配信日時 2021/03/03 09:00

【特別紹介 防衛省の秘蔵映像(5)】3次防の時代(1) ─昭和42年映像─ 荒木肇

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荒木さんの最新刊

知られざる重要組織「自衛隊警務隊」にスポットを
当て、警務隊とは何か?の問いに応えるとともに、
警務隊で修練されている「逮捕術」を初めて明らか
にしたこの本は、小平学校の全面協力を受けて作ら
れました。

そのため、最高水準の逮捕術の技の連続写真が実に
多く載っています。それだけでなく、技のすべてを
QRコードを通して実際の動画をスマホで確認できる
のです!

自衛隊関係者、自衛隊ファン、憲兵ファンはもちろん、
武術家、武道家、武術ファンにも目を通してほしい
本です。

『自衛隊警務隊逮捕術』
 荒木肇(著)
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こんにちは。エンリケです。

きょうは、
「防衛省の秘蔵映像」の解説 5回目です。

回を追うごとに、沁みとおるものが深くなってきます。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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特別紹介

防衛省の秘蔵映像(5)

3次防の時代(1)
─昭和42年映像─


荒木 肇

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□ご挨拶

 いよいよ2月末で緊急事態宣言も一部解除。そう
して7日には残す首都圏も事態が変わるでしょう。
少し、飲食業界の方々も助かるでしょうか。それで
も、ワクチンの遅れのことなどがあり、まだまだ油
断はできないということです。皆さま、ご自愛くだ
さい。

 それにしても菅政権は大丈夫でしょうか。あきれ
るのは官僚の方々の鉄面皮、おとぼけでしょう。誰
も辞任しないのです。恥とか、みっともないとか思
わないのでしょう。同じ公務員でも自衛官や、警察
官、消防官、海上保安官などの命を懸けての仕事の
人たちとはずいぶん違います。菅総理も身から出た
錆というか気分の悪い話です。安倍さんも奥様のこ
とでは苦労されました。今度は総理ご長男ですから、
どうも近頃の政治家とその周辺は弛んでいるなと
思います。

山林火災では大型ヘリが空中からの消火に活躍して
くれました。頼もしい爆音に元気をもらった方々も
多かったことでしょう。印象深い思い出があります。
阪神淡路大震災の時、大阪府の八尾飛行場からは、
大型の輸送ヘリが昼夜を問わず発着して救援物資
などを被災地に運んでいました。そのとき、周辺の
住民の方々から、「日頃は騒音だ、迷惑だと思って
いたけれど今は爆音が頼もしく、有り難いと思って
います」という声が航空隊司令に届けられたそうで
す。いいお話だと思いました。


▼佐藤栄作さんが総理だった

 貴重な映像もそれぞれ楽しいのですが、すこし時
計の針を速めてみます。その最初は「第3次防衛力
整備計画(さんじぼう)」のスタート、1967(
昭和42)年からです。これは通常兵器の国産化、
近代化に務めた5カ年計画でした。世界情勢では1
965(昭和40)年からベトナムでは米空軍によ
る「北爆」が始まっています。

 年表風にどんな時代かをふり返ってみます。まず、
最高指揮官たる内閣総理大臣は、「政界の團十郎」
と異名をとった佐藤栄作氏(1901~1975年)
です。佐藤氏は同じく官僚出身の岸信介氏の実弟で
した。在任中には沖縄返還事業をなしとげ、ノーベ
ル平和賞も受賞するといった人です。総理の在任期
間もたいへん長く、当時としては最長不倒記録をた
てています。

 昭和42年を「昭和家庭史年表」(河出書房新社)
でふり返ると、すでにベトナム戦争の真っ最中です。
2月には米軍がベトナム民族解放戦線(ベトコン)
の掃討に手を焼き、ジャングルに枯れ葉剤を使い始
めています。

4月には、オリンピック開催(昭和39年)に貢献
した都知事が敗れ、東大教授の美濃部亮吉氏が初の
革新都知事となりました。このときの一部都民と革
新勢力、労組の鼻息はたいへん荒いものでした。6
月には政府が資本取引の自由化を決定し、企業の国
際競争力が問題になりました。

 自衛隊に注がれる眼はけっこう冷たいものがあっ
た時代です。それでも最終の1971(昭和46)
年度には、13個師団体制は変わらないものの、自
衛官定数を17万9000とし、予備自衛官を3万
6000、1個戦車群(機動運用・北部方面隊直轄)、
1個特科団(前同)、1個空挺団、1個教導団(富
士)、1個ヘリコプター団、そうして5個高射特科
群(地対空ミサイル部隊)という整備目標を立てま
した。戦車は約660輌、装甲車も同650輌、自
走火砲60門、作戦航空機を310機(うちヘリコ
プター280機)、さらに中距離地対空誘導弾ホー
ク部隊を5個群整備する計画でした。

▽昭和42年映像
https://www.youtube.com/watch?v=h06aiFzRpUk

▼懐かしい装備 

 撮影が第301写真中隊になっています。これは
防衛庁長官直轄部隊の1つ、通信科の人たちによる
中隊です。公式記録等の撮影、編集なども担当しま
す。画像、映像のプロたちです。

最初の映像は千葉県習志野駐屯地の空挺団による初
降下です。隊員たちが次々とカーチスC46コマン
ドから降りてゆきます。C46は戦術航空機の大ベ
テランです。この後継機がいまも見られるC1ジェ
ット輸送機になります。YS11という双発の国産
旅客機ものちに開発されますが、空挺部隊が降下で
きるように改造するよりはジェット輸送機が良いだ
ろうと考えられて採用されました。

部隊防空を担当する高射機関砲が出てきます。この
年、導入された装備です。これまでも陸自はキャタ
ピラーがついた40ミリ自走高射機関砲M42を1
961(昭和36)年から供与されていました。こ
れは軽戦車M41の車体を使ったもので、2連装の
機関砲を装備しました。北海道機甲第7師団の第7
高射特科連隊に配備されていたのです。

他にもM15A1、M16といったハーフトラック
の荷台に12.7ミリ機銃や37ミリ機関砲を載せ
た自走対空砲架がありましたが、いよいよスイス・
エリコン社の35ミリ2連装高射機関砲L90が映
像で紹介されています。砲と発電車、射撃統制装置
からなり、50キロの距離からレーダーで捕えた目
標を射撃します。発射速度は1100発/分、弾の
初速は1200メートル/秒で4000メートル離
れたところまで6秒で達しました。マッハ2で飛ぶ
敵機を落とせると期待されたのです。

▼空自の防空警戒システム「バッジ」

 バッジを操作する要員の訓練所が映ります。複雑
で機密も多く、全貌を知るのは難しいのですが、わ
れわれ部外者はせいぜい防空のシステムの原理を知
るだけで十分です。簡単にいえば、レーダーで探知
した目標の敵味方を識別し、スクランブル(緊急発
進)した戦闘機を適切な飛行ルートで誘導するとい
うものになります。

 この当時は、コンピューターの提供するデータを
もとに要撃戦闘機は飛行を続けて国籍不明機と出会
うようになっていました。また、これらと平行して、
防空指令所からのデータは防空管制所に送られます。
防空管制所(ADCC=エア・ディフェンス・コン
トロール・センター)は、日本を北部・中部・西部
の3個方面隊に分けられていて、これらの方面隊司
令部に置かれていました。

 北部航空方面隊司令部は青森県三沢、中部は埼玉
県入間、西部は福岡県春日の各基地にあります。領
空(領海の上空)そのものに侵入する国籍不明機は
少ないものの、領空内のごく近くを飛行する国籍不
明機はたいへん多いことはよく知られています。近
頃では、ロシア、中国の航空機がたいへん多いよう
です。要撃する戦闘機は、早期警戒機がなかった当
時、地上のレーダーサイトが目標機を絶えず監視し
たデータを受け取り、自機のレーダーで目標機の捜
索も行ないます。

 古いタイプの計算機や紙にパンチされて出ている
情報記録などが見られます。

▼30型ロケット

 日産自動車製の大きなロケット発射機が映ります。
北海道の砲兵部隊に配備し、来攻する敵師団の全
縦深(部隊全体の奥行)すべてを制圧するための装
備です。発射機の開発研究は1960(昭和35)
年から68(昭和43)年まで8年間6次の試作を
した成果でした。68式ロケット榴弾は同じく日産
自動車の製品。

 射程は28キロメートル、155ミリ加農の23.
5キロメートルを上回ります。発射した弾に自走飛
翔力をもたせるロケット。発射後の目標誘導装置を
持たないけれど、その破壊力に比べて発射機がシン
プルで操作が簡単というメリットをもっています。

 発射機は日産4トン積載トラックでロケットは2
連装です。附属品として装填機、クレーン、吊り下
げ装置をもっています。5名の操作員で1基に乗り
組み、1個大隊24基合計48発の573キログラ
ムの重量のある弾が同時に撃てました。榴弾の全長
は4500ミリメートル、直径は337ミリです。
射撃と飛翔、弾着の様子が見られます。

▼DASH搭載の「たかつき」

 ドローン・アンチ・サブマリン・ヘリコプター、
頭文字を取ってダッシュといいました。42年度の
映像には、2次防の主力となった護衛艦「やまぐも」
型とともに38年度艦の「たかつき」の竣工が出て
います。姿の特徴はバウソーナー(艦首底部にソー
ナーを装備する)のおかげで艦首が突き出た遮浪
(しゃろう)甲板型でした。艦首も十分高く、日本
近海の荒海でも運動性を高めています。

 また、マストと煙突を一体化したマック構造を採
用して、レーダーや逆探(敵のレーダーを探知する)
といった重量物を載せるマストの剛性を強化しまし
た。艦の後部には無人ヘリコプター(ドローン)の
格納庫があります。無線で操縦され、目標潜水艦の
近くまで飛び、ホーミング魚雷を投下するのがダッ
シュです。攻撃後には帰投するので後甲板には発着
甲板があります。

 たかつき型は、「たかつき(DD164)」、
「きくづき(同165)」、「もちづき(同166)」、
「ながつき(同167)」と優美な名前をもちまし
た。アスロックSUM8連装発射機、127ミリ単
装速射砲2門、ボフォース4連装対潜ロケット発射
機各1、3連装短魚雷発射管2基、それにダッシュ
2機を搭載し、基準排水量3050トンと艦型はず
いぶん大きくなりました。

▼砕氷艦ふじ

 第8次南極観測隊の支援を行なった「ふじ」の帰
港と第9次隊の支援に出港する姿が映っています。
「ふじ」はそれまでの海上保安庁所属の「宗谷」に
代わるために建造された砕氷艦(AGB-5001)
です。文部省の主催する学術的な調査である南極
観測は昭和基地で行なわれます。そこへの人員・物
資輸送などの支援には砕氷艦が欠かせません。

 昭和39年度予算でまかなわれ、竣工は翌年でし
た。排水量は5250トン、海上自衛隊の艦船で最
大だと説明され、わたしなどはなんとも情けなく思
いました。非武装で、平和的な姿、塗装は軍艦色で
もなく、マスコミは盛んに「南極観測船」という言
葉を使いました。南極でのヘリコプター輸送に重点
を置いて、後部には3機のヘリの格納庫と飛行甲板
が設けられました。

 また貴重な陸自の第109施設大隊のブルドーザ
ーによる部外工事の映像もあります。当時もまだ、
自治体は陸上自衛隊による公共工事支援に頼ってい
ました。年間では326件の工事があったといいま
す。

 次回はさらに、この後の映像に映る3次防による
新装備などを紹介しましょう。




(つづく)


(あらき・はじめ)


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●著者略歴
 
荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、
同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。
日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸
海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を
行なう。
横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処
理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、
同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。
生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専
門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月
から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児
童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝
状を受ける。
年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、
講話を行なっている。
 
著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、
『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして
軍隊をつくったのか―安全保障と技術の近代史』
(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代
用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛
隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに
嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイ
ド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日
本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古
い!―昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震
災と自衛隊―自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気
と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器
で戦った─国産小火器の開発と用兵思想』『自衛隊
警務隊逮捕術』(並木書房)がある。
 

『自衛隊の災害派遣、知られざる実態に迫る-訓練
された《兵隊》、お寒い自治体』 荒木肇
「中央公論」2020年3月号
 https://amzn.to/31jKcxe


 
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      (代表・エンリケ航海王子)
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