配信日時 2021/03/05 08:00

【自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(31)】「悪天候下、青森空港に着陸」 藤井岳

こんにちは、エンリケです。

藤井岳さんの、
「自衛隊・熱砂のイラク派遣90日」
の三十一回目です。

冒頭文を読み、心配しています。

私もつい先日、車に当てられかけたばかりなので
とても他人事とは思えません。

何事もないよう祈るばかりです。


海外から飛行機で帰国して、
富士山が見えた瞬間に心からホッとしたことを、
本文を読みながら思い出しました。

それにしても、
青森空港に無事着陸でき、よかったです。

さっそくどうぞ


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エンリケ


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自衛隊・熱砂のイラク派遣90日(31)
 
悪天候下、青森空港に着陸

藤井岳(ふじい・がく)(元陸自2曹)

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□はじめに

 身内が交通事故に遭いました。スーパーの駐車場
で駐車スペースから急に前進した乗用車に衝突され、
転倒した後、さらにその車が前進し、右足に乗り
上げたということでした。
 怪我の程度は右足首を複雑骨折。手術後、2~3
週間の入院になりました。
 
 事故の連絡を受けた時は頭が真っ白になりました。
意識ははっきりしているし、目立った受傷部位は
足だけだと聞いて少し落ち着きましたが、それでも
病院の救急外来で処置室から医師が出てくるのを待
つ間も安心できず、ただ大事に至らないようひたす
ら祈っていました。

 本当に、こういった悪い知らせというのは「降っ
てくる」ように知らされるものですね。

 相手の運転手は身内が歩いている方向とは逆の方
向を見ながら車を前進させたということでした。進
行方向を目視せず発進したということです。それを
聞いて「なぜ?」といった言葉しか思い浮かびませ
んでした。理解に苦しむとは正にこのことです。

 近年、発生の経緯・原因が理解できないような交
通事故が後を絶ちません。原因は様々であり、また
複数の原因が絡みあって発生しているということも
あるでしょう。その中で、私は運転者の慢心が事故
の原因となるケースが多いように思います。昨年「
妨害運転罪」が創設されましたが、煽り運転や危険
な妨害運転が減少しているとは思えません。私は安
全運転を心がけて運転しておりますが、最近でもよ
く煽られます。
 
 救急外来の隅で顔面蒼白になって俯いている運転
者の姿が目に焼き付いています。
 危険運転者は、自分は加害者にならないとでも思
っているのでしょうか。

 この一件で、私自身も安全運転に対する意識を新
たにする所です。


▼母国の空

 少し明るくなった機内と、あちこちから聞こえる
話し声で目が覚めた。
 窓の外は……青。青空だ。
 体を起こして窓の外を覗く。
「もう日本に入ったみたいだぞ」隣の席の先輩陸曹
が微笑んだ。
「本当ですか」
 もう一度窓の外を覗いた。飛行機の下方に雲海が
広がっている。時々雲の切れ間から覗く緑色は山地
だろうか。
 ついに日本か。
 胸に浮かぶのは安堵。それだけだった。
 
 窓の外は相変わらず空と雲海しか見えなかったが、
しばらくその景色を眺めているうちに、遠くで雲
の上に浮かぶような何かが目についた。
 目を凝らしてみると、それは日本人なら誰にでも
馴染み深いものだった。
 富士山。
 雲海を突いてそびえるその優美な姿は、まさしく
私達の帰国を祝福しているようだった。
 隊員たちも富士山が見えることに気づき始め、
皆、窓に顔を近づけてその姿を眺めていた。
 ここまでくれば青森空港への到着まで、そう時間
はかからないだろう。

▼悪天候の中、無事着陸

 時間も経ち、そろそろ青森空港に着いても良い頃
合いだと思った矢先、スピーカーから英語の放送が
聞こえてきた。
「こちら機長です。当機は現在青森空港に近づいて
おりますが……」
 
 天候が不安定?

 窓の外を見る。
 眩しいくらいの青空と真っ白な雲海。だがこの下
は荒れ模様なのだろうか。

 1人の幹部が通路に立ち、機内の隊員たちに聞こ
えるよう話し始めた。

「注目。今、機長からアナウンスがあったように、
青森空港は天候が不安定なため、現在当機は旋回し
ながら天候の様子をみている状況だ。天候の回復が
見込めない場合は、仙台空港に降りる予定」

 機内が騒然となる。だが私は困惑する他の隊員を
よそに、(日本に帰ってきたのだから、降りられる
ならどこでもいいや)と呑気に構えていた。

 その後も何度か機長から状況を知らせるアナウン
スがあった。天候は相変わらず不安定のようだ。

 隊員の中には、あからさまに困惑の表情を浮かべ
ている者も少なくなかった。「仙台は困るなぁ……」
といった声も聞こえた。

(家族や恋人が待つ青森に降りて、一刻も早く会い
たい)

 気持ちはよくわかる。私の両親も青森に来ている
はずだ。

 後で聞いた話では、青森駐屯地で隊員の到着を心
待ちにしている隊員家族や原隊の隊員たちにもこの
報は伝えられ、やはり騒然となったという。

 どこでもいい、早く降りて日本の土を踏みたいよ
……。
 
 そんなことを考えながら窓の外を見ていたら、機
体の姿勢が変わるのを感じた。
 降下している。
「降りますね」。隣の先輩陸曹と顔を見合わせる。
 機長からも青森空港へ着陸するとのアナウンスが
あった。

 窓から急に青空が消え、真っ白になる。雲の中に
入った。そしてベールを剥ぐように景色が変わり、
街が見えた。青森市だ。

 飛行機は旋回を続け、やがて着陸コースに入った。
高度は低く、民家や田畑がよく見える。

 窓から空港施設が見えたのとほぼ同時に下からの
軽い衝撃。着陸だ。

 2004年11月27日午前9時30分、第3次
イラク復興支援群第2波の隊員を乗せた飛行機は、
悪天候をついて青森空港に無事着陸した。




(つづく)




(ふじい・がく)


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【著者紹介】

藤井岳(ふじい・がく)ペンネーム
1979年岩手県一関市生まれ。1996年自衛隊生徒とし
て陸上自衛隊入隊。少年工科学校へ入校。卒業後機
甲生徒課程を経て第9戦車大隊(岩手)で戦車乗員
として勤務。2004年第3次イラク復興支援群に参加、
イラク・サマワにて任務に就く。2005年富士学校
(富士)に転属。機甲科部で助教として戦車教育に
従事。2008年退職。フリーランスフォトグラファー
として活動を開始。自衛隊航空部隊の撮影、取材に
取り組む。2015年から「PANZER」誌で執筆開始。そ
の後「丸」「JGROUNDEX」「JWings」などで写真
や戦車に関する記事を発表。現在に至る。



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