
応に役立てることである。
 もう一つは、中野学校がスパイ組織として非合法
な活動を行なっていたなどという、誤った認識を是
正することである。」(本文引用)

 エンリケ様のご厚意により、5回シリーズで本書
の読みどころを紹介させていただきます。皆様よろ
しくお願いします。



(つづく)




(うえだ・あつもり)


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【著者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防
衛大学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上
自衛隊に入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語
学課程に入校以降、情報関係職に従事。92年か
ら95年にかけて在バングラデシュ日本国大使館
において警備官として勤務し、危機管理、邦人
安全対策などを担当。帰国後、調査学校教官を
へて戦略情報課程および総合情報課程を履修。
その後、防衛省情報分析官および陸上自衛隊
情報教官などとして勤務。2015年定年退官。
現在、軍事アナリストとしてメルマガ「軍事情
報」に連載中。
著書に『中国軍事用語事典(共著)』(蒼蒼社、
2006年11月)、『中国の軍事力 2020年の将来
予測(共著)』(蒼蒼社、2008年9月)、
『戦略的インテリジェンス入門―分析手法の手引
き』(並木書房、2016年1月)、『中国が仕掛け
るインテリジェンス戦争―国家戦略に基づく分
析』(並木書房、2016年4月)、『中国戦略“悪”
の教科書―兵法三十六計で読み解く対日工作』
(並木書房、2016年10月)、『情報戦と女性
スパイ─インテリジェンス秘史』(並木書房、
2018年4月)、『武器になる情報分析力─イン
テリジェンス実践マニュアル』(並木書房、
2019年6月)、『未来予測入門 元防衛省情
報分析官が編み出した技法 』(講談社現代新
書、2019年10月)。近刊『情報分析官が見た
陸軍中野学校』




ブログ:「インテリジェンスの匠」
http://Atsumori.shop

 
『情報戦と女性スパイ─インテリジェンス秘史』
※女性という斬り口から描き出す世界情報史

『中国戦略“悪”の教科書―兵法三十六計で読み解く対日工作』
※兵法をインテリジェンスに活かす
 
『中国が仕掛けるインテリジェンス戦争』
※インテリジェンス戦争に負けない心構えを築く
 
『戦略的インテリジェンス入門』
※キーワードは「成果を出す、一般国民、教科書」
 
『未来予測入門 元防衛省情報分析官が編み出した技法 』
※インテリジェンスノウハウで未来を見抜く技法。新書

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