こんにちは、エンリケです。
「ハイブリッド戦争の時代」の最終回です。
この連載も今回で終わりです。
きわめて重要な戦略提言です。
長きにわたって、実に貴重な知見を
提供いただいた志田さんには感謝の気持ち
しかありません。
読者の中から、各界でハイブリッド戦争に
関するパイオニアが出てきてほしいです。
では最後の「ハイブリッド戦争の時代」を
どうぞ。
お互い、絶望することなく、進んでまいりましょう!
レジリエンス!!
またお会いしましょう!
エンリケ
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ハイブリッド戦争の時代(最終回)
ハイブリッド戦争の時代の日本の針路(2)
志田淳二郎(国際政治学者)
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□はじめに―感謝のコトバ
皆さん、こんばんは。2020年の夏にはじめさせ
ていただいたメルマガ「ハイブリッド戦争の時代」
も、今回のメルマガで最終回となりました。
「わたしたちは、いまハイブリッド戦争の時代」を
生きているという時代認識を、皆さんと一緒に考え
てきました。全26回にわたるメルマガを通して、ハ
イブリッド戦争という、21世紀の新しい課題に、日
本はどう対応していけばよいのか、そして、日本人
は、どう対応していけばよいのか、ということを、
考えるきっかけになったのなら、わたしは、とても、
うれしいです。
初回のメルマガで、ハイブリッド戦争の対抗策と
して「レジリエンス抑止」という考え方をあげまし
たが、覚えていらっしゃいますか。
「レジリエンス」とは、安全保障論のみならず、心
理学、経営学、防災学などでも使われている言葉で、
「弾力」、「復元力」、「回復力」、「強靭性」
などを意味します。
要するに、レジリエンスとは、一般的に、「物理
的な外の力が加えられ、困難に直面しても、しなや
かに回復し、乗り越える力」を意味します。ハイブ
リッド戦争との関連でいえば、日本に敵対的な国家
が、非国家主体やあらゆる手段を動員し、日本の主
権や安全保障を損なうハイブリッド戦争をしかけた
としても、日本(人)が受けるダメージは少ないよ、
だから、ハイブリッド戦争なんてしかけてもムダ
だ!と相手に思わせることで、ハイブリッド戦争を
しかけようとする誘因を抑える効果が、「レジリエ
ンス抑止」にはあります。
まさに、日本人ひとりひとりが、ハイブリッド戦
争についての理解を深めることこそが、「レジリエ
ンス抑止」の力を向上させることに、直接つながる
と、わたしは、確信しています。
メルマガを連載する機会を与えていただきました
『軍事情報』のエンリケ航海王子様、そして、メル
マガ連載の機会を紹介させていただきましたインテ
リジェンス研究家の山中祥三様、そして、何よりも、
メルマガを毎週読んでくださり、鋭い質問やコメ
ントをお寄せくださった読者すべての方に、感謝の
コトバを述べさせてもらいます。
本当に、ありがとうございました!
▼ハイブリッド戦争時代の日本の針路とは?
前回のメルマガでは、日本の針路として、第一に、
日米同盟の重要性を再認識すること、第二に、日本
単独でも防衛力を整備すること、の2点を挙げまし
た。これに今回のメルマガでは、もう2点、追加し
たいと思います。
第三に、自由・民主主義という価値観を共有するパ
ートナー諸国と外交・安全保障上の連携を強化して
いくことです。これには対米政策の一面もあります。
というのも、国内に多くの問題を抱えるバイデン
政権下のアメリカが、日本やNATO(北大西洋条約機
構)の同盟を軽視し、ロシアや中国と「大国間取引」
(グランド・バーゲン)をすることが、つねに考え
られるからです。
国内問題を解決したい「リベラル色の強い」バイデ
ン政権が、トランプ前政権がようやくはじめた中国
やロシアとの大国間競争のコストがかかると考えた
場合、中露と「グランド・バーゲン」、つまりは、
中露の域内覇権を認め、彼らと軍事的に競争せず、
浮いたコストやリソース(資源)をアメリカ国内問
題の解決にあてようと考えることは、つねに警戒す
べきことです。
こうした事態に備えるうえでも、アメリカだけでな
く、価値観を共有するパートナー諸国との連携強化
は決定的に不可欠なのです。まずは、FOIP(自由で
開かれたインド太平洋構想:旧戦略)の下、日本、
アメリカ、インド、オーストラリアの4カ国からな
る、通称「クアッド」の枠組みを継続・発展させて
いくことが、何よりも重要です。
また、EU(欧州連合)離脱後のイギリスを、FOIPに
招き入れる動きがありますが、これもまた、望まし
い動きです。日本政府は、「全集中で」、地政学的
なパワーバランスの変化にうまく適合できるよう、
努力するべきです。
そして第四に、日本とNATOの連携も、ハイブリッ
ド戦争への対抗上、決定的に重要となってきます。
NATOはハイブリッド戦争研究の最先端を走っていま
す。現在、NATOの変革連合軍の管轄下にある中核研
究拠点(COEと呼ばれています)のなかには、ハイ
ブリッド戦争に特化したCOEが豊富にあります。
たとえば、エストニア・タリンのサイバー防衛協
力センター(CCDCOE)、ラトビア・リガの戦略的コ
ミュニケーション研究拠点(StratCom)、リトアニ
ア・ヴィリニュスのエネルギー安全保障研究拠点
(ENESEC COE)などです。さらには、フィンランド
の首都ヘルシンキには、EUとNATOが共同設立したハ
イブリッド脅威対策センター(Hybrid CoE)もあり
ます。
今後は、こうしたNATOの関係機関に日本の外交官、
防衛当局者、研究者、ジャーナリスト、学生などを
戦略的に送り込み、日本におけるハイブリッド戦争
研究を、世界水準のものと接続することを目指すべ
きです。
また、日本が持っている海洋進出の著しい中国に
関する研究の知見を、NATO同盟国に提供し、対
中共同戦線を日・NATOで組むことも、一考でし
ょう。
▼絶望してはならない
今から60年ほど前、国際政治学者の高坂正堯は、
こんなことを書いています。わたしの好きな一節
です。
「戦争はおそらく不治の病であるかもしれない。
しかし、われわれはそれを治療するために努力し
つづけなくてはならないのである。つまり、われわ
れは懐疑的にならざるをえないが、絶望してはなら
ない。それは医師と外交官と、そして人間のつとめ
なのである」
なるほど、これをハイブリッド戦争に置き換えて
考えてみると、ハイブリッド戦争は、いまの世界に
あっては、不治の病なのかもしれません。ハイブリ
ッド戦争のターゲットになりやすいのは、ヒト・モ
ノ・カネ・情報の自由移動を保障している民主主義
国家です。
民主主義が、ハイブリッド戦争の脅威に対して脆
弱とわかれば、わたしたちは、「いっそ、ヒト・モ
ノ・カネ・情報を政府が一元的に管理する権威主義
を目指そうではないか!」と、民主主義そのものに、
懐疑的になることもあるかもしれません。
しかし、そうなってしまうと、中露などの権威主
義勢力の軍門に下ることになります。そのような事
態を、日本自らが、ゆめゆめ選ぶべきではありませ
ん。
ハイブリッド戦争の時代を生きるわたしたちは、
60年ほど前に高坂が主張したように、「絶望して
はならない」のです。
それはこれからの世界を生きる、わたしたちひとり
ひとりのつとめです。
▼しばしのお別れ、また会う日まで
繰り返し、メルマガを講読していただいた皆様に
感謝申し上げます。コロナ禍ではございますが、皆
様も新年度は新しい門出を迎える方もいらっしゃる
でしょう。
わたしもそのうちの一人です。
わたくしごとで恐縮ですが、今年の4月から、日
本の「ハイブリッド戦争の最前線」の地の大学に移
籍することになりました。新天地でも国際政治に関
する教育・研究に精進したいと思います。
今回はしばしのお別れですが、またどこかで皆さ
んとつながることができることと思っています。ま
た会う日まで、昨日よりも、そして、今日よりも、
よりよい日本社会をつくっていけるよう、大変なこ
ともたくさんありますが、絶望せず、歩んでいきま
しょう!
(完)
(しだ・じゅんじろう)
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【著者紹介】
志田淳二郎(しだ・じゅんじろう)
国際政治学者。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・
ブダペスト)政治学部修士課程修了、M.A. in Political
Science with Merit、中央大学大学院法学研究科博
士後期課程修了、博士(政治学)。中央大学法学部
助教、笹川平和財団米国(ワシントンD.C.)客員準
研究員等を経て、現在、東京福祉大学留学生教育セ
ンター特任講師、拓殖大学大学院国際協力学研究科
非常勤講師。主著に『米国の冷戦終結外交―ジョー
ジ・H・W・ブッシュ政権とドイツ統一』(有信堂、
2020年)。研究論文に「クリミア併合後の『ハイブ
リッド戦争』の展開―モンテネグロ、マケドニア、
ハンガリーの諸事例を手がかりに」『国際安全保障』
第47巻、第4号(2020年3月)21-35頁。「アメリカの
ウクライナ政策史―底流する『ロシア要因』」『海
外事情』第67巻、第1号(2019年1月)144-158頁ほか
多数。
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最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝し
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マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感
謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、
心から感謝しています。ありがとうございました。
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