配信日時 2021/03/17 20:00

【サムライ先生、日本語を教える(17)】 主任──普通の学校だったらセクハラです 山下知緒(研武塾代表)

こんにちは。エンリケです。

「すぐそこにある国際情勢」を
味わえる、ドラマになりそうなものがたり。

「サムライ先生、日本語を教える」

きょうは17回目です。

武芸者ならではの

「柔らかい智慧」

を毎回楽しんでいます。

映像で見たい内容です。

きょうは下ネタです。
腹抱えて笑いましたw

さっそくどうぞ。


エンリケ


追伸
息苦しい世の中はまっぴらごめんですw


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サムライ先生、日本語を教える(17)

主任──普通の学校だったらセクハラです

山下知緒(やました・ともお)(研武塾代表)

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□はじめに

 教員としてもっとも戸惑うのは、卒業した女子学
生からの連絡です。
 今のところ、2度ほど経験があります。
 進学先や就職先での不安など、相談したいことが
山ほどあるのは承知なのですが……「是非お会いで
きませんか?」といったメールや電話を個人的にも
らったりすると、深く悩んでしまいます。
「教師と生徒」という関係性が希薄になった若い女
性と直接会うことに、強い抵抗を感じるわけです。
 自意識過剰でしょうか?
 むろん、私によこしまな気持ちはありません。
 とはいえ、ドキドキしちゃうのも事実です。
「学校を離れた場所では学生と会わない」というポ
リシーの教員もいますけれど、退職した学校の学生
から連絡があった場合、今の職場に呼び出すのはち
ょっと違う気がする。
 ともあれ50歳を目前にして、ようやく倫理とい
うものを意識し始めています。

▼それで本当にやっていけるのかな?

 10月に入学してきた新入生のほどんどは中国人
だった。中国人でない生徒は、新聞奨学生のベトナ
ム人学生2人のみ。その結果、西丘日本語学園は2
クラスを増設し、合計6クラスの総勢100人を超
える所帯に成長した。

 なお、新入生が入学してくる直前になって、よう
やく教務主任の伊藤先生が着任してきた。色素沈着
が目立つ浅黒い肌をしていたが、顔だちはすこぶる
整った熟女だった。「今でも時たま六本木にくり出
して遊ぶ」と豪語するバブル世代の人で、肌のシミ
は趣味のサーフィンによる日焼けが原因のようだ。

彼女の母親もまた日本語学校の仕事をしており、こ
の業界にはずいぶん詳しいとの話だった。ただし、
シングルマザーの伊藤先生は、朝10時の出勤、仕
事あがりは夕方4時という、かなり短い労働時間で
雇用契約を結んでいた。息子の面倒を見る都合上、
その条件は絶対に譲れないらしい。

さらに「ずっと事務畑にいたため、教壇に立つのは
原則NG」との要望も曲げず、現場サイドとしては
いささか頼りない教務主任だった。しかも、ほかの
グループ校もかけ持つ予定で、当分は週に2、3日
しか顔を出さないと聞かされていた。

 授業に入らぬ教員が、学生やクラスの状況を掌握
するのは、実に厳しいものがある。また、進学相談
は放課後に集中しておこなうので、毎日早あがりと
いうのも困りものだった。私は「それで本当にやっ
ていけるのかな?」とけげんだったけれど、美人と
机を並べられるのは気分のいいことなので、「まぁ、
どうにかなるだろう」と、あまり深く考えないこと
にした。

 ところで、伊藤先生が就任する少し前、林さんと
いう若い女性事務員も配属された。彼女は小学生み
たいに小柄な女性で、第一印象は相当に地味だった。
ところが、仕事ぶりはとても落ち着いていて、ず
いぶん有能であることが徐々にわかっていった。

 こうして女性職員がにわかに増えたのだが、この
職場の女性率上昇は、私の仕事に微妙な影響を与え
たのだった。

▼「あんな大声で、あんな話は困ります」

 伊藤先生が着任したころ、学生の間で「山下先生
は中国人らしい」というウワサが広まっていた。学
校経営者が中国人であることと、日本人にしてはパ
ワフル過ぎる私の挙動から、そんなウソっぱちが拡
散したようだ。

「先生、本当は中国人なんでしょう?」

 その日も、おしゃべり好きなバヴァンが出し抜け
に声をかけてきた。

「何でだよ? 私は、間違いなくメイド・イン・ジ
ャパンだぜ。父親も母親もジャパニーズ、つまり純
正品だよ。中国語は、ニイハオとサイチェンくらい
しか知らない。ただし、ギョウザは大好きさ。安心
しろ、日本語は得意だよ」

 そう改めて断言すると、大半の学生は納得したよ
うだったが、バヴァンの追及はそこで終わらなかっ
た。

「じゃあ、山下先生。何で日本人のチンポは小さい
んですか?」

「はぁ? 全然関係ねぇだろ。そもそもな、日本人
のは小さくないんだぞ。いつもはカワイイけれど、
膨張率がものすごいんだ」

「ボウチョウリツ? 何ですか、それ」

「スモールサイズからビッグサイズにチェンジする
パーセンテージのことだ。『ぼっき』ともいうな」

そういいながら、私はホワイトボードに「勃起」と
板書した。

「おお、ボッキね。知っています。先生のボッキ、
どのくらいですか?」

私は「うははははは」と高笑いし、にぎったコブシ
を突き出しつつ、ひじから先を指さした。

「ウソッ、大きい! じゃあ、チンポ見せて、先生
!」

 バヴァン以外の学生らも火がついたように騒ぎ出
した。スリランカ人の多い午後クラスは、下ネタの
めっぽう好きな連中ばかりが集まっていたのだ。

「簡単には見せない。サムライが刀を抜くのは、相
手を斬る時だけだ。そして、チンポを見せるのはオ
シッコかセックスの時だけだ」

「じゃあ、先生、オシッコして!」

「バカヤロウ、授業中だ」

 さらに、チンコの語源などを説明させられて、よ
うやく講義の本題へと入ることができた。しかし、
集中力の低い彼らをひき込むには、このワイ談が毎
度重要な導入になっていた。

 ところが授業後、私は伊藤先生から厳重注意を食
らってしまった。

「山下先生。お声がすべて丸聞こえですよ。あのク
ラス、ベトナム人の女の子も一人いましたよね? 
事務所には、田中さんや林さんみたいな若い女性も
いらっしゃるんですし……あんな大声で、あんなお
話は困りますよ。普通の学校だったら、絶対にセク
ハラです」

「えっ、セクハラ!」

思いがけない言葉に、私は気が動転してしまった。
品がないという自覚はあったけれど、セクハラ呼ば
わりされたのは初めてだったのだ。私は真っ赤にな
って弁解した。

「でも、女子学生のトーさんはいつも居眠りしてい
ますし……むろん、反省はしていますよ。しかし、
外にまで丸聞こえとは……本当にすいませんでした


 そういって頭をさげながら、「オレはさっき、チ
ンポという言葉を何回いっただろう?」と、胸のう
ちで何度も数え直していた。

▼どうぞお好きになさってください

 その後、残念ながら、伊藤先生との仲は急激に悪
化していった。

事の発端は、学生が使用するテキスト選びであった。
伊藤先生は、「全クラスの教科書を同じにするべ
きだ」と私に提案してきたのである。

「そのほうが発注は楽だし、授業スケジュールや教
案、テストの作成も一本化できて手間が省けます」
とのことだったが、私はとうてい賛成しかねた。「
カリキュラムを統一すれば管理しやすくなる」とい
う意見には一理あったけれど、それは現場を無視し
た空論というものだった。非漢字圏のウズベキスタ
ン人、スリランカ人、ベトナム人、ネパール人が集
まるクラスと、中国人中心のクラスでは、習得速度
がまるで違う。これをひとくくりに扱えば、脱落者
が倍増するのは目に見えていた。

「伊藤先生、そりゃあ、無理ですよ。学生たちがか
わいそうです」

 私がそういうと、伊藤先生は「クラスごとに教科
書やカリキュラムを変えるのは、入管の指導からも
外れるんですよ」と、思いがけぬ批判も加えてきた


「えっ、教科書やカリキュラムが全クラス同じじゃ
ないと、入管のチェックに引っかかるんですか?」

そんな話は初耳だったから、私は目を丸くして聞き
返した。だが、伊藤先生はそれに答えず、「ちょっ
とゴメンなさい」といって昼休憩に出かけてしまっ
た。

私はますます気にかかり、近くにいた金さんにその
点をたずねてみた。


「知りましぇんねぇ。それ、伊藤先生の思い違いじ
ゃないですか?」

金さんの返事はぞんざいで、あまり頼りになりそう
もなかった。そこで、本部の竹村さんへ電話をかけ
て、彼からもアドバイスを求めることにした。

「何です、そりゃあ? ウソですよ。入管はそんな
ことまでチェックしません」

「えっ、ウソ?! そうすると、教科書は今までど
おり、クラス別に定めても問題はないんですね?」

「ほかのグループ校もそうしていますし、どこの学
校だってそうですよ。だいたいね、そんなことにま
で口出すほど、入管はヒマじゃありませんって」

 竹村さんは、なぜか伊藤先生を嫌っており、彼女
の話となると妙に口調がトゲトゲしくなった。

「助かりました。お忙しいところ、ありがとうござ
います」

そういって受話器を置いた直後、こちらをジッとに
らんで立っている伊藤先生に気づいた。いつからい
たのかは知らないが、息がつまるほど恐ろしい形相
をして、彼女は職員ブースの入口にたたずんでいた
のだった。

 伊藤先生はそのまま黙って自席につくなり、いき
なり持っていたカバンを目の前の机に叩きつけた。
ビックリしている私をよそに、荒っぽく机のひき出
しをガシャガシャと開け閉めし、さらにもう一度机
の上にカバンを力任せに投げつけた。

職員ブースの空気は一瞬にして凍りつき、グミをゴ
ニョゴニョとかんでいた金さんもソシャクをピタッ
とやめた。

 伊藤先生はちょっと気どった感じのセレブ風マダ
ムだったが、感情を害するとヒートアップする一面
があったのだ。

 ワオキツネザルのような目で注視していた金さん
が、ゆっくりとグミを飲み込む「ゴクッ」という音
が、やけにハッキリと私のところまで聞こえてきた


「山下先生……教科書の件、どうぞお好きになさっ
てください」

 押し殺した伊藤先生のふるえ声に、ただ「はい」
とだけ返事した。

私は年甲斐もなく、本気でビビっていたのである。


(つづく)


(やました・ともお)



【筆者紹介】
山下知緒(やましたともお)
1971年9月9日生まれ。2018年4月以降、
日本語学校教師を務める。民弥流居合術、駒川改心
流剣術をはじめ、小太刀、十手、棒、柔術などを学
ぶ。現在は手裏剣術を表芸とする武術道場「研武塾
」を主宰。手裏剣製作の勉強会「武具学会」を併設
して、多面的な武術研究に取り組んでいる。妻のコ
ミックエッセイ『ある日突然ダンナが手裏剣マニア
になった。』<リーダーズノート>に描かれた私生
活をNHKドキュメント番組「熱中人」が密着取材
して2012年1月に放映。2012年11月、D
VD「山下知緒 手裏剣道 験流手裏剣術入門」<
クエスト>を刊行。2014年4月、『古式伝験流
手裏剣術』<並木書房>を上梓。

≪研武塾道場≫手裏剣術をはじめ、居合術や古流剣
術等を稽古する武術道場。稽古日は毎週土曜日の午
後4時から午後6時。月謝6千円。道場所在地は西
武池袋線「東久留米駅」から徒歩2分。道場の詳細
や問い合わせは、
古式伝験流手裏剣術 http://kenryu-shuriken.jimdo.com/





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