配信日時 2021/03/24 20:00

【サムライ先生、日本語を教える(18)】 恋仲──校内恋愛は破局も早い? 山下知緒(研武塾代表)

こんにちは。エンリケです。

「すぐそこにある国際情勢」を
味わえる、ドラマになりそうなものがたり。

「サムライ先生、日本語を教える」

きょうは18回目です。

武芸者ならではの

「柔らかい智慧」

を毎回楽しんでいます。

映像で見たい内容です。

日本語学校教師。
正直わたしではとても務まらない仕事ですw

また、支那とわが国はいまや、
言葉も違う真の外国になっていることが
じつによくわかる記事でした。

それにしても、
山下さんに教わった生徒さんは
幸せ者だと思います。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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サムライ先生、日本語を教える(18)

恋仲──校内恋愛は破局も早い?

山下知緒(やました・ともお)(研武塾代表)

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□はじめに

 学生たちは、人生論に耳を傾けるのが意外と好き
です。
 私が語る人生論は、もっぱら「恋愛とケンカ」。
人生論に正解はなく、学生を触発できるのならば、
あからさまに偏った主張でも構わないと思っていま
す。
 国と国、人と人、あらゆるものが「ラブ」と「ウ
ォー」の揺り返し。
先日、そう力説したところ、女子学生に「恋愛もケ
ンカも面倒くさいから嫌いです」と反論されました。
「面白いドラマほど、面倒な恋愛やケンカがたくさ
んあるだろう? 面倒がない世界や人生なんてつま
らないぜ」
 私がそういうと、別の学生から「ドラマと現実は
違います」と、クールな横ヤリが入りました。
留学生ながら、ほとほと口が達者な連中。
まったく、面倒くさい。
でも、それゆえに、やはり面白いのも事実です。


▼こりゃあ、手を焼きそうだぞ

 西丘日本語学園には、ウズベキスタン、ベトナム
、スリランカ、ネパール、中国の合計5か国から留
学生が集まっていた。当初はウズベキスタン人学生
が中心だったが、この年の10月生以降、中国人学
生の割合が激増していた。

 その理由の一つは、スリランカ人やネパール人の
留学ビザが交付されづらくなったことにあった。違
法労働や不法滞在といった犯罪率の上昇が関係して
いるとのウワサだった。また、急速な経済成長をと
げた中国には成金が多く、その子弟からは学費の取
りはぐれが少なかったため、グループ方針として、
学生募集の主軸を中国へと移していった影響も大き
かった。

 実際、入学してきた中国人留学生には、アルバイ
トをせずに親からの仕送りだけで生活している者が
結構いた。そういう学生らは、日本語学校のみなら
ず、留学生向けの進学予備校にも通っているとのこ
とだった。

 中国人学生の立ち振る舞いは大人しく、のっけか
ら日本語力も高かったが、開けっぴろげなスリラン
カ人などに比べると、神経質でとっつきにくい側面
もあった。総じてひっ込み思案だったけれど、いき
すぎた学歴社会や、バブル経済が生んだ拝金主義の
影響からか、ブランド志向が強く、財力のみに幸せ
を求めるような即物的価値観を持つ生徒が目につい
た。

「ちょっと見は従順だけれど……こりゃあ、手を焼
きそうだぞ」

私はそう直感し、ひそかに警戒心を抱いていた。

▼話すのがヘタだと変に思われるぞ

 中国人の場合、最初から漢字が読めるので、非漢
字圏の学生に比べると語彙を習得するのが格段に早
い。しかし、台湾や香港をのぞき、中国本土では
「簡体字」という簡略化した漢字を使用しているた
め、日本の漢字が書けない者が少なくなかった。ま
た、和製漢字である「榊」などの国字も、知らない
ことが多いようだった。ちなみに、畑、峠、辻、塀、
込なども国字である。

 加えて、日本と中国ではニュアンスの異なる漢語
がたくさんあり、これらも一つひとつ確認させる必
要があった。たとえば、「材料」という言葉には、
中国だと「資料」とか「データ」の意味も含まれる
のだ。

 なお、中国人留学生の会話力は、得てして非漢字
圏学生よりもふるわなかった。中国人は「か」と「
が」の聞き分けや、「ら・り・る・れ・ろ」と「な・
に・ぬ・ね・の」のいい分けが苦手で、いつまで
もマスターできない生徒がいた。

 彼らを教えることで、「清音は音韻の基本であり、
この清音を汚した音が濁音である」との感覚が、
日本人独特のものだと気づいた。「か・き・く・け
・こ」がキレイな音であって、「が・ぎ・ぐ・げ・
ご」が汚い音だといった認識は、「清浄と不浄」に
重きをおく神道にも通じる観念なのだが……むろん、
入国間もない留学生を相手にそこまでの解説はし
ない。それゆえに、このニュアンスをたたき込むの
は、意外と骨であった。

また、日本語のら行は、舌を強くはじいて発声する
「弾音」なので、巻き舌を使う英語の「R」に比べ
ると、これまた少々特殊な発声である。「ら」の発
音が上手くできない学生を教える時は、舌打ちをし
ながら「あ」をいわせる練習が効果的だと発見する
までにも、かなりの時間を要した。

「中国人と日本人の顔は変わらない。だから、話す
のがヘタだと変に思われるぞ。読む、書くだけじゃ
ダメだ。日本で暮らすなら、会話力も身につけなさ
い!」

 こんな苦言を呈すると、プライドの高い中国人女
子学生たちは一斉にそっぽを向いた。特に、入学直
後のプレイスメントテストで満点近くをとった社長
令嬢のシュは気難しく、遅刻を注意しただけでもつ
むじを曲げるジャジャ馬だった。

「年ごろの娘を持つ父親って、こんな気分なのかな?」
と、毎度ぐんなりしたが、私は相手が女性でも決し
て手綱をゆるめなかった。

▼女性どうしのとっ組み合い

 日本語教員の養成課程では、最初に「語彙コント
ロールを心がけるように」と教わる。語彙コントロ
ールとは、「レッスンの際、まだ教えていない単語
や文法を使ってはいけない」という、教授法のイロ
ハだ。

それに従えば、新入生の授業は、身ぶり手ぶり、絵
カードで進めるのが妥当である。しかし、そういう
講義は、学生たちを退屈させてしまいがちだった。

 そもそも留学生は、母国で150時間以上の日本
語学習を積むか、それ相応の日本語力を証明して来
日するルールになっている。裏を返せば、「日本語
がまったくわからない留学生はいない」というのが
建前なのだ。だから、語彙コントロールにこだわり
すぎた講義に、「私たちは幼稚園児じゃないぞ!」
と不快をあらわにする学生も出てくるワケだ。

「150時間どころか1秒たりとも日本語を勉強し
ていないだろう」とおぼしき生徒もいたけれど、級
友からの助け舟が飛び交うので、彼らにしても語彙
コントロールをゆるめた授業はさほど不具合がない
ようだった。

 ともあれ、この「助け舟」がキッカケとなり、男
女の仲が急速に深まるケースもあった。10月生は
女子生徒が多かったためか、にわかに校内恋愛が盛
んになった。が、その分、破局も早いようだった。

 ランとフは、同期入学の中国人学生で、本国から
すでに交際していた熱愛カップルだった。教室の最
後列に陣どり、他生徒とは没交渉の姿勢を貫いて、
絶えずイチャイチャしていた。女性のランはかなり
内気と見えたが、彼氏のフには威張り散らしている
らしく、田中さんスクープによれば、ランのカンシ
ャクに耐えかねたフが、学生寮の階段で泣きじゃく
っていたこともあったという。

そんなランとフが、ある時期をさかいに、中国人女
子グループと小競り合いをするようになってしまっ
た。理由はまったく不明だったが、その確執は深く、
とうとう授業中に大ゲンカをおっぱじめるまでに
発展した。中国人女子どうしのケンカはアグレッシ
ブで、人目をはばからずののしり合ったり、往々に
して髪や服のひっぱり合いもおこなった。

ランと直接対決したのは、ソウというおかっぱ頭の
女子生徒だった。

ソウは五月人形のごとき東洋顔をしたボーイッシュ
な生徒で、「ナルト」という忍者アニメの大ファン
だった。何を考えているのかわからない黒目がちの
瞳と、ロボットみたいな硬いしゃべりかたが、私は
ひそかに気に入っていた。後楽園でもらったナルト
のクリアファイルを彼女にプレゼントした際は、
「先生、これ、ナルトじゃない。息子のボルトです」
と、無遠慮に突き返されたこともあった。「中国の
女性は愛想笑いをしない」と聞いたことがあったが、
ソウのぶっきら棒さは飛びぬけていた。彼女は、
ナルトというより、忍者ハットリくんによく似た超
然としたムードがあった。

 そんな彼女が感情をあらわにして、ランととっ組
み合いをしていると報告を受けた時は、本当にたま
げてしまった。

「コラッ。何やってんだ。授業中だろう!」

もみ合うソウとランを一喝すると、二人のひっつか
み合いはすぐに収まったが、両者は悪びれることな
くにらみ続けていた。女性どうしのいざこざという
こともあり、後処理は田中さんに任せたのだけれど
……火ダネは完全に消えなかったらしい。その晩、
寮内で彼女らのトラブルが再燃してしまった。

マズいことに、ランの彼氏であるフが助勢してソウ
を突き倒してしまい、これがちょっとした問題とな
った。突き飛ばされたソウが頭を壁にぶつけたとか
で、それを聞いた金さんが大興奮したのである。金
さんは、ソウに脳のCTスキャンを撮らせ、その診
断書をふり回しながら、私にフの除籍を打診してき
た。

「男が女に暴力をふるう。これはとんでもないこと
でしゅよ! 山下先生、違いますか? フさんは除
籍にするべきです!」

「金さん、待ってください。ケガってほどのケガじ
ゃないし、退学にするまでもないでしょう。まっ、
ちょっと落ち着きませんか」

金さんの激昂に閉口しながらも、私はなだめ役に徹
することにした。

「フさんは、ガールフレンドにも泣かされてしまう
ような気の弱い学生です。ソウさんに手を出したっ
ていっても、たかが知れていますよ。勢い余っただ
けの事故でしょう。厳重注意ってことで、いいんじ
ゃないですか?」

「山下先生! では、フさんには反省文を書いても
らいましょう! そして、ソウさんのCT代とか診
察料とかね、それはじぇんぶ彼に負担してもらう。
それでよろしいですか!」

「えぇ。結構だと思います」

私の返事を待たずに、金さんは自分のパソコンへと
向かい、ふんまんやるかたないといった表情でフに
渡す請求書を作り始めた。



(つづく)


(やました・ともお)



【筆者紹介】
山下知緒(やましたともお)
1971年9月9日生まれ。2018年4月以降、
日本語学校教師を務める。民弥流居合術、駒川改心
流剣術をはじめ、小太刀、十手、棒、柔術などを学
ぶ。現在は手裏剣術を表芸とする武術道場「研武塾
」を主宰。手裏剣製作の勉強会「武具学会」を併設
して、多面的な武術研究に取り組んでいる。妻のコ
ミックエッセイ『ある日突然ダンナが手裏剣マニア
になった。』<リーダーズノート>に描かれた私生
活をNHKドキュメント番組「熱中人」が密着取材
して2012年1月に放映。2012年11月、D
VD「山下知緒 手裏剣道 験流手裏剣術入門」<
クエスト>を刊行。2014年4月、『古式伝験流
手裏剣術』<並木書房>を上梓。

≪研武塾道場≫手裏剣術をはじめ、居合術や古流剣
術等を稽古する武術道場。稽古日は毎週土曜日の午
後4時から午後6時。月謝6千円。道場所在地は西
武池袋線「東久留米駅」から徒歩2分。道場の詳細
や問い合わせは、
古式伝験流手裏剣術 http://kenryu-shuriken.jimdo.com/





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